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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

中心性漿液性脈絡網膜症

Central serous chorioretinopathy

別名
CSCCSCR
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Medical Physiology
トピック
組織学 17.1:眼生理学 8.04:視覚の生理
鑑別疾患
MEK阻害薬関連漿液性網膜症Vogt-小柳-原田病
治療薬
ベルテポルフィン
原因薬剤
プレドニゾロンデキサメタゾン
症状
変視症中心暗点視力低下
画像所見
光干渉断層計

🧠 全体像:は「の血管が漏れやすくなり、その水圧にのポンプが負ける」という一本の機序で説明できる。が厚くが高いpachychoroid(肥厚)という土台の上に、とA型性格・ストレスという2つの誘因が乗ると発症する。多くは数か月で自然に治るの疾患だが、ここがとの決定的な対比点——CSCはステロイドが誘因であり中止で軽快するのに対し、VKHはステロイドで治療する。同じ「」でも、ステロイドへの反応が正反対である。

疫学と危険因子

平均39〜51歳の男性に好発し、男女比は約6:1と男性に大きく偏る(米国Olmsted郡・台湾の人口ベース疫学研究による平均年齢。では「20〜45歳の若年〜中年男性」という発症年齢域も報告されているが、これは複数研究を統合した値であり、実患者集団に基づく平均年齢としては上記の方が裏付けが強い)1。片眼性が一般的だが、自体の変化は最大40%で両眼性にみられる1。

⭐ はあらゆるで確立した危険因子である。 全身投与(経口・静注)だけでなく、点鼻・外用(皮膚)・関節内・・眼周囲注射、さらに臓器移植後の維持療法でも報告されている1。「点鼻薬だから関係ない」とは考えない。

危険因子の系統 具体例
外因性 経路を問わない(全身・点鼻・外用・関節内・・眼周囲)
性格・心理 A型性格、心理的ストレス、うつ、睡眠障害
内因性コルチゾール上昇 Cushing病、妊娠
その他の薬剤 、プソイド、、経口(⚠️ による貯留はCSCとは別の病態として扱う。下記「関連との異同」を参照)
感染・ Helicobacter pylori感染、睡眠時無呼吸、、、GERD、の使用

病態生理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid'>脈絡膜</span>血管の透過性亢進・肥厚<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corticosteroids'>コルチコステロイド</span>・ストレスが誘因)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid'>脈絡膜</span>の炎症性停滞・非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='territory'>灌流域</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venodilation'>静脈拡張</span><br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased hydrostatic pressure'>静水圧上昇</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal pigment epithelium'>網膜色素上皮</span>(RPE)の極性喪失<br>水輸送の方向が逆転"]
    C --> D["RPEの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pump function'>ポンプ機能</span>が透過性亢進に負ける"]
    D --> E["網膜下への漿液性液体貯留<br>=黄斑の限局性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serous detachment'>漿液性剥離</span>"]

やストレスによって血管の透過性が亢進・肥厚し、非の拡張でが上昇する。経路の関与も想定されており、アルドステロン投与が静脈の拡張とうっ血を起こすことが示されている1。この圧にの水輸送ポンプが対抗しきれなくなり、極性を失って輸送方向が逆転することで、網膜下に漿液が貯留する。

急性型と慢性型

急性型 慢性型
定義 の境界明瞭な円形〜卵円形の剥離 液体貯留が6か月を超えて遷延
通常3〜6か月で自然軽快し、80%超が自然に治る1 高齢者・長期ステロイド使用者に多く、未治療での再発率は最大50%
所見 単発のが主体 下方の水疱性剥離、多発性の・漏出、嚢胞様変化
合併症 まれ をで最大23%・で約20%に合併1

画像診断

  • OCT:、帯状のフィブリン沈着、(EDI-OCT)を確認する。は経過観察の主軸になる。
  • :最多のインクブロット型(早期の点状漏出がに拡大)、スモークスタック型(傘状に拡大)、目立たない多発小漏出のの3パターンがある1。
  • :早期にの非灌流を示す、中期に透過性亢進を示すを呈する1。

