生理学

生理学 · 8.4

視覚の生理学。

Physiology of vision.

応用トピック
視力低下の神経学的原因と視野欠損側頭葉・後頭葉障害の症候失認・失行・失読・失書
疾患
MEK阻害薬関連漿液性網膜症Posner-Schlossman症候群UGH症候群眼皮膚白皮症隅角後退緑内障高眼圧症周辺虹彩前癒着色素散布症候群錐体杆体ジストロフィー中心性漿液性脈絡網膜症低眼圧黄斑症網膜色素線条落屑症候群緑内障
症状
眼痛光視症散瞳縮瞳閃輝暗点前房出血中心暗点内視現象霧視毛様充血夜盲両耳側半盲老視
検査値
眼圧網膜電図

🧠 眼は「(角膜・)→(網膜)」の2段階システムであり、網膜のON中心/OFF中心(side-inhibition receptive field、)がを作り出す。は「感度を取ってを捨てる」、は「と色を取って感度を捨てる」——このがと・の使い分けの本質である。

眼球の構造

層 構成要素
、角膜
中層(ぶどう膜、uvea) 、、
網膜(回路を形成する神経細胞群)

眼はと、が産生するによって保護される。は角膜の潤滑・栄養供給、の補助、異物除去を担う。

房水とグラウコーマ

  • ・はが産生するの循環を維持し、角膜移行部のから排出される
  • 産生:(能動的Na⁺分泌)。流路:→瞳孔→。排出:→
  • はおよそ15 mmHg
  • は・角膜への栄養供給、および眼の形成に必要

⚠️ の排出に問題が生じるとグラウコーマ(緑内障)を引き起こす。 が上昇し、最終的に視神経を圧迫して視力障害・失明に至る(特にの低下として現れる)。

中層血管膜

  • は体内で最も血管に富む組織であり、腎臓よりも相対的に血流・が豊富
  • のは90%だが、は45%にとどまる——それでも眼は常に部分的低酸素状態の境界にある(中の乳酸量がこれを示唆する)

屈折とピント調節

眼の結像は角膜・・・の総合(D = 1/、focal length)に基づく。の大部分は角膜が担い、は調節可能なを提供する。これらの層全体がとして働き、網膜上にを結ぶ。

角膜がの大半を担うため、の役割はが網膜上に正確に投影されるよう眼を「」することである。が収縮・弛緩することで対象物との距離に応じてを調節する——これが調節である。

遠方視 近方視
弛緩 収縮
緊張 弛緩
平坦化(↑) 丸くなる(↓=D↑)

:①()調節(収縮)②(両眼球軸の集中)③(↓)

  • の支配:の副交感神経、ACh(アセチルコリン、acetylcholine)・mAChR(、muscarinic acetylcholine receptor)(、atropineは調節を減弱させる)
  • 反射(ピンボケ像により誘発、または):=網膜--/=核--副交感-、、-(、medial rectusなど)

:25歳=10 cm(10 D)、45歳=33 cm(3 D)、70歳=100 cm(1 D)——はの低下による。

網膜の構造

網膜は光を検出し、視神経を介してCNS(中枢神経系、central nervous system)へ信号を送る多層構造で、神経細胞の回路・・からなる。

(Müller cell)(網膜のほぼ全長にわたる長い):

  • 細胞外K⁺濃度の調節による細胞外環境の維持
  • 神経伝達物質の取り込み
  • の除去
  • エネルギー用グリコーゲンの貯蔵
  • の形成
  • ニューロンの保護

:

  • 過剰な光を吸収する——は光子1個を吸収できるほど高感度なため、過剰な光刺激を防ぐことが重要(、albinismの患者ではこの層を欠き、眼内での光の乱反射によりが生じる)
  • (vitamin A)・塩化物イオン・水の輸送を担う
  • においてall-trans-retinalを11-cis-retinalへ変換しへ供給する
  • のを貪食する
  • と同様にK⁺の吸収・分泌を行う

網膜神経細胞は8層構造をなす(光は8層目から1層目へ向かって進む——図とは逆方向):①層②・錐体③(、outer nuclear layer)(・錐体の細胞体)④(・錐体の軸索、・)⑤(・の細胞体)⑥(・・の軸索)⑦(の細胞体)⑧視神経線維(の長い軸索がし視神経を形成)。

光受容細胞:桿体と錐体

機能 光の検出()
感度 が豊富で非常に高感度 感度は低い(活性化に数百光子が必要)
視力() 低い(多数のが1個のに収束するため) 高い(少数の錐体のみが1個のに収束)
局在 網膜周辺部が主体 黄斑(macula、、foveaで最高密度)
の形状 、遊離にを含む 円錐状、を含む陥入膜
  • ・錐体とも、は単一の線毛で(ミトコンドリア豊富)とつながり、その先に細胞体・軸索・シナプス終末が続く
  • 錐体には赤・緑・青の3種があり、それぞれ異なる波長の光を吸収する
  • (色素、photopigment)=+からなる分子

💡 「視覚の光受容器はと錐体の2種類」は画像形成(見る)には正しいが、非画像形成の光受容には第三の受容体が働く。 を発現する少数の(ipRGC、内因性)は、・錐体からのシナプス入力を薬理学的に遮断しても光に応じて脱分極する内因性のを持つ。でこれらの細胞は例外なくを発現しており、マウスではその軸索が(の)とに関わる中脳核の両方へ投射することが示された(・マウスの実験)1。後述の「=」「」は、実はこの第三のが支えている。

