疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 眼科 · 疾患

色素散布症候群

Pigment dispersion syndrome

別名
色素性緑内障pigmentary glaucomaPDSPG
臓器系
眼科
科目
Medical PhysiologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)
トピック
生理学 8.4:視覚の生理学組織学 17.1:感覚器:眼
鑑別疾患
落屑症候群
続発疾患
緑内障
治療薬
ラタノプロストピロカルピン
検査値
眼圧

🧠 全体像:色素散布症候群は、の裏側がこすれて色素が散る、それだけの現象から始まる。眼にありがちな深いと大きく膨らんだが、瞬きや瞳孔運動のたびに・と擦れ合い、から色素粒子が剥がれ落ちる。⭐ この色素がに積もってを妨げ、が上がった状態が(PG)である——PDSとPGは別の病気ではなく、同じ疾患スペクトラムの手前と先にすぎない。と並ぶ続発の代表格だが、隅角の色素沈着が・均一という点でのまだら状パターンと対照的である。

病態——摩擦が色素を散らし、線維柱帯に積もる

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myopia'>近視</span>眼:深い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>・大きく膨らんだ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>"] --> B["逆<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary block'>瞳孔ブロック</span>:<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>後面が後方へ弯曲"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blink(ing)'>瞬目</span>・瞳孔運動のたびに<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>後面が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zonule of Zinn'>チン小帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>前面と摩擦"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pigment epithelium'>色素上皮</span>から色素粒子が遊離"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>内に色素が散布<br>(PDS)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabecular meshwork'>線維柱帯</span>に色素が沈着・蓄積"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aqueous outflow resistance'>房水流出抵抗</span>が上昇"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic neuropathy'>視神経症</span><br>(PG)"]

⭐ 「逆」がこの病態の起点である。 通常のとは逆に、の後面がに押し当てられて後方へ弯曲することで摩擦が生じる。眼の深い・大きながこの構造をとりやすい12。

💡 PDSとPGの境目は「21mmHg超」ではない——視神経が傷むかどうかである。 ただしPDSからPGへの進行を予測する唯一のリスク因子として報告されているのが21mmHg超であり、5年で10%・15年で15%(生涯リスク35〜50%)がPGへ進行する1。

疫学

  • 西欧ではPGが全緑内障の1〜1.5%を占め、緑内障専門外来の検討では約4%(1/25)に達した12。
  • PGは男女比2:1〜5:1で男性に多いが、PDSは1:1〜2:1と比較的均等——⭐ 男性は30代で発症し、女性はおよそ10年遅れて40代で発症する2。
  • PDS患者の40〜100%に(平均球面度数-3〜-4D)を認め、は5〜10%にとどまる。白人に圧倒的に多い12。
  • でを示し、家族調査では親の36%・兄弟姉妹の50%に所見を認めた報告がある2。

診断:全周性の色素沈着とKrukenberg紡錘

所見 内容
Krukenberg紡錘 に幅0.5〜2.5mm・長さ2〜6mmの垂直楕円形に色素が沈着する。約90%で陽性
欠損 スポーク状に配置。約90%の患者で少なくとも1眼に陽性だが、暗色のでは不明瞭になりうる
に・均一な色素沈着(のまだら状パターンと対照的)
Scheie線(Zentmayer線) 直下に色素が沈着した円形の線

(いずれもStatPearls・EyeWikiによる12)

診断時の平均はPG患者で29mmHg・PDS患者で24mmHgと報告されている2。10%点眼を5分ごとに3回行う試験で色素遊離・の反応性を評価でき、UBMやでは深度の増大やの後方弯曲を確認できる1。

⚠️ 激しい運動がの誘因として知られるが、すべての患者に起こるわけではない。 系統的な観察では多くの患者で運動後の・色素放出は確認されておらず、が大きい2。

治療

段階 内容
薬物療法 などが第一選択で1年時点の下降に最も有効。はの後方弯曲を減らし運動誘発性のを防ぐが、これらの眼ではが最大20%に存在しの頻度も一般人口より高いため、開始前に検査が必須
(LPI) 逆の解除を狙うが、10年のに保護的とする報告と無治療眼と差がないとする報告が併存し、効果は限定的
(SLT) 1・2・3・4年成功率が85%・67%・44%・14%、平均失効時間は約27か月
形成術() 3分の1以上が最終的にを要し、長期の管理は期待しにくい
手術 薬物・レーザー抵抗例に・緑内障ドレナージデバイス植込み。はと同等の成績

(いずれもStatPearls・EyeWikiによる12)

💡 加齢とともに自然に軽快するという、緑内障としては異例の経過をとることがある。 色素遊離が減って隅角の色素沈着が晴れ、が改善してが正常化する「バーンアウト現象」が本疾患に特異的に知られている1。⚠️ それでもが既に進行していれば、が正常化してもは戻らない。 113例を中央値6年追跡した報告では1例・両眼失明1例が生じている2。

