眼科学

眼科学 · ML-34-35

水晶体の疾患と白内障手術

Diseases of the crystalline lens: types of cataract and cataract surgery

前提:正常
眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体頭部:眼窩と眼

🧠 全体像:は、血管も神経もない透明なで、でに吊られ、形を変えて調節する。病気は大きく2つしかない。濁る()か、位置がずれる()かである。の大半は加齢によるが、糖尿病・ステロイド・ぶどう膜炎・外傷・放射線・先天感染などでも起こる。濁ったを薬で透明に戻す方法はなく、視機能が生活の必要を満たさなくなったら手術する。現在の標準は、小さな切開から超音波で核を砕いて吸い出し()、残したの中に折りたたみを入れる手術である。術後に最も多い問題はで、YAGレーザーでに窓を開ければ治る。まれだが失明に至りうるのは・・である。

水晶体の構造

はの後ろ、の前にあるの透明体で、を全周から()でに吊られている。前面より後面の方が強く弯曲する。

層 特徴 臨床との関係
全体を包む弾性のある基底膜。は厚く、は最も薄い 手術ではを円く切り取り(切開)、残った嚢の袋にを入れる。が破れるとの落下やが起こる
の内側だけにある一層の。で分裂し、伸びてになる 術後に残った上皮細胞が増殖・化生するとになる
皮質 で一生作られ続ける新しい線維の層 (の)
核 古い線維が中心へ押し込まれてされた部分。内側から胎生核・胎児核・幼児核・成人核と、できた時期の順に層をなす。胎児核には前がY字、後ろが逆Y字の縫合線がある 核。縫合線に沿ったはの一型

💡 は細胞を捨てずに一生ため込む。新しい線維が外側に足され、古い線維は中心でされるので、年とともには厚く重く硬くなる。硬くなるとが落ち()、中心が黄褐色に濁ると核になる。

⭐ でを光学的に切ると、嚢・皮質・核の層の境界が淡い帯として光る。これは正常な所見で、異常とするのは光の通り道を遮る限局した濁りや色の変化である(と正常所見)。

水晶体の生理

働き 内容
透明性 血管がなく、線維が規則正しく並び、成熟線維は核などのを失っている。可溶性のタンパク()が高濃度で均一に詰まっている
栄養 血管がないので、からブドウ糖などを取り込み、主にな解糖でエネルギーを得る
屈折 眼全体のの一部を担う。取り除くと強い()になる
調節 が収縮するとが緩み、が自らの弾性で丸くなってが増す(調節・・・)
紫外線の吸収 短い波長の光を吸収して網膜を守る

透明性が失われる仕組みは、タンパクの変性・凝集、線維の間への水の出入り、線維の配列の乱れである。組織の透明性の物理は眼組織の透明性と眼科・生体で扱う。

水晶体の発生

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic vesicle'>眼胞</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surface ectoderm'>表面外胚葉</span>に接する"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surface ectoderm'>表面外胚葉</span>が厚くなり<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens placode'>水晶体板</span>ができる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens placode'>水晶体板</span>がくぼみ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens vesicle'>水晶体胞</span>としてちぎれる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens vesicle'>水晶体胞</span>の後壁の細胞が前へ伸び<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary lens fibers'>一次水晶体線維</span>が内腔を埋める<br>=胎生核"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='equator (equatorial zone)'>赤道部</span>の上皮から二次線維が<br>一生作られ続ける<br>=胎児核・成人核・皮質"]

💡 のの位置は、どの時期に作られた線維が傷ついたかを反映する。胎生核だけが濁れば早い時期の障害、ある一層だけが濁る層間はその層ができた時期の一時的な障害(代謝異常・感染など)を示す。発生の詳細は眼:・角膜・・・。

白内障の定義と疫学

は、の光学的な質が落ちて視力に影響する状態である1。多くは加齢に伴い、片眼にも両眼にも起こる。

  • は世界の失明原因の第1位である1(失明の原因とスクリーニング・予防)。
  • 40歳前後から10年ごとに危険が増す1。
  • 年齢・女性・家族歴は変えられない危険因子である1。

