眼科学

眼科学 · ML-60

斜視

Strabismus

前提:正常
頭部:眼窩と眼
症状
外斜視眼精疲労

🧠 全体像:は「片眼が目標を見ているとき、もう片眼が別の方向を向いている状態」である。整理の軸は4つ——向き(内・外・上・下)、片眼性かか、潜伏かか(・・間欠性)、そしてかか。小児のは(特に)との発達の問題で、放置するととの喪失を残すので、下の→治療→手術の順に治す。は眼筋の麻痺や機械的な制限で起こり、動眼・・の麻痺では動脈瘤や頭蓋内圧亢進という命にかかわる原因を探す。検査は()とが二本柱で、偽(など)との区別がまず問われる。

小児の眼の診察の流れ

の子どもを診るときは、だけを見るのではなく、次の6項目を順に確かめる。

項目 目的
視力(・遠見) の有無を見る
の測定 ・の原因になる・・を見つける
眼球運動 かか、どの筋・神経の障害かを見る
機能 同時視・・の段階を見る
の検査 偏位の有無・向き・大きさを測る
(直像、Brückner試験) ・などのな原因を除外する

⚠️ はの2番目に多い初発所見である。のずれだけを見て眼底を診ないことは許されない(小児の眼腫瘍)。

小児の視力検査

言葉で答えられない年齢の子どもには、年齢に合わせた視標を使う。

視標 特徴
Snellen の E E の向きを答える、または手で示す
Landolt 環 環の切れ目の向きを答える
Sjögren の手 開いた手の指の向きを答える。ハンガリーでは子ども向けの愛称で親しまれている
HOTV 視標 H・O・T・V の4文字だけを使い、手元のカードの同じ文字を指させば答えられる
Lea 視標 家・四角・リンゴ(ハート形)・丸の4つの図形
Allen 絵視標 ケーキ・手・鳥・騎手などの絵

検査の工夫として、片眼を手やに貼る遮閉具でふさぐこと、ごほうびで集中を保つこと、離れた視標と同じものを手元のカードから指さしてもらう照合方式がある。

屈折の他覚的測定

方法 内容
Plusoptix(両眼同時の自動屈折計) 離れた位置から両眼を同時に撮影し、等価球面度数・円柱度数・・の位置を測る。の危険因子のスクリーニングに使い、基準を超えると「要紹介」と判定する
光の帯を瞳孔の上で動かし、網膜からの反射の動きを見る。反射が光と同じ向きに動く「同行」、逆向きに動く「逆行」、瞳孔全体が一様に光って動かない「中和」を見分け、中和するレンズの度数で屈折を決める

スクリーニングの効果として、RAMSES 研究では、7歳で視力0.5未満の子どもが、スクリーニングを受けなかった場合は3%、受けた場合は0.8%であった。

⭐ が必須:子どもはが強く、ふだんから調節しているので、そのまま測るとを少なく見積もる。を麻痺させて調節を取り除き、本当の屈折を測る。使う薬はである。

薬 位置づけ
小児のの標準
ホマトロピン 同じく
最も強力で、作用が長く続く
に近い
作用は短くが主で、は弱い

点眼薬の薬理は眼科の、の基本は視力・屈折・で扱う。

眼球運動と両眼視の要点

眼球運動は生後4か月ごろから評価できる。の作用・支配神経、Hering の法則、の3段階と検査の詳細はとその異常にまとめる。ここではの診察に直結する要点だけを表にする。

筋 第1作用 第2作用 第3作用 支配神経 単独で調べる視線
外転 ― ― (VI) 水平に外
内転 ― ― (III) 水平に内
内転 (III) 外転位で上
内転 (III) 外転位で下
外転 (III) 内転位で上
外転 (IV) 内転位で下

💡 覚え方は「6、4、残りは全部3」。指標を空中に「H」の字に動かすと、1つの筋の作用を取り出して調べられる。

は3段階で評価する。

段階 定義 大型鏡での例
同時視 左右に違う図を見せ、同じ方向に同時に知覚できる 片眼に鳥かご、他眼に鳥を見せ、かごの中に鳥が入って見える
ほぼ同じ図だが片眼ずつ違う部分(抑制の確認印)をもつ図を1つにまとめる 片眼の図だけに帽子、他眼の図だけに小さな印があり、両方をもつ1つの図に見える
と同じ図に視差を加え、奥行きとして見る 少しずれた二重の輪が、立体的に浮かんで見える
検査 方法と判定
Lang の検査 ランダムドットのカードで、なしで検査できる。テストAでは猫・車・星、テストBでは月・象・車・星が浮き出て見えればがある
Randot 検査、Titmus 検査 をかけ、ハエの翅や輪・動物の図のどれが浮いて見えるかを答える
Worth 4灯試験 赤緑をかけ、赤1・緑2・白1の4つの光を見る。4つ(下の白は混色)なら同時視とがある。赤2つだけ、または緑3つだけなら片眼で見ており同時視が無い(他眼の抑制)。5つ(赤2・緑3)なら同時視はあるがが無い()