まとめ

  • 色素散布症候群(PDS)と(PG)は同一疾患スペクトラムで、眼に多い逆→後面と・の摩擦→色素遊離→への色素沈着→障害という機序で進行する。
  • 好発年齢は男性30代・女性40代(男女比2:1〜5:1)、との関連が強い。PDSからPGへの進行は5年で10%・15年で15%で、21mmHg超が唯一のリスク因子。
  • 診断はKrukenberg紡錘・スポーク状の欠損・均一な隅角色素沈着(のまだら状パターンと対照的)・Scheie線が手がかり。
  • 治療はを第一選択とし、はリスクに注意。SLTの成功率は年数を経るごとに低下し、抵抗例にはを行う。
  • 加齢に伴う「バーンアウト現象」で自然にが正常化することがあるが、既に進行した・は戻らない。

出典

  1. 1.Pigment Dispersion Glaucoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)色素散布症候群(PDS)と色素性緑内障(PG)が同一疾患スペクトラムの異なる段階であり、PDSに眼圧上昇・視野欠損・緑内障性視神経症が加わった状態がPGと定義されること、機序として虹彩後面が水晶体前面・チン小帯と持続的に摩擦することで虹彩色素上皮から色素が遊離し(近視眼に多い深い前房・大きな虹彩による逆瞳孔ブロックが背景にある)、線維柱帯に色素が沈着して房水流出を障害することを確認した(著者Marco Zeppieri・Koushik Tripathy、最終更新2023年8月25日)。疫学として、西欧ではPGが全緑内障の1〜1.5%を占め、男女比が約3:1(2:1〜5:1)で男性に多く好発年齢は30〜50歳であること、PDS患者の40〜100%に近視を認めること、白人に圧倒的に多いこと、PDSからPGへの進行が5年で10%・15年で15%(生涯リスク35〜50%)であること、進行の唯一のリスク因子が眼圧21mmHg超であることを確認した。診断法としてフェニレフリン10%点眼を5分ごとに3回行い色素遊離と眼圧上昇の有無をみるフェニレフリン試験、UBM/前眼部OCTでの前房深度増大・trabecular iris space areaの増大評価、視野検査・OCT(網膜神経線維層)での緑内障性変化の評価があることを確認した。治療についてはレーザー虹彩切開術(LPI)が10年の眼圧上昇に対して保護的とする報告がある一方多くの研究では無治療眼と臨床的差がないとされること、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の1・2・3・4年成功率がそれぞれ85%・67%・44%・14%で平均失効時間が約27か月であること、薬物療法ではプロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト1日1回)が1年時点の眼圧下降に最も有効であったこと、線維柱帯切除術が原発開放隅角緑内障と同等の成績を示すこと、加齢に伴い色素遊離が減少し隅角の色素沈着が晴れて房水流出が改善し眼圧が正常化する「バーンアウト現象」が本疾患に特異的な予後として知られることを確認した。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Pigmentary Glaucoma and Pigment Dispersion Syndrome(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)色素散布症候群が虹彩後面と水晶体前嚢の接触により虹彩色素上皮から色素が放出される状態、色素性緑内障がこれに視神経乳頭陥凹・視野欠損を伴う続発開放隅角緑内障が加わった状態と定義されること、疫学としてニューヨーク市の従業員検診で2.5%に1つ以上の色素散布所見を認め、緑内障専門外来での回顧的検討では患者の約4%(1/25)を占め、ミネソタ州オルムステッド郡の年間診断発症率がPDSで人口10万対4.8・PGで1.4であったこと、PGでは男女比2:1〜5:1で男性優位だがPDSでは1:1〜2:1と比較的均等で、男性は30代・女性はおよそ10年遅れて40代で発症すること、屈折異常は中等度近視(平均球面度数-3〜-4D)が最も多く遠視は5〜10%にとどまること、常染色体優性遺伝で不完全浸透を示し家族調査では親の36%・兄弟姉妹の50%に所見を認めた報告があること、臨床所見としてKrukenberg紡錘(幅0.5〜2.5mm・長さ2〜6mmの垂直楕円形の角膜内皮色素沈着、約90%で陽性)、スポーク状の虹彩透光試験欠損(約90%の患者で少なくとも1眼に陽性)、隅角鏡での全周性・均一な線維柱帯の色素沈着(落屑症候群のまだら状パターンと対照的)、水晶体後嚢赤道部直下のScheie線(Zentmayer線)を確認した。診断時平均眼圧はPG患者で29mmHg・PDS患者で24mmHgであったこと、激しい運動後に眼圧上昇と色素放出が観察されることがあるが系統的観察では多くの患者に起こらないこと、113例のPDS/PG患者を中央値6年追跡した報告で単眼失明1例・両眼失明1例であったこと、治療としてピロカルピンが虹彩の凹陥を減らし運動誘発性の眼圧スパイクを防ぐが、これらの眼では格子状変性が最大20%に存在し網膜剥離の頻度も一般人口より高いため周辺網膜検査が必須であること、アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)は3分の1以上の処置眼で最終的に線維柱帯切除術を要し長期の眼圧管理は期待しにくいこと、薬物・レーザー療法に抵抗する例には線維柱帯切除術や緑内障ドレナージデバイス植込みを検討することを確認した。閲覧 2026-09-08