神経解剖学

神経解剖学 · 08

脳神経核の分類

Classification of cranial nerve nuclei

応用トピック
脳神経の診察(Cranial nerves I〜XII)瞳孔支配の障害顔面神経障害の症候発話・言語障害の分類神経痛中枢性・末梢性顔面神経麻痺の鑑別、末梢性麻痺の原因と鑑別診断

🧠 は、脊髄の「前角=運動(内側)・後角=感覚(外側)」という区分が を境にそのまま横に「開いて」広がったものである。 運動側(sulcus limitansの内側)は正中に近い順に体性→一般内臓→特殊内臓(由来)、感覚側(外側)はに近い順に一般内臓→特殊内臓(味覚)→一般体性→特殊体性(聴覚・)と並ぶ。この「内側=運動・外側=感覚」「一般が内寄り・特殊が外寄り」という配置原理さえ押さえれば、12対のがどの機能柱に属するかは暗記ではなく位置からできる。

脳神経核の位置ルール

脳幹(延髄・橋・中脳)のは、でを境に配置される。

  • はより内側
  • はより外側

これは脊髄の前角(運動)・後角(感覚)という区分と発生学的に連続する原理であり、脳幹では核が頭尾方向に伸びる線状の「」として並ぶ。動眼・は中脳、三叉〜核は主に橋、〜は延髄というように、各柱は複数のレベルにまたがる。

運動核

はからなり、その軸索は脳を出て標的(筋・腺)に終止する。

体性運動核

正中に最も近いを形成する。の軸索は眼球運動筋・舌筋などの横紋筋を支配する。

脳神経 核
CN III()
CN IV()
CN VI()
CN XII()

一般内臓運動核

SMより外側に位置する。・で、CN III・VII・IX・Xに含まれる。

脳神経 核
CN III 核()
CN VII
CN IX
CN X

内臓(平滑筋・腺、例:唾液腺、胸部内臓の平滑筋)を支配し、支配は2段階で行われる。

  1. に節前副交感神経ニューロンの細胞体がある。軸索は脳を出て()に終止し、節内ニューロンとシナプスする
  2. の軸索が標的臓器に達する

💡 副腎髄質だけは例外。 副腎髄質はを介さず、の支配を直接受ける——発生学的に副腎髄質の自体が細胞のだからである。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cranial nerve nuclei'>脳神経核</span>(節前副交感神経ニューロンの細胞体)"] --> B["軸索が脳を出て<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic ganglion'>自律神経節</span>へ"]
  B --> C["節内ニューロンとシナプス"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic neurons'>節後ニューロン</span>の軸索→標的臓器(平滑筋・腺)"]
  A -.->|"例外:副腎髄質"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preganglionic fiber'>節前線維</span>が直接、副腎髄質(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chromaffin cells'>クロム親和性細胞</span>)を支配"]

鰓弓運動核

を形成し、の中で最も外側(sulcus limitansに最も近い)に位置する。CN V・VII・IX-X-XIに含まれ、由来の横紋筋——・・咽頭筋・——を支配する。

脳神経 核
CN V
CN VII
CN IX・X

💡 (CN XI)は少し特殊。 由来のごく少数の線維(延髄根)に加えて、支配の主体はC1–6由来の()であり、これが・を支配する。後述の対応表ではこの脊髄性の核をSM列()として扱う。

感覚核

もからなるが、これは感覚神経からの入力を受けるであり、がこのニューロン上にシナプスする。

一般内臓感覚核

は内臓より外側に位置する。・・からのを受ける。

  • ( solitary nucleusの一部)

特殊内臓感覚核

味覚専用。からの味覚線維の入力を受ける。

一般体性感覚核

頭部の皮膚・筋・関節にある・・からのを受ける。脊髄の体性感覚3分類と同じ3つの感覚分類が存在する。

感覚分類 内容
精細・の触覚と、振動覚
生存に重要——痛覚、、温度覚
筋・関節の位置。+腱器官からの
  • ():
  • :
  • :

💡 は唯一の例外。 通常、一次の細胞体は末梢の神経節(例:)にあるが、だけは中枢神経系内に一次の細胞体を持つ——全の中で唯一の例外である。

特殊体性感覚核

の中で最も外側に位置する。・聴覚を伝えるを受け、器(聴覚・)に属する。

脳神経別の対応表

⭐ 試験で問われやすいのは「どの脳神経がどの機能柱に属するか」を核名から逆引きできることである。

脳神経 SM BM (SVM) GVM GVS SVS GSS SSS
III — — — — —
IV — — — — — —
V 三叉神経 — — — — (固有受容)/主()/() —
VI — — — — — —
VII 顔面神経 — — (+) —
VIII — — — — — — (背側・腹側)/(上・下・内側・外側)
IX — (+) —
X 迷走神経 — (内側翼核) (+) —
XI (C1–6運動ニューロン、) — — — — — —
XII — — — — — —
脊髄相当 + — + + — + —
  • (+) はCN VII・IX・Xがそれぞれ性の線維を少量含み、に終止することを示す(外耳道皮膚などからの体性感覚)
  • 最下段「脊髄相当」は、SM・GVM・GVS・GSSの4柱が脊髄でも前角・・()・後角として連続することを示す。一方、BM(由来)とSVS(味覚)は頭部に固有の柱であり、脊髄には対応がない