斜視の定義と分類

は、片眼(眼)が目標を見ているとき、もう片眼(眼)が別の方向を向いている状態である()。は集団により0.8〜6.8%で、米国ではとが同じくらいだが、香港・シンガポール・日本・中国ではの方が多い1。

4つの分類軸

軸 分類 内容
1. 向き 眼が内側(鼻側)を向く
眼が外側(耳側)を向く
眼が上を向く
眼が下を向く
2. 左右 片眼性 いつも同じ眼がずれる
左右どちらの眼でもでき、ずれる眼が入れ替わる
3. 潜伏性 () ふだんはでが保たれ、片眼を覆うなどでを断つと現れる
() で両眼の視線を合わせられず、いつもずれている
間欠性 両者の中間。ふだんはできるが、ときどき、または頻繁にのずれになる
4. 視線方向との関係 どの方向を見ても偏位の角度が一定
視線の方向によって角度が変わる。眼球運動の機械的な制限か、の麻痺による

💡 「片眼性」のは、いつもずれる眼が使われないのでになりやすい。なら両眼ともに使われるのでになりにくい。

子どもや若い人の外観では、越しに片眼が内側または外側へ寄って見え、(瞳孔に映る光の点)の位置が左右で違う。

内斜視の病型

米国眼科学会の診療指針は、小児期に発症するを次のように分ける1。

病型 特徴 治療の中心
生後6か月までに発症し、自然には治らない。角度が大きく一定で、時とともに大きくなることがある。眼を内転位にして交差して見る(交差)。のちに・・斜筋の異常を伴うことが多い 手術
(屈折性、AC/A比正常) を伴い、調節に伴う過剰なでになる。典型的には1〜4歳(平均約2歳)に発症し、病気・発熱・軽い外傷がきっかけになりうる。発症前のは正常なことがある の
(高AC/A比) を矯正すると遠見では正位になるが、でが残る。が無くだけになる例もある
のでは減るが、ずれが残る +残った偏位に手術
非 後天性で、遠見との角度がほぼ同じ。が無いか、矯正しても角度が変わらない 手術
片眼または両眼のなに伴う 原因疾患の治療
その他 術後の続発、Duane症候群、、頭蓋顔面の異常、重症筋無力症 病態に応じて

💡 AC/A比は、1調節したときに起こるの量()である。の子どもははっきり見ようとして強く調節し、それにつられて両眼が寄りすぎる。これが屈折性のである。AC/A比が高い子どもは、を矯正しても近くを見るときの調節だけで寄りすぎるので、だけが残る。手術の文脈では、を完全に矯正した状態での内偏位が遠見より10以上大きいものを高AC/A比として扱う1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperopia'>遠視</span>の子ども"] --> B["はっきり見るために<br>強く調節する"]
    B --> C["調節に連動して<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='convergence'>輻湊</span>も強くかかる"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fusion'>融像</span>で<br>寄りすぎを打ち消せるか"}
    D -->|"打ち消せる"| E["内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oblique position (view); oblique lie (obstetrics)'>斜位</span>にとどまる"]
    D -->|"打ち消せない"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='accommodative esotropia'>調節性内斜視</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperopia'>遠視</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full correction'>完全矯正</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>で<br>調節を減らす"]
    G --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='near vision'>近見</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esotropia'>内斜視</span>が残るか"}
    H -->|"残らない"| I["屈折性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='accommodative esotropia'>調節性内斜視</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>を続ける"]
    H -->|"残る"| J["高AC/A比<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bifocal glasses'>二重焦点眼鏡</span>を考える"]