白内障の分類

は、原因で分ける方法と、の位置で分ける方法がある。

原因による分類

大分類 含まれるもの
一次性(原発性) 、層間、前極・、、老人性(加齢)(・核)
眼の病気に続く 併発(、、、末期に近い緑内障、長く続いた眼の病気)、緑内障眼の、
全身の病気に伴う 代謝疾患(糖尿病、、、、副腎皮質ステロイド)、皮膚疾患に伴う、放射線(X線・ラジウム)と、毒物・栄養(ビタミンC・Dの欠乏、の過剰)

混濁の位置による分類

最も多い3つの型は核・皮質・下で、下・前極・はそれより少ない1。複数の型が同時にあることも多い。

型 所見 症状の特徴
核 中央が黄色から褐色に濁る(褐色化)、またはに濁る ゆっくり進み、近くより遠くが見えにくい1。屈折が側へずれ、なしで近くが見えるようになることがある
周辺から中心へ向かう車輪のスポーク状のや油滴状の。皮質全体が白く濁ると成熟 まぶしさ()の訴えが多い1
のすぐ内側の皿状の 中央にかかると早くから視力が落ちる。明るい所で見えにくく、で瞳孔が縮むので近くの方が見えにくい。若い人に多く、核・皮質より速く進む1
前極・ 前極またはの限局した白い点状・の 多くは先天性。はが薄く、手術でが破れやすい1
層間 透明な核を、ある一層だけの環状のが囲む で多い型

加齢白内障の進み方

は、が広がるとともに次のように進む。

flowchart TD
    A["初発<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span><br>周辺のスポーク状<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>・視力はほぼ保たれる"] --> B["未熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>が中央へ及び視力が落ちる"]
    B --> C["膨化<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span><br>水を吸って<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>が厚くなる"]
    C --> D["成熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span><br>皮質全体が白く濁り<br>瞳孔が白く見える"]
    D --> E["過熟<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span><br>皮質が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquefaction'>液化</span>して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='milky'>乳白色</span>になり<br>褐色の核が下へ沈む"]
    C --> F["厚くなった<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>を押し<br>隅角が閉じる"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquefaction'>液化</span>した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>タンパクが嚢から漏れ<br>マクロファージが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabecular meshwork'>線維柱帯</span>を詰まらせる"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angle-closure glaucoma'>閉塞隅角緑内障</span>"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>融解性緑内障"]

典型的な所見は次のとおりである。

  • 成熟:全体が青白く濁り、中心から放射状に並ぶスポーク状のが透けて見える。
  • 過熟(Morgagni):の上方はにした皮質、下方には褐色の硬い核が沈み、両者の境界が水平線になる。

💡 成熟・過熟は見えないだけでなく、緑内障を起こすので、放置してよい病気ではない。による炎症や緑内障(融解性・粒子性・、による原発閉塞隅角)は、視力に関係なく手術の適応になる1(緑内障 II)。

白内障の原因と危険因子

原因の覚え方

原因は頭字語で覚えると漏れにくい。

頭字語 文字 原因
DAMAGED D 糖尿病
A
M ・
A 慢性の前部ぶどう膜炎
E
D 薬剤・ジストロフィー
CATARACTA:鑑別の枠組み C 先天性
A 加齢
T 中毒
A 事故(外傷)
R 放射線
A 代謝異常

病気ごとの特徴

原因 の特徴と機序
糖尿病 高血糖で内にがたまり、浸透圧で水を引き込む。若年の重い高血糖では両眼の皮質に雪片状のが急に出ることがある。成人では加齢が早く起こる。皮質・核・下すべての危険因子である1
() での膜が不安定になり、皮質に細かい点状のができる
がたまり、乳児期に油滴状のが出る。早期に乳糖を除けばが戻ることがある
皮質に多色に光る細かい結晶状の(クリスマスツリー様)、のちに下の
副腎皮質ステロイド 。全身投与・点眼・吸入・のいずれでも危険が増す1
皮膚疾患(など) 若年で下の盾状の。顔をたたく・こする癖もとの誘因になる
放射線(X線・ラジウム) 。でも高線量でも危険が増す1
下・下のが数か月後に出る(化学・熱・による)
慢性の前部ぶどう膜炎 炎症そのものと、治療のステロイドの両方でができる。を伴う(ぶどう膜炎の分類と前部ぶどう膜炎)
片眼の軽い慢性炎症との色の左右差。と緑内障が多い
1
核・皮質・下の危険因子1

