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Disease Atlas · 眼科 · 病態

高眼圧症

Ocular hypertension

別名
OHT
臓器系
眼科
科目
Physiology
トピック
生理学 8.4:視覚の生理学
鑑別疾患
緑内障
治療薬
ラタノプロストチモロールブリモニジン
検査値
眼圧

🧠 全体像は「緑内障になる前段階」ではなく、視神経・視野に異常がないままだけが統計的を超えている状態である。緑内障の項が強調するとおり緑内障はであり、はその対極——が高いだけでを欠く——に位置づけられる。この主題の学習の幹は1本にほぼ集約できる:OHTS(Ocular Hypertension Treatment Study)が、無治療なら5年で約1割が緑内障へ転換すること、点眼治療でその転換率を半分以下に減らせること、そして比・年齢・そのものという4つの危険因子で「誰が転換しやすいか」を予測できることを示した。全員を治療する必要はない——危険因子に応じてリスクを層別化し、治療と経過観察を使い分けるという発想そのものが、このノートの核心である。

定義:緑内障との境界線

は、が統計的な(欧米の慣用では21mmHg)を超えていながら、隅角は開放し、・視野に緑内障性変化を認めない状態を指す1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>が統計的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper limit of normal (ULN)'>正常上限</span>を超える"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic disc'>視神経乳頭</span>・視野に<br>緑内障性変化があるか"}
    B -->|"なし"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular hypertension'>高眼圧症</span>"]
    B -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='POAG'>原発開放隅角緑内障</span>"]
    C --> E{"危険因子の層別化<br>(年齢・角<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane thickness'>膜厚</span>・C/D比・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>)"}
    E -->|"5年転換リスクが低い"| F["経過観察"]
    E -->|"5年転換リスクが高い"| G["点眼治療で転換リスクを低減"]

緑内障がであるという定義に立ち返ると、は「まだになっていない」状態にすぎない。 という一つの数値だけでは緑内障の診断もその除外も成立しないことはの項で述べたとおりで、はこの原則をそのまま体現する概念である。

OHTS(Ocular Hypertension Treatment Study)

の管理はこの1本のにほぼ集約される。 1994年から22施設で開始されたOHTSは、少なくとも一方の眼で24〜32mmHg(僚眼は21〜32mmHg)・視野正常の1,636例を、当初無治療の経過観察群と点眼による下降治療群に無作為けした2

⚠️ 「観察群」は20年間ずっと無治療だったわけではない。 2002年6月〜2008年12月(phase 2)は両群とも点眼治療を受けており、2009年以降は治療がプロトコル規定外になったものの、20年時点でも967例中696例(72.0%)が下降薬を継続していた2。以下の「観察群」「治療群」は、あくまで当初の無作為を指すラベルである。

追跡期間・出典 観察群(当初無治療、2002年以降は治療) 治療群(当初から点眼治療)
5年POAG発症率(OHTS原著、2002年発表) 9.5% 4.4%(約60%減)1
5年POAG発症率(JAMA 2021が同じコホートを再計算した値) 7.7%(95%CI 5.8-9.5) 4.0%(95%CI 2.6-5.4)2
20年POAG発症率 49.3%(95%CI 44.5-53.8) 41.9%(95%CI 37.2-46.3)2

💡 5年時点と20年時点の数字を並べると、この試験が伝えるメッセージの厚みが分かる。 「観察群」は2002年以降に治療へ切り替わっているため、49.3% vs 41.9%という20年の差は「治療する・しない」の差ではなく、「治療開始が早いか遅いか」の差である。それでも早期治療群が一貫して低いことは、「いつ治療を始めるか」が生涯を通じたリスクに影響し続けることを示す。20年発症率は25.2%であった2

危険因子:誰が転換しやすいか

OHTSのベースライン解析は、年齢・・垂直C/D比・視野パターン標準偏差を組み合わせた予測モデルを確立した2

危険因子 内容
555μm未満でPOAG発症リスクが高まる1の項で述べたとおり、薄い角膜はの過小評価)と真の危険因子という二重の意味を持つ
垂直C/D比 大きいほど転換リスクが高い1
年齢 高齢ほど転換リスクが高い1
基礎 24mmHg超で転換リスクが高まる1
人種 アフリカ系はPOAG発症リスクが高く、20年発症率は他人種42.7%に対し55.2%であった2
その他 出血、緑内障家族歴も危険因子として挙げられる3

⚠️ は測定値の解釈と危険因子評価の両方に関わる、でとくに重要なである。 角膜が薄い眼はで実際のを過小評価されやすく、「見た目のはそれほど高くない」でも、角膜が薄ければ真のリスクは過小評価されている可能性がある。

誰を治療するか

と診断された全員に点眼治療を始める必要はない。 OHTS/EGPSのデータに基づく5年POAG式を用いた層別化では、5年転換リスクが15%以上なら治療開始、5%未満なら経過観察、5〜15%は患者と利益・負担を話し合ったうえで個別に判断するという目安がパネルから示されている4。この計算式も年齢・・垂直C/D比・視野パターン標準偏差をとする4

💡 この層別化の考え方は、無治療がデフォルトで「危険因子が重なる例だけ治療対象に上げる」という発想である。 緑内障そのものと違い、は治療しなければ確実に失明へ向かう疾患ではないため、点眼治療の副作用・コスト・の負担と、転換リスク低減の利益を天秤にかけるの典型例になる。