⚠️ 非のが急に発症し、ほかの神経症状を伴うときは、速やかに評価してを考える1。や頭蓋内の病変が隠れていることがある。

外斜視の病型

病型 特徴
生後6か月までに現れる恒常性ので、と似た特徴(の見込みが乏しい、斜筋の異常、、)をもつ。新生児は生後3〜4か月まで間欠性にになることが多いが、続くことはまれである
小児期発症のの典型で、通常3歳前に現れる。疲れ・ぼんやりしたとき・病気のときに化する。明るい光の下で片眼を閉じる、または覆う。ずれた眼の像を抑制するのでを訴えないことが多い。軽いはあるが、重いはまれである
不全 年長児・10代に多い。で間欠性にになり、性の幅が狭く、が遠い。読書などの近業でを訴える
片眼または両眼のなに伴う
その他 術後の、Duane症候群、、頭蓋顔面の異常、重症筋無力症

以上の記述は米国眼科学会の診療指針による1。

💡 のは一様ではない。なの観察群では、3年間で悪化したのは生後12〜35か月の子どもの28%、3〜10歳の15%であった1。すぐに手術をせず、経過を見る選択肢があるのはこのためである。

偽斜視

偽は、実際にはがずれていないのに、のように見える状態である。

原因 見え方
広く平らな、 鼻側の白目が皮膚に隠れ、のように見える()。乳幼児に多い
κ角(γ角)の偏り と瞳孔の中心を通る軸がずれていると、が瞳孔の中心から外れて見える。負のκ角は、はに見える

米国眼科学会の診療指針も、をまたはと瞳孔軸のずれ(負のκ角)による見かけのとしている1。典型例では、乳児の片眼が内側に寄って見えるが、両眼のは瞳孔のほぼ中央に左右対称に映っている。

⭐ 「内に寄って見える乳児」は、まずの対称性を見る。左右対称なら偽の可能性が高いが、間欠性のを見逃さないよう、と(高度のはの危険因子)も行う。

斜視の検査

検査の手順と原理はとその異常で詳しく扱う。の診断で押さえる要点は次のとおりである。

検査 方法 分かること
(法) ペンライトの光を両眼に当て、2つのが対称かを見る。ずれた眼の反射は、なら耳側、なら鼻側、なら下、なら上にずれる 協力の得られない乳幼児でも偏位の有無と向きが分かる。偽との区別の第一歩
(片眼遮閉・遮閉除去) 片眼を覆い、覆っていない眼が動けば。覆っていない眼が動かず、覆った眼が覆った直後に一方へずれ、外すと反対方向へ戻れば(検査の前後で両眼はまっすぐ) との区別
遮閉板を左右に移してを断ち、眼の動きが止まるの度数を読む。遠見との両方で測る 潜伏とを合わせた全体の偏位の量。遠近差は AC/A比や不全の判断に要る
Krimsky法 眼の前にバーを置いて度数を上げ、左右のが対称になった度数を読む(ずれた眼の前に置く変法もある) ができない子どもや、ずれた眼でできない場合の偏位の量

では、反射のずれの位置から偏位を概算する。を約4 mm と仮定した目安である(で反射が耳側へずれる場合)。

反射の位置 偏位の目安
瞳孔中心から1 mm 約7°(約14)
約15°
約45°

で「1 mm≈15、≈30、輪部≈90」と丸めて覚える整理もあるが、いずれも目安で、正確な量はを使う検査で測る。数値の前提はとその異常と同じである。

米国眼科学会の診療指針は、を置いた片眼遮閉がの角度を、交代遮閉が全体の角度を測り、どちらも治療と手術の判断に使うとしている1。乳児には手や親指で片眼ずつ覆い、年長児には視標を見せながら遮閉板で覆う。Krimsky法のの例では、はじめずれた眼の反射は耳側のの近くにあり、を強くするにつれて瞳孔の中心へ寄り、最後に左右対称になる。

共同性斜視の治療

小児のの治療は、次のである。

順 治療 要点
1 の矯正 。度数は下で決める
2 遮閉(の治療) を防ぎ、治す
3 手術 を短くする・長くする・付着部を移すことでを整える。手術をしてもが要らなくなるわけではない
4 小さな偏位やに
flowchart TD
    A["小児の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comitant strabismus'>共同性斜視</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cycloplegia'>調節麻痺</span>下で屈折を測り<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>で完全に矯正する"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>があるか"}
    C -->|"ある"| D["遮閉などで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>を治療"]
    C -->|"ない"| E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>をかけたときの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular alignment'>眼位</span>はどうか"}
    D --> E
    E -->|"整った"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>を続けて経過観察"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='near vision'>近見</span>だけずれる"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bifocal glasses'>二重焦点眼鏡</span>を考える"]
    E -->|"ずれが残る"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extraocular muscle surgery'>外眼筋手術</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>治療は続ける"]

