病態生理学

病態生理学 · 2-22

循環血液量減少性ショックの病期

Phases of hypovolemic shock

応用トピック
出血性ショックICUにおける急性出血・出血性ショックの治療循環性ショック 症例1
症状
出血性ショック低血圧橈骨脈拍減弱

🧠 この項目の主役は の「負のフィードバック」をどれだけ細かく語れるか。鍵は「速い反応(神経)→ 中速(ホルモン)→ 遅い反応(体液・血球の再生)」という時間軸のリレー。

病期の定義

  • 病期は出血後の CO と動脈圧の変化で定義。
  • 10% 喪失(~0.5 L):変化なし → さらに喪失 → CO がまず低下、BP は遅れる。

1. 代償期

  • CO 低下の開始から BP が下がり始めるまで。
  • 出血を 生理的な負のフィードバックで代償。介入なしで完全可逆。
  • 目標:CO が落ちても BP を維持する。

⭐ 3病期のうち最も重要なのは。 出血源のコントロールと輸液をここで始められれば救命できる可能性が最も高い。に入ると対抗調節そのものが枯渇し始め、ではが急激に下がる——介入の効果が最も大きい病期という点がを特別にする。⚠️ ただし「不可逆」は経過を振り返って付ける呼び名であって、その場で治療を差し控える根拠にはならない。

💡 を捉える指標として、は乳酸と並ぶ実用的な手がかりである。 でこれを蘇生の目標に据えた無作為化試験(86施設・19か国・1,467例)では、死亡・生命の期間・を順に比べる複合評価項目で通常治療に優越し、その差は主に生命の期間が短くなったことによるものだった1。2026年の敗血症診療国際ガイドラインも、他の灌流指標の補助としてを蘇生の指標に用いることを提案している(条件付き推奨・エビデンスの確実性は低い)2。ベッドサイドで繰り返し評価できる点に価値がある。血圧という単一の数字ではなく、灌流を直接反映する所見を複数組み合わせて見るという発想が要点。

⚠️ は BP だけを見ていると見逃す。 血管収縮によって BP という数字自体は正常のまま保たれるため、「BP が正常だから安定している」はになりうる。BP 以外にを示す所見:

所見 機序
頻脈 による↑
脈圧の狭小化 動脈収縮でが相対的に上昇する一方、は保たれる
の延長 脳・心臓への灌流を優先し、皮膚・末梢血管を選択的に収縮させるため
皮膚の・蒼白・ 同上(皮膚は「犠牲にされる」側の代表)
+ADH・アルドステロンによる水分保持
・軽度の意識変容 は保たれていても、↑や不安による

BP 以外のこれらの所見は BP が下がる前に現れる。だからを拾うには、BP 単独ではなく複数所見を組み合わせて評価する。

時間スケール別の対抗調節

flowchart TD
  A["秒〜分:神経反応(即効・数時間しかもたない)"] --> A1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Baroreceptor reflex'>圧受容器反射</span>・アドレナリン↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reverse stress relaxation'>逆ストレス弛緩</span>"]
  A1 --> B["10分〜1h:ホルモン反応(血液量を取り戻す)"]
  B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system'>RAAS</span>活性化・ADH↑・ANP↓・口渇/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salt appetite'>塩嗜好</span>"]
  B1 --> C["1h〜2日:体液の補充"]
  C --> C1["間質からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autotransfusion'>自己輸注</span>・肝の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma proteins'>血漿蛋白</span>"]
  C1 --> D["3〜4日:血球の再生"]
  D --> D1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythropoietin'>EPO</span> → RBC産生"]
時間スケール 目標 過程
秒〜分 数分〜数時間のみ維持可能 ;アドレナリン↑(副腎髄質);
10分〜1h 血液量を回復 活性化;ADH↑;ANP↓;口渇・
1h〜2日 — ・の補充
3〜4日 — RBC 産生(EPO)

活性化の機序

  • 静脈還流↓ → CO↓ → BP↓ を 高圧(/頸動脈)& (心房/大静脈)が感知 → ↑。
  • 心臓: HR↑+収縮力↑ → CO↑。
  • 動脈: 収縮 → TPR↑(BP にはプラス、後のにはマイナス)。
  • 静脈: 収縮 → 貯蔵血を動員 → 静脈還流↑。
  • 腎: レニン → ANGII(強力な血管収縮)。
  • : 血液量↓ → 壁の張力が血液を押し出す(特に静脈)。
  • CO の再分配: 脳血管は 収縮しない()。GI は強く収縮。
  • 体液保持: ANGII → ↓+アルドステロン → Na⁺/。ADH V2(水)+V1(血管収縮)。ANP↓。
  • 体液補充: 間質からの(↓)、肝の、 による RBC↑。