白内障と関連する薬剤

薬剤は ABCD で覚える。

文字 薬剤 補足
A 下の色素沈着。角膜の渦状の方が有名
B
C ・下の褐色の
D (副腎皮質ステロイド)

疫学研究で示された危険因子

米国眼科学会の診療指針は、観察研究で関連が示された危険因子を型ごとにまとめている(までは証明されていない)1。

型 主な危険因子
皮質 糖尿病、家族歴、高血圧、、1 D を超える、肥満、全身のステロイド、外傷、紫外線B
核 糖尿病、家族歴、高血圧、、肥満、の既往、喫煙・、紫外線B
下 糖尿病、高血圧、吸入・内服・点眼・全身のステロイド、、、肥満、、の既往、、喫煙

白内障と関わる眼の病気

は他の眼の病気の結果としても覆いとしても現れる。頭字語 RIGID で覚える。

文字 病気 との関係
R 長く続いたの眼に併発ができる。逆に濃いの奥のは眼底が見えず、超音波でしか分からない
I 炎症(、) 炎症とステロイドで併発。過熟からはによる炎症も起こる
G 緑内障 膨化・過熟が緑内障を起こす。緑内障発作・緑内障手術の後にもができる
I 腫瘍がに接するとする。眼底の見えないの奥に腫瘍が隠れていることがある
D 変性疾患(、) を併発する。手術しても網膜の病気のぶん視力の回復は限られる

⚠️ 眼底が見えない濃いでは、手術の前に必ず超音波で・を除外する1。だと思って手術したら視力が戻らなかった、という事態を避けるためである。

症状と診察

症状 起こりやすい型
ゆっくり進む無痛性の・ すべての型
まぶしさ()、夜の対向車のライトのにじみ 皮質・下
(が要らなくなる)、片眼の 核
色が黄ばんで見える 核(褐色化)
の低下 すべての型

診察では、してでの位置と程度を見る。すると、の中にが黒い影として浮かぶ。視力だけでなく、・の影響・運転や読書などの生活の困りごとを評価する。

⭐ は痛みがなく、ゆっくり進む。急なや眼痛があれば、以外(網膜・視神経の病気、緑内障発作)を考える。

水晶体偏位

(・)は、が弱い・切れることでが正常の位置からずれる状態である。

原因 偏位の特徴
約80%に起こり、両眼のへのずれが典型(他の方向もある)。痩せて背が高く、・2
ほぼ90%に起こり、両眼性で60%がへずれる。25歳までにほぼ全例で見られる2
約50%に起こり下方へずれる。小さく丸いで緑内障を起こしやすい。・短い指で「の逆」と呼ばれる2
外傷 でが切れる。片眼で、・の深さの左右差を伴う()

の眼では、した瞳孔の中にずれたのの縁が弧として見え、その外側に引き伸ばされたがを背景に細い線として並ぶ。

💡 が瞳孔の中でずれると、瞳孔の一部はを通り一部は通らない。そのため強い・・片眼のが起こり、小児ではの原因になる。へするとでが急に上がる。

⚠️ は血栓症を起こしやすく、全身麻酔の手術で血栓塞栓症の危険がある。を見たら全身の病気を探す。

水晶体内の異物と外傷性白内障

の中の金属片は、での中に黒いの影として浮かび、細隙光の中で内にあることが分かる。穿孔したの傷からが入り込むと、傷の周りからが広がる()。鉄片が残ると眼球で網膜が障害されるので、として摘出を考える(鋭的と)。

先天白内障

は生まれつき、または乳児期に現れるで、瞳孔が白く見えるの原因になる(鑑別は)。

原因

原因 例
遺伝性 常染色体優性の家族性が多い
:、その他(HIV、梅毒)、風疹、、
代謝疾患 、
染色体異常・症候群 など
原因不明 片眼のの多く

の所見の例として、瞳孔の中央に小さな白い点として見える(前極で典型的)や、透明な周辺部に囲まれての中ほどに淡いのが見えるもの(層間で典型的)がある。

治療の考え方

⚠️ 乳児期は視覚が発達する時期なので、を遮る濃いは、放置すると重いになる。の検査で早く見つけ、濃いものは早期に手術し、手術後すぐに屈折を矯正して治療(の遮閉)を続ける()。

