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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

増殖性硝子体網膜症

Proliferative vitreoretinopathy

別名
PVR
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
発生学 19.2:眼:網膜・虹彩・毛様体
関連疾患
急性網膜壊死網膜剥離
症状
視力低下

🧠 全体像:増殖性症(PVR)は、という「穴が開いて水が入り込む」受動的な病態の上に、(RPE)細胞が性質を変えて増殖・収縮するという能動的な病態が重なったものである。⭐ RPE細胞が上皮としての接着を捨ててのように振る舞い始め、瘢痕のような膜を張って網膜を引っ張る——これが復位手術を難治化させる最大の原因になる。PVRを合併したは手術成功率が69〜75%まで落ち込み、非合併例の98%と大きな差がつく1。⚠️ 2026年時点で承認された薬物療法は無く、治療は依然として外科的な膜除去に限られる。

病態——RPE細胞が「別の細胞」になる

PVRの中核は、(RPE)細胞の(EMT)である。・剥離によってにさらされたRPE細胞はを失い、のタンパクを持つへと形質転換し、剥離網膜の両面と後部の上に膜を形成する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal tear'>網膜裂孔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal detachment'>網膜剥離</span><br>(まれに外傷・ぶどう膜炎)"] --> B["RPE細胞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous cavity'>硝子体腔</span>にさらされる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epithelial-mesenchymal transition (EMT)'>上皮間葉転換</span>(EMT)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='intercellular adhesion'>細胞間接着</span>を失い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>化"]
    C --> D["剥離網膜の両面・後部<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous membrane'>硝子体膜</span>上に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrocyte'>線維細胞</span>膜(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative membrane'>増殖膜</span>)が形成される"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative membrane'>増殖膜</span>が収縮し網膜を牽引"]
    E --> F["網膜が硬く動かなくなる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fold'>皺襞</span>・短縮)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traction'>牽引性</span>の再剥離・復位手術の失敗"]

💡 EMTには複数のが関与する。 (SMAD依存・非依存の両経路)を中心に、Wnt/β-catenin・NOTCH・/AKT・MAPK(p38・ERK・JNK)・/STAT・Rho/ROCKといった経路が絡み合ってRPE細胞のEMTを駆動する1。⚠️ 単一の経路を止めれば防げるという単純な病態ではない。

⭐ 手術後の成功率を左右する最大の因子がPVRである。 PVRを合併したの手術成功率は69〜75%にとどまり、合併のないの98%と比べて大きく低下する1。

分類——Grade A〜Dで「膜がどれだけ硬く縮んだか」を表す

PVRのは、1983年のRetina Society分類が土台になっている2。

Grade 所見
A と色素沈着
B 網膜・の
C(C1〜C3) 全層の網膜ヒダ。侵された数で細分
D(D1〜D3) 4にわたる固定。の形態で細分

1991年の改訂版はGrade A・Bをそのまま維持しつつ、Grade Cをより後方(CP)・前方(CA)に区分し、侵された範囲を時計時間(1〜12)で、病変の性状をfocal(限局)・diffuse(びまん性)・subretinal(網膜下)などのtypeで記載する形式に改めた2。

💡 臨床で最もよく使われるのは改訂(1991年)版である。 2016年時点の文献調査では、改訂版の使用が56.3%、原1983年版が33.9%、別系統のSilicone Study分類が3.8%だった2。「Grade C」とだけ言われたら、どちらの版の基準かを確認する。

原因になりうる疾患

を伴うが最も多い誘因だが、外傷やぶどう膜炎に伴う強い炎症も引き金になりうる。(ARN)は壊死網膜と健常網膜の境界に裂孔を作るだけでなく、早期から強い増殖性症とを伴うことが多いとされ、通常のよりも難治化しやすい代表例である。

治療

⚠️ 薬物療法で確立したものは無い。 副腎皮質ステロイド・・・メトトレキサート・など複数の薬剤が研究されてきたが、いずれもまで進んでおらず、PVRの予防・治療に正式承認された薬剤は存在しない1。

⭐ 現時点で唯一の治療は、によるの外科的除去である1。牽引を解除し網膜を復位させたうえで、やガスによるタンポナーデで固定するのが実地の骨格になるが、除去してもなお手術成功率が非合併例より20〜30ポイント低いという数字が、この病態の難治性を物語っている1。

まとめ

  • PVRは、などでにさらされたRPE細胞が(EMT)を起こして化し、の膜を作って網膜を牽引する病態である。を中心に複数のシグナル経路が関与する。
  • ⭐ 手術の成功率を最も下げる因子で、PVR合併例は69〜75%、非合併例は98%と差が大きい。
  • 重症度は1983年Retina Society分類(Grade A〜D)とその1991年改訂版(Grade Cを前方/後方・時計時間で細分)で表し、現在は改訂版が主流(使用率56.3%)である。
  • は早期から強いPVRを伴いやすい代表的な誘因である。
  • ⚠️ 承認された薬物療法は無く、治療はによるの外科的除去に限られる。

出典

  1. 1.From fibrotic mechanisms to clinical translation: the drug therapy revolution and delivery system breakthrough in proliferative vitreoretinopathy(Frontiers in Immunology(Chen Z, Liu J, Quan L, Wu L, Xu Q)・2026)PMC全文(PMC12929120)で確認した。網膜色素上皮(RPE)細胞が細胞間接着を失い上皮間葉転換(EMT)を起こして筋線維芽細胞へ形質転換し剥離網膜の両面と後部硝子体膜上に線維細胞膜を形成することがPVRの中核病態であること、EMTにはTGF-β(SMAD依存・非依存経路)・Wnt/β-catenin・NOTCH・PI3K/AKT・MAPK(p38・ERK・JNK)・JAK/STAT・Rho/ROCKなど複数のシグナル伝達経路が関与すること、PVRを合併した網膜剥離の手術成功率が69〜75%にとどまり非合併例の98%と比べて低いこと、現在も硝子体手術によるPVR膜の外科的除去が唯一の治療選択肢であること、副腎皮質ステロイド・5-FU・低分子ヘパリン・メトトレキサート・トリアムシノロンなど複数の薬物療法が研究されてきたが臨床応用に進んだ薬剤は無く2026年時点でPVRの予防・治療に正式承認された薬剤は存在しないことを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Classifications for Proliferative Vitreoretinopathy (PVR): An Analysis of Their Use in Publications over the Last 15 Years(Journal of Ophthalmology(Di Lauro S, Kadhim MR, Charteris DG, Pastor JC)・2016)PMC全文(PMC4939352)で確認した。1983年のRetina Society分類がGrade A(硝子体混濁と色素沈着)・Grade B(網膜皺襞・血管蛇行)・Grade C(全層網膜ヒダ、侵された象限数によりC1〜C3)・Grade D(4象限固定皺襞、漏斗形態によりD1〜D3)からなること、1991年の改訂Retina Society分類がGrade A・Bを維持しつつGrade Cを赤道部より後方(CP)・前方(CA)に区分し侵された時計時間(1〜12)と病変のtype(focal・diffuse・subretinalなど)で記載する形式に改めたこと、2016年時点の文献調査で改訂(1991年)分類の使用が56.3%、原1983年分類の使用が33.9%、Silicone Study分類の使用が3.8%であったことを確認した。閲覧 2026-09-07