生理学

生理学 · 2.6

動脈血圧の測定。動脈血圧に影響する因子。

Measurement of arterial blood pressure. Factors influencing arterial blood pressure.

応用トピック
高血圧I―病因と診断高血圧II―治療と高血圧性心疾患小児・思春期の高血圧
症状
橈骨脈拍減弱

🧠 血圧に影響する因子は「入ってくる量(CO)」「出ていく抵抗」「容れ物の硬さ(コンプライアンス, compliance)」の3に集約される。 どのが変化したかによって、・・脈圧・のどれが変わるかがきれいに分かれる——このが臨床解釈(高齢者の血圧変化など)に直結する。

動脈血圧の測定

上腕で測定する血圧はの圧を表し、大動脈そのものの圧とは異なる。

方法 内容
カテーテル挿入。では大動脈に比べP_sysが高く、P_diaが低い→P_pulseは大きくなる
( auscultatory method) カフをP_sysより高く加圧後、ゆっくり減圧。最初の拍動音(Korotkoff音, Korotkoff sound)=(通常120mmHg)、音の減弱・消失=(通常80mmHg)

⚠️ カフのサイズが結果を左右する(miscuffing)。 適正なカフの膨張帯は上腕周囲の幅37〜50%・長さ75〜100%が目安で、小さすぎるカフは実際より高い値を、大きすぎるカフは実際より低い値を示す——日常診療で最も頻度の高い血圧の原因とされる。測定前は30分以上・運動・喫煙を避け、上腕を心臓の高さに置いて測定する(腕が心臓より低いと血圧は高く、高いと低く測定される)1。

⭐ ・と()測定の間には系統的な差がある。 25以上の患者54例(ヒト)での測定とを比較した研究では、平均は+4.1±1.9 mmHg・−8.0±1.7 mmHgで(P<0.0001)、一致限界は広かった。はによらず値を下回る傾向、はを過小評価し平均・を過大評価する傾向を示し、高血圧患者では両非侵襲的手法とも値を下回った2。

大動脈圧プロファイルの基準値

指標 値
P_sys(systolic pressure) 120 mmHg
P_dia(diastolic pressure) 80 mmHg
脈圧 P_pulse(pulse pressure、= P_sys − P_dia) 40 mmHg
P_mean(mean arterial pressure) 93 mmHg
Pmean=1×Psys+2×Pdia3=93 mmHgP_{mean} = \frac{1 \times P_{sys} + 2 \times P_{dia}}{3} = 93\ \text{mmHg}

💡 が「1:2」の重み付けになるのは、の約2/3を拡張期が占めるから。 心拍数が上がると収縮期より拡張期の短縮が大きいため、P_sysとP_dia が近づき、結果としてP_meanは上昇する(HR↑→P_mean↑)。

動脈血圧に影響する因子

血圧を決めるは、物理的(血液量・コンプライアンス)と生理的(CO・TPR)に大別できる。

flowchart TD
  A["動脈血圧"]
  A --> B["物理的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Parameter'>パラメータ</span>"]
  A --> C["生理的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Parameter'>パラメータ</span>"]
  B --> B1["血液量:多いほど血圧↑"]
  B --> B2["コンプライアンス(V/P):高いほど同じ血液量での圧上昇は小さい"]
  C --> C1["心拍出量 CO = SV×HR:系に入る量"]
  C --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total peripheral resistance, TPR'>総末梢血管抵抗</span> TPR:系から出ていく際の抵抗"]

各因子が変化したときの圧パターン

変化した因子 P_sys P_dia P_pulse P_mean
CO↑(SV↑またはHR↑) ↑↑ ↑ ↑(拡大) ↑
TPR↑ ↑ ↑ 変化なし ↑↑
コンプライアンス↓(動脈硬化 arteriosclerosis・加齢) ↑ ↓ ↑↑ 変化なし
血液量↑ — — — SV↑を介してCO↑と同じ経路
粘度↑(↑) — — 変化なし TPR↑と同じ経路でR↑

⭐ 3つの変化パターンの見分け方が重要。 CO↑はP_sysとP_dia両方を上げるがP_sysの方が大きく上がるため脈圧も広がる。TPR↑はP_sysとP_dia を同じだけ上げるため脈圧は変化しない。コンプライアンス↓(動脈硬化)はP_sysを上げP_dia を下げるため脈圧が大きく広がるが、はほぼ変化しない。加齢による血圧変化は主にこの3パターン目()で説明される。