論点 根拠
乳児期にを入れるか 生後7か月未満の片眼114例の無作為化試験で、初回手術時にを入れても4.5歳の視力は+コンタクトレンズと差がなく(中央値はともに20/159)、両群とも約半数は20/200以下にとどまった3
の不利 群は有害事象(81%対56%)と追加の(72%対21%)が多く、へのの再増殖・瞳孔膜・が主だった3
推奨 生後7か月未満の片眼はのままコンタクトレンズで矯正し、はコンタクトレンズの管理が極めて難しい場合に限る3

💡 小児の眼は成長とともに眼軸が伸びてし、術後の炎症と上皮細胞の増殖も強い。成人のように「一度入れれば終わり」にはならないことが、乳児のが難しい理由である。小児期の発達異常は眼の発達異常で扱う。

白内障治療の歴史

は最も古い手術の一つである。古代から中世には、針でをの中へ押し落とす墜下法(圧下法)が行われ、患者を座らせてが眼に針を刺す姿が絵に残っている。中世アラビアの眼科学はアレクサンドリアとローマの伝統を受け継ぎ、についての記載も2つ見つかっているが、新しい内容は含まれていなかった。を落としても眼の中に残るので、炎症・緑内障・が多く、光を取り戻しても強いのまま()だった。

白内障の治療

手術しない管理

  • 濁ったを消す・進行を遅らせる薬物治療は知られておらず、薬物治療を支持する根拠は不十分である1。食事やの予防・治療効果もごく小さい1。
  • 初期には・コンタクトレンズの度数の変更で屈折のずれに対応でき、の補助具で手術を先延ばしにすることもある1。
  • 中央の小さなではで周りから見えるようにすることがあるが、まぶしさは悪化しうる1。
  • ステロイドを長く使う人にはの危険が増すことを伝える1。

手術の適応と禁忌

⭐ 手術の主な適応は、視機能が落ちて患者の生活上の必要を満たさなくなり、手術で改善が見込めることである1。視力の数値だけで決めず、手術の時期は患者とが合意して決める1。

手術の適応 手術をしない場合
視機能の低下が生活の必要を満たさず、改善が見込める などの矯正で患者の必要を満たせる
のために臨床的に意味のあるがある 手術で視機能が良くなる見込みがなく、ほかに摘出の理由もない
がの病気(など)の診断・治療を妨げる 全身や眼の合併症のため安全に手術できない
による炎症と(融解性・粒子性・) 術後の管理を用意できない
による原発閉塞隅角・その他の関連緑内障 本人または代理人から予定手術の同意が得られない

(出典はいずれも 米国眼科学会の診療指針1)

手術法の変遷

手術法 方法 特徴
嚢内摘出術 を嚢ごと、のプローブなどでに取り出す 大きな切開が要り、がないのでを嚢に固定できない。が前に出て・が多い。現在はなど特殊な場合に限られる
嚢外摘出術 を開けて核をで押し出し、皮質を吸引し、を残す 残した嚢にを入れられる。10 mm前後の切開を縫合するのでが残る。核が非常に硬い、が弱い、が弱い眼では今も選ばれることがある1
手動小切開 の自己から核を手で取り出す がよく、資源の限られた国で広く行われる1
2〜3 mmの小切開から超音波の振動で核を砕いて吸い出す 現在の標準。嚢外摘出術・手動小切開より視力が良く、やなどの合併症が少ない1

