眼科学

眼科学 · ML-59

両眼視とその異常

Binocular vision and its disorders

前提:正常
頭部:眼窩と眼視覚の生理学脳神経核の分類
症状
外斜視眼精疲労輻輳不全

🧠 全体像:とは、左右の眼がとらえた2枚の像を脳が1つにまとめ()、そのわずかなずれから奥行きを読む()働きである。成り立つには両眼が同じ物を同時に見続けること、つまり6対のが Hering・Sherrington の法則どおりに協調することが要る。がずれると、成人ではと混乱視が起こり、発達途中の小児では脳がずれた眼の像を抑制してを消す代わりに・異常網膜対応を残す。診察では、とでを、6方向の眼球運動で麻痺筋を決め、急性のではを伴う動眼神経麻痺=動脈瘤を否定するまで緊急を最優先に考える。

両眼視とは

は、周りの世界を元でとらえる能力である。生まれつき完成しているのではなく、生後に学習される反射で、およそ5〜8歳で安定する。

  • の反射では、左右の眼は対等の相棒として働く。
  • まず優位眼が目標をし、ほんの一瞬遅れてもう一方の眼も同じ目標をする。
  • 2つの眼がとらえた像を大脳皮質で1つの知覚にまとめる働き()によって、が生まれる。

両眼視が成り立つ条件

条件 崩れると
眼球・眼窩・の構造が正常 眼窩の病変やで像がそろわない
の力の釣り合いが正常 ・、麻痺性
調節との連動が正しい 、
透光体(角膜・・)が透明 片眼の像がぼやけてできない(など)
光学的条件が正常(左右の屈折がそろう) で左右の像の鮮明さ・大きさが違う

を動かす脳神経(・など)の核と走行も、この「正常な構造」に含まれる。

両眼視の3段階

は段階的に積み上がる。下の段が成り立たなければ上の段は得られない。

段階 内容 例え
1. 同時視 左右の眼の像を同時に意識できる。片眼の像が消されていない 2枚の絵が同時に見える
2. 左右の似た像を1つにまとめ、少しずれても眼を動かして1つに保つ 2枚が重なって1枚になる
3. 左右の像の水平方向のわずかなずれ(差)から奥行きを感じる 重なった絵が浮き上がる
flowchart TD
    A["両眼が同じ目標を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fixation'>固視</span>する"] --> B["同時視<br>両眼の像を同時に意識する"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fusion'>融像</span><br>似た像を1つにまとめる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stereopsis'>立体視</span><br>水平方向の視差から奥行きを読む"]

網膜対応・ホロプター・Panum融像域

左右の網膜には、同じ方向の外界を受け持つ点どうしの組があり、これを網膜対応点という。両眼のは互いに対応点で、どちらで見ても「真正面」と感じる(共通の視方向)。

用語 意味
正常網膜対応 左右のどうし、から同じ方向・同じ距離の点どうしが対応する
ホロプター を通り、その上にある物がすべて左右の対応点に映る面。ここにある物は1つに見える
Panum域 ホロプターの前後の狭い範囲。対応点から少しずれた像でも1つにでき、そのずれが立体感になる
生理的 Panum域の外にある物は2つに映る。ふだんは意識にのぼらない

⭐ は、差が単純に重ね合わせて1方向にまとめるには大きすぎるが、を起こすほどは大きくないときに生じる。つまり Panum域の中で、ホロプターから少し前後にずれた物ほど浮き上がって見える。は水平方向にずれた網膜刺激への反応であり、上下のずれは奥行きにならない。

黄斑の構造と視力

の要はである。黄斑はの区域に分かれ、中心から離れるほど視力は急に落ちる。眼底では、の耳側に黄斑がある。

区域 中心からの広がり(半径)
中心小窩 約0.6°
約2.5°
傍 約4.2°
周(黄斑の外縁) 約9.2°
から鼻側へ約12〜13.5°の位置に始まり、幅は約5°

換算の目安は、網膜上の1 mm が約3.35°、1(1Δ)が約0.57°である。したがって5Δは約3°、10Δは約5.7°、30Δは約17°にあたる。

視力はの中心で最もよく(1.0)、おおよそ中心から約1°で0.5〜0.4、約2.5°で0.3、約5〜6°で0.2、約11°(20Δ付近)で0.1まで下がる。

小数視力 Snellen視力
1.0 20/20
0.7 20/30
0.5 20/40
0.4 20/50
0.3 20/70
0.2 20/100
0.1 20/200

