眼科学

眼科学 · ML-61A

弱視:原因と治療

Amblyopia: causes and treatment

前提:正常
視覚の生理学。

🧠 全体像:は「眼そのものに見合う病気が無い(または病気の程度に見合わない)のに、最良の矯正をしても視力が出ない」状態で、原因は眼ではなく視覚の発達期に脳へ届いた像の質にある。・・両眼の強い・やによる遮断が、(感受性期)のの発達をゆがめる。子どもは何も訴えず、片眼なら親も気づかないので、見つける手段はスクリーニングしかない。治療は「原因を取り除く→屈折を完全に矯正する→良い方の眼を遮閉かで不利にする」の順で、早いほど効き、遅れれば一生のになる。

弱視とは

の語源はギリシャ語で「鈍い視覚」を意味する。定義の要点は次の4つである。

要点 内容
視力 片眼(まれに両眼)ので、最良のをしても残る
起こる人 多くは、乳幼児期に異常な視覚体験をした子ども
な原因 見つからない、または見つかってもの程度と釣り合わない
本態 眼ではなく脳()の発達の障害

米国眼科学会の診療指針も、を、多くは構造的に正常な眼に起こる、視覚像の処理の異常による中枢神経系の発達障害と位置づけている1。

同じ指針は診断の目安を次のように示す。いずれもを起こす要因(・・遮断など)が存在することが前提である1。

型 所見 目安
片眼性 片眼を覆われたときの反応 片方の眼を覆われたときだけ嫌がる
片眼性 の好み を始められない・保てない、または片眼を強く好む
片眼性 選択視(縞視標を見る反応で測る乳児の視力) 左右差が2オクターブ以上
片眼性 左右差が2段以上で、良い方の眼は正常範囲
両眼性 3歳以上4歳未満で両眼とも20/50より悪い、4歳以上5歳未満で20/40より悪い、5歳以上で20/30より悪い

⚠️ 屈折を矯正した途端に視力が正常になるなら、それは単なるでありではない1。

なぜ重要か

問題 内容
の人はが悪い
失明の危険 良い方の眼をけがすると、、ときには法的な失明に至る
眼の保護 けがの多くは、よく見えてよく使われている方の眼に起こる。だから良い方の眼を守ることが大切

💡 の人にとって、良い方の眼は「予備の無い唯一の眼」である。視力の良い眼のけがで一生のになりうるので、スポーツ用のなどでを守るよう指導する。

疫学と遺伝

は人口の2〜5%に見られると推定されてきた。乳幼児期にスクリーニングを行うスウェーデンでは、0.3%未満にまで減ったと報告されている。米国眼科学会の診療指針では、生後30〜71か月の集団研究で0.7〜2.6%、年長の学童の研究では1.0〜5.5%とされ、年齢・人種・研究の方法・の定義で幅がある1。

項目 内容
遺伝形式 単一遺伝子の病気ではない
遺伝するもの なりやすさ(たとえばになりやすい体質)
家族内の集積 典型的に見られる。必ず家族歴を聞く
その他の危険因子 早産、在胎週数に比べて小さく生まれたこと、発達遅滞、のの家族歴1

片眼性のの19〜50%に、46〜79%にが伴う1。

弱視の種類

種類 原因 仕組みの要点
片眼がずれた状態が続く ずれた眼の像が抑制される
左右のの差 度の強い方の眼の像がいつもぼけ、良い方の眼との競合に負ける
(両眼) 両眼の強いが矯正されずにいる 両眼ともぼけた像しか届かない
、など、光の通り道がふさがれる 像そのものが網膜に届かない

斜視弱視

に使われる眼の視力は正常だが、ずれた眼(眼)にが起こる。典型的には、乳児の片眼が内側に寄って見え、両眼の位置が非対称である。米国眼科学会の診療指針は、恒常性で交代しない、または交代の偏った(多くは)がを起こすとしている1。