屈折矯正

によるでは、だけでが整う。典型例では、を外すと片眼が内側に寄るが、眼が大きく見えるのをかけると両眼がまっすぐになる。

米国眼科学会の診療指針では、の最初の治療は有意なの矯正で、新たに発症したでは +1.00 D 以上のにを処方し、多くは下で測った度数の全量を処方する1。の改善には数週かかることがあり、が続くときは手術の前に下屈折をやり直す(隠れていたが見つかることがある)1。

高AC/A比でにが残る子どもには、を使う。境目が瞳孔を二分する高さの平頂型を選び、+2.50〜+3.00 D から始めてもよい1。ただしでなどの感覚面の成績が良くなるとは限らない1。

では、・高度の・・など視力を落とすを矯正すると、がはっきりしてのコントロールが良くなることが多い。逆に、軽度〜中等度のを矯正するとが減ってが悪化しうるので、通常は勧めない1。

💡 のはを減らし、を増やす。同じ「の」が、とで逆の働きをするのは、調節とが連動しているからである。

遮閉と弱視治療

⚠️ 遮閉は顔に直接貼るで行う。のレンズに貼るだけでは不十分である。子どもがの縁の外からのぞいてしまうからである。

とは、視覚の正常な発達を妨げる状態のために、片眼(まれに両眼)の視力が部分的または完全に失われることである。眼のを治して両眼の視力をそろえることは、手術の成功率も上げる。の治療の詳細はとにまとめる。

では、1日2〜6時間のがのコントロールを改善したり角度を減らしたりすることがあり、特に3〜10歳で効果が期待される1。

弱視の危険因子の目標値

米国小児眼科学会は、機器によるスクリーニングで見つけるべきの危険因子を定めている。2013年版の目標値は次のとおりである。

年齢(月)
12〜30 2.0 D 超 4.5 D 超 2.5 D 超 −3.5 D より強い
31〜48 2.0 D 超 4.0 D 超 2.0 D 超 −3.0 D より強い
48超 1.5 D 超 3.0 D 超 1.5 D 超 −1.5 D より強い
あらゆる年齢(屈折以外) の1 mm超、で8を超える

この目標値は2021年に改訂され、対称性のの閾値が上がり(の過剰紹介を減らすため)、の閾値が1.25 D 超へ下がった2。年齢区分は48か月の前後の2つに簡略化され、は年齢を問わず4.0 D 超にそろえられた2。との基準は変わっていない2。現行の目標値とスクリーニングの進め方はで扱う。

病型別の治療の目安

米国眼科学会と米国小児眼科学会の指針をまとめた従来の整理では、病型ごとの治療を次のように並べる。

病型 受診時の年齢 治療
6か月未満 手術でを整える
を伴う 6か月未満 と
1〜4歳
遠近差のある 1〜4歳
非 1〜4歳 手術でを整える
1〜4歳 と、残ったへの
6か月未満 手術でを整える
1〜5歳 経過観察、遮閉、
不全 4歳以上 、眼の訓練、手術

現行の米国眼科学会の診療指針(2022年版)も大枠は同じだが、いくつかの点が具体的になっている1。

論点 現行の指針
手術の位置づけ と治療でが整わないときに行う。をやめることだけを目的とした手術はほとんどされない
小角度の偏位 症状のある後天性の偏位を除き、遠見・とも12未満は通常手術の対象にしない
の時期 2歳前に正位から10以内に整えるとを得やすい。ただし高度なを得ることはまれ
高AC/A比の 両で AC/A比が下がり、の必要が減る
の手術 恒常性またはほぼ恒常性への進行、の低下、社会生活への悪影響があるとき、また頻度や角度が本人・家族にとって許容できない、などので症状が取れない場合に考える。片眼の術と術はどちらも有効。良好にコントロールされた幼児は、悪化が少ないので手術せずに経過を見られる
不全 の症状は訓練で改善することが多い(20以下の外偏位がよい対象)

手術

手術は、の作用を弱めるか強めるかでを動かす。

目的 手技 内容
弱める 後転術 筋の付着部を後方(起始の側)へ移して縫い付け直す。筋がたるみ、その方向へ眼を引く力が弱まる
弱める 延長術、術、筋の一部を切って緩める手技 筋や腱を長くする、または切る
強める 短縮術 筋をいったん外し、付着部側の端から一部を切除して元の付着部へ縫い付け直す。筋が短く張り、引く力が強まる
強める・向きを変える 移動術、筋固定術 筋の付着部を別の場所へ移す、筋をに固定する