💡 がからわずか数度ずれるだけで視力が大きく落ちる。での外でする()眼の視力が低いのはこのためである。

視覚の2つの経路:M細胞とP細胞

には大きく2種類があり、の別々の層へ投射する。の腹側の2層が大細胞層(の入力)、背側の4層が小細胞層(P細胞の入力)である。

項目 (大細胞系) P細胞(小細胞系)
形 大きい細胞で、が傘のように広がる(パラソル細胞) 小さい細胞で、の広がりが小さい(ミジェット細胞)
得意な情報 方向・動き・速さ、粗い差 色、高い(細かい模様)、細かい2点の識別
受け持つ視野 の出来事に影響されやすい と
明るさ 暗い所でも感度が高い よく照らされた所でだけ働く
意識 多くは意識にのぼらない 常に意識にのぼる

ヒトの網膜では、同じ種類のでもの近くより周辺(から8 mm)の方がの広がりがずっと大きい。網膜の回路(・のシナプス)は生後に段階的に組み上がる。マウスでは生後1日目・5日目・7日目以降と日を追って・・の結合が完成していく。

💡 M系は「どこで何が動いたか」、P系は「それが何か」を受け持つと覚える。赤青ので見る立体写真のように、左右の眼に少しずつ違う像を入れると奥行きが生まれるが、その粗い視差を拾うのはM系、細かい形を見分けるのはP系である。

視覚系の発達と感受性期

出生後に視覚系は大きく変わる。この時期に両眼へ鮮明でそろった像が入らないと、も視力も育たない。

時期 起こること
生後1年 中心小窩の錐体密度が約5倍になる
2歳まで の神経細胞が大人と同じ大きさ(100%)になる
10歳まで のが急速に進み、シナプスの結合が磨かれる
5〜8歳ごろ の反射が安定する

💡 感受性期の間に片眼の像がぼやけたりずれたりすると、脳はその眼からの入力を切り捨てる方向に配線を固める。これが抑制との土台であり、治療が小児期に限られる理由でもある。

単眼でも奥行きを感じる手がかり

片眼でも、脳は過去の経験を使って奥行きを推し量る。差を使えない人でも日常生活がある程度送れるのはこのためである。

手がかり 内容
大きさと高さ 遠い物ほど小さく、視野の中で高い位置に見える
線遠近法 平行な線は遠くへ行くほど1点に集まって見える
大気遠近法 遠い物は空気による光の散乱で灰色がかって見える
運動視差 頭を動かすと、近い物の像の方が速く動いて見える
重なり 近い物は遠い物を覆い隠す
陰影 物が周りに影を落とす

⚠️ 単眼の手がかりでは細かい奥行き(針に糸を通す、近くの物をつかむ)は判断しにくい。の検査で単眼の手がかりが混ざらないよう、検査視標はそれをほとんど含まないように作られている。

融像

とは、左右の眼がとらえた像を大脳皮質で1つの知覚にまとめる働きである。

種類 仕組み
網膜との間に生まれつき備わる、整った位置関係(網膜対応)に基づいて、対応点の像を1つにまとめる
運動性 像がずれかけると、両眼をよせ運動で動かし、似た像を対応する網膜部位に保ち続ける

融像幅の測定

バー(強さの違うを並べた棒)を片眼の前に置き、を強くしていって、像が2つに割れる直前までをできる範囲として測る。

方向 遠見
方向 8〜10° 15°
開散方向 3° 4〜5°
上下方向 1〜2° 1〜2°

臨床ではで記録することが多い。1Δ≈0.57° なので、遠見の方向8〜10°はおよそ14〜18Δ、の15°はおよそ26Δにあたる。

💡 方向の余力は大きく、開散方向と上下方向の余力は小さい。そのため、わずかな上下の偏位でもしきれずにやが出やすい。

融像性輻輳を左右する因子

因子 影響
視力 視力がよくなるとは強まる
全身状態 疲労、病気、貧血、飲酒、薬物で弱まる
視能訓練 訓練で改善する
光学的な工夫 は調節を促して外を減らし、は調節を緩めて内を減らす
の度を少しずつ下げていくと、が刺激されて鍛えられる

💡 で外が減るのは、ピントを合わせようとする調節に連動して()が起こり、眼が内へ寄るからである。逆には調節を肩代わりするので、が減って内が軽くなる。

輻輳不全

は、近くを見るときに両眼を十分に内へ寄せられない状態である。

項目 内容
症状 読書など作業ですぐ疲れる、、かすみ、での
遠くへする。従来の目安では正常は6〜10 cm とされる
注意点 で外があるだけではとはいえない
原因 貧血、甲状腺機能亢進症、疲労
見逃さない ⚠️ 動眼神経麻痺(の麻痺)を必ず考える

