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Disease Atlas · 眼科 · 症候群

術中虹彩緊張低下症候群

Intraoperative floppy iris syndrome

別名
IFIS
臓器系
眼科
科目
AnatomyPharmacology
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼薬理学 A7:α受容体拮抗薬
関連疾患
白内障
原因薬剤
タムスロシンアルフゾシンドキサゾシンテラゾシン

🧠 全体像は、(特に)が筋に作用し、手術中にの波打ち・脱出・進行性という三徴を来す薬剤性の術中合併症である。最大の臨床的意義は⚠️ 薬を中止しても症状が消失しないことにあり、実際に術前3〜7日してもフロッピーの出現を防げなかったという報告がある。したがって対策の中心はではなく「服用歴の申告」であり、が事前にしていれば瞳孔リングなどの術中対応で合併症を大きく減らせる。

三徴:定義

IFISはChang & Campbellにより、次の3つの術中所見の組み合わせとして定義された1

  1. 間質の波打ち・膨隆:通常の眼内灌流下で、虚脱した間質が波打つようにする。
  2. 脱出の傾向が適切に作られていても、フロッピーな間質が超音波吸引創・サイドへ脱出しやすい。
  3. 進行性のなど)による標準的な術にもかかわらず、術中に瞳孔が進行性に縮小する。

機序:α1遮断薬と虹彩散大筋

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha-1 blocker'>α1遮断薬</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tamsulosin'>タムスロシン</span>など)の内服"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilation (mydriasis)'>散大</span>筋のα1<span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptor blockade'>受容体遮断</span>"]
    B --> C["長期・持続的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptor blockade'>受容体遮断</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilation (mydriasis)'>散大</span>筋の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disuse atrophy'>廃用性萎縮</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>間質の緊張低下"]
    E --> F["術中の波打ち・脱出傾向"]
    E --> G["進行性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miosis'>縮瞳</span>"]
    H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drug holiday (treatment interruption)'>休薬</span>(3〜7日程度)"] -.->|"防止できない"| F

は交感神経(は長神経)に支配され、α1受容体を介して収縮する(眼窩・眼の解剖を参照)。をはじめとするは前立腺・平滑筋を弛緩させる目的で用いられるが、同じα1受容体は筋にも発現している。

💡 は半減期が長く、持続的な状態が続く。 Chang & Campbellは、この持続的な遮断が筋の一種のを招き、術前に薬剤を中止しても間質の緊張低下自体は速やかに回復しないという仮説を提唱した1。これが、⚠️ では対策にならないという臨床上の要点の根拠になっている。

疫学:タムスロシンとの関連の強さ

はIFISとの関連が最も強いである。 Chang & Campbellの原著では、を受けた患者全体でのIFISが retrospective studyで2.0%(511例中10例)、prospective studyで2.2%(741例中16例)であった。これを服用者に限って見ると、実際にIFISを呈した割合は retrospective studyで63%(16例中10例)、prospective studyでは100%に達し、IFISと診断された患者の94〜100%がを服用中または服用歴を有していた1。その後の報告では、服用患者の57〜100%が術中にIFISの典型徴候を少なくとも1つ示すとされる2

薬剤 対照群と比較したIFISの
13.85(95%7.34-26.11)
8.94(95%2.88-27.74)
7.73(95%3.05-19.62)
3.88(95%1.13-13.28)

ネットワークでは、対象となった4薬剤()いずれも対照群よりIFISリスクが有意に高いが、を直接比較した場合の統計的有意差は示されていない3。⚠️ の大小は「が最も高く、それ以外は一律に低い」という単純な序列にはならない——(8.94)は(7.73)を上回る。なお、この解析には含まれていない。

合併症リスク

IFISは手術時間の延長だけでなく、後嚢破損脱出のリスクを有意に増加させる。Chang & Campbellの後ろ向き研究では、IFISと診断された16眼中2眼(12%)で後嚢破損・脱出を来した1。その他、障害、外傷、術後のも増加するとされる2

