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Disease Atlas · 眼科 · 症候群

Posner-Schlossman症候群

Posner-Schlossman syndrome

別名
緑内障毛様体炎クリーゼポスナー・シュロスマン症候群緑内障毛様体炎症候群
臓器系
眼科
科目
Medical PhysiologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Medical Microbiology
トピック
生理学 8.4:視覚の生理学組織学 17.1:感覚器:眼微生物学 3/15:ヘルペスウイルス:サイトメガロウイルス
鑑別疾患
Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎単純ヘルペス感染症
合併症
緑内障白内障
治療薬
チモロールブリモニジンアセタゾラミドプレドニゾロンデキサメタゾン
原因微生物
Cytomegalovirus
症状
角膜後面沈着物霧視眼痛角膜浮腫結膜充血
検査値
眼圧

🧠 全体像:この症候群の核心は「炎症の軽さに対してが高すぎる」という一点にある1。内には細胞が数個、も数個しかないのに、だけが40 mmHgを超えて跳ね上がる。⭐ 炎症の量から予想されると、実測のが釣り合わないときに思い出す名前である。 発作は片眼・反復性で、間欠期にはもも正常に戻る2。⚠️ かつて「良性で自然軽快する」とされてきたが、その理解は改まっている——初診時にすでに45%がを併存していたという報告があり、視野と視神経を守る観点では良性疾患として扱えない1。

発作の像

  • 片眼性で、同じ眼に発作を反復する。急な、光の周りに輪がかかる、軽い眼痛や同側頭痛で受診する13。
  • は40 mmHg以上に達しうる1。ウイルス性前部ぶどう膜炎の総説は、急性の前部ぶどう膜炎では軽度のを伴って50 mmHgを超えることが多いと引用している3。
  • ()はごく軽度で、は上皮性の淡いものにとどまる3。
  • 隅角は開放で、⚠️ もも生じない1。瞳孔は円形を保つ3。ただしアジアの集団では・閉塞隅角の報告もある1。
  • 発症は20〜50歳が最多で、診断時の平均年齢は報告により32.6〜58.9歳と幅がある1。総説は30〜60歳・男女比2:1と記載している3。⚠️ 男性優位とされる一方で56.6%が女性だったという報告もあり、性差は確立していない1。
  • 日本とシンガポールではぶどう膜炎診断全体の1.7〜4.3%を占める。フィンランドでは発症率10万人あたり0.4、10万人あたり1.9と、まれな疾患である1。

💡 なぜ「軽い炎症」でがここまで上がるのか。 はで作られ、→瞳孔→を通ってからへ抜ける(生理学 8.4)。本症の主座はそのものの炎症()で、が浮腫を起こして流出抵抗が跳ね上がる1。⭐ 内に浮いている細胞の数ではなく、排水口が腫れているかどうかがを決める。 急性期には中のプロスタグランジン(おそらくプロスタグランジンE)が上昇する1。

角膜後面沈着物の読み方

は形態・分布・色の3軸で読む。本症では次のようになる。

軸 本症での所見
数と大きさ 細かいの沈着物がごく少数。下方内皮に1〜2個という記載がある1。組入基準として「角膜中央の内皮面の小さな白色沈着物」を要求した研究もある2
形態 ⭐ コイン状(中〜大型の灰白色)の沈着物が中央または周辺に少数みられたら、を強く示唆する。総説が引用する報告では90.9%3
分布 内皮全面にびまん性に散る白色沈着物はの像であって本症ではない3

⚠️ 「沈着物が少ない」ことを「軽症」と読まない。 本症で沈着物が乏しいのは疾患の性質であって、の高さとは独立である。

病因:サイトメガロウイルスをどう位置づけるか

からが検出されるのは患者の26〜52%で、・・Helicobacter pylori との関連や、感受性集団における多型も挙げられている1。

⚠️ ここで文献の立場が分かれる。 ウイルス性前部ぶどう膜炎の総説は、急性の反復性性前部ぶどう膜炎こそが「かつてと呼ばれていたもの」であり、という病名でなく急性前部ぶどう膜炎と呼ぶのが正しいと主張している3。一方でStatPearlsは症候群名を保ち、を「最有力の感染性仮説」として扱う1。⭐ 臨床的な含意は「病名をどう呼ぶか」ではなく「をしてを出すかどうか」にある。

陽性であることは、次の点で予後と結びつく。

  • 陽性眼ではが有意に低く、の程度は中ウイルス量と有意に相関する3。
  • 前向きコホート(101例)では、再活性化群46例でのが78.26%(P<0.05)・率が19.46%(P<0.001)であり、潜伏群55例の58.18%・10.86%を有意に上回った2。