米国の9〜17歳の小児を対象にした無作為化試験では、を「の外偏位が遠見より4Δ以上大きい」「の破綻点が6 cm 以上に」「のが不十分」の組み合わせで定義した1。つまり正常の目安を「6〜10 cm」とする従来の整理と、6 cm からをとみなす試験の基準とでは境目が違う。12週間の比較では、外来での・(家庭での練習を併用)が、家庭での、家庭でのコンピューター訓練、外来での訓練より症状と・をよく改善し、成功または改善は73%(他の群は43%・33%・35%)であった1。

両眼視の異常

がずれて左右のが別々の物を見ると、2つの困った現象が起こる。

現象 起こり方 見え方
同じ物の像が、ずれた眼では以外の点に映る 1つの物が2つの方向に見える
混乱視 左右のに別々の物が映り、どちらも「真正面」と感じる 2つの違う物が同じ場所に重なって見える

成人は視覚系が完成しているので、がずれると・混乱視をそのままする。発達途中の小児では、脳がこれを避けるように適応し、代わりに抑制・異常網膜対応・が残る。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular alignment'>眼位</span>のずれ・片眼の像のぼやけ"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>と混乱視"]
    B --> C{"視覚系が完成した成人か<br>発達途中の小児か"}
    C -->|"成人"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='awareness (subjective)'>自覚</span>し続ける<br>片眼を閉じる・頭位で避ける"]
    C -->|"小児"| E["ずれた眼の像を抑制する"]
    E --> F["異常網膜対応<br>粗い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binocular vision'>両眼視</span>で代償"]
    E --> G["抑制が続いた眼の視力が育たない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>"]

抑制

抑制とは、片眼の像が意識にのぼるのを妨げられることで起こる視覚の変化である。

  • 中心の抑制(の像だけを消す)と、周辺の抑制がある。
  • 病的な抑制は、で左右のがずれることから生じる。
  • と混乱視を避けるための適応である。
  • Worth 4灯試験で調べられる(後述)。

異常網膜対応

長くがずれている幼い小児では、網膜対応が感覚的にずれてくることがある。同じ像を受けとる網膜の部位どうしが、新たに共通の視方向をもつようになるのである。

  • ずれた眼では、ではなく、眼のと同じ像を受ける網膜の点が「正面」を受け持つ。左右のは、もはや同じ視方向を担わない。
  • があっても、粗いを育てられる。
  • そのため、正常網膜対応を前提とする検査(Maddox 杆、Hess スクリーン試験)は正しく働かない。

弱視

⭐ は、眼やのでは直接説明できない、片眼または両眼のである。詳しい分類と治療はと(疾患ノート)で扱い、ここではとの関係だけを押さえる。

  • 小児期に始まる片眼のの原因として、ほかのすべての原因を合わせたより多い。
  • 適切に介入すれば、によるのほぼすべては予防または回復できる。
  • のほかに、の異常、字づまり視力が単独視標より悪い(読み分け困難)といった変化がある。
  • ⚠️ 眼のは正常である。に異常があれば、ではなく視神経や網膜の病気を探す。
  • 治療の基本は、屈折を矯正するをかけたうえで、よく見える方の眼を遮閉で覆い(の下に貼る)、眼を使わせることである。
原因による型 起こり方
片眼に固定したで、ずれた眼が抑制され続ける
左右の屈折の差で、ぼやけた眼の像が抑制される
遮閉 治療のための過剰な遮閉、、眼瞼の血管腫で瞳孔が覆われる
・ 先天性あるいは早期に生じた透光体の(など)

眼球運動

ひき運動・むき運動・よせ運動

種類 定義 方向
ひき運動 片眼だけの運動 、、外転(耳側へ)、内転(鼻側へ)、(角膜の上端が鼻側へ傾く)、(上端が耳側へ傾く)
むき運動 両眼が同じ方向へそろって動く共同運動 右方視、左方視、上方視、下方視、右回旋・左回旋(両眼の上端がそろって右または左へ傾く)
よせ運動 両眼が逆方向へ動く非共同運動 (両眼が内へ)、開散(両眼が外へ)、内方回旋よせ(両眼とも)、外方回旋よせ(両眼とも)