仕組みはと抑制である。

  • 眼は目標をでとらえるが、ずれた眼では同じ目標の像がの外に落ち、別の物の像がに落ちる。
  • その結果、同じ物が2つに見え()、別々の物が同じ場所に重なって見える(混乱視)。たとえば丸を見ているとき、ずれた眼のには三角が映り、丸と三角が重なり、さらに少し離れた所にもう1つの丸が見える。
  • 成人が急にになると、人の顔の眼が4つに見える、腕時計が二重にずれて見えるといったに苦しむ。
  • 発達期の子どもの脳は、この不快な像を消すために、ずれた眼からの入力を抑制する。抑制が続くと、その眼の視覚が発達せずになる。
flowchart TD
    A["片眼がずれる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span>)"] --> B["ずれた眼の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>に<br>別の物の像が落ちる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>と混乱視"]
    C --> D{"視覚の発達の<br>どの時期か"}
    D -->|"発達期の子ども"| E["脳がずれた眼の入力を<br>抑制する"]
    E --> F["抑制が続き<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Strabismus'>斜視</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>"]
    D -->|"発達を終えた成人"| G["抑制できず<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='awareness (subjective)'>自覚</span>する"]

💡 片眼性で交代しないほどになりやすい。左右の眼をに使うでは、どちらの眼も使われるのでになりにくい。の分類と治療はで扱う。

不同視弱視

左右の屈折が違うと、度の強い方の眼の像がいつもぼける。ぼけそのものの影響に加え、に似た両眼の競合(抑制)が働いてになる1。を伴わないことも多く、両眼がまっすぐで外見上何も分からないので、見つかるのが遅れやすい。の程度が大きいほどの危険と程度が増す。

両眼の屈折異常による弱視

両眼の強い(強い・など)が矯正されないままだと、両眼ともぼけた像しか届かず、両眼のになる。両眼とも同じように見えにくいので、子どもはそれが普通だと思っている。

形態覚遮断弱視

原因 要点
両眼に起こりうる。瞳孔の奥に、放射状・輪状に広がる白いや、中央の小さな白いを認める。濃い中央のほどになりやすい
上眼瞼が瞳孔を覆って光を遮る。まぶたが角膜を押しても起こす

そのほか、角膜の、眼内の炎症、も遮断の原因になる1。

⚠️ は最も少ないが、最も重く治しにくい。片眼の遮断は、同じ程度の両眼の遮断より重いを残す(両眼の競合が加わるため)。生後3か月までにある濃いを治療しないと、多くは20/200以下の永続的なを残す。片眼の視力を脅かすの新生児は、生後2か月までにを摘出して光学的な矯正を始めると予後が良い1。

💡 新生児のの検査は、を見つけてを防ぐためにある。の手術はの病気と、は眼瞼の病気で扱う。

病態生理:臨界期

の本質は、(感受性期)に適切な視覚刺激が脳に届かないことである。これを実験で示したのが Hubel と Wiesel である。

段階 実験と発見
出発点 で生まれた赤ちゃんは、あとでを手術で取り除いても視力が完全にはならないことが、すでに知られていた
1960年代半ば 個体の発達に伴うの変化を調べた。生まれたばかりの子猫の片眼を長く閉じておくと、成長したときにその眼の視力が落ち、にも構造の変化が見られた
年齢による違い 生後数か月の猫で同じことをするとは軽く、成獣では同じ効果は起こらなかった
が正常に発達するには、生後に適切な刺激が脳へ届くことが絶対に必要である
サルでの実験 ヒトにずっと近いサルでは、は生後4〜6週で、その後の数か月は影響が小さく、1歳のサルの視力はもはやこの方法では変わらなかった
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='critical period'>臨界期</span>に片眼の像が<br>ぼける・ずれる・遮られる"] --> B["その眼から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual cortex'>視覚野</span>へ届く<br>信号が弱い・乱れる"]
    B --> C["良い方の眼の信号が<br>奪い合いに勝って<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual cortex'>視覚野</span>の神経を占める"]
    C --> D["弱い方の眼とつながる<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual cortex'>視覚野</span>の神経回路が育たない"]
    D --> E["眼は正常でも視力が出ない<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>)"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='critical period'>臨界期</span>のうちに<br>原因を除き良い眼を不利にしたか"}
    F -->|"した"| G["回路が作り直され<br>視力が回復しうる"]
    F -->|"しなかった"| H["生涯の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>"]

💡 サルのが生後数週なのに対し、ヒトの視覚の発達期ははるかに長く、治療で改善する時期も幼児期を越えて続く。米国眼科学会の診療指針は、治療は低年齢ほど効きやすいが、年長児や思春期でも(特に治療歴が無ければ)改善しうるとしている1。一方で、生後早期の濃いは数か月の遅れでも取り返しがつかない。「発達期のどの時期の、どの原因か」で時間の猶予が違う。との発達はとその異常でも扱う。