💡 切開が小さいほど自己閉鎖しやすく、術中に患者が動いたりが起きたりしても安全で、術後の炎症とが少なく、生活の制限も少ない1。

超音波乳化吸引術の手順

の手持ち器具(ハンドピース)は、先端の細い管が超音波で振動して核を砕き、同じ先端から灌流液を流しながら破片を吸い出す。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topical anesthesia'>点眼麻酔</span>などで麻酔し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>を十分に保つ"] --> B["角膜または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sclerocornea'>強角膜</span>に<br>小さな自己<span class='jp-term jp-term-diagram' title='closed wounds'>閉鎖創</span>を作る"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmic viscoelastic device'>粘弾性物質</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>を保ち<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal endothelium'>角膜内皮</span>を守る"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior capsule'>前嚢</span>を円く連続して切り取る<br>(連続円形切嚢)"]
    D --> E["嚢と皮質の間に液を流し<br>核を嚢から浮かせる(ハイドロダイセクション)"]
    E --> F["核を分割して<br>超音波で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='emulsification'>乳化</span>吸引する"]
    F --> G["残った皮質を吸引する"]
    G --> H["折りたたんだ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular lens'>眼内レンズ</span>を<br>嚢の中へ挿入する"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ophthalmic viscoelastic device'>粘弾性物質</span>を除き<br>創が水密であることを確かめる"]

各段階の意味は次のとおりである1。

段階 目的
を守り、組織を動かし、手術の空間を保つ。最後に取り残すと術後のの原因になる
連続円形切嚢 の放射状の裂け目からが破れるのを防ぎ、を嚢の中の中央に固定する。切嚢の縁がのの縁を全周で覆うと、が減り、YAGレーザーのあとののも防げる
ハイドロダイセクション 核と皮質を動かしてへの負担を減らし、皮質を取りやすくする。も遅らせる
核の分割 分割して砕く方法、割って取る方法、フェムト秒レーザーによる分割などで、切嚢と小切開から核を取り出せる大きさにする
水密な創 を上げる、実質に水を含ませる、糊や縫合で創を閉じる。漏れる創はの危険を高める

フェムト秒レーザー併用白内障手術

フェムト秒レーザーは、角膜の切開、を減らす角膜の、切開、核の分割・軟化を自動で行える1。

利点 限界
切開の真円度と中心性が上がり、角膜切開が精密になる1 がまだよくない1
核を砕く超音波のエネルギーを減らせる1 全体の安全性と屈折の結果は、通常のを上回ることが示されていない1
術後1〜3か月の視力、角膜の厚さ、内皮細胞の減少で早期の差が報告されている1 の裂けはむしろ多く、術後1週と6か月以降の視力・率・6か月以降のに差がない1

909例の無作為化試験では、合併症がなく視力20/20以上・屈折誤差0.75 D以下などを満たす成功率がレーザー群41.1%、通常手術群43.6%で差がなかった1。

眼内レンズ

を取り除いたの矯正は、特別な禁忌がなければが第一の方法で、多くの場合のの中に固定するのが最もよい1。度数は角膜とから計算する(眼組織の透明性と眼科・生体)。

形と素材

は、光を曲げる中央の円いと、嚢の中でを支える支持部からなる。支持部には、細いループが弧を描く形(3ピース型など)、と同じ素材で一体に作られた太い支持部の形(1ピース型)などがある。

硬い PMMA のレンズは大きな切開が必要だったが、折りたたみが小切開から入るため主流になった1。

素材 特徴
は少ない。・膨張ガスを使うの眼、重いなど将来網膜手術が要りそうな眼では避ける1
疎水性アクリル 縁が角張ったレンズはを減らす。小さな水疱(グリスニング)が出ることがあるが、視力に影響することはまれ1
アクリル が多い。・で空気・ガスに触れると石灰化しうる1

💡 レンズの縁を角張らせると、嚢がその角に沿って鋭く折れ曲がり、からの中央へ這い出そうとする上皮細胞をせき止める。これがを減らす仕組みである。

老視に対応する眼内レンズ

通常のは1つの距離にしか焦点が合わず、調節はできない。への依存を減らすため、次のようなレンズが作られてきた。

種類 仕組み 利点と欠点
1つの焦点 が最も良い。近く(または遠く)はが要る。片眼を近く、もう片眼を遠くに合わせる方法もある
多焦点(偽調節レンズ) 光を2つ以上の焦点に分ける(屈折型・回折型)。2焦点・3焦点などがある 近方・中間の視力が良くから離れやすいが、・夜間の光の輪(ハロー)・低下が増える1
拡張型 焦点の合う範囲を前後に引き伸ばす 軽い黄斑の病気や角膜の既往がある眼では、多焦点より好まれることがある1
調節レンズ 調節の努力に合わせて眼の中で位置や形を変える 調節の効果にはばらつきがあるが、多焦点のようなの低下はない1
トーリック を矯正する円柱度数をもつ 角膜が大きい眼で使う