外眼筋の作用と神経支配

筋 主な作用 副次的な作用 単独の作用を調べる 支配神経
内転 ― 内転
外転 ― 外転
、内転 外転位で
、内転 外転位で
、外転 内転位で
、外転 内転位で

💡 「は、は、残りはすべて」と覚える。はさらにと()も支配する。は脳幹の背側から出て完全に交叉する唯一の脳神経である。

共同筋と拮抗筋

用語 意味
眼をある方向へ動かす筋
と逆方向へ眼を動かす筋
共同筋 同じ眼で、と同じ方向へ眼を動かす筋
ヨーク筋 左右の眼で、同じむき運動を担う組(右方視では右と左)

各筋は同じ眼の中に2つと共同筋2つをもつが、とだけはが3つある。たとえば内転では、とが共同筋として働き、・・の3つが外転方向に引くになる。

Heringの法則とSherringtonの法則

法則 内容 例
視線を向けたい方向を担う左右のヨーク筋には、等しい量の神経信号が同時に流れる 左方視では左眼のと右眼のに同じ量の信号が届き、両眼がそろって左へ向く
Sherringtonの法則 あるへの神経信号と収縮が増えると、同じ眼のへの信号と収縮が同時に減る() 右眼を外転するとき、右が収縮し、右は緩む

⭐ の臨床的な意味:麻痺眼ですると偏位が大きくなる。 麻痺した筋を動かすには強い信号が要り、同じ量の信号がヨーク筋にも流れるので、が大きく動きすぎる。でしたときの偏位(第1偏位)より、麻痺眼でしたときの偏位(第2偏位)の方が大きい。Hess スクリーン試験での図形が広がるのもこのためである。

flowchart TD
    A["右<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral rectus (muscle)'>外直筋</span>が麻痺<br>右眼で左方視を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fixation'>固視</span>しようとする"] --> B["弱った右<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral rectus (muscle)'>外直筋</span>に<br>強い神経信号が送られる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hering&#39;s law'>Heringの法則</span><br>ヨーク筋の左<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial rectus (muscle)'>内直筋</span>にも同じ強い信号"]
    C --> D["左眼が内へ動きすぎる"]
    D --> E["第2偏位が第1偏位より大きい"]

斜視の要点

は、の異常か、眼球運動の神経筋の制御の異常によるのずれである。分類・原因・治療はで扱う。ここではと診察に必要な区別だけを示す。

区別 内容
の仕組みで隠されているの偏位。片眼を隠してを断つと現れる
で抑えきれず、常に現れているの偏位
どの方向を見ても偏位の大きさがほぼ同じ。小児のの多く
(麻痺性) 見る方向で偏位の大きさが変わる。麻痺筋の作用方向で最大になる

偏位の向きは、(眼が内へ)、(外へ)、(上へ)、(下へ)と表す2。

眼位と眼球運動の診察

⭐ の検査(・・)と6方向の眼球運動の検査は必須手技である。

検査の流れ 内容
家族歴、発症年齢と経過
眼球の大きさと位置、眼球運動、、眼瞼の位置、頭位
の最上段が保たれているか
視力と屈折 を点眼して屈折を測る()
かか、偏位の向きと量
眼球運動 麻痺筋・制限の方向
と透光体の
眼底 な病変の有無と、どこでしているか

にはやを使う。小児はが強く、点眼しないとを見逃しての原因を取り逃がす。

問診

  • いつ始まったか。
  • 常にあるか、ときどき(間欠性)か。
  • いつも同じ眼がずれるか、左右がにずれるか。
  • ずれは内向きか、外向きか、上下か。
  • 始まる前に外傷や病気があったか。
  • 妊娠・出産の経過。
  • ほかの病気、これまでの手術。

視診と偽斜視

眼球の大きさ・位置・動き、、眼瞼の位置、頭位を見る。がずれて見えても、実際にはでない(偽)ことがある。

偽の原因 見え方
広く平らな 内側の白目が隠れてに見える
同上。乳幼児に多い
瞳孔間距離が狭い・広い 狭いと、広いとに見える
κ角 と瞳孔中心を通る軸(解剖学的な軸)のなす角
κ角 の位置 見かけ
陽性 瞳孔の軸より耳側 瞳孔中心より鼻側に映る に見える
陰性 瞳孔の軸より鼻側 瞳孔中心より耳側に映る に見える