症状と気づかれ方

問い 答え
子どもは何を訴えるか 何も訴えない。生まれてからずっとその見え方なので、見えにくいことを知らない
親は何に気づくか 片眼だけなら何も気づかない。もう片方の眼が正常に働いているからである
気づかれるきっかけ のずれ()、、瞳孔が白く見える()など、外から見える原因があるときだけ

⭐ 症状が無いこと、片眼性なら親も気づかないことが、にスクリーニングが欠かせない理由である。

診断

正確な屈折検査

の診断と治療は、正確な屈折の値から始まる。

項目 内容
方法 な方法。下の
理由 子どもは調節し、ときに過剰に調節するので、そのまま測るとを少なく見積もる
使う薬 などの(詳しくは)

では、光の帯を瞳孔の上で動かし、網膜からの反射の動きを見る。

反射の見え方 意味
瞳孔の中に光の帯が映る 観察の出発点
光の帯と同じ向きに反射が動く(同行) を足して中和へ近づける
光の帯と逆向きに反射が動く(逆行) を足して中和へ近づける
瞳孔全体が一様に光り、動きが見えない(中和) そのレンズの度数から屈折を決める

視力と器質的な原因の確認

  • 年齢に合った視標で片眼ずつ視力を測る(小児の視標はの回にまとめる)。
  • (の有無)、、、と下ので、遮断の原因やな病気を除外する。
  • 片眼を覆うと強く嫌がる、片眼で見続けられないといったの好みも、乳児のの手がかりになる。

治療

治療の段階

段階 内容
1. のうちに見つける
2. 障害物の除去 では、の手術やの手術で光の通り道を開ける
3. の矯正 ・コンタクトレンズで網膜にはっきりした像を届ける
4. 良い方の眼にを貼る
5. 良い方の眼をまたは光学的な方法(度数を変えた)でぼかす
6. 視能訓練(プレオプティクス) 能動的な刺激で、での中心視を取り戻す訓練
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amblyopia'>弱視</span>の診断<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cycloplegia'>調節麻痺</span>下屈折・器質的疾患の除外"] --> B{"光の通り道を<br>ふさぐ病変があるか"}
    B -->|"ある"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ptosis'>眼瞼下垂</span>などを<br>手術で除く"]
    B -->|"ない"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractive error'>屈折異常</span>を完全に矯正<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>を続けて経過を見る"]
    C --> D
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>だけで<br>視力が十分に上がったか"}
    E -->|"上がった"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>を続けて<br>再発を監視"]
    E -->|"上がらない"| G["遮閉または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='atropine'>アトロピン</span>点眼を加える"]
    G --> H{"改善したか"}
    H -->|"改善した"| I["視力が安定したら<br>治療を減らしてやめる"]
    H -->|"改善しない"| J["守れているかと<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic (structural, as opposed to functional)'>器質的</span>な病気を見直す"]

米国眼科学会の診療指針では、が0〜17歳の治療の最初の段階であり、未治療のの3〜7歳児の少なくとも3分の2が、18週のだけで2段以上改善する。7〜17歳でも約4分の1がだけで2段以上改善する1。

高度の不同視の治療

方法 要点
成人では左右差の大きいは像の大きさの差で慣れにくいが、小児では5〜6 D の左右差でも受け入れられることが多い
コンタクトレンズ 像の大きさの左右差が小さい
角膜またはの やコンタクトレンズを使えない一部の子どもの選択肢。小児への角膜は米国ではで、を使えないの子どもで安全に行えたとの報告がある1
そして遮閉 矯正だけでなく、遮閉を組み合わせる

の詳細は角膜ので扱う。

遮閉療法

良い方の眼を覆い、眼を使わせる。乳児では、の周りの皮膚に大きなを貼る。

⚠️ は皮膚に直接貼り、はその上からかける。のフレームに付ける布の遮閉具も有効なことはあるが、子どもが周りからのぞけるので勧められにくい1。

小児眼疾患研究グループ PEDIG の無作為化試験は、遮閉時間についての従来の常識を変えた。

対象 比べた方法 結果
重度の(20/100〜20/400)、3歳以上7歳未満の175人 1日6時間の遮閉と、終日の遮閉(起きている間ずっと、または1時間を除く全時間) 4か月後の改善は6時間群4.8段、終日群4.7段で同等2
中等度の(20/40〜20/80)、3歳以上7歳未満 1日2時間の遮閉と、1日6時間の遮閉 同等の改善1