⚠️ 多焦点は、黄斑の病気・進行した緑内障・・角膜や乳頭の異常がある眼では遠くの見え方の質が落ちやすく、慎重に適応を選ぶ1。

調節レンズの設計

設計の型 仕組み
蝶番付きの板状支持部をもつ単一のレンズ:Crystalens など の収縮でが前へ動く
4本の支持部をもつ単一のレンズ:1CU 径5.5 mm、全長9.7 mm。同じくのを利用する
2枚のをでつないだレンズ:Synchrony 前後のの距離が変わってが変わる
楕円形の2枚のレンズ:Sarfarazi型 5.0 mmの2枚のを弓状の支持部でつなぎ、嚢の形の変化での間隔が変わる

調節レンズの効果は、 UBM で角膜からまでの距離を測って評価する。2枚の UBM 像で、この距離は3.66 mmと3.0 mmとされている(どちらが調節時かの表示はない)。

多焦点レンズの設計

回折型の多焦点レンズは、の表面に同心円の細かいが刻まれている。AcrySof ReSTOR は中央部だけにがあり、外側ほどの高さを低くしている(アポダイズ)ので、瞳孔が大きい暗所では遠方へ回る光が増える。Tecnis 多焦点レンズは全体に回折のをもつ。

術後に度数を調整できる眼内レンズ

かつて「未来のレンズ」とされた光で度数を調整できるは、現在は臨床で使われている。度数が安定したあと、特殊なのに紫外線を当てて球面・円柱度数を調整し、最後に残りの感光性分子を紫外線で使い切って固定する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='silicone'>シリコーン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesh (network)'>網目</span>の中に<br>感光性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='silicone'>シリコーン</span>分子が散らばる"] --> B{"どこに紫外線を当てるか"}
    B -->|"中央"| C["中央の分子が重合する"]
    B -->|"周辺"| D["周辺の分子が重合する"]
    C --> E["重合していない分子が中央へ拡散し<br>中央が膨らむ"]
    D --> F["分子が周辺へ拡散し<br>周辺が膨らんで中央が相対的に平らになる"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractive power'>屈折力</span>が増す"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractive power'>屈折力</span>が減る"]
    G --> I["全体に照射して残りの分子を重合させ<br>度数を固定する(ロックイン)"]
    H --> I

照射はに取り付けた専用の紫外線照射装置で行い、レンズの屈折の変化はで確かめる。

水晶体嚢を満たす注入型レンズ

嚢の中身だけを小さな孔から取り除き、空になったに柔らかい高分子を注入して満たし、孔をふさぐ試みもある。天然ののように嚢ごと形を変えられれば調節を取り戻せる、という発想である。

術後の管理と合併症

後嚢混濁(後発白内障)

⭐ は、どの方法のの後にもよく起こり、ゆっくり視機能を落とす1。原因は、嚢の中に残った細胞の増殖と化生である1。

項目 内容
頻度 手術から時間がたつほど増え、レーザーの頻度は5%未満から54%まで報告がある1
少なくする要因 縁の角張った(とくに疎水性アクリル)、切嚢の縁がを全周で覆うこと、(嚢外摘出術より少ない)、高齢1
治療 Nd:YAGレーザー
適応 が視機能を患者の必要以下に落とす、または眼底の観察を著しく妨げるとき。多焦点ではより早く行うことがある1
してはいけないこと が透明なうちに予防的に切開しない1