💡 偽では、で眼が動かない。見かけに惑わされず、必ずで確かめる。

代償性頭位

麻痺性の患者は、を避けるために頭を傾けたり顔を回したりする。

  • 麻痺()では、頭をの肩へ傾け、顎を引いた姿勢をとる。頭を患側へ傾けるとが増える(Bielschowsky 頭部)。
  • では、顔を患側へ回す(患眼を外転させずに済むため)。
  • 小児で頭を傾ける癖は、まずと間違えられやすい。昔の写真で頭の傾きが以前からあれば先天性を考える。

角膜反射による眼位の測定

ペンライトの光を正面から当て、角膜に映る反射の位置を左右で比べる。

方法 やり方 使う場面
反射が瞳孔中心から1 mm ずれるごとに、が約5〜7°ずれていると見積もる 協力が得にくい乳幼児、ができないとき
Krimsky法 眼の前にを置き(ずれた眼の前に置く変法もある)、両眼の反射が対称になるの強さで偏位を測る。の測定に使い、には使わない2 高度のでできず、ができないとき
  • 反射がずれた眼で耳側に映れば、鼻側に映れば、下に映ればである。
  • 1 mm あたりの換算は約7°(約14Δ、4 mm を仮定)とする整理もある。で反射が瞳孔の耳側縁にあればおよそ15°、にあればおよそ45°の偏位にあたる2。
  • 1 mm あたりの換算値は角膜のや瞳孔の大きさで変わり、研究でも報告値にばらつきがある。は偏位の有無と向きをつかむ概算と考え、量はを使う検査で決める。

遮閉試験

⭐ でのを、でを見つけ、を用いたが偏位の量を測る基準となる2。患者に目標(遠見と)をさせて行う。

検査 手順 判定
片眼を覆い、覆っていない方の眼が動くかを見る 覆っていない眼がしに動けば、その眼はもともと目標を見ていなかった=。動く向きで偏位の向きが分かる
覆いを外すとき、覆っていた眼が動くかを見る 外した眼が戻る動きをすれば、覆いの下でずれていた=
覆いを左右の眼へ素早くに移し、させない とを合わせた全体の偏位を引き出す。覆いを外された眼の動きの向きと大きさを見る
交代遮閉をしながら片眼の前のを強くしていき、眼の動きが止まる強さを読む 偏位の量をで測る
覆っていない眼の動き 偏位
外へ動く
内へ動く
下へ動く
上へ動く
flowchart TD
    A["片眼を覆う"] --> B{"覆っていない眼が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fixation'>固視</span>しに動いたか"}
    B -->|"動いた"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span>がある<br>動く向きで内・外・上下を決める"]
    B -->|"動かない"| D["覆いを外す"]
    D --> E{"覆っていた眼が<br>戻る動きをしたか"}
    E -->|"した"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oblique position (view); oblique lie (obstetrics)'>斜位</span>がある"]
    E -->|"しない"| G["正位"]
    C --> H["交代遮閉と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prism'>プリズム</span>で偏位の量を測る"]
    F --> H

💡 では「覆った眼」ではなく「覆っていない眼」を見る。例えばの右眼は、左眼を覆われると目標をとらえるために外へ動く。

眼球運動の検査

⭐ 目標(ペンライトや指標)を追ってもらい、片眼ずつ(ひき運動)と両眼同時(むき運動)に、正面を含む9方向で動きを見る。とくに斜め4方向を含む6つの基本方向では、それぞれ1対のヨーク筋が主に働くので、どの方向で動きが足りないかから麻痺筋が分かる。

見る方向(患者から見て) 主に働く右眼の筋 主に働く左眼の筋
右
左
右上
右下
左上
左下
  • 各方向で、動きの制限、動きすぎ、眼振、痛み、が最も強くなる方向を記録する。
  • が最も強くなる方向は、麻痺筋が働くはずの方向である。
  • 受動的な眼球運動():のあと、鑷子でをつまんで眼球を動かす。動かせれば神経麻痺、抵抗があれば筋や眼窩の機械的な制限(、での筋の嵌頓)を示す。で行う。

Hessスクリーン試験・Lancaster赤緑試験

⭐ 麻痺性の評価と経過観察に使う。

  • 赤緑ので左右の眼を分離し、一方の眼で見る赤い光ともう一方の眼で見る緑の光を重ねさせて、両眼それぞれの視野の中のを図にする。
  • 正常網膜対応があることが前提になる。
  • 左右の図形を比べ、小さく縮んだ方が麻痺眼で、縮みが最大の方向が麻痺筋の作用方向である。反対眼の図形はヨーク筋の過動で広がる()。
  • に記録すると、麻痺の回復や悪化をに追える。

