疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 眼科 · 症候群

UGH症候群

Uveitis-glaucoma-hyphema syndrome

別名
ぶどう膜炎・緑内障・前房出血症候群Ellingson症候群UGH syndrome
臓器系
眼科
科目
Medical PhysiologyMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
生理学 8.4:視覚の生理学解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼
鑑別疾患
眼内炎
合併症
水疱性角膜症黄斑浮腫硝子体出血
関連疾患
白内障緑内障
症状
角膜後面沈着物前房出血急性前部ぶどう膜炎霧視眼痛羞明結膜充血
検査値
眼圧
画像所見
嚢胞様黄斑浮腫

🧠 全体像:は病気が自然に生まれたものではなく、がの裏側をこすり続けることで人間が作ってしまう医原性の症候群である。原因が「機械的な」という一点にあるので、そこから三徴がまっすぐ導ける——擦れてが壊れればぶどう膜炎、隅角の血管が繰り返し傷つけば前房出血、炎症細胞・色素・血液がを目詰まりさせれば(緑内障)。⭐ したがって根治は薬ではなくレンズの整復・入れ替えであり、を止めない限り点眼はすべて対症療法にとどまる。

定義と歴史

1978年のEllingsonの原記載に由来し、とも呼ばれる1。三徴はぶどう膜炎・緑内障・前房出血だが、⚠️ 三徴が揃わないほうが普通である。 を伴うものをUGH plus、ぶどう膜炎を欠きとの間に出血するだけのものをIPUGHと呼び分ける2。

⚠️ 「古典的なUGH」と「現代のUGH」は像が違う。 閉ループ型レンズを主因としたは、の設計と手術手技の近代化により発生が減った。一方で現在は、のが増えたことと並行して再び増えており、原記載とは異なって・UGHに結びつけられないまま扱われる・再発性のという形で現れうる1。

原因となる眼内レンズの位置と設計

原因 なぜ擦れるか
旧世代の型レンズ(閉ループ型) 縁の仕上げが粗く、の流れで動いて隅角・を削る。歴史的な最多の原因
に置かれた1ピースアクリルレンズ 用の太く角ばったが後面に接する。現代で最も実務的に重要
・ 固定部位そのものがぶどう膜組織に接する
嚢外に落ちた・偏位した/したレンズ 本来触れないはずの面が・に当たる2

💡 に置くなら後方に角度のついたを選ぶ、というのが同じ機序から導かれる予防原則である。嚢が破れてを諦めるとき、手元にある1ピースレンズをそのまま溝に置くと数年後にこの症候群を作る。

病態:擦過から三徴へ

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular lens'>眼内レンズ</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>後面・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ciliary body'>毛様体</span>を<br>反復して<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>する"] --> B["ぶどう膜組織の機械的損傷<br>色素の遊離・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris'>虹彩</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transillumination defect'>透見欠損</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood-aqueous barrier'>血液房水柵</span>の破綻"]
    C --> D["前部ぶどう膜炎"]
    A --> E["隅角・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris root'>虹彩根部</span>の血管の反復損傷"]
    E --> F["前房出血(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microhemorrhage'>微小出血</span>のことが多い)"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trabecular meshwork'>線維柱帯</span>が炎症細胞・色素・<br>赤血球で目詰まりする"]
    F --> G
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary glaucoma'>続発緑内障</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glaucomatous optic neuropathy'>緑内障性視神経症</span>"]

⚠️ 三徴の因果は「→炎症・出血→」の向きである。 がぶどう膜炎や前房出血を生むのではない。この向きを取り違えると、だけを下げて原因を放置する治療になる。

臨床像

  • から数週〜数か月後、あるいはもっと遅れて、反復する・眼痛・・充血のエピソードとして現れる2。現代型では発症までの期間が長く、14眼の連続例ではから発症までの中央値が7.5年だった3。
  • では、部位に一致したの、細胞、、、微小〜肉眼的な前房出血、レンズの()をみる2。
  • ⭐ 三徴の揃い方は一定しない。 上記14眼では術前にぶどう膜炎13眼・13眼に対し、前房出血は6眼にとどまった3。「前房出血が無いからUGHではない」とは言えない。

診断:レンズがどこに触れているかを画像で見る

  • ⭐ (UBM)が最も信頼できる。 の裏側というで見えない場所で、とが周囲組織のどこに接しているかを直接描出できる2。
  • は隅角構造の観察に、は上の血液との位置の確認に、はのの評価に用いる2。
  • を忘れない。 現代型はとして現れることがあり、の説明がだけでは付かない12。眼底が透見できないほどのがあればB-mode超音波を併用する。

鑑別は、による、慢性術後、凝固異常・鎌状赤血球症などのである。⚠️ 小児例ではを落とさない(に前房出血で現れることがある)2。⚠️ 歴があるというだけで本症と決めない——ステロイド点眼だけでよく反応する術後ぶどう膜炎とは、エピソードを反復するかと画像でレンズの接触が確認できるかで分ける。