その他の因子

因子 機序・効果
体位で変化。1 cmH₂O ≈ 0.7 mmHg。立位では下肢の圧が上昇するが、臥位では動脈・静脈とも同程度に影響を受け両者の自体は変わらない
性別(ホルモン) エストロゲン=→TPR↓→血圧低め。テストステロン=血管収縮作用→TPR↑→血圧高め
気候 温暖環境→皮膚細動脈拡張→TPR↓→血圧低下
睡眠・情動 血圧に影響(自律神経を介する)
運動 CO↑、同時に骨格筋の血管拡張でTPR↓(2-11-circulation-of-the-skeletal-muscle-circulatory-effects-of-physical-exercise参照)

⚠️ だけでは高血圧の実態を捉えられないことがある。 診察室では高値だが・ABPMは正常な、逆に診察室は正常だが・ABPMで高値となるがあり、いずれもの1点測定だけでは判別できない。測定環境ごとの高血圧診断閾値は、診察室 ≥140/90、家庭 ≥135/85、ABPM 24時間平均 ≥130/80、昼間 ≥135/85、夜間 ≥120/70 mmHg(ISH 2020年ガイドライン)である3。

💡 ・はまれな例外ではない。 米国の多民族住民ベースコホート(Dallas Heart Study、3,027例、アフリカ系米国人50%、ヒト)の解析では、は3.3%・17.8%だった。両者とも大動脈()や腎障害の指標(、尿中アルブミン/クレアチニン比)の増加と独立に関連し、中央値9年の追跡での心血管イベントの補正後は2.09・2.03と、いずれも正常血圧群より高かった4。

まとめ

  • 血圧測定はKorotkoff音(収縮期=出現、拡張期=消失)によるが標準。P_mean = (P_sys + 2×P_dia)/3。
  • CO↑は脈圧を拡大させながら全体を上げ、TPR↑は脈圧を変えずに全体を上げ、コンプライアンス↓(加齢)は脈圧だけを広げは変えない——この3パターンの区別が要点。
  • ・性ホルモン・気候・運動なども血圧に影響し、いずれもCO・TPR・コンプライアンスのいずれかを介して作用する。

出典

  1. 1.Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association (AHA)・2019)正しい測定手技の詳細——カフの膨張帯は上腕周囲の37〜50%幅・75〜100%長(Table 2)、小さすぎるカフは血圧を高く・大きすぎるカフは低く測定し、「miscuffing」は診察室血圧測定で最も頻度の高い誤差である、測定前30分はカフェイン・運動・喫煙を避ける、上腕を心臓の高さに置く(腕が心臓より低いと血圧は高く、高いと低く測定される)、聴診法の第1点=収縮期・第5点=拡張期閲覧 2026-08-26
  2. 2.Arterial blood pressure monitoring in overweight critically ill patients: invasive or noninvasive?(Critical Care・2006)BMI 25 kg/m2以上の集中治療室患者54例(ヒト)で、橈骨動脈からの直接観血的血圧測定と、聴診法・オシロメトリック法による非侵襲的測定をBland-Altman法で比較したところ、平均バイアスは聴診法+4.1±1.9 mmHg・オシロメトリック法−8.0±1.7 mmHgで(P<0.0001)、一致限界は広かった。オシロメトリック法はBMIによらず観血的測定値を下回る傾向を示し、聴診法は収縮期血圧を過小評価し平均血圧・拡張期血圧を過大評価する傾向を示した。高血圧患者では両非侵襲的手法とも観血的測定値を下回った閲覧 2026-08-26
  3. 3.2020 International Society of Hypertension Global Hypertension Practice Guidelines(International Society of Hypertension (ISH)・2020)測定法別の高血圧診断閾値——診察室140/90、家庭135/85、ABPM 24時間平均130/80、昼間135/85、夜間120/70 mmHg以上閲覧 2026-08-26
  4. 4.Target Organ Complications and Cardiovascular Events Associated With Masked Hypertension and White-Coat Hypertension: Analysis From the Dallas Heart Study(Journal of the American College of Cardiology・2015)米国の多民族住民ベースコホート(Dallas Heart Study、3,027例、アフリカ系米国人50%、ヒト)で、加重有病率は白衣高血圧(診察室≥140/90かつ家庭<135/85)3.3%・仮面高血圧(診察室<140/90かつ家庭≥135/85)17.8%だったこと、両者とも大動脈脈波伝播速度・シスタチンC・尿中アルブミン/クレアチニン比の増加と独立に関連したこと、中央値9年の追跡で心血管イベントの補正後ハザード比は白衣高血圧2.09(95%CI 1.05-4.15)・仮面高血圧2.03(95%CI 1.36-3.03)と、いずれも正常血圧群より有意に高かったことを確認した閲覧 2026-08-26