Maddox杆試験

  • 正常網膜対応があれば偏位を正確に測れ、の測定に向く。
  • 右眼の前に赤いガラスの円柱(Maddox杆)を置き、光源を見てもらうと、右眼には光が赤い線として見え、左眼には光の点として見える。像の形が違うのでできず、隠れたが現れる。
  • 正位では赤い線が光を通る。
  • 赤い線が光より右にずれれば内、左にずれれば外、上下にずれれば上下の偏位である。

Worth 4灯試験

  • を調べる検査である。
  • 赤緑のをかけ、遠くの視標(赤1つ、緑2つ、白1つの計4つの光)を見てもらう。赤いレンズの眼には赤い光、緑のレンズの眼には緑の光だけが届き、白い光は両眼に届く。白い光が何色に見えるかは、どちらの眼が優位かで決まる。
  • 赤い光か緑の光のどちらかが見えなければ、その色のレンズをかけた眼が抑制されている。
見える光 意味
4つ がある(異常網膜対応を伴うでも4つに見えることがある)
赤だけ2つ 緑のレンズ側の眼が抑制されている
緑だけ3つ 赤のレンズ側の眼が抑制されている
5つ できずがある

立体視の検査

  • 多くの検査は、と専用の視標で左右の眼に別々の刺激を入れる(眼科の診断法と検査機器の検査)。
  • 視標は、片眼で見ても奥行きの手がかりがほとんど分からないように作られている。
  • Lang 検査はを使わずにランダムドットの図形を見せる。検査距離は約40 cm で、の屈折が矯正されている必要があり、があると結果に影響する。

乳幼児の視力評価

言葉で答えられない乳幼児では、行動から視機能を推し量る。

方法 見るもの
目標を追う 顔や玩具を目で追えるか
目標を中心で安定して見続けられるか。片眼を覆うと嫌がるか
の障害がないか
眼振 乳児期からの眼振は両眼の高度な視力障害を示唆する
選好法 縞模様と無地の視標を並べ、縞の方を見るかで見える細かさを判定する
と、片眼の遮閉を嫌がる(覆われた眼の方がよく見える)か
VEP 視覚刺激に対する大脳皮質の電気反応を記録する

見えていない乳幼児のは、家族の顔が分からない、視線が動かず一点を見つめる、眼の動きが定まらない、眼振、指で眼を押したりこすったりする(眼指反射)である。

複視の鑑別

⭐ を訴えたら、まず片眼を覆ってが消えるかを確かめる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>を訴える"] --> B{"片眼を覆うと<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>は消えるか"}
    B -->|"消えない"| C["単眼性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span><br>眼の光学的な異常"]
    C --> D["ピンホールで確かめる<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='astigmatism'>乱視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratoconus'>円錐角膜</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry eye'>ドライアイ</span>・黄斑の病気"]
    B -->|"どちらの眼を覆っても消える"| E["両眼性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular alignment'>眼位</span>のずれ"]
    E --> F{"どんな随伴所見があるか"}
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>を伴う動眼神経麻痺"| G["⚠️ 動脈瘤を疑い<br>緊急の血管画像"]
    F -->|"複数の脳神経・頭痛・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='papilledema'>乳頭浮腫</span>・神経症状"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavernous sinus'>海綿静脈洞</span>・眼窩先端部・<br>脳幹・頭蓋内圧亢進を画像で"]
    F -->|"単独の麻痺"| I["障害された神経を6方向の<br>眼球運動と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cover test'>遮閉試験</span>で決め<br>原因を調べる"]
型 仕組み 主な原因
単眼性 片眼の中で像が2つに割れる。反対眼を覆っても残る 、、、、の偏位、黄斑の病気(を伴う)
両眼性・水平 左右の眼が水平にずれる 、の障害、、の、
両眼性・垂直 左右の眼が上下にずれる 、(の肥大でが制限される)、、斜偏位
変動する 夕方や疲労で悪化する 重症筋無力症(瞳孔は障害されない、を伴う)

⚠️ 成人の急な・、頭痛や嘔吐を伴うもの、や、急速に進む偏位、を伴うものは、ただちに評価が必要である2。

急性の脳神経麻痺

⭐ 眼球運動に関わる神経の麻痺では、どの神経か(局在)と、緊急の原因がないか(動脈瘤・頭蓋内圧亢進・など)を同時に判断する。神経内科の立場からの局在診断は眼球運動・の障害でも扱う。