重度のの試験では、どちらの群も遮閉中に1日1時間以上の作業(絵本・お絵かきなど)を組み合わせている2。中等度のの試験(3歳以上7歳未満の189人)も同じく1日1時間の作業を併用し、4か月後の改善は両群とも平均2.40段であった1。

💡 したがって、重度のでは1日6時間、中等度のでは1日2時間の遮閉が基本になる。遮閉時間を短くできれば、子どもと家族の負担が減って続けやすくなる。最も多い副作用はによる皮膚のかぶれで、軽いものは治療を受けた子どもの41%に見られる。の種類を変える、貼っていない時間にを塗るといった工夫で減らせる1。

ペナリゼーション:アトロピン点眼

良い方の眼に1%を点眼して調節を麻痺させ、特に近くを見るときにその眼をぼかし、眼を使わせる。

項目 米国眼科学会の診療指針による要点
効果 3〜15歳の軽度〜中等度のに有効で、遮閉と同等1
効きやすい条件 良い方の眼がのとき(が残っていると遠見もぼける)1
用法 連日点眼も、週に連続2日の点眼も、中等度ので4か月の成績が同等1
位置づけ 中等度のでは、のあとの初期治療として週2回の点眼を遮閉と並ぶ選択肢とする1
注意 良い方の眼の一過性のや、まれにが起こるので、両眼の視力を監視する1

💡 の利点は、子どもがをはがしてしまう問題が無いことである。一方で、良い方の眼のが少ないと遠くは見えてしまい、効果が弱くなる。点眼薬の薬理は眼科ので扱う。

光学的なでは、良い方の眼のの度数を変えてぼかす。

遮閉との使い分けは次のように整理できる。

観点 遮閉 点眼
仕組み 良い方の眼を物理的に覆う 良い方の眼の調節を麻痺させ、主にをぼかす
効果 中等度は1日2時間、重度は1日6時間が基本 軽度〜中等度で遮閉と同等
続けやすさ をはがす、嫌がる、皮膚がかぶれる はがす問題が無い。週2日の点眼でもよい
向かない場合 貼るのを強く拒む子ども 良い方の眼のが少なく、遠見がぼけない子ども
注意 遮閉による良い方の眼の まぶしさ、良い方の眼の一過性の・

新しい方法

方法 内容 現状
シャッター 良い方の眼の前のレンズが電子的に透明と不透明をに切り替え、その眼を断続的に遮る 小規模な無作為化試験で、1日4時間の装用が1日2時間の遮閉と同程度であった1
を育てる治療 左右の眼に別々の像を見せるゲーム。ブロックを落とすゲームでは、落ちてくるブロックを眼だけに、積み上がったブロックを良い方の眼だけに見せ、両眼の情報を合わせないと遊べないようにする。3D のゲームもある 根拠はまだ限られる(下記)

PEDIG の遮閉時間の試験が示したのは「片眼の視力をどう上げるか」だが、の治療では片眼の視力だけでなくも考える必要がある。この発想から生まれたのがを育てる治療である。

⚠️ を育てる治療は、のある子どもには効きにくい。両眼の像を1つにまとめられることが前提だからである。米国眼科学会の診療指針も、この治療の対象をが無いか小角度でのある子どもとしている1。

PEDIG の試験では、5歳以上13歳未満のの子ども385人で、のゲーム1日1時間は1日2時間の遮閉に対するを示せなかった。16週の改善は1.05段対1.35段で、ではこのゲームの改善は遮閉に及ばないと示唆された3。処方どおりにゲームを行った子どもは少なく、75%超を実行したのは22%にとどまった3。米国眼科学会の診療指針は、初期の方式の試験では遮閉との同等性やに対する優越が示されなかったこと、その後の仮想現実ヘッドセットの試験では12週の改善が1.8段対0.8段(のみ)と上回ったことを挙げつつ、推奨するには根拠がまだ限られるとしている1。

視能訓練(プレオプティクス)

で見る力(中心視)を、能動的な刺激で取り戻そうとする訓練である。歴史的な方法で、米国眼科学会の診療指針が挙げる治療の一覧(、遮閉、、光学的な方法、Bangerter 、のデジタル治療、手術)には含まれていない1。

