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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

周辺虹彩前癒着

Peripheral anterior synechiae

別名
PAS周辺虹彩前面癒着
臓器系
眼科
科目
Medical Physiology
トピック
生理学 8.4:視覚の生理学
鑑別疾患
隅角後退緑内障
検査値
眼圧

🧠 全体像:(PAS)は、の周辺部がに貼りついて離れなくなった状態である。原因はさまざまでも、行き着く先は同じ——⭐ 貼りついた組織がの出口を物理的に塞ぎ、を起こす。 ⚠️ 一時的に隅角が狭くなっているだけの「閉塞」と、実際に癒着してしまった「癒着性閉塞」は別物であり、後者(PAS)は元に戻らない。 だからPASが増えていく病気(・原発閉塞隅角症)ほど、薬物治療が効かなくなる時期が来る。

PASとは——「触れているだけ」と「くっついた」の違い

には2つの型がある1。

型 状態 可逆性
閉塞 が隅角構造に接触しているだけ ⭐ 可逆的。接触が解除されれば隅角は開く
癒着性閉塞=PAS とが永続的に癒着した状態 ⚠️ 不可逆。癒着が固定されると隅角は開かない

⭐ 反復する発作が、から癒着性へ橋渡しする。 発作を繰り返すと、無症候のままが上昇し、と周辺の遷延する接触によって隅角に構造的・機能的な障害が蓄積する1。でが膨隆して隅角が狭くなり、持続的な接触が続くことがこの過程の機序である1。

隅角検査での見え方

で、PASは組織がを覆ってを部分的または完全に閉塞している所見として観察される2。米国眼科学会は原発閉塞隅角症を、180°を超える隅角接触(ITC)・PAS・・の組み合わせで分類している1。

⚠️ PASは他の隅角所見を覆い隠すことがある。 を来した眼で受傷から長期を経ると、広範なPASが所見そのものを覆い隠しうる。この癒着は外傷後の前房出血・角膜接触・の遷延する炎症に帰せられる3。⭐ 「隅角が見えない・所見がはっきりしない」ときに、PASそのものが視野を妨げている可能性を考える。

PASを起こす原因疾患

PASは単一の疾患ではなく、複数の経路がたどり着く共通の終着点である。

原因 機序
原発閉塞隅角症 による膨隆→発作の反復→癒着性閉塞1
⭐ 隅角のに伴う内のが収縮し、と隅角構造を引き寄せて癒着させる2
外傷後(など) 前房出血・角膜の接触・の遷延する炎症3

⭐ はPAS形成が「治療反応性の分かれ目」になる典型例である。 がを塞ぐだけの段階(続発)では点眼薬・・に部分的に反応するが、⚠️ が収縮してPASを形成し隅角が閉塞すると、が著明に上昇し薬物治療に反応しなくなる2。PASの数は徐々に増え、最終的に360°のに至りうる2。💡 の(の前緑内障期→続発→PASによる)は、この「PAS形成前後で薬が効くか」という臨床の分かれ目をそのまま反映している。

の原因の79%を、(33%)・(33%)・(13%)が占め、いずれもによるなどの産生という共通の機序で作用する2。

隅角後退との鑑別

⚠️ PASとは、どちらもを起こしうる隅角の異常だが、成り立ちがまったく違う。

(PAS)
本体 との癒着(後天的に付着した組織) の線維との間の裂け目(組織が引き裂かれて生じた間隙)
緑内障の機序 癒着した組織によるの直接的な の線維化・の閉塞という遠隔期の
原因によって急性〜慢性 数年〜数十年単位の遅発性
所見 が隅角構造を覆う。範囲は・時計方向で評価する の後方偏位・の露出・隅角の開大

⚠️ 両者は併存しうる。 眼で外傷後の前房出血・炎症が遷延すると、PASがの所見そのものを覆い隠すことがある3。⭐ さらにPASは、後の眼において発症の最も強い予測因子である。 前房出血を伴うでのあった114人のコホートで、PASの存在は4.29(95%CI 2.02〜9.13、p<0.001)と、年齢(1歳あたり1.02)を上回る最強のリスク因子だった4。💡 眼を経過観察するとき、PASの有無を確認することが最もリスクの高い患者を絞り込む手がかりになる。

flowchart TD
    A["隅角の異常を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonioscopy'>隅角鏡</span>で評価する"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>組織が隅角構造に<br>癒着しているか(PAS)"}
    B -->|"癒着あり"| C["原因を検索する<br>(原発閉塞隅角症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascular glaucoma'>血管新生緑内障</span>・<br>外傷後の遷延炎症など)"]
    B -->|"癒着なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris root'>虹彩根部</span>の後方偏位・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary body band'>毛様体帯</span>の露出があるか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angle recession'>隅角後退</span>を疑う<br>PASの併存がないか確認する"]
    D -->|"なし"| F["他の隅角所見を検討する"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous outflow pathway'>房水流出路</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical obstruction'>機械的閉塞</span><br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>"]

