症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

急性前部ぶどう膜炎

Acute anterior uveitis

別名
前部ぶどう膜炎虹彩毛様体炎虹彩炎AAU
臓器系
眼科免疫・膠原病
科目
Internal MedicinePathophysiologyImmunology
トピック
内科学 S-48:血清反応陰性脊椎関節炎病態生理学 1-32:自己免疫性関節疾患:関節リウマチと強直性脊椎炎免疫学 9.4:HLAタイピング
関連疾患
炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)強直性脊椎炎若年性特発性関節炎体軸性脊椎関節炎反応性関節炎
スコア
ASAS分類基準国際Behçet病基準

🧠 全体像は「赤い眼」の緊急鑑別における主役の一つであり、その本質は急性・片側性・反復性というと左右差にある。患者のおよそ半数がHLA-B27陽性で、と機序を共有する。同じ「前部ぶどう膜炎」でも(JIA)でみる慢性型は正反対の顔——・両側性・無症候性——を持ち、この対比を知らないと「ぶどう膜炎だから同じように扱えばよい」という誤りに陥る。診療の骨格は、など見た目が似た他の眼科緊急疾患を除外し、内の炎症を確認したうえで、当日の眼科紹介に乗せることにある。

定義と用語の整理

  • ぶどう膜炎はぶどう膜()の炎症の総称で、SUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)分類は炎症の主座がどこにあるかで前部・・後部・の4つに分ける1
  • 前部ぶどう膜炎は扁平部を主座とする炎症で、旧来「」「」と呼ばれてきたものとほぼ同義である。frontmatterの別名にある2語はこの旧称にあたる。
  • 活動性の評価も標準化されており、内の細胞数(0〜4+)とフレア(蛋白漏出による、0〜4+)をSUN基準に沿って記載する1。数値化することで、経過中に悪化しているか改善しているかを主観でなく追える。
  • 急性とは発症が突然で、活動性の経過が3か月以内に消退する病型を指す。3か月を超えて持続する、あるいは治療中止後3か月以内にするものは「慢性」に分類される。

急性型と慢性型の対比

同じ「前部ぶどう膜炎」でも、と臨床像が対照的な2つの型がある。ここではHLA-B27関連の急性型と、JIAでみる慢性型を対比する。

項目 (本ノート) JIAの
危険因子 HLA-B27陽性、成人男性に多い ANA陽性、7歳未満発症、女児
経過 急性・片側性・反復性 ・両側性になりやすい
症状 眼痛・充血が強い ほぼ無症候性
発見契機 患者自身の訴え 定期スクリーニングのみ
視力予後 適