治療がうまくいかないとき

確かめること 内容
守れているか を貼っているか、をかけているか、点眼しているか
な病気は無いか 視神経や網膜の病気を見落としていないか、診断を見直す
良い方の眼の保護 をかける。けがの危険の高いスポーツを避ける

米国眼科学会の診療指針は、治療への反応に応じた調整を次のように整理している(経験に基づく合意)1。

経過 対応
3か月たっても視力が上がらない 遮閉やを続けるか強める、または別の治療を考える
遮閉で強い皮膚のかぶれが出た 別の治療に切り替える
十分な遮閉をしても視力が上がらない 別の治療を考えるか、減らしてやめる
などのな病気のために効かない 減らしてやめる
やが出てきた いったん中止し、と視力を見守る
良い方の眼の視力が2段以上下がった いったん中止して診断を見直し、経過を見る。なら、もとの眼の遮閉を考える
数か月にわたり、2回以上の受診で視力が正常近くに安定した 減らしてやめる

💡 1日2時間の遮閉で改善が止まったら、6時間へ増やすとさらに改善が得られる。つまり「効かないからやめる」の前に、まず量を上げるか方法を変える1。

治療が成功しても、約4分の1は中止後1年以内に再発する1。8歳未満で1日6時間以上の遮閉をしていた子どもは、急にやめるより1日2時間に減らしてから中止する方が再発しにくい1。は視覚が成熟する10代前半まで続ける1。

スクリーニング

⭐ は症状が無く、早いほど治るので、スクリーニングで見つける。米国眼科学会の診療指針は、すべての子どもに定期的なを行うべきとしている1。

方法 内容
視力検査 年齢に合った視標で片眼ずつ測る
の検査 の検査など
危険因子のスクリーニング 両眼同時の自動屈折計(フォトスクリーナー)で・・を見つける。視力検査に協力できない幼い子どもにも使える

機器によるスクリーニングで見つけるべきの危険因子は、米国小児眼科学会の2021年の基準では次のとおりである4。

危険因子 48か月未満 48か月以降
1.25 D 超 1.25 D 超
4.0 D 超 4.0 D 超
3.0 D 超 1.75 D 超
−3 D より強い −2 D より強い
の 1 mm 超 1 mm 超
8超 8超

これは機器の性能を確かめる研究で、精密検査で「異常」とみなす基準として定められた値である。2013年の基準に比べ、を起こさない左右対称のの過剰紹介を減らすための閾値を上げ、を起こすの閾値を下げた。48か月以降のとの値が低いのは、の危険は低くても学業に影響し、を考える対象になりうるからである4。2013年の年齢別の値はに載せる。

スクリーニングの落とし穴

⚠️ スクリーニングは偽りの安心感を与えうる。流れ作業のように大勢を短時間で通す検査でが見逃されると、「検査で異常なし」と言われた親は安心してしまい、受診の機会が失われる。見逃しの典型的な原因は、片眼をきちんと覆えていないこと、子どもが指の間からのぞいていることである(望ましい測り方は下記)。

望ましいスクリーニングでは、片眼ずつ確実に遮閉して測る。

  • 幼い子どもには、の周りの皮膚にを貼ってから視力を測る。
  • 年長児や成人には、手で持つ遮閉具を顔に密着させ、反対の眼だけで視標を見てもらう。手のひらや指で覆うと、すき間からのぞけてしまう。

臨床の教訓

教訓 理由
子どもでは常にの可能性を考える 症状が無く、片眼なら誰も気づかない
しかし、成人のをすぐにで説明しない 成人で初めて見つかったには、視神経や網膜の病気が隠れていることがある
と視野の検査が鑑別に役立つ では通常、や視野の欠損のような視神経・網膜の病気の所見は目立たない。これらがあればな病気を探す(と)
きちんと治せるのは幼児期だけ を過ぎると回復が難しい
適切なスクリーニングが重要 早く見つけることが唯一の