診断の進め方

flowchart TD
    A["片眼の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>が急に上昇し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber inflammation'>前房内炎症</span>はごく軽い"] --> B{"隅角は開放か"}
    B -->|"閉塞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shallow anterior chamber'>浅前房</span>・固定<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nausea and vomiting'>悪心嘔吐</span>"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute glaucoma attack'>急性緑内障発作</span>として<br>緊急に対応する"]
    B -->|"開放"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior synechiae'>虹彩後癒着</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral anterior synechiae'>周辺虹彩前癒着</span>があるか"}
    D -->|"あり"| E["他のぶどう膜炎<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary glaucoma'>続発緑内障</span>を検討する"]
    D -->|"なし"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interictal'>発作間欠期</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber inflammation'>前房内炎症</span>が正常化するか"}
    F -->|"しない(持続する炎症)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fuchs heterochromic iridocyclitis'>Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎</span><br>その他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic anterior uveitis'>慢性前部ぶどう膜炎</span>を検討する"]
    F -->|"する"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Posner-Schlossman syndrome'>Posner-Schlossman症候群</span>を疑う"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber paracentesis'>前房水穿刺</span>でウイルス<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>を提出する"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perimetry / visual field testing'>視野検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='optic disc'>視神経乳頭</span>評価で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='glaucomatous optic neuropathy'>緑内障性視神経症</span>の有無を必ず確認する"]
  • ウイルスのは・・を区別するために行う1。
  • ⭐ 発作が治まったことで終診にしない。 と・の評価を組み込む1。

鑑別

鑑別 分かれ目
(緑内障の項) 隅角が閉塞し、中等度したのない瞳孔・・を伴う1
炎症が持続的で発作という形をとらない。沈着物は白色で内皮全面に散る。は慢性経過の合併症であって発作性ではない
性 が下方三角形に並び、とのを伴う
発作の反復ではなく点眼開始からのに沿ってが上がる。⚠️ 本症の治療そのものが原因になりうるので、必ず併存を疑う

治療

は「を下げる」と「炎症を抑える」を同時に、ただし薬剤選択に制限がある。

目的 使う 使わない
下降 などのβ遮断薬、などの、(必要ならの全身投与)1 ⚠️ など(炎症を悪化させる)、⚠️ (を悪化させると考えられる)1
抗炎症 ・点眼を必要なら1日4回で開始し、速やかにする。点眼はのリスクなしに抗炎症作用を得る選択肢1 ステロイドの漫然とした継続

⚠️ を外すという禁忌は、のをそのまま持ち込めないことを意味する。 「が高い=」という反射をこの疾患では働かせない。急性期に中プロスタグランジンが上昇しているという病態理解とも整合する1。

(陽性例)

  • 総説の方針はゲル+ステロイド点眼を第一選択とし、無効例・例には3か月の経口を提示するというものである3。
  • 2%点眼は内濃度が高く、再発が少なく、が少なく、制御も良好とされる1。前向きコホートは1日4回で用い、再活性化の有無にかかわらず8〜9週間の投与を推奨している2。⚠️ この推奨は上海の単一施設・101例の前向きコホートに基づくもので、ガイドラインの推奨ではない。
  • 経口は900 mg 1日2回を2週間以上の導入とし、その後450 mg 1日2回の維持へ移す1。⚠️ であってではないため、中止後に80%が再発する1。⭐ 「抗ウイルス薬で治す」のではなく「抑えている間だけ抑えられている」と理解する。

薬物でを制御できない例には(併用が望ましい)などの手術を検討する1。

合併症と予後

  • ⚠️ が最大の問題である。 初診時にすでに45%が併存していたという報告があり、19研究1173眼のでは統合20%であった1。
  • のが緑内障進行を予測した一方で、発症年齢と発作回数は予測しなかった1。⭐ 「発作の回数が少ないから大丈夫」とは言えない。
  • 前部ぶどう膜炎で最も多い合併症は手術を要するで、次いで下である。後者は慢性のぶどう膜炎そのものとステロイド点眼の双方に由来する3。
  • 細胞の減少、も残存しうる12。
  • 個々の発作は数日から数週で自然軽快しうる1。⚠️ この自然軽快性こそが「良性」という誤った印象を作ってきた。 発作が治まることと視神経が守られていることは別である。

まとめ

  • は、片眼性・反復性のがの軽さと不釣り合いに高いことを核心とする。間欠期にはも炎症も正常化する。
  • 機序はによる流出抵抗の上昇。は40 mmHgを超えうる。隅角は開放で、もも生じない。
  • は細かく少数。⭐ コイン状の沈着物はを強く示唆する(総説が引用する報告では90.9%)。内皮全面の白色はの像で、本症ではない。
  • からが検出されるのは26〜52%。総説には「ではなく急性前部ぶどう膜炎と呼ぶべき」という立場もある。との意義がここにある。
  • ⚠️ 下降にとを使わない。ステロイド点眼は短期にとどめ、の併存を常に疑う。
  • 陽性例には2%点眼(前向きコホートは8〜9週間を推奨)。経口はで、中止後に80%が再発する。
  • ⚠️ 良性疾患として扱わない。初診時に45%がを併存し、での統合は20%。の長さが進行を予測し、発作回数は予測しない。