💡 脊髄との対応。 SM=の、GVM=(IML)、GVS=細胞、GSS=に、それぞれ相当する。の7つの柱は、脊髄の「前角・・後角」という単純な3分割を頭部でさらに細分化したものと理解できる。

出典(page 3の分類表):Dr. Réthelyi Miklós, dr. Altdorfer Károly(2007)。

⚠️ この「一般/特殊×体性/内臓×求心/」という古典的な7分類(GSA/SVA/GVA/GSE/SVE/GVE/SSA)は、発生学的な根拠そのものが再検討され批判の対象になっている。 カエル・トカゲ・を対象とした比較神経形態学的研究では、柱とされる群も実際には特定の感覚器官(眼球・舌)を支配する筋を支配しており、とされる群が支配する由来の筋の多くは骨格要素に停止するなど、頭部分節説に基づくこの分類には矛盾が内在すると指摘されている1。現在は国際解剖学会連盟(FIPAT)によるTerminologia Neuroanatomica(2017年制定)が神経解剖学用語を標準化しており、・・などの由来のは「特殊内臓運動性(SVE)」ではなくという呼称に整理される方向にある2。ただし本ノートの表で用いる旧来のSVE/GVE/GSA等の略号は、試験や教科書でなお広く使われているため、位置づけを添えたうえで残す。

💡 「由来」という説明は今も骨格筋支配の由来としては妥当だが、の名前としての「」という語は誤解を招く。 ・・咽頭は発生学的には(咽頭弓)由来の中胚葉から生じる骨格筋であり、真の意味での「」の筋ではない。この上のずれが、上記の分類批判の核心にある。

まとめ

  • はを境に、(内側)と(外側)に分かれる。運動側は正中から外側へSM→GVM→BM、感覚側はに近い側から外側へGVS→SVS→GSS→SSSの順に並ぶ。
  • :SM(体性、眼筋・舌筋)、GVM(副交感神経、→→、副腎髄質のみ例外)、BM(由来の横紋筋、はIX・Xに帰属、XIは由来のが主体)。
  • :GVS(・・)、SVS(味覚、)、GSS(3核が・・に対応、はCNS内に細胞体を持つ唯一の例外)、SSS(前庭・、最外側)。
  • CN VII・IX・Xは主機能に加え、少量の線維((+))をへ送る。
  • SM・GVM・GVS・GSSの4柱は脊髄の前角・IML・・後角にそれぞれ対応して連続するが、BM・SVSは頭部固有で脊髄に対応がない。

出典

  1. 1.The efferent system of cranial nerve nuclei: a comparative neuromorphological study(Advances in Anatomy, Embryology and Cell Biology・1993)カエル・トカゲ・ラットの比較神経形態学的研究として、頭部分節説に基づく脳神経核の古典的分類(体性運動柱・特殊内臓運動柱など)には矛盾が内在すると指摘した。背内側核群(体性運動柱とされる)は実際には一つの内臓(眼球・舌)と特定の感覚器を支配する筋を支配しており、腹外側核群(特殊内臓運動柱とされる)は鰓弓由来の筋を支配するが、その筋の多くは骨格要素に停止する——樹状突起の分岐様式と軸索走行の比較解析から、より精緻には9種類の形態学的・機能的に異なるニューロン群に分けられるべきだと論じた。カエル・トカゲ・ラットでの比較知見であり、ヒトでの検証ではないが、古典的な7分類(GSA/SVA/GVA/GSE/SVE/GVE)の発生学的根拠そのものへの批判として引用される。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Towards a Terminologia Neuroanatomica(Clinical Anatomy・2017)国際解剖学会連合連盟(IFAA)の解剖学用語委員会(FIPAT)神経解剖学ワーキンググループが、Terminologia Anatomica(1998)およびTerminologia Histologica(2008)の中枢神経系・末梢神経系の部分を大幅に改訂・統合し、2016年9月22日にIFAA実行委員会で承認のうえ、Terminologia Neuroanatomica(TNA)としてFIPATの公式神経解剖学用語に定めたことを報告した。GSA/SVA/GVA/GSE/SVE/GVEのような古典的な機能柱の呼称を含め、神経解剖学用語がこの2017年の改訂で標準化された。閲覧 2026-08-26