項目 動眼神経麻痺
麻痺する筋 ・・・・・
眼が下外方を向く 患眼の(内転位でより強い) 患眼の
水平・垂直が混じる。高度のでしないこともある 垂直(斜め)。下方視・視で悪化し、を下りる・読書で困る 水平。患側視と遠見で悪化
その他の所見 、(瞳孔が障害される場合) 頭をの肩へ傾ける 顔を患側へ回す
注意する原因 、(糖尿病・高血圧)、外傷、腫瘍、の病変 (後天性で多い)、先天性の、 頭蓋内圧亢進(偽の局在徴候)、、小児では脳幹の腫瘍

動眼神経麻痺と瞳孔

⚠️ を伴う動眼神経麻痺は、(とくに)による圧迫を否定するまで緊急扱いにし、ただちにCTAなどの血管画像を撮る。瞳孔を動かすは神経の表層を走るので、外からの圧迫で早く障害される。一方、糖尿病や高血圧によるは神経の中心部を虚血に陥らせるので、瞳孔は保たれやすい。瞳孔の詳しい見方はとで扱う。

flowchart TD
    A["急性の動眼神経麻痺"] --> B{"瞳孔は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>しているか"}
    B -->|"している"| C["⚠️ 動脈瘤による圧迫を疑う<br>ただちに血管画像"]
    B -->|"していない"| D{"眼球運動と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ptosis'>眼瞼下垂</span>は<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='plegia'>完全麻痺</span>か不完全麻痺か"}
    D -->|"不完全麻痺"| E["瞳孔障害が遅れて出ることがある<br>画像を撮り、瞳孔を繰り返し確認"]
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plegia'>完全麻痺</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microangiopathy'>微小血管障害</span>が多いが<br>画像で他の原因を除外"]
    F --> G["50歳以上では<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='giant cell arteritis (GCA)'>巨細胞性動脈炎</span>の症状と血液検査も確認"]
  • ⚠️ 50歳以上の急性・単独の動眼・・を早期にMRIで調べた前向き研究では、16.5%が以外の原因(中脳梗塞・腫瘍・炎症・・)で、血管の危険因子だけをもつ人でも10%に別の原因が見つかった3。「糖尿病があるから」と決めつけず、画像で確かめる。
  • 50歳以上で頭痛、、頭皮の圧痛、全身症状があれば、を考えて・CRP を測る。
  • の再生の過程で線維が誤った筋へ伸びる(:下方視で上眼瞼が上がるなど)。による麻痺では起こらないので、外傷の既往がないのにがあれば、動脈瘤や腫瘍などの圧迫性の病変を強く疑う。

外転神経麻痺で画像を急ぐ場合

は頭蓋底を長く走るので、頭蓋内圧が上がると引き伸ばされて麻痺する(障害部位を示さない偽の局在徴候)。ではを確かめる。

50歳未満、両側性のもの、痛みや他の神経症状を伴うもの、悪性腫瘍の既往があるもの、の浮腫を伴うもの、3か月を過ぎても明らかに改善しないもの、ほかの脳神経にも麻痺が広がるものは、MRI による画像評価の対象になる4。小児の後天性では腫瘍(など)と外傷が主な原因なので、重い原因を除外する迅速な評価が欠かせない4。

滑車神経麻痺の見分け方

  • は内転位で眼を下げるので、患眼が内へ寄って下を向くときに上下のずれが最大になる。
  • 頭を患側へ傾けるとが増え、へ傾けると減る。このため患者は頭をへ傾ける。
  • のあとに起こりやすく、のでは両側に起こることもある。
  • 先天性の麻痺が大人になって代償できなくなることもある。昔の写真で頭の傾きがあれば先天性と考えられる。

麻痺性斜視への対応

対応 内容
原因の治療 動脈瘤・腫瘍・頭蓋内圧亢進・炎症などを見つけたら、その治療が最優先
をとる 片眼の遮閉(小児ではを作らないよう注意する)、偏位を打ち消す
経過観察 による麻痺は数か月で自然に回復することが多いので、Hess スクリーン試験などで回復を追う
手術・ 偏位が安定しても残る場合にの手術。のを防ぐ目的でを筋へ注射することもある(詳細は)