鑑別

相手 分ける手がかり
は共通だが所見を欠き、非対称のことが多い。ステロイドが誘因で中止により軽快するCSCに対し、VKHは大量ステロイドで治療する——反応が正反対
関連(MEKAR) は共通だがが厚くならない(CSCの肥厚が無い)。両眼性・多発性が典型で、の漏出点もも示さない。下記を参照
・ 高齢・を伴いやすい。EDI-OCTでの厚と所見で区別する
ピット のが液体の入口になる。乳頭所見の確認で区別できる

MEK阻害薬関連漿液性網膜症との異同

⚠️ CSCと関連(MEKAR)は、同じ「黄斑の」に見えて別物である。 やといったの投与中に生じるは、報告によっては「central serous retinopathy様」と呼ばれてきた。原著は、2017年時点で公開されていた第5版の草案にも「central serous retinopathy」「central serous retinal detachment」という項目名が新設されていたと述べており、用語の上でCSCと混同されやすい2。

投与中にを来した25例50眼・313をで解析したは、次の点でCSCと区別できるとしている2。

観点 CSC MEKAR
厚 が病眼にもにも見られ、病態の中核と考えられている ・液体貯留時・消退時のいずれでも有意な変化が無く正常範囲内(例:269.6±15.1 μm 対 貯留時261.5±15.0 μm、p=0.07、32眼)
機能異常が本体。急性期の70〜100%が漏出点に一致する自己蛍光低下を示し、53〜100%にがあるとされる(原著が引用する既報の値) は保たれる。液体はすべて(interdigitation zone)と保たれたのあいだに貯留し、・網膜内浮腫・高反射ドットを認めない
の分布 片眼性・単発が典型 92%が両眼性、77%が多発性(83.3%で少なくとも1がにかかる)
経過 急性型は3〜6か月で80%超が自然軽快するが、6か月を超えて遷延する慢性型があり、未治療の再発率は最大50% 薬剤開始から検出までの中央値14日、消退までの中央値32日。全眼でに消退し、薬剤中止を要さなかった
対応 誘因となったを中止し数か月経過観察、遷延例はPDT・マイクロパルスレーザー 眼科評価と(添付文書に従う)・減量。⚠️ ステロイドはにならない

💡 機序が違うから所見が違う。 CSCは血管の透過性亢進という「下からの圧」が主役で、が厚くなりが破綻して漏出点ができる。MEKARの側は、MAPK(MEK/ERK)経路の抑制でのバリア・水輸送機能が一時的に障害されるという説明が置かれているが、⚠️ この機序は確立していない——原著自身が、根拠となるの1調節の in vitro 研究はむしろMEK阻害では液が貯まらない方向を示唆すること、障害の座がにあるならCSCと同様に多画像での異常が検出されるはずなのに検出されないことを、この仮説の弱点として挙げている2。確実に言えるのはMEKARでは厚が変化しない(CSCの肥厚が無い)ことのほうである。⚠️ 「はCSCの危険因子」という記述(上記の危険因子表)と「MEKARはCSCとは別物」という記述は矛盾しない——前者はCSCの疫学研究で報告された関連であり、後者は薬剤投与中に実際に生じたの画像所見がCSCのそれと異なるという話である。⚠️ 原著の限界も併せて押さえる。 ・自己蛍光で異常を認めなかったという記述は4眼のみの所見であり、「投与例の最大90%に生じる」という数字はこの研究自身の結果ではなく別文献の引用である2。

治療

⭐ 初回発作は、原因と判断されたを中止したうえで数か月の経過観察が基本である1。パイロットなど視機能への要求が高い例、再発例、が慢性CSCで視力を失っている例ではを検討する。

flowchart TD
    A["急性CSCと診断"] --> B["原因薬剤(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corticosteroids'>コルチコステロイド</span>)があれば中止"]
    B --> C{"数か月の経過観察で<br>自然軽快するか"}
    C -->|"軽快する(80%超)"| D["治療不要"]
    C -->|"遷延・再発・視機能要求が高い"| E{"漏出点は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>外か"}
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>外"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laser photocoagulation'>レーザー光凝固</span><br>(マイクロパルスが選好される)"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>下・傍<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>・多発性・慢性"| G["光線力学的療法(PDT)<br>低<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluence'>フルエンス</span>/ハーフドーズ"]
  • PDT(使用)は下・傍・多発性漏出・慢性例に選好され、低PDTは有効性と安全性のバランスに優れる1。
  • は外の漏出にのみ適応があり、瘢痕性や医原性のリスクがあるため、可視を伴わないマイクロパルスレーザーが好まれる1。
  • 急性CSC39眼を対象とした比較試験では、マイクロパルスレーザーとハーフドーズPDTの完全消失率(12か月時83.3% vs 90.5%)・視力転帰に有意差はなかった3。低侵襲なマイクロパルスから検討する選択も妥当という根拠になる。

