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Symptoms · Published

橈骨脈拍減弱

Weak radial pulse

臓器系
循環器全身
科目
PhysiologyPathophysiologyCardiology
トピック
生理学 2.6:動脈血圧の測定。動脈血圧に影響する因子。病態生理学 2-20:循環性ショックの定義と分類病態生理学 2-22:循環血液量減少性ショックの病期循環器内科 B-08:動脈疾患の臨床像・身体診察・画像検査と糖尿病足循環器内科 B-03:大動脈解離の診断と治療
スコア
Gorelick score

🧠 全体像を触れて「弱い」と感じたとき、まず決めるべきは強さの数値化ではなく次の一手である。左右差はあるか、全身状態はどうか——この2つの問いに答えれば、原因は「全身性(心拍出量の低下)」と「より中枢の狭窄・閉塞)」のどちらかにほぼ振り分けられる。は細い末梢動脈であり、指先に伝わる拍動の強さは、器を使わずに脈圧(の差)のおおよそを触知する簡易的な代用指標にすぎない。

定義と用語の整理

「脈拍が弱い」という所見に標準化された尺度はなく、検者のな二値判定(触れる/弱い・触れない)にとどまることが多い。Gorelick scoreを0点(正常)/1点(微弱・弱い、または触知不能)でしか採点しないのはこのためで、原著の判定基準もこの2値以上には踏み込まない1

脈拍の振幅を決める生理的なは主にと動脈のコンプライアンスであり、が上がるだけではがともに押し上げられて脈圧そのものは大きく変わらない。したがって「脈拍が弱い」は次のどちらか、または両方を意味する。

変化 脈拍への影響
脈圧が狭まり、全身の脈拍が一様に弱くなる
触知部位より中枢の動脈が狭窄・閉塞 その血管のだけ拍動が弱まる・消える

左右差の有無が最初のである。 両側対称に弱ければ全身性の心拍出量低下を、片側だけ弱い・触れなければその腕へ向かう動脈(、あるいはさらに中枢の)の局所的な狭窄・閉塞を疑う。

病態生理

が弱くなる機序は、心拍出量が全身性に落ちる型と、へ至る経路のどこかが局所的に狭くなる・詰まる型に大別できる。

① 心拍出量低下・代償性血管収縮(両側対称性)

低血圧が明らかになるより前のから、によるの亢進で末梢血管が収縮し、も低下し始めているため、脈拍はすでに弱く速く触れる。のいずれのも、機序は違ってもこの経路をたどる。

  • そのものが低下し、が落ちる。
  • :静脈還流が減って前負荷を介しが落ちる。を上げ、動脈収縮(↑)で血圧を保とうとするが、脈圧はむしろ狭まる。

② 局所的な動脈狭窄・閉塞(片側性、慢性〜亜急性)

上肢の動脈硬化性狭窄は下肢に比べてまれだが、起始部の狭窄・閉塞やのようなでは、片側のが慢性に減弱・消失しうる。下肢のPADでみられるに相当する上肢の労作時症状は目立ちにくく、両側の脈拍・血圧を比べて触知することが唯一の手がかりになりやすい。下肢のを対象とした検討では、脈拍触知の異常があると疾患のが4.70まで上がり、脈拍が正常なら0.38まで下がって除外に働くことが報告されている2。上肢・で同水準の数値が確認されているわけではないが、触診という同じ手技の精度を考えるうえで参考になる。

③ 中枢動脈の急性閉塞(片側性、突然発症)

の分枝()を巻き込むと、その分枝が灌流する側のが突然減弱・消失する。症・急性血栓症でも同様に、詰まった部位より末梢の脈拍が突然触れなくなる。

⚠️ 緊急・見逃してはいけないこと

⚠️ ショックのは血圧が正常でも脈拍はすでに弱い。 血圧の低下を待ってから動くと介入が遅れる。頻脈と脈拍の触知不良の組み合わせは、血圧が保たれていても代償が働いている証拠として扱う。ただし高齢者やβ遮断薬内服者では頻脈という代償そのものが出ないため、脈拍所見だけに頼らない。

⚠️ 突然発症の+片側の減弱・左右差はを最優先で除外する。 ただしを認めた患者は全体の15.1%にとどまり、大動脈などの他の「古典的所見」も同様に少数派だった3がないことはを除外する根拠にならない。 血圧の左右差・神経脱落所見と合わせて評価し、疑いが残れば画像検査を急ぐ。