術前対応:休薬ではなく服用歴の申告

⚠️ をIFIS対策として指導しない。 に対する作用はおそらく不可逆的であり、術前のはIFISの発生を防ぐことも重症度を改善することもできないとされる2。したがって対策の中心は術前に服用歴(現在の服用だけでなく過去の服用歴も含む)を眼科医へ申告することである。が事前にIFISのリスクをしていれば、瞳孔拡張リング・などの術中対応をあらかじめ準備でき、後嚢破損などの合併症を減らせる。

まとめ

  • IFISは、間質の波打ち・脱出傾向・進行性という三徴で定義される、(特に)に関連した中の合併症である。
  • 機序は、持続的なα1による筋のと考えられており、これが薬剤中止後も症状が速やかに消失しない理由を説明する。
  • が最もIFISとの関連が強く、服用患者の過半数〜大多数が術中に何らかの徴候を示す。もリスクを有意に上げるが、との直接比較で有意差は確認されておらず、これら3剤間の序列も単純ではない。
  • 後嚢破損・脱出・障害などのを有意に増加させる。
  • は対策として有効でないため、術前の服用歴(過去の服用歴を含む)申告が最も重要な対策であり、これによりが事前に瞳孔リングなどの対応を準備できる。

出典

  1. 1.Intraoperative floppy iris syndrome associated with tamsulosin(Journal of Cataract & Refractive Surgery・2005)IFISを、通常の眼内灌流下で虚脱した虹彩間質が波打ち膨隆すること、創口への虹彩脱出傾向、標準的な散瞳前処置にもかかわらず進行する術中の縮瞳、という三徴で定義したこと。白内障手術を受けた患者全体でのIFIS有病率が retrospective study で2.0%(511例中10例)、prospective studyで2.2%(741例中16例)であったこと。タムスロシン服用者に限ると、実際にIFISを呈した割合は retrospective study で63%(16例中10例)、prospective studyでは100%に達したこと。術前3〜7日の休薬はこの小集団でフロッピー虹彩の出現を一般的に防止しなかったこと。後嚢破損・硝子体脱出が retrospective study の16例中2例(12%)に生じたこと。タムスロシンの長い半減期による持続的な受容体遮断が虹彩散大筋の廃用性萎縮を来すという機序を提唱したこと閲覧 2026-08-12
  2. 2.A narrative review of intraoperative floppy iris syndrome: an update 2020(Annals of Translational Medicine・2020)タムスロシン服用患者の57〜100%が白内障手術中にIFISの典型徴候を少なくとも1つ示すこと。タムスロシンの虹彩に対する作用はおそらく不可逆的であり、術前の休薬はIFISの発生を防ぐことも重症度を改善することもできないこと。角膜内皮障害、虹彩外傷、後嚢破損、眼圧上昇、硝子体脱出などの合併症リスクが有意に増加すること。α遮断薬服用歴(特にタムスロシン)の聴取を含む術前評価がIFIS関連合併症の予防に重要であること閲覧 2026-08-12
  3. 3.Risk of intraoperative floppy iris syndrome among selective alpha-1 blockers—A consistency model of 6,488 cases(Frontiers in Medicine・2022)ネットワークメタ解析(対象はタムスロシン・アルフゾシン・ドキサゾシン・テラゾシン・シロドシンの5薬剤、プラゾシンは対象外)で、対照と比較したIFISリスクがタムスロシンで相対リスク13.85(95%信頼区間7.34-26.11)、テラゾシンで相対リスク8.94(95%信頼区間2.88-27.74)、アルフゾシンで相対リスク7.73(95%信頼区間3.05-19.62)、ドキサゾシンで相対リスク3.88(95%信頼区間1.13-13.28)といずれも有意に上昇したが、タムスロシンとアルフゾシンの直接比較では統計的有意差が示されなかったこと閲覧 2026-08-12