(筋を横に切る手技)を強める手技の側に挙げる整理もあるが、一般には筋の作用を弱める手技として扱われる。強める手技の代表は短縮術と、筋を折りたたんで縫い縮める手技である。

💡 ならを後転し(寄せる力を弱める)、を短縮する(外へ引く力を強める)。ならその逆である。

手術の実例は次のとおりである。

症例 術前 手術 術後
をかけた幼児 をかけても片眼が内側へ寄る 両眼の 1か月後、をかけた状態で両眼がまっすぐ
をかけた成人 片眼が外側へ向く 両眼の後転 翌日、の充血を伴うが両眼がまっすぐ

⭐ 手術はを整えるもので、を治すものではない。のやの治療は手術後も続ける。

ボツリヌス毒素

をに注射すると、を遮断して筋を一時的に麻痺させる。米国眼科学会の診療指針は、で選ばれた患者では手術の代わりになりうるが、での価値は確立していないとしている1。

項目 内容
良い適応の条件 両眼の視力が良い、眼球運動の制限が無い、小〜中等度の、の見込みがある
欠点 注射を繰り返す必要が多い。が整うまでに時間がかかり、視覚が急速に発達する乳児では不利になりうる
危険 、上下の偏位、、
推奨を出すだけの根拠が無い。成人の水平の比較試験では、成功率が29%、手術77%であった

非共同性斜視

は、ほとんどが眼球運動の制限(機械的な制限、またはの麻痺)で起こる。急性のの診断との判断はとその異常にまとめる。

特徴 理由
で完全には矯正できない 視線の方向によって必要なの度数が違う
第2偏位が第1偏位より大きい Hering の法則により、麻痺眼ですると麻痺筋へ送られる強い神経刺激がの共同筋にも同じ強さで届き、が大きくずれる
代償性頭位をとる 偏位が最も小さい方向へ眼を置くように頭を回す・傾け、両眼単一視を保ち、や痛みの出る方向を避ける

急に発症した成人ではを訴える。小児のでは抑制が働くのでを訴えにくいのと対照的である。

項目 動眼神経麻痺
眼の向き 下外方へ向く 上方、やや内方へ向く 内側へ寄る
主な徴候 、、して反応しない瞳孔、・・内転の制限 、病変と反対側への頭部傾斜、内転位の下方視の制限(左眼の麻痺なら右下方視)、陽性(頭を患側へ傾けるとが悪化) 、患眼の外転制限、顔を回す頭位
原因 虚血・血管性(糖尿病・高血圧。最も多い)、(・腫瘍。緊急)、外傷(を伴う)、先天性 外傷(最も細く、頭蓋内の走行が最も長い神経なので傷つきやすい)、、虚血・血管性、先天性 頭蓋内圧亢進、血管性・虚血性、頭蓋内へ進展する腫瘍、外傷

動眼神経麻痺では上眼瞼が眼を覆い、指で持ち上げると眼が下外方へ向いている(とだけが働き続けるため)。では、でがあり、顔を回して眼を反対側へ置くとが消える。

⚠️ 瞳孔のを伴う動眼神経麻痺は、による圧迫を否定するまで緊急である(、と)。では頭蓋内圧亢進の徴候(頭痛・嘔吐・)を確かめる()。小児の首の傾きでは、眼性としてを考える。

3つの神経麻痺の原因は、血管障害(虚血)と腫瘍が共通し、では動脈瘤、では先天性と外傷、では頭蓋内圧が特有の原因として加わる。必要に応じて頭部 MRI などの画像検査を行う。の全体像は、神経内科からの整理は眼球運動・の障害を参照する。

まとめ

  • は、眼が目標を見ているときにもう片眼が別の方向を向く状態で、向き(内・外・上・下)、片眼性かか、・・間欠性、かかで分類する。
  • 小児の診察では、視力・下の屈折・眼球運動・・・を確かめる。はの初発所見のことがある。
  • にはを中心とするを使う。子どものはなしでは少なく見積もられる。
  • は、は、残りは。は同時視・・の3段階で、Worth 4灯試験・Lang・Titmus検査で調べる(詳細はの回)。
  • は(6か月まで、手術)、(1〜4歳、の。高AC/A比なら二重焦点)、部分、非、に分ける。の典型は(3歳前、疲れで化、明るい所で片眼を閉じる)。
  • 偽はや広い・κ角による見かけので、は左右対称である。
  • 検査は (約4 mm を仮定して1 mm≈約7°≈14、≈約15°、輪部≈約45°)、(との区別)、(遠見とで全体の偏位)、Krimsky法。
  • の治療は→遮閉(顔に貼る)→手術(後転で弱め、短縮で強める)→。手術してもは必要。は選ばれたの選択肢だがでの価値は確立していない。
  • では第2偏位が第1偏位より大きく(Hering の法則)、代償性頭位をとる。動眼神経麻痺は下外方への偏位と・(なら動脈瘤を疑う)、はと反対側への頭部傾斜・Bielschowsky試験陽性、はと外転制限で頭蓋内圧亢進を探す。必要に応じて頭部 MRI を撮る。