⚠️ 「子どもの頃から片眼がだった」という本人の話だけで、成人のの原因を決めてはならない。

まとめ

  • は、最良の矯正をしても残る片眼(まれに両眼)ので、な原因が無いか、あっても程度と釣り合わない。本態は視覚の発達期の脳の障害である。
  • が悪く、良い方の眼のけがでに陥るので、の保護が大切。
  • は2〜5%とされ、乳幼児期のスクリーニングで0.3%未満(スウェーデン)まで減らせる。単一遺伝子の病気ではないが家族内集積があり、家族歴を必ず聞く。
  • 種類は(抑制)、、両眼のによる、(・。最も重い)。片眼の視力を脅かすは生後2か月までに手術と光学的矯正を。
  • Hubel と Wiesel の実験がを示した。子猫・サルの片眼を閉じるとが変わり、成獣では起こらない。サルのは生後4〜6週。ヒトでは年長児でも治療で改善しうるが、早いほど効く。
  • 子どもは訴えず、片眼なら親も気づかない。診断は下のによる正確な屈折から。
  • 治療は、遮断の除去→(だけで3分の2以上が改善するもある)→遮閉(は皮膚に直接。重度は1日6時間で終日と同等、中等度は1日2時間で6時間と同等)または1%(遮閉と同等、週2日でも可、に注意)。
  • を育てるゲームはに効きにくく、1日2時間の遮閉に対するを示せなかった。根拠はまだ限られる。
  • 約4分の1が中止後1年以内に再発する。治らないときは守れているかとな病気を見直す。
  • スクリーニングは視力・・機器による危険因子の検出で行うが、偽りの安心感を生まないよう片眼を確実に遮閉して測る。成人のをすぐにで説明せず、と視野で鑑別する。