⚠️ 拮抗薬()は有効性が否定されている。 慢性CSC患者114例を対象とした英国の(VICI試験)は、12か月時の最高でがに優越しないことを示し、著者らは「CSCにを処方している眼科医はこの処方を中止すべきである」としている4。小規模研究での有効性報告があっても、このRCTの否定的結果を上書きしない。

まとめ

  • CSCは血管の透過性亢進がのを上回った結果生じる黄斑ので、平均39〜51歳の男性(男女比6:1)に好発する。
  • はを問わず確立した危険因子。A型性格・ストレスも重要な誘因。
  • 急性型は3〜6か月で80%超が自然軽快するが、慢性型は6か月を超えて遷延しを合併しうる(最大20〜23%)。
  • VKHとはを共有するが、ステロイドへの反応が正反対(CSCは中止で軽快、VKHは投与で治療)という点が最大の鑑別点。
  • 初回は原因薬剤の中止と経過観察が基本。遷延・再発例ではPDT・(マイクロパルス)を検討する。はRCTで有効性が否定されている。
  • ⚠️ 投与中のはCSCと呼ばず、関連(MEKAR)として扱う。 が厚くならず、両眼性・多発性で、が保たれ、多くは薬剤を中止しなくてもに消退する点でCSCと区別できる。