光受容の機序

flowchart TD
  A["光が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhodopsin'>ロドプシン</span>に当たる"] --> B["11-cis-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal'>レチナール</span>→all-trans-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal'>レチナール</span>→メタ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rhodopsin'>ロドプシン</span>II(metarhodopsin II)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transducin'>トランスデューシン</span>活性化"]
  C --> D["cGMP-PDE(環状GMP<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphodiesterase (PDE)'>ホスホジエステラーゼ</span>、phosphodiesterase)活性化"]
  D --> E["cGMPを5'-GMPへ分解→[cGMP]↓"]
  E --> F["CNGチャネル(環状ヌクレオチド依存性、cyclic nucleotide-gated channel)閉鎖→Na⁺流入↓"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photoreceptor'>光受容体</span>膜の過分極"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate release'>グルタミン酸放出</span>↓"]

暗所では細胞は脱分極しており、強いNa⁺内向き電流が流れている。光が当たるとこの機序により過分極する。

過分極は双極・に2通りの影響を与える:

受容体の種類 Glu減少への応答 結果
興奮性Glu応答の減少 過分極=抑制
抑制性Glu応答の減少 脱分極=興奮(ON)

この抑制・興奮のパターンがON/OFFパターンを生み、視覚の形成に必要である。

視覚受容野とON/OFF中心

視覚ではがON/OFFパターンを介して働き、画像のを高める。は「中心」と「周辺」からなる:

  • 中心部:がと直接接続する部分
  • 周辺部:を介して間接的にへ接続する部分

⭐ 中心が「ON」であれば、抑制性のが必ず周辺を逆の「OFF」に反転させる——ON中心/OFF周辺細胞とOFF中心/ON周辺細胞が対をなし、を強調する。

色覚

色は3種の錐体光色素の相対的によって決まる:「青」錐体(S、short-wavelength)、「緑」錐体(M、medium-wavelength)、「赤」錐体(L、long-wavelength)。

:3色を適切に混合することであらゆる色を再現できる(S・M・L 3種の錐体光色素によって説明される)。

視覚路

  • 1億2千万個、錐体600万個に対し、視神経の線維は100万本(=著しい収束)

💡 「1億2千万・錐体600万」は教科書の概数で、ヒトの実測はやや少ない。 摘出したヒト網膜8個(7人、27〜44歳)を全載標本で数えた研究では、平均数は9200万個(範囲7790万〜1億730万)、平均錐体数は460万個(範囲408万〜529万)だった2。桁は変わらないが、丸暗記の数字より一回り少ないと覚えておく。

  • (lateral geniculate nucleus, LGN、視床)→→(視知覚の経路)
  • :眼球運動の制御
  • :
  • (視床下部):

瞳孔対光反射

  • =↓、=↑
  • /間接(同側/対側)反射:から核への・線維による
  • :(CN III)、副交感、mAChR(で阻害)
  • :交感神経、α1受容体

視覚路の病変

(対側投射)と(同側投射)はが異なる。は(Brodmann 17野)に位置する。

flowchart TD
  A["視神経(病変①)"] --> B["視交叉(病変②)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic tract'>視索</span>(病変③)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral geniculate nucleus / LGN'>外側膝状体</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic radiation'>視放線</span>(幾何膝状体距状溝路、病変④)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='occipital lobe'>後頭葉</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary visual cortex'>一次視覚野</span>(Br.17)"]
病変部位
① 視神経 同側の完全な視力喪失
② 視交叉 (、bitemporal hemianopia)
③ 右(または左)
④ 対側のだが黄斑は温存される

まとめ

  • 眼は角膜(の大半)と(調節可能な)の組み合わせで網膜上にを結び、・を介した(調節・・)でを制御する。
  • はからの排出経路に問題が生じると上昇=グラウコーマを引き起こし、・(特に)に至る。
  • 網膜は8層構造をなし、光は最深部の・錐体まで通過してからに変換される。は高感度・低でを、錐体は低感度・高でとを担う。
  • は光→メタII→→PDE→cGMP↓→CNGチャネル閉鎖→過分極という経路で進み、の/の違いがON/OFFを生む。
  • は網膜→視交叉(が交叉)→→→(Br.17)と進み、病変部位によって特徴的なパターン(、、など)を呈する。

出典

  1. 1.Melanopsin-containing retinal ganglion cells: architecture, projections, and intrinsic photosensitivity(Science・2002)ラット網膜神経節細胞の一部にメラノプシンが発現していることをクローニングと抗体染色で確認し、マウスでこれらの細胞の軸索が視交叉上核のほか瞳孔対光反射に関わる核へ投射することをtau-lacZ標識で示した。桿体・錐体を介さず内因性に光応答するラット網膜神経節細胞は例外なくメラノプシンを発現しており、メラノプシンが概日光同調・瞳孔反射を担う光受容体の色素である可能性が高いと結論した(ラット・マウスの実験)閲覧 2026-08-26
  2. 2.Human photoreceptor topography(The Journal of Comparative Neurology・1990)ヒトの摘出網膜8個(7人、27〜44歳)を全載標本で桿体・錐体を実測したところ、平均桿体数は9200万個(範囲7790万〜1億730万)、平均錐体数は460万個(範囲408万〜529万)だった。中心窩錐体密度は平均19.9万個/mm²で個体差が大きく、桿体密度は視神経乳頭付近の輪状部で最高だった閲覧 2026-08-26