YAGレーザーのあとは、の後ろで濁ったの中央に円い透明な窓が開き、そこから眼底が見えるようになる。

YAGレーザーの合併症はまれだが、、、、、の損傷・偏位、の持続がある1。眼軸の長い眼は切開後のの危険が高い1。

💡 でも上皮細胞が線維化し、切嚢の開口部が縮むことがある(収縮)。・・糖尿病・ぶどう膜炎・の弱い眼で多く、の傾きや偏位を起こす1。

失明につながりうる合併症

失明に至る合併症はまれである1。米国の高齢者の集団では、術後1年の重い合併症(0.16%、出血0.06%、0.26%)は合わせて0.5%だった1。

合併症 頻度 危険因子・特徴 対応
米国で0.04〜0.2%。最多のは1 (最大10倍)、高齢、免疫低下、術翌日の創の漏れ、手術時間の延長など1 ・眼痛・充血・新しい・。疑えばすぐ網膜専門医へ()
合併症のない手術で臨床的に問題になるのは1〜3%1 ぶどう膜炎の既往、を伴う、片の残存、、、、など1 術後数週〜数か月の。OCT で黄斑のの腔を確かめ、抗炎症点眼で治療する
0.26〜4%1 が長い、、、若年、男性、、の、術後の1 危険は術後20年も続きうる1。・・視野の欠けを教える()
・ 低リスク例で約2%、の既往で最大9%1 高齢、男性、緑内障、褐色・白色の、、、小瞳孔、26 mm超、など1 前部、の固定位置の変更
の落下 0.1〜0.28%1 に続く 炎症とが起こるので網膜のへ紹介する
術後の 早期に一時的なものはよくある1 緑内障の既往、の残存1

は術後の炎症と関係するので、NSAIDs の点眼(単独またはステロイドとの併用)で発症が減り、とくに糖尿病で有効である1。ただし3か月以上の長期の視力改善は示されていない1。

眼内炎の予防

⭐ でを減らすことがはっきり示された予防は、手術直前の眼瞼との消毒と、手術終了時の内への注入の2つである1。の標準量は1 mg/0.1 mLである。の副次解析では、にを足しても単独と効果に差がなく、術前のも不要とする根拠が増えている1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract surgery'>白内障手術</span>の数日〜数週後に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・眼痛・充血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='floaters'>飛蚊症</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypopyon'>前房蓄膿</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous opacity'>硝子体混濁</span>など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='endophthalmitis'>眼内炎</span>を疑う所見があるか"}
    B -->|"ある"| C["網膜専門医へ<br>すぐに紹介する"]
    B -->|"ない"| D["術後の炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystoid macular edema (CME)'>嚢胞様黄斑浮腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span>を調べる"]
    C --> E{"24時間以内に<br>網膜専門医に診てもらえるか"}
    E -->|"診てもらえる"| F["網膜専門医が<br>採取と治療を行う"]
    E -->|"診てもらえない"| G["経験のある眼科医が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>を採取し<br>抗菌薬を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravitreal'>硝子体内</span>に注射する"]

発症は従来は術後1週以内とされたが、数週遅れて起こることもある1。の病型・の適応・抗菌薬の詳細はで扱う。

⚠️ は、術後の無菌性の炎症(症候群)と区別する必要がある。経過が少し違い、治療がまったく異なる1。

手術の前に確かめること

経口(など)はを予測する手がかりになり、抗凝固薬・はでは継続が推奨される1(と正常所見)。は小瞳孔・の弱さ・・晩期の、ぶどう膜炎は遷延する炎症との危険を高める1。・・があれば、手術しても視力の回復が限られることを事前に説明する1。