治療

内科的治療で炎症とを抑え、そのものは手術で止める、という二段構えになる。

  • ステロイド点眼で炎症を、点眼・全身投与のでを制御する。による疼痛には()を併用する2。⚠️ 狙いは瞳孔を開くことではなくを麻痺させることである。
  • ⚠️ などのを使わない。 一般的な緑内障ではを助ける薬だが、本症ではの収縮がとレンズのをかえって増やす2。「が高いから」という反射がそのまま害になる数少ない場面である。
  • 根治はの整復・入れ替え・摘出(必要ならの切断)で、内科的治療に抵抗する例、進行する例に行う21。現代型14眼の報告では、手術により(小数)が0.45から0.76へ、が26.4 mmHgから14.7 mmHgへ改善し、緑内障点眼は1.7剤から0.8剤へ減り、ぶどう膜炎と前房出血は全例で消退した3。

合併症

放置した場合の到達点は、が続くことで起こる不可逆な変化である2。

  • :遷延する前房出血とが重なると起こり、いったん生じると戻らない。
  • 偽性:のがの破綻に至る。
  • :が続けば視野が不可逆に失われる。
  • ・・。

まとめ

  • は、偏位・したが後面やを反復してすることで生じる医原性の症候群である。
  • 三徴(ぶどう膜炎・緑内障・前房出血)は「→炎症と出血→の閉塞→」という一方向の連鎖で、揃わないことのほうが多い。
  • は閉ループ型レンズによるもので設計の近代化とともに減り、現代型はの1ピースレンズやを背景に、・・再発性として遅れて現れる。
  • 診断はUBMでと周囲組織の接触を直接確認することが中心で、・・を併用する。
  • 内科的治療は対症的で、はを増やすため避ける。根治はの整復・入れ替えであり、手術により視力・・点眼数の改善が報告されている。

出典

  1. 1.Current Concepts of the Uveitis-Glaucoma-Hyphema (UGH) Syndrome(Current Eye Research・2023)古典的なUGH症候群が前房型眼内レンズに伴うもので眼内レンズ設計と手術手技の近代化により発生が減ったこと、一方で現在のUGH症候群は眼内レンズの晩期脱臼とその治療手技の増加と並行して増えていること、現代の臨床像がEllingsonの1978年の原記載と異なり嚢胞様黄斑浮腫・UGHに帰されにくい眼圧上昇・再発性の硝子体出血として現れうること、炎症の制御・眼圧下降・出血傾向の是正が治療の柱であり、眼内レンズの整復または入れ替えは内科的治療に抵抗するか進行する例に限るべきだと述べていることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Uveitis Glaucoma Hyphema Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)UGH症候群(Ellingson症候群)が偏位・亜脱臼した眼内レンズによる虹彩・毛様体の反復性機械的外傷で生じること、閉ループ型など仕上げの粗い旧世代の前房型レンズ、毛様溝に固定された1ピースアクリルレンズ、強膜固定レンズ、虹彩支持レンズ、嚢外に置かれた・偏位したレンズが原因になること、機械的外傷が血液房水柵を破綻させてぶどう膜炎を生じ隅角への反復外傷が再発性前房出血を来すこと、術後数週から数か月後の反復する霧視・眼痛・羞明・充血で受診すること、細隙灯所見として虹彩の透見欠損・角膜浮腫・角膜後面沈着物・微小前房出血・偽水晶体振盪がみられること、超音波生体顕微鏡がハプティクスと光学部の位置および周囲組織との関係を確認できる最も信頼性の高い検査であり前眼部OCT・隅角鏡・鏡面顕微鏡・黄斑OCTを併用すること、眼圧下降薬・ステロイド点眼・毛様体痙攣に対する散瞳薬が内科的治療でありピロカルピンなどの縮瞳薬は擦過を増やすため避けるべきであること、内科的に炎症が抑えられなければ眼内レンズの入れ替え・摘出・整復・ハプティクス切断を行うこと、合併症として遷延する前房出血による角膜血染・内皮障害からの偽水晶体性水疱性角膜症・眼圧上昇による視神経障害・硝子体出血・嚢胞様黄斑浮腫・後癒着があること、鑑別に鈍的外傷・虹彩ルベオーシスを伴う炎症性緑内障・慢性術後眼内炎・凝固異常・鎌状赤血球症・網膜芽細胞腫が挙げられることを確認した。2024年2月29日最終更新。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Surgical management of uveitis-glaucoma-hyphema syndrome(International Journal of Ophthalmology・2020)閉ループ型前房レンズによらない現代型UGH症候群で眼内レンズの整復または入れ替えを受けた偽水晶体眼14眼の後ろ向き検討で、白内障手術から発症までの期間の中央値が7.5年であったこと、術前にぶどう膜炎を13眼・眼圧上昇を13眼・前房出血を6眼で認めたこと、最良矯正視力(小数)が0.45±0.26から0.76±0.22へ(P=0.016)、眼圧が26.4±4.5 mmHgから14.7±4.9 mmHgへ(P=0.01)、緑内障点眼数が1.7±1.1剤から0.8±1.08剤へ(P=0.04)改善し、ぶどう膜炎と前房出血は全例で消退したことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03