⚠️ 突然発症の片側性+疼痛・蒼白・知覚障害は症・急性血栓症を疑う。 骨格筋・神経は虚血に弱く、とともに不可逆な壊死に至るため、診断確定を待たずに科へ緊急コンサルトする。

鑑別の進め方

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial pulse'>橈骨脈拍</span>が弱い・触れにくい"] --> B{"左右差はあるか"}
  B -->|"両側とも弱い"| C["血圧・意識・尿量・皮膚所見を確認"]
  C --> D{"他に低灌流所見あり?"}
  D -->|"あり"| E["ショック(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic'>心原性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemic'>循環血液量減少性</span>など)を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensated stage'>代償期</span>は血圧正常でもありうる"]
  D -->|"なし"| F["測定手技・不整脈・末梢血管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='individual variation'>個体差</span>を再確認"]
  B -->|"片側だけ弱い・触れない"| G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Onset'>発症様式</span>は?"}
  G -->|"突然(分〜時間)"| H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest-to-back pain'>胸背部痛</span>を伴うか"}
  H -->|"あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic dissection'>大動脈解離</span>を最優先で除外<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulse differential'>脈拍差</span>がなくても否定できない"]
  H -->|"なし、疼痛・蒼白・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cold sensation'>冷感</span>を伴う"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial embolism'>動脈塞栓</span>症・急性血栓症を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='emergency revascularization'>緊急血行再建</span>の適応を評価"]
  G -->|"慢性・亜急性"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subclavian artery'>鎖骨下動脈</span>狭窄・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Takayasu arteritis'>高安動脈炎</span>など<br>近位動脈の狭窄性病変を疑う"]

両側とも弱いときは、脈拍という単一の所見でを決めず、同じ末梢循環を別の角度から見ている所見と束ねて読む。の延長、四肢末梢のやまだら模様、、尿量が揃って悪い方向へ振れていればショックとして扱い、血圧が下がるのを待たずに原因検索と輸液へ進む。小児の脱水評価に用いるGorelick scoreが、をいずれも0点/1点の並列した項目として数え上げるのも、同じ発想に立っている。

片側だけ弱いときに次に足すべき情報は、脈拍の強弱の言語化ではなく両上肢での血圧測定である。触診の強弱は検者の主観に依存して再現性に乏しいが、の左右差は数値として記録でき、経過の比較にも他者への申し送りにも耐える。

まとめ

  • の強さは主に脈圧(≒)を反映する触診的な代用指標であり、標準化された尺度はない。
  • 最初のは左右差の有無。両側対称なら全身性の心拍出量低下(ショックなど)を、片側性ならその腕へ向かう動脈の局所的な狭窄・閉塞を疑う。
  • ショックのは血圧が保たれたまま脈拍だけが先に弱くなる。血圧の低下を待たない。
  • 突然発症のを疑うが、は患者の一部にしか現れないため、無いことは除外にならない。
  • 突然発症の片側性+疼痛・蒼白・症・急性血栓症の可能性があり、緊急対応を要する。

出典

  1. 1.Comparing the accuracy of the three popular clinical dehydration scales in children with diarrhea(International Journal of Emergency Medicine・2011)Gorelick scoreの脈拍項目(表では「脈拍の性状」と表記され、原著の10項目では橈骨脈拍を指す)が0点=正常/1点=微弱・弱い、または触知不能という2値で採点されることを、原著(Gorelick)を引用した判定基準表から確認した。閲覧 2026-08-10
  2. 2.The International Registry of Acute Aortic Dissection (IRAD): New Insights Into an Old Disease(JAMA・2000)急性大動脈解離の患者のうち脈拍欠損を認めたのは15.1%にとどまり、大動脈弁閉鎖不全(31.6%)とともに「古典的」とされる身体所見が実際には少数派であることを抄録で確認した。閲覧 2026-08-10
  3. 3.Does the Clinical Examination Predict Lower Extremity Peripheral Arterial Disease?(JAMA・2006)下肢症状のある患者では脈拍触知異常があると末梢動脈疾患の陽性尤度比が4.70に上がり、脈拍が正常なら陰性尤度比0.38まで下がる(除外に有用)という、脈拍触知の診断精度に関する数値を抄録で確認した。閲覧 2026-08-10