出典

  1. 1.Central Serous Chorioretinopathy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)が網膜色素上皮の機能異常と脈絡膜血管の変化を背景とする黄斑の限局性漿液性剥離であること、Introductionでは「20〜45歳の若年〜中年男性」に好発するとされる一方(メタアナリシスであるLiu 2016を出典とする)、Epidemiology節では米国Olmsted郡・台湾の人口ベース疫学研究(Kitzmann 2008・Tsai 2013)を出典として平均年齢39〜51歳とされていること、男女比が約6:1、片眼性が一般的だが脈絡膜の変化は最大40%で両眼性にみられること、危険因子としてあらゆる経路のコルチコステロイド(全身投与・点鼻・外用・関節内・硬膜外・眼周囲、臓器移植後を含む)が確立した関連を持つこと、A型性格・心理的ストレス・うつ・睡眠障害、ホスホジエステラーゼ阻害薬・プソイドエフェドリン・オキシメタゾリン・経口MEK阻害薬、Helicobacter pylori感染、Cushing病・妊娠による内因性コルチゾール上昇、睡眠時無呼吸・全身性高血圧・全身性エリテマトーデス・GERD・向精神薬(psychopharmacologic medications)との関連が報告されていること、病態として脈絡膜の炎症による停滞・虚血、脈絡膜血管の透過性亢進と肥厚、網膜色素上皮の極性喪失による水輸送方向の逆転、脈絡膜の非灌流域での静脈路拡張による静水圧上昇、鉱質コルチコイド受容体経路(硝子体内アルドステロン投与が脈絡膜静脈の拡張とうっ血を起こす)が想定されていること、OCTで網膜下液・帯状のフィブリン沈着・脈絡膜肥厚がみられること、フルオレセイン蛍光眼底造影の3パターン(インクブロット型が最多で早期に点状漏出が同心円状に拡大、スモークスタック型で傘状に拡大、びまん型で目立たない多発小漏出)、インドシアニングリーン造影で早期の低蛍光(脈絡膜毛細血管板の非灌流)・中期の過蛍光(透過性亢進)を呈すること、急性型は通常3〜6か月で自然軽快し80%超が自然軽快すること、慢性型は6か月を超えて遷延する液体貯留と定義され高齢者や長期ステロイド使用者に多く未治療での再発率が最大50%に達すること、慢性例の脈絡膜新生血管合併がインドシアニングリーン造影で最大23%・OCTアンギオグラフィで約20%とされること、初回発作の多くはストレス軽減・ステロイド中止のうえ数か月経過観察するのが一般的であること、光線力学的療法(PDT)が中心窩下・傍中心窩・多発性漏出・慢性例に選好され低フルエンスPDTが慢性例で有効性と安全性のバランスに優れること、レーザー光凝固は中心窩外の漏出に限り適応でありマイクロパルスレーザーが可視の熱凝固を伴わない選択肢として好まれること、原因と判断されたコルチコステロイドは中止することを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Clinical and Morphologic Characteristics of MEK Inhibitor-Associated Retinopathy: Differences From Central Serous Chorioretinopathy(Ophthalmology・2017)PMC5698142で全文を取得して確認した。転移癌に対しMEK阻害薬を投与中で光干渉断層計により漿液性網膜剥離が確認された25例50眼・313病巣を対象とした単施設後ろ向きコホート研究である。92%が両眼性、77%が多発性、83.3%で少なくとも1病巣が中心窩にかかり、すべての液体貯留はinterdigitation zoneと保たれた網膜色素上皮のあいだに生じ、色素上皮剥離・網膜内浮腫・高反射ドットを認めなかった。脈絡膜厚は基線269.6±15.1μm・液体貯留時261.5±15.0μm(p=0.07、32眼)など、いずれの時点間でも有意差が無く正常範囲内で、著者らはCSCで確立した肥厚脈絡膜(pachychoroid)がMEKARには無いと結論している。薬剤開始から網膜下液の初回検出までの中央値は14日、消退までの中央値は32日で、全眼で自己限定的に消退し薬剤中止を要さなかった。症状は48%の患者にあり最多は霧視、変視症などもみられた。液体貯留時にSnellen視力が基線から2行を超えて低下した眼は無く、消退時には全眼が基線から1行以内であった。DiscussionはCTCAE第5版の草案(2017年3月時点で公開)にcentral serous retinopathy・central serous retinal detachmentという項目名が新設されていたことに触れ、用語上の混同を指摘する。⚠️ CSC側の「急性期の70〜100%が漏出点の自己蛍光低下」「53〜100%に色素上皮剥離」は本研究の結果ではなくDiscussionで引用された既報の値である。⚠️ 蛍光眼底造影で血管異常・充盈欠損・遮蔽・漏出・染色を認めなかったという記述は4眼のみ、自己蛍光正常も4眼のみの所見である。⚠️ 「MEK阻害薬投与例の最大90%に自己限定的な神経感覚網膜剥離が生じる」はDiscussion冒頭で引用文献10の記述として述べられたもので、本研究自身の結果ではない。閲覧 2026-09-08
  3. 3.Subthreshold micropulse laser photocoagulation versus half-dose photodynamic therapy for acute central serous chorioretinopathy(BMC Ophthalmology・2022)急性中心性漿液性脈絡網膜症39眼を対象とした後ろ向き非ランダム化比較試験(サブスレッショルド・マイクロパルスレーザー群18眼、ハーフドーズ光線力学的療法群21眼、平均年齢約38歳・69%が男性)で、網膜下液の完全消失率がマイクロパルスレーザー群で1か月時61.1%・3か月時83.3%・12か月時83.3%、ハーフドーズPDT群で1か月時81.0%・3か月時95.2%・12か月時90.5%となり両群間に有意差を認めなかったこと(P=0.647)、12か月時の最高矯正視力にも有意差がなかったこと(P=0.731)、経過観察中いずれの群にも全身・眼局所の有害事象を認めなかったことを確認した。閲覧 2026-09-07
  4. 4.Eplerenone for chronic central serous chorioretinopathy in patients with active, previously untreated disease for more than 4 months (VICI): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial(The Lancet・2020)英国22施設で行われた未治療期間4か月以上の慢性CSC患者114例(エプレレノン群57例・プラセボ群57例)を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、12か月時の最高矯正視力(モデル化平均)がプラセボ群79.5文字・エプレレノン群80.4文字で調整平均差1.73文字(95%信頼区間 -1.12〜4.57、P=0.24)と有意差がなかったこと、高カリウム血症が両群とも14%(8例)に生じたこと、著者らがエプレレノンはプラセボに対して12か月時点のBCVA改善で優越性を示さず、CSCに対してエプレレノンを処方している眼科医はこの処方を中止すべきだと結論したことを確認した。閲覧 2026-09-07