出典

  1. 1.Esotropia and Exotropia Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)PMC全文(PMC10655158、2022年版PPP)で、斜視の有病率が集団により0.8〜6.8%であること、内斜視を乳児内斜視・調節性(AC/A比正常・高AC/A比)・部分調節性・非調節性・感覚性などに分けること、乳児内斜視が生後6か月までに発症し自然には治らず角度が大きく交差固視を伴い、遮閉試験またはHirschberg法で確かめプリズム交代遮閉試験またはKrimsky法で測ること、調節性内斜視は多くが遠視を伴い典型的には1〜4歳(平均約2歳)に発症し、病気・発熱・軽い外傷がきっかけになりうること、遠視を矯正すると遠見は正位になるが近見に内斜視が残るものを高AC/A比とし、遠視の完全矯正下で近見の内偏位が遠見より10プリズムジオプトリー以上大きいものを高AC/A比(輻湊過多)としていること、非調節性内斜視で急性発症し他の神経症状があれば速やかに評価し神経画像を考えること、偽内斜視は顔貌または負のκ角による見かけの斜視であること、内斜視の最初の治療は有意な屈折異常の矯正で、新たに発症した内斜視では+1.00 D以上の遠視に眼鏡を処方し、多くは調節麻痺下屈折の全量を処方すること、完全矯正下で遠見は正位だが近見に内斜視が残る例に二重焦点眼鏡を使い、二重焦点は瞳孔を二分する高さに合わせ+2.50〜+3.00 Dで始めうること、手術は眼鏡と弱視治療で眼位が整わないときに行い、眼鏡をやめることだけを目的とした手術はほとんど正当化されず、12プリズムジオプトリー未満の小角度は通常手術の対象にしないこと、乳児内斜視で2歳前に正位から10プリズムジオプトリー以内に整えると両眼視を得やすいこと、高AC/A比の例では両内直筋後転でAC/A比が下がること、ボツリヌス毒素注射は選ばれた例で手術の代わりになりうるが乳児内斜視での価値は確立しておらず、反復注射が多く要り、眼瞼下垂・上下偏位・眼球穿孔・緊張性瞳孔の危険があること、外斜視へのボツリヌス毒素は推奨を出す根拠が不十分なこと、間欠性外斜視は通常3歳前に現れ疲労・不注意・病気で顕性化し、明るい光で片眼を閉じ、抑制のため複視を訴えないことが多いこと、観察研究で3年間の悪化が12〜35か月児の28%・3〜10歳児の15%であったこと、間欠性外斜視では近視などの有意な屈折異常を矯正し、軽度〜中等度の遠視の矯正は勧めないこと、1日2〜6時間の部分遮閉が融像のコントロールを改善しうること、輻湊不全に輻湊訓練が有効であること、外斜視の手術は恒常性・頻度や角度が許容できない・非手術治療で症状が取れない場合に考え、間欠性外斜視の手術適応に恒常性またはほぼ恒常性への進行・立体視の低下・社会的な悪影響を挙げ、融像のコントロールが良い幼児は悪化が少ないため手術せずに経過を見られること、片眼の後転短縮と両外直筋後転がどちらも有効であることを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.AAPOS uniform guidelines for instrument-based pediatric vision screen validation 2021(Journal of AAPOS・2022)Europe PMCの抄録(PMID 35066152)で、2003年・2013年の基準を2021年に改訂したこと、改訂の理由が弱視を起こさない左右対称の乱視の過剰紹介であったこと、2021年の基準が不同視1.25 D超・遠視4.0 D超、48か月未満では乱視3.0 D超・近視−3 Dより強いもの、48か月以降では乱視1.75 D超・近視−2 Dより強いもの、あらゆる年齢で1 mmを超える中間透光体の混濁と8プリズムジオプトリーを超える顕性斜視であること、2013年より対称性乱視の閾値を上げ不同視の閾値を下げたことを確認した(抄録のみを閲覧)。閲覧 2026-09-29