2. 進行期— 対抗調節の枯渇

  • ~20% 喪失 → CO と BP が共に低下。負のフィードバックが枯渇:
    • ↓ → 尿濃縮↓ → 体液保持が減る
    • ADH 枯渇
    • 枯渇+
    • 組織からの血管拡張メディエーター/毒素
    • の破綻(Starling 力の変化):低灌流・低酸素が続くと血管内皮を覆う(負に帯電した多糖・蛋白の層で、透過性を制御するバリア)が剥離し始める。動物とヒトの研究では、出血・外傷の重症度が大きいほど剥離の程度が大きいと報告されている3。バリアが壊れると毛細血管の透過性が上がり、間質から血管内へ水を引き込むそのものが働かなくなる。
  • が ~50 mmHg で発動 → 交感神経 → 一過性の BP高止まり。講義ではCushing反射と呼ぶこともあるが、狭義のCushing反射は頭蓋内圧のへの反応(脈圧の開大・徐脈・呼吸不整)で、低血圧による脳虚血とは引き金が違う4。

3. 不可逆期

  • 正のフィードバックが優位となり、が急激に下がる。

⚠️ 「不可逆」は結果論であり、リアルタイムの診断名ではない。 ある患者がこの病期に入ったと確実に判定できるのは、実際に治療が奏功しなかった後から振り返ってのことだけである。臨床では「まだ戻せる」という前提で蘇生・止血・輸血を続ける——正のフィードバックが優位に見えても治療を諦める根拠にはならない。「=治療しても無駄」と決めつけて介入を止めることが、教科書的な3分類そのものより危険な誤りになる。

まとめ

項目 要点
病期の定義 出血後の CO と動脈圧の変化で分ける。10%(~0.5 L)までは変化なし、その先は CO がまず落ち BP は遅れる
CO 低下の開始から BP が下がり始めるまで。負のフィードバックで BP を保ち、介入なしで完全可逆。介入の効果が最も大きい
の拾い方 頻脈・脈圧の狭小化・の延長・皮膚の/蒼白/・・を組み合わせる。は、敗血症の指針では他の灌流指標の補助という位置づけ
対抗調節の時間軸 秒〜分:・アドレナリン・ → 10分〜1h:・ADH↑・ANP↓・口渇/ → 1h〜2日:・ → 3〜4日: による
再分配 脳血管は収縮せず灌流を保ち、消化管・皮膚は強く収縮する
~20%喪失で CO と BP が共に低下。↓・ADH との枯渇・・血管拡張物質・剥離によるの破綻。~50 mmHg で
正のフィードバック優位でが急低下。ただし「不可逆」は結果論で、治療を諦める根拠にならない

出典

  1. 1.Personalized Hemodynamic Resuscitation Targeting Capillary Refill Time in Early Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK-2 Randomized Clinical Trial(JAMA・2025)抄録(Europe PMC、PMC12573117)で確認した。敗血症性ショック発症4時間以内の患者を19か国86施設で無作為化し、主解析1,467例(介入720例/通常治療747例)で、毛細血管再充満時間を目標とする個別化血行動態蘇生を通常治療と比べた。主要評価項目は28日時点の死亡・生命維持治療(血管作動薬・人工呼吸・腎代替療法)の期間・在院日数の階層的複合で、勝率比1.16(95%CI 1.02〜1.33、P=.04)で介入群が優越した。項目別の勝ちは死亡19.1%対17.8%、生命維持期間26.4%対21.1%、在院日数3.4%対3.2%で、著者は主に生命維持期間の短縮による優越と結論した。閲覧 2026-08-15
  2. 2.Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)DOI本体(Springer)はbot判定で取得できず、発行元SCCMの推奨一覧ページ(Surviving Sepsis Campaign Adult Guidelines)で逐語確認した。敗血症・敗血症性ショックの成人で、他の灌流指標の補助として毛細血管再充満時間を蘇生の指標に用いることを提案する(条件付き推奨、確実性は低い)。乳酸上昇例・敗血症性ショックでは乳酸の連続測定で蘇生を導くことを提案し(条件付き、確実性は低い)、初期輸液後は乳酸の正常化まで輸液を続けるのではなく低下の推移を見て個別化するとする閲覧 2026-09-24
  3. 3.Resuscitating the Endothelial Glycocalyx in Trauma and Hemorrhagic Shock(Annals of Surgery Open・2023)抄録(Europe PMC、PMC10513357)で確認した。この総説は、外傷・出血性ショックで内皮グリコカリックスが分解・剥離し、剥離が全身性炎症・微小血管透過性の亢進・血流誘発性の血管拡張の増大と関連すると述べ、動物とヒトの研究が損傷が重いほど剥離が大きく転帰不良と関連することを示したと紹介している(損傷の重症度と剥離の関係は総説自身の結果ではなく、既報の要約である)。閲覧 2026-08-14
  4. 4.Cushing Reflex(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBI Bookshelf 本体は reCAPTCHA で取得できず、Wayback Machine の保存版(20260206044310、id_付き)で本文を確認した(章の最終更新は2023年3月20日)。Cushing反射を、頭蓋内圧の急上昇に対する神経系の生理的反応で、脈圧の開大(収縮期上昇・拡張期低下)・徐脈・呼吸不整の3徴をもたらすものと定義する。出血性ショックでの低血圧に伴う脳虚血の反応や、それが起こる血圧の閾値には触れていない閲覧 2026-09-24