まとめ

  • PASは周辺部との永続的な癒着で、可逆的な閉塞とは区別される「癒着性閉塞」である。癒着した組織がを機械的に閉塞し、を起こす。
  • 原発閉塞隅角症(発作の反復)、(内のの収縮)、外傷後(前房出血・遷延する炎症)など、複数の原因疾患がPAS形成という共通の終着点にたどり着く。
  • ではPAS形成の前後が治療反応性の分かれ目になる——形成前は点眼薬・・に部分反応するが、PASによる後は薬物治療に反応しなくなる。
  • との違いは本体そのものにある:PASは癒着、はの裂け目。両者は併存しうり、PASがの所見を覆い隠すことがある。
  • ⭐ PASは、外傷後の眼における発症の最も強い予測因子(4.29)であり、経過観察でその有無を確認する価値が高い。

出典

  1. 1.Acute Angle-Closure Glaucoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)NCBI Bookshelfのライブページで確認した(2026年1月10日最終改訂)。周辺虹彩前癒着(PAS)が虹彩と線維柱帯との間の永続的な癒着であること、隅角閉塞には可逆的な接触にとどまる圧痕性(appositional)閉塞と、この永続的な癒着による癒着性(synechial)閉塞の2型があり両者は区別されること、慢性の隅角閉塞では隅角閉塞発作の反復により無症候のまま眼圧上昇と隅角の構造的損傷が生じ、線維柱帯と周辺虹彩の遷延する接触によって隅角の構造的・機能的障害が生じること、瞳孔ブロックによる虹彩の膨隆が隅角を狭小化させ持続的な接触を作ることがPAS形成の機序であること、米国眼科学会が原発閉塞隅角症を180°を超える虹彩隅角接触(ITC)・PAS・眼圧上昇・視神経障害の所見で分類していること、PASが線維柱帯に癒着した虹彩組織によって房水流出路を機械的に閉塞し眼圧を上昇させることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.A review of neovascular glaucoma. Etiopathogenesis and treatment(Romanian Journal of Ophthalmology・2021)PMCの全文(PMC8764420)で確認した。血管新生緑内障が線維血管膜内の筋線維芽細胞の収縮によって虹彩と角膜(隅角構造)が癒着しPASを形成すること、この収縮が起こる前は房水流出路を線維血管膜が塞ぐだけの続発開放隅角緑内障の段階で点眼薬・汎網膜光凝固・抗VEGF薬に部分的に反応するが、PAS形成後は隅角が閉塞へ進み眼圧が著明に上昇して薬物治療に反応しなくなること、PASの数が徐々に増加し隅角を閉塞させていくこと、糖尿病網膜症(33%)・網膜中心静脈閉塞症(33%)・眼虚血症候群(13%)が血管新生緑内障の原因の79%を占め、いずれも網膜虚血による血管新生因子(VEGF)の産生を介して共通の機序で作用すること、増殖糖尿病網膜症の65%に虹彩新生血管が生じその20%が血管新生緑内障へ進行すること、虚血型網膜中心静脈閉塞症の40〜45%が通常6〜8か月以内に血管新生緑内障を発症すること、Weiss-Gold分類がNVI(虹彩新生血管)とNVA(隅角新生血管)の範囲を病期分類し3象限を超えるPASをgrade 4としていること、臨床病期分類が開放隅角(Stage I:前緑内障期、新生血管はあるが隅角開存・眼圧正常/Stage II:開放隅角緑内障、線維血管膜が房水流出を妨げる)から閉塞隅角(Stage III:360°のPASによる隅角閉塞)へ進行すること、隅角鏡検査で隅角の新生血管と、前房隅角を部分的または完全に閉塞するPASを観察できることを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Bilateral Angle Recession and Chronic Post-Traumatic Glaucoma: A Review of the Literature and a Case Report(Life(Iannucci V, Manni P, Alisi L, Mecarelli G, Lambiase A, Bruscolini A)・2023)PMCの全文(PMC10532958)で確認した(angle-recession-glaucoma.mdで既に検証済みの記載に基づき、本ノートでは周辺虹彩前癒着に関する記述のみを用いる)。隅角後退を来した眼では受傷から長期を経ると広範な隅角癒着(周辺虹彩前癒着)が隅角鏡所見を覆い隠しうること、この癒着が外傷後の前房出血・虹彩角膜接触・前房の遷延する炎症に帰せられうること、周辺虹彩前癒着の存在が隅角後退眼の隅角鏡診断を妨げる要因になることを確認した。閲覧 2026-09-06
  4. 4.Predictive factors and development of traumatic angle recession glaucoma following blunt ocular trauma(European Journal of Ophthalmology・2026)抄録のみを閲覧しており全文は取得できなかった(angle-recession-glaucoma.mdで既に検証済みの記載に基づき、本ノートでは周辺虹彩前癒着に関する記述のみを用いる)。⚠️ 対象は鈍的眼外傷かつ外傷性前房出血で隅角後退のあった114人の後ろ向きコホートであること。周辺虹彩前癒着(PAS)の存在が外傷性隅角後退緑内障の発症に4.3倍のリスクをもたらしたこと(ハザード比4.29、95%CI 2.02〜9.13、p<0.001)、これが同コホートで年齢(1歳あたりハザード比1.02)を上回る最も強い予測因子であったことを確認した。閲覧 2026-09-06