まとめ

  • は生後に学習される反射で5〜8歳ごろに安定し、同時視→→の3段階で積み上がる。は、できる範囲(Panum域)の中での水平方向の像のずれから生まれる。
  • の条件は、正常な構造、の釣り合い、調節との正しい連動、透明な透光体、左右そろった屈折である。
  • がずれると、成人はと混乱視をし、小児はずれた眼を抑制して異常網膜対応やを残す。眼のは正常である。
  • は、は、残りは。でヨーク筋に等しい信号が流れ、麻痺眼ですると偏位(第2偏位)が大きくなる。Sherringtonの法則では同時に緩む。
  • では覆っていない眼の動きでを、覆いを外した眼の動きでを見分け、交代遮閉とで偏位の量を測る。は1 mm ずれるごとに約5〜7°の偏位と見積もる。
  • 6方向の眼球運動で麻痺筋を決め、Hess スクリーン試験で経過を追う。Maddox 杆と Hess スクリーン試験は正常網膜対応を前提とし、Worth 4灯試験は抑制とを調べる。
  • は片眼を覆って消えるかで単眼性(眼の光学的な異常)と両眼性(のずれ)に分ける。
  • を伴う動眼神経麻痺は動脈瘤を否定するまで緊急。に見える高齢者の単独麻痺でも一部に別の原因があるので画像で確かめ、50歳以上ではも考える。

出典

  1. 1.Randomized clinical trial of treatments for symptomatic convergence insufficiency in children(Archives of Ophthalmology・2008)全文(PMC2779032)で、9〜17歳の症候性輻輳不全221例を4つの治療に割り付けた無作為化試験の主な組み入れ基準が、近見の外偏位が遠見より4プリズム度以上大きいこと・輻輳近点の破綻点が6 cm以上に後退していること・近見の正の融像性輻輳が不十分なこと・症状質問票16点以上であったこと、12週後に外来での輻輳・調節訓練(家庭での補強つき)群が家庭でのペンシルプッシュアップ群・家庭でのコンピューター訓練群・外来プラセボ群より症状・輻輳近点・近見の正の融像性輻輳を有意に改善し、成功または改善が73%対43%・33%・35%であったことを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Strabismus(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)章本文(2026年3月23日更新版、NCBI の書籍アーカイブの XML)で、斜視を方向(内斜視・外斜視・上斜視・下斜視)、片眼性か交代性か、恒常性か間欠性か、共同性か非共同性か、発症年齢で分類すること、Hirschberg法では角膜反射のずれ1 mmが約7°(14プリズムジオプトリー、瞳孔径4 mmを仮定)で、内斜視で反射が瞳孔の耳側縁にあれば約15°、角膜輪部にあれば約45°であること、遮閉試験が顕性の斜視を、遮閉除去試験が斜位を検出し、プリズムを用いた交代遮閉試験が偏位の量の測定の基準であること、Krimsky法は固視眼の前にプリズムを置き(ずれた眼の前に置くのは変法)斜視の測定に使い斜位には使わないこと、成人の急な斜視・急性の両眼性複視・頭痛や嘔吐などの神経症状・眼球運動痛や眼窩痛・急速に進む偏位・眼球運動障害を伴う眼瞼下垂・眼球突出や上眼瞼後退・乳頭浮腫を伴う斜視は直ちに紹介または緊急の検査を要することを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Isolated third, fourth, and sixth cranial nerve palsies from presumed microvascular versus other causes: a prospective study(Ophthalmology・2013)抄録(Europe PMC、PMID 23747163)で、50歳以上の急性・単独の第III・IV・VI脳神経麻痺109例(第III脳神経22例)を早期の脳MRIで調べた多施設前向き研究で、18例(16.5%)が微小血管性以外の原因であり、血管危険因子だけをもつ群でも80例中8例(10%)に中脳梗塞・腫瘍・炎症・下垂体卒中・巨細胞性動脈炎が見つかったこと、第III脳神経麻痺と巨細胞性動脈炎を除くと他の原因は4.7%だったことを確認した。閲覧 2026-09-28
  4. 4.Abducens Nerve Palsy(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)外転神経麻痺が外直筋の機能不全により内斜視を来し偏位が患側視・遠見でより大きくなる非共同性であること、小児の後天性外転神経麻痺は脳幹膠腫(小児脳幹腫瘍の80%超を占める)を含む腫瘍性病変・外傷・感染・炎症・特発性が原因となり良性の再発性外転神経麻痺や頭蓋内圧の異常でも生じうること、頭蓋内圧亢進がDorello管に固定された神経を伸展させて麻痺を来すこと、50歳未満・疼痛や他の神経学的異常の随伴・悪性腫瘍の既往・両側性・視神経乳頭浮腫・3か月を過ぎても明らかな改善がないか他の脳神経に及ぶ例ではMRIを行いうるとされていること、小児では腫瘍と外傷が主要な原因であるため重篤な原因を除外する迅速で慎重な評価が必須であることを確認した。閲覧 2026-09-29