治療

治療を選択した場合の第一選択は、緑内障の治療と同じ抑制・流出促進を狙った点眼薬——などのなどのβ遮断薬、などのα2作動薬——である。

⚠️ 英国NICEガイドライン(NG81、2022年改訂)は、24mmHg超で生涯にわたる視機能障害のリスクがある新規に対し、360°を点眼薬より先に初期治療として提示することを推奨しており5、これは緑内障と共通する。24mmHgという閾値は、OHTSが組み入れ基準の下限(少なくとも一方の眼で24mmHg以上)としていた値と一致する。 SLTを希望しない・不適な場合は点眼薬を第一選択とする。

緑内障との役割分担

緑内障を「同じ病気の軽症・重症」と捉えない。 緑内障はそのものでありはその危険因子の一つにすぎないのに対し、を欠く「危険因子だけがある」状態である。同じ理屈で、緑内障の項が扱うが正常でもが進行する)はの対極に位置する——の数値だけでは緑内障の存在も不在も証明できないという一点に、両者は共通して行き着く。

統計的 高いことが多いが必須ではない(
・視野 正常 緑内障性変化あり
治療の目的 転換リスクの低減(危険因子に応じて個別化) の進行抑制(原則として治療対象)

まとめ

  • は、が統計的を超えながら・視野に緑内障性変化を認めない状態で、緑内障()とは明確に区別される。
  • OHTSは当初のけで5年時点9.5%・4.4%(OHTS原著)というPOAG転換率を示した。「観察群」も2002年以降は治療に切り替わっており(20年時点で72.0%が投薬継続)、20年時点の49.3% vs 41.9%は「無治療かどうか」ではなく「治療開始の早さ」の差である。
  • 危険因子は(555μm未満)・垂直C/D比・年齢・基礎(24mmHg超)・アフリカ系人種などで、これらを組み合わせた5年式がの根拠になる。
  • 目安として5年転換リスク15%以上で治療開始、5%未満で経過観察、5〜15%は個別に判断する。全員を治療する必要はない。
  • 治療を行う場合の薬剤は緑内障治療薬と共通し、NICE(2022年改訂)は24mmHg超で生涯にわたる視機能障害のリスクがある新規に360°SLTを初期治療として提示する5——この閾値はOHTSが組み入れ基準の下限としていた値と一致する。

出典

  1. 1.Ocular Hypertension(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)高眼圧症の定義(視神経・視野に異常のない21mmHg超のIOP)、OHTS(Ocular Hypertension Treatment Study)が眼圧24〜32mmHgの症例を組み入れたこと、5年累積POAG発症率が無治療群9.5%に対し治療群4.4%(相対リスク約60%減)であったこと、危険因子として中心角膜厚555μm未満・大きい垂直C/D比・高齢・24mmHg超の基礎眼圧・アフリカ系人種が挙げられることを確認した閲覧 2026-08-12
  2. 2.Assessment of Cumulative Incidence and Severity of Primary Open-Angle Glaucoma Among Participants in the Ocular Hypertension Treatment Study After 20 Years of Follow-up(JAMA Ophthalmology・2021)OHTSが1994年から22施設で1,636例(眼圧21〜32mmHg)を無治療経過観察群と点眼治療群に無作為割付けしたこと、2002年6月〜2008年12月(phase 2)は両群とも点眼治療を受けたため「観察群」は20年間無治療だったわけではないこと、20年時点で967例中696例(72.0%)が眼圧下降薬を投与されていたこと、この論文自身が再計算した5年累積POAG発症率は観察群7.7%(95%CI 5.8-9.5)・治療群4.0%(95%CI 2.6-5.4)であること(OHTS原著の9.5%/4.4%とは値が異なる)、20年累積発症率は観察群49.3%(95%CI 44.5-53.8)・治療群41.9%(95%CI 37.2-46.3)、20年累積視野障害発症率が25.2%であったこと、予測モデルが年齢・眼圧・中心角膜厚・垂直C/D比・視野パターン標準偏差を用いることを確認した閲覧 2026-08-12
  3. 3.Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2020)緑内障疑い(高眼圧症を含む)の定義が視野障害を伴わない眼圧上昇または視神経乳頭の疑わしい所見であること、POAG転換の危険因子として眼圧・年齢・アフリカ系人種/ヒスパニック系・中心角膜厚・視神経乳頭陥凹・視神経乳頭出血・家族歴・近視が挙げられ、治療方針は個々の危険因子と眼圧水準を総合して決めることを確認した閲覧 2026-08-12
  4. 4.Glaucoma: Calculating the Risk(American Academy of Ophthalmology (EyeNet Magazine)・2006)OHTS/EGPSの5年POAGリスク計算式に基づき、5年転換リスクが15%以上なら治療開始、5%未満なら経過観察、5〜15%は患者と治療の利益・負担を話し合って個別に決めるという専門家パネルの目安が示されていること、この計算式が年齢・眼圧・中心角膜厚・垂直C/D比・視野パターン標準偏差を変数とすることを確認した閲覧 2026-08-12
  5. 5.NICE Guidance: Selective Laser Therapy recommended to treat glaucoma and ocular hypertension(The Royal College of Ophthalmologists・2022)NICE(NG81改訂)が、新規診断の高眼圧症(眼圧24mmHg超、生涯にわたる視機能障害のリスクがある場合)および慢性開放隅角緑内障に対し、点眼薬より先に360°選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)を第一選択として提示すべきとしたことを確認した。nice.org.ukのガイドライン本体は本ノート作成時にWebFetchで403エラーとなり本文を直接確認できなかったため、この二次資料(英国眼科学会)で代替した閲覧 2026-08-12