出典

  1. 1.Posner-Schlossman Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)本症が片眼性の眼圧上昇の反復を特徴とし、その上昇が眼内炎症の軽さと不釣り合いであること、かつて良性とされてきたが現在は視力障害を伴いうると理解されていること、発症年齢は20〜50歳が最多で診断時平均年齢が32.6〜58.9歳と報告により幅があること、日本とシンガポールではぶどう膜炎診断全体の1.7〜4.3%を占めること、フィンランドでの発症率が10万人あたり0.4・有病率が10万人あたり1.9であること、房水からサイトメガロウイルスDNAが検出されるのは患者の26〜52%であること、単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・Helicobacter pylori との関連も挙げられていること、機序が線維柱帯炎による線維柱帯の浮腫と流出障害であり急性期にプロスタグランジン(おそらくプロスタグランジンE)が上昇すること、眼圧が40 mmHg以上まで上がりうること、角膜後面沈着物が細かい非肉芽腫性のもので下方内皮に1〜2個という記載があること、隅角は開放であること(アジアの集団では狭隅角・閉塞隅角の報告もある)、虹彩後癒着と周辺虹彩前癒着を欠くこと、プロスタグランジン関連薬は炎症を悪化させるため、ピロカルピンは線維柱帯炎を悪化させると考えられるためいずれも避けること、ステロイド点眼は必要なら1日4回で開始し速やかに漸減すること、サイトメガロウイルス陽性例に対する経口バルガンシクロビルが900 mg 1日2回を2週間以上の導入後に450 mg 1日2回の維持であること、バルガンシクロビルは静ウイルス的で殺ウイルス的でないため中止後に80%が再発すること、2%ガンシクロビル点眼が前房内濃度を高め再発・内皮細胞減少が少なく眼圧制御が良好であること、初診時に45%が緑内障性視神経症を併存していたこと、19研究1173眼のメタ解析で緑内障性視神経症の統合発生率が20%であったこと、罹病期間の総和が緑内障進行を予測した一方で発症年齢と発作回数は予測しなかったこと、発作は自然軽快しうることを確認した。2024年3月1日最終更新。閲覧 2026-09-03
  2. 2.2% Ganciclovir Eye Drops Control Posner-Schlossman Syndrome Relapses With/Without Cytomegalovirus Intraocular Reactivation(Frontiers in Medicine・2022)Europe PMC経由でPMC8959537の全文XMLを取得して確認した。上海の単一施設で片眼性Posner-Schlossman症候群と診断された101例を対象とした前向きコホートであること、組入基準が軽度・片眼性・非肉芽腫性の前部ぶどう膜炎の反復と著明な眼圧上昇、角膜中央の内皮面の小さな白色の角膜後面沈着物、開放隅角、虹彩後癒着の欠如、後眼部の炎症病変の欠如、発作間欠期に眼圧と前房内炎症が正常化することであったこと、房水/血清アルブミン補正比0.40超を再活性化と定義したこと、再活性化群46例では虹彩の脱色素が78.26%(P<0.05)・内皮細胞減少率が19.46%(P<0.001)であり、潜伏群55例の58.18%・10.86%より有意に高かったこと、2%ガンシクロビル点眼は1日4回で用い、累積治療期間と点眼回数は再活性化群6.50±4.67週・181.70±130.95滴、潜伏群5.95±4.11週・161.89±110.66滴で両群間に有意差がなかったこと、著者らが再活性化の有無にかかわらず8〜9週間の2%ガンシクロビル投与を推奨していることを確認した。⚠️ 出典側の自家撞着:序論では本症で「大型の肉芽腫性角膜後面沈着物」がよくみられると他文献を引用して述べている一方、同論文自身の組入基準は「角膜中央の内皮面の小さな白色の角膜後面沈着物」を要求している。本ノートは組入基準の側を採った。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Viral anterior uveitis(Saudi Journal of Ophthalmology・2022)Europe PMC経由でPMC9811927の全文XMLを自分で取得して確認した(既存 id の再利用だが原文を再取得した)。急性の反復性高眼圧性サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎が「かつてPosner-Schlossman症候群と呼ばれていたもの」であること、単純ヘルペスウイルスが原因という報告も少数あるが大半はサイトメガロウイルスによるため著者らは Posner-Schlossman症候群ではなく急性サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎と呼ぶのが正しいと考えていること、典型的な発症年齢が30〜60歳で男女比2:1であること、毛様充血はごく軽度で角膜上皮浮腫を伴いうること、中〜大型で灰白色のコイン状肉芽腫性の角膜後面沈着物が角膜の中央または周辺に少数みられること、コイン状沈着物のサイトメガロウイルスに対する陽性的中率が90.9%であること(総説が引用する報告値)、あらゆるサイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎で瞳孔は円形を保ち虹彩後癒着を欠くこと、急性サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎では軽度の上皮下浮腫を伴って眼圧が50 mmHgを超えることが多いと総説が引用していること、サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の最も多い合併症が手術を要する続発緑内障で次いで後嚢下白内障であること、サイトメガロウイルス陽性眼では角膜内皮細胞密度が有意に低く、内皮細胞減少の程度が房水中ウイルス量と有意に相関すること、著者らの治療方針がガンシクロビルゲルとステロイド点眼の併用を第一選択とし、無効例・頻回再発例には3か月の経口バルガンシクロビルを提示するものであることを確認した。閲覧 2026-09-03