神経解剖学

神経解剖学 · 09

脳幹の伝導路

Tracts of the brain stem

応用トピック
顔面神経障害の症候椎骨脳底動脈系循環障害の臨床症候群延髄障害の症候群橋障害の症候群中脳障害の症候群

🧠 伝導路は定義上つねに3点——起始(perikaryaの位置)・走行(交叉の有無とレベル)・終止——で特徴づけられる。 脳幹を通る伝導路もこの3点だけで整理すればよい。とくに要になるのは交叉——皮質脊髄路は延髄ので、後索路は延髄の毛帯交叉でそれぞれ交叉するのに対し、はすでに脊髄で交叉済みのため脳幹ではもう交叉しない。「どこで・何が交叉するか」を軸に読めば、脳幹伝導路は丸暗記ではなく地図として頭に入る。

伝導路とは

脊髄・脳幹の白質を走る軸索のうち、起始・走行・終止が共通するものの束を伝導路と呼ぶ。

  • 長い・長い・内/分節間伝導路に分けられる
  • 伝導路はつねに「①の位置、②走行(交叉の有無・レベル)、③終止部位」の3点で特徴づけられる

下行性伝導路

皮質脊髄路

  • 脳幹を通過し、脊髄では・として終止する
  • 軸索の約75〜90%(ヒト、複数の解剖学的研究のまとめ)が延髄の錐体レベルで対側へ交叉する(、pyramidal decussation)→。残り約5〜15%は交叉せず脊髄の分節レベルで交叉する→1
  • のから起始し、のの近傍またはその上に終止する

皮質延髄路

錐体路の一部で、運動野から下行し脳神経に終止する。

支配様式 対象核
両側性 (CN V)、(CN VII、)、(CN IX+X)
対側性・ (CN VI)、(CN VII、筋)、(CN XII)
(CN XI)——を支配する、独立した脊髄性の核

⭐ の支配様式が中枢性・の鑑別根拠になる。 を支配するニューロンは両側性支配を受けるため、大脳の損傷(中枢性)では対側皮質からの入力が代償し機能は保たれる(=額のしわ寄せが可能)。末梢性(・神経自体の障害)ではこの代償がなく、同側の顔面全体が麻痺する。

赤核脊髄路

  • 脳幹のから起始し、脊髄へ向かう

内側縦束

  • 脳幹正中に位置する
  • ・中脳の(interstitial nucleus of Cajal)を主な構成源とする
  • 主に下行性だが、一部上行性の線維も含む
  • 眼球運動の協調に深く関与する

⚠️ (MLF)はから起始しない。 は()のであり、眼球運動を統合するMLFとは別系統の構造である。健常成人31名を対象としたヒトのDTIトラクトグラフィ研究では、中脳のを領域としてMLFを描出し、延髄まで連続するとして同定している2。MLFは・・などから・眼球運動に関わる線維を集め、・・を相互に結ぶ——視覚そのものを中継する構造ではない。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary motor cortex'>一次運動野</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyramidal neurons'>錐体細胞</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal capsule'>内包</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crus cerebri'>大脳脚</span>を下行"]
  B --> C["延髄の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyramid'>錐体</span>"]
  C -->|"大部分が交叉:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyramidal decussation'>錐体交叉</span>"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral corticospinal tract'>外側皮質脊髄路</span>(対側)"]
  C -->|"一部は交叉せず下行"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior corticospinal tract'>前皮質脊髄路</span>(同側のまま脊髄へ)"]
  E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinal cord segments'>脊髄分節</span>レベルで交叉"| F["対側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventral horn'>脊髄前角</span>"]
  D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventral horn'>脊髄前角</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha motor neuron'>α運動ニューロン</span>近傍に終止"]
  F --> G

上行性伝導路

後索-内側毛帯系

(内側)と(外側)——後索を構成する——は脊髄から起始し、延髄の・に終止する。

  • 両核からが出て対側へ交叉する(毛帯交叉、lemniscal decussation)
  • 交叉後はとして上行を続ける——上行性の系の中で最も重要な経路
  • 視床に終止する

外側毛帯

  • とから起始する
  • 主要な

外側脊髄視床路

  • 脊髄から起始し、視床へ、さらに皮質へ向かう
  • ——・痛覚・温熱覚——を伝える
  • のレベルで既に対側へ交叉しているため、脳幹では新たな交叉は起こらない
系 起始 交叉 終止
後索- (・) 延髄で交叉(毛帯交叉) 視床
脊髄ですでに交叉、脳幹では交叉しない 視床→皮質

小脳への連絡

小脳への線維は3つの小脳脚を通って出入りする。

下小脳脚

  • :脊髄から起始し、を通って小脳へ
  • :からを通って小脳へ

中小脳脚

  • がここを通る。皮質から直接入力を受ける(、corticopontine tract)
  • は(pontine nuclei、)まで下行し、でニューロンを換える
  • から出たは、対側のを通って小脳に達する

上小脳脚

  • がを通って小脳に入る
小脳脚 通過する伝導路 起始
(ICP) 脊髄
(ICP)
(MCP) (の続き)
(SCP) 脊髄

まとめ

  • 伝導路は起始・走行(交叉の有無とレベル)・終止の3点で整理する。皮質脊髄路は延髄の、後索-は延髄の毛帯交叉で交叉するが、は脊髄ですでに交叉済みで脳幹では交叉しない。
  • :皮質脊髄路(錐体路)、(両側性・対側性・支配がごとに異なり、の支配差が中枢性/の鑑別根拠になる)、、(眼球運動に関与)。
  • :後索-()と()が二大系をなす。は聴覚の中継路。
  • 小脳連絡は3つの小脳脚——(・)、()、()——を介する。

出典

  1. 1.Neuroanatomy, Corticospinal Cord Tract(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)ヒトの皮質脊髄路のうち、延髄の錐体交叉で対側へ交叉し外側皮質脊髄路になる線維は約75〜90%、交叉せず前皮質脊髄路として同側を下行する線維は約5〜15%という範囲を示した(Welniarz et al. 2017等の総説を引用したまとめ)。「大部分の軸索が交叉する」という記述の具体的な数値範囲。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Three-Dimensional Identification of the Medial Longitudinal Fasciculus in the Human Brain: A Diffusion Tensor Imaging Study(Journal of Clinical Medicine・2020)健常成人31名を対象とした拡散テンソル画像(DTI)トラクトグラフィ研究で、中脳のCajal間質核(interstitial nucleus of Cajal)にシード領域を置き、延髄の内側毛帯背側にある内側縦束(MLF)まで連続する線維束を同定した。ヒトのDTI研究であり、MLFが中脳のCajal間質核から延髄まで連続する構造であることを示す(視床の外側膝状体を起始とする記載ではない)。閲覧 2026-08-26