展望

  • と現代の手術の進歩で、の治療は大きく発展し、今ではあらゆるを手術で治せるようになった(角膜)。
  • 残された課題は、調節の回復との予防である。

まとめ

  • は嚢・下の上皮・皮質・核からなる血管のない透明なで、の上皮が一生線維を作り続けるので、年とともに厚く硬くなる。
  • の病気は、濁る()かずれる()かである。
  • は世界の失明原因の第1位。主な型は核(遠くが見えにくい・)・皮質()・下(明所・で見えにくい、若年・ステロイド・糖尿病・放射線)。
  • 原因の頭字語 DAMAGED は糖尿病・・/・・・薬剤/ジストロフィー、薬剤の頭字語 ABCD は・・・。
  • 膨化は、過熟は融解性緑内障を起こし、視力に関係なく手術の適応になる。
  • 濃いで眼底が見えなければ、手術前に超音波で・腫瘍を除外する。
  • は、()、(・血栓症に注意)、(下方・)、外傷。
  • は TORCH・遺伝・代謝が原因。濃いものは早期に手術してを防ぐ。生後7か月未満の片眼では、より+コンタクトレンズが勧められる。
  • 薬では治らない。視機能が生活の必要を満たさず、手術で改善が見込めるときに手術する。
  • 標準は小切開の+折りたたみの。フェムト秒レーザー併用は精密だが、安全性・屈折の結果で通常手術を上回らない。
  • 多焦点はから離れやすい代わりに、・ハロー・低下がある。調節レンズ・度数調整型レンズも使われる。
  • 最多の術後合併症はで、Nd:YAGレーザーで治る(予防的には行わない)。
  • まれだが重い合併症は(0.04〜0.2%)・(0.26〜4%)・(1〜3%)。の予防はと内。

出典

  1. 1.Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2021)AAO公式PDFの全文で確認した。白内障は世界の失明原因の第1位で、主な型は核・皮質・後嚢下であること、症候性白内障は手術で治す病気で、進行を止める薬物治療には根拠がないこと、手術の主な適応は視機能が患者の必要を満たさなくなり手術で改善が見込めることで、ほかに不同視・後眼部の診療の妨げ・水晶体による炎症や緑内障があること、小切開の超音波乳化吸引術と折りたたみ眼内レンズの嚢内固定が標準で、嚢外摘出術や手動小切開白内障手術より裸眼視力と合併症で優れること、フェムト秒レーザー併用手術は前嚢切開の真円度と中心性を高めるが費用対効果に乏しく、安全性と屈折の結果は通常の手術を上回らないこと、多焦点眼内レンズは近方・中間視力と眼鏡からの独立を高めるがグレア・ハロー・コントラスト低下が増えること、紫外線で度数を術後に調整できる眼内レンズがあること、後嚢混濁は残った水晶体上皮細胞の増殖と化生によりレーザー後嚢切開の頻度は5%未満〜54%と報告され、予防的な切開はしないこと、臨床的な嚢胞様黄斑浮腫は合併症のない手術の1〜3%、眼内炎は米国で0.04〜0.2%で表皮ブドウ球菌が最多、術前のポビドンヨードと手術終了時の前房内セフロキシム(標準量1 mg/0.1 mL)が予防効果を示し、メタ解析の副次解析で前房内投与に点眼を足しても単独と差がなかったこと、網膜剥離は0.26〜4%で眼軸長・後嚢破損・若年・男性などが危険因子であることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Ectopia Lentis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)Weill-Marchesani症候群を「マルファン症候群の逆(the reverse of Marfan's syndrome)」と記し、水晶体偏位が約50%に見られ下方への亜脱臼を示すこと、青年期または成人早期に見られうること、他に多い眼所見が球状水晶体と瞳孔ブロック緑内障であること、全身所見が低身長・手足の短い指・短指症であること、マルファン症候群では水晶体偏位が約80%に見られ両眼性の上耳側偏位を示すが他の方向にも起こりうること、マルファン症候群の骨格所見が痩せて背が高い体型・クモ状指・関節過可動であること、ホモシスチン尿症では水晶体偏位がほぼ90%に見られ両眼性で60%に下鼻側偏位を示し25歳までにほぼ100%で観察されることを、Europe PMC の bookXML(NBK578193)で確認した。本章の最終更新日はNCBI Bookshelfの表示で2023年6月11日である。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Comparison of contact lens and intraocular lens correction of monocular aphakia during infancy: a randomized clinical trial of HOTV optotype acuity at age 4.5 years and clinical findings at age 5 years(JAMA Ophthalmology・2014)抄録(PubMed 24604348)で、片眼の先天白内障の乳児114例を初回手術時に眼内レンズを入れる群と無水晶体眼のままコンタクトレンズで矯正する群に割り付けた試験で、4.5歳の視力の中央値に差がなく(ともに20/159)、両群とも約半数が20/200以下であったこと、眼内レンズ群で有害事象(81%対56%)と追加の内眼手術(72%対21%)が多かったこと、生後7か月未満の片眼白内障では無水晶体眼のままコンタクトレンズで矯正することを勧めたことを確認した閲覧 2026-09-29