出典

  1. 1.Amblyopia Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)PMC全文(2022年版PPP)で、弱視を多くは構造的に正常な眼に起こる中枢神経系の発達障害による最良矯正視力の低下と定義すること、生後30〜71か月の集団研究の有病率が0.7〜2.6%・学童では1.0〜5.5%であること、片眼性弱視の19〜50%に斜視・46〜79%に屈折異常が伴うこと、弱視の危険因子に早産・在胎不当過小・発達遅滞・一親等の弱視の家族歴があること、未治療のままでは生涯の視力低下になりほぼ例外が無いこと、すべての子どもに定期的な視力スクリーニングを行うべきとしていること、治療は低年齢ほど効きやすいが年長児でも改善しうること、診断基準(表1)として片眼性では片眼の遮閉を左右非対称に嫌がること・固視を始められない/保てないか片眼を強く好むこと・選択視で2オクターブ以上の左右差・最良矯正視力の左右差2段以上(良い方の眼は正常範囲)、両眼性では3歳以上4歳未満で両眼とも20/50より悪い・4歳以上5歳未満で20/40より悪い・5歳以上で20/30より悪いことを挙げ、弱視を起こす要因の存在を必要とすること、形態覚遮断弱視は最も少ないが最も重く、片眼性の遮断は両眼性より重いこと、生後3か月までの有意な混濁を治療しないと20/200以下の永続的な低下を残すこと、片眼の視力を脅かす白内障の新生児は生後2か月までに摘出と光学的矯正を行うと予後が良いこと、斜視弱視が恒常性で交代しない(多くは内斜視)斜視で起こること、屈折矯正が0〜17歳の弱視治療の最初の段階であり、未治療の不同視弱視の3〜7歳児の少なくとも3分の2が18週の眼鏡装用で2段以上改善すること、7〜17歳でも約4分の1が眼鏡だけで2段以上改善すること、遮閉は健眼の周りの皮膚に不透明な粘着パッチを直接貼るのが最善で、粘着による軽い皮膚刺激が治療を受けた子どもの41%に起こりパッチの変更や保湿剤で減らせること、眼鏡に付ける布の遮閉具は有効なこともあるが周りからのぞけるので勧められにくいこと、中等度弱視(20/40〜20/80)では1日2時間の遮閉が1日6時間と同等の改善を示し(3歳以上7歳未満の189人の試験で4か月の改善が両群とも2.40段)、屈折矯正後の初期治療として1日2時間の遮閉か週2回のアトロピン1%を考えること、アトロピン1%が3〜15歳の軽度〜中等度弱視に有効で遮閉と同等であり健眼が遠視のとき最もよく効くこと、週に連続2日の投与が4か月で連日投与と同等であったこと、健眼の一過性の視力低下や逆転弱視が起こりうるので両眼の視力の監視が必須であること、両眼視(両眼分離)のデジタル治療の対象が斜視が無いか小角度で両眼視のある子どもであり、落ちてくるブロックのゲームを赤緑眼鏡で見せる初期の方式では3つの無作為化試験で1日1時間のゲームが1日2時間の遮閉と同等であることもプラセボのゲームより優れることも示せなかったこと、その後の仮想現実ヘッドセットの試験で12週の改善が1.8段対0.8段であったことなどを挙げつつ推奨するには根拠が限られるとしていること、治療成功後の約4分の1が中止後1年以内に再発し、8歳未満で1日6時間以上の遮閉をしていた子どもは急にやめるより2時間に減らしてから中止する方が再発しにくいこと、視覚の成熟(通常10代前半)まで屈折矯正を続けること、治療への反応に応じた調整の表(3か月改善しなければ継続・増量・変更、強い皮膚刺激なら変更、器質的な病気で効かなければ漸減・中止、斜視や複視の出現で一時中止、健眼の視力が2段以上低下したら一時中止と診断の見直し・逆転弱視なら元の弱視眼の遮閉、正常近くで安定したら漸減・中止)と、1日2時間の遮閉で改善が止まったとき6時間へ増やすとさらに改善すること、健眼の前で透明と不透明を交互に切り替える眼鏡の小規模な無作為化試験で1日4時間の装用が1日2時間の遮閉と同程度であったこと、治療の一覧に屈折矯正・遮閉・アトロピン・光学的治療・Bangerterフィルター・両眼視のデジタル治療・手術(遮断の原因の除去)・屈折矯正手術を挙げ、小児への角膜屈折矯正手術が米国では適応外使用で屈折矯正を守れない不同視弱視の子どもに安全に行えたと報告されていることを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.A randomized trial of prescribed patching regimens for treatment of severe amblyopia in children(Ophthalmology(Pediatric Eye Disease Investigator Group)・2003)Europe PMCの抄録(PMID 14597512)で、7歳未満で視力20/100〜20/400の重度弱視の子ども175人を、終日遮閉(起きている間ずっと、または1時間を除く全時間)と1日6時間の遮閉に無作為に割り付け、いずれも遮閉中に1日1時間以上の近見作業を組み合わせたこと、4か月後の弱視眼の改善が6時間群4.8段・終日群4.7段で差が無く、1日6時間の遮閉は3歳以上7歳未満の重度弱視で終日遮閉と同程度の改善をもたらすと結論したことを確認した(抄録のみを閲覧)。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Effect of a Binocular iPad Game vs Part-time Patching in Children Aged 5 to 12 Years With Amblyopia: A Randomized Clinical Trial(JAMA Ophthalmology(Pediatric Eye Disease Investigator Group)・2016)Europe PMCの抄録(PMID 27812703)で、斜視・不同視またはその両方による弱視(20/40〜20/200)の5歳以上13歳未満の385人を、1日1時間の両眼視iPadゲーム16週と1日2時間の健眼遮閉に割り付けた非劣性試験であること、16週の弱視眼の改善が両眼視ゲーム群1.05段・遮閉群1.35段で、差0.31段(片側95%信頼区間の上限0.53段)が事前に定めた非劣性限界0.5段を超えたこと、両眼視ゲーム群で処方の75%超を実行したのは22.2%(中央値46%)にとどまったこと、治療歴の無い5歳以上7歳未満では改善が両眼視ゲーム群2.5段・遮閉群2.8段であったこと、複視などの有害事象はまれで両群同程度であったこと、事後解析ではこの両眼視ゲームの改善は1日2時間の遮閉に及ばないと示唆されたことを確認した(抄録のみを閲覧)。閲覧 2026-09-29
  4. 4.AAPOS uniform guidelines for instrument-based pediatric vision screen validation 2021(Journal of AAPOS・2022)Europe PMCの抄録(PMID 35066152)で、2003年・2013年の基準を2021年に改訂したこと、改訂の理由が弱視を起こさない左右対称の乱視の過剰紹介であったこと、2021年の基準が不同視1.25 D超・遠視4.0 D超、48か月未満では乱視3.0 D超・近視−3 Dより強いもの、48か月以降では乱視1.75 D超・近視−2 Dより強いもの、あらゆる年齢で1 mmを超える中間透光体の混濁と8プリズムジオプトリーを超える顕性斜視であること、4歳以降の対称性の乱視と近視の目標は弱視の危険が低くても学業や近視進行抑制の検討に関わるため含めたことを確認した(抄録のみを閲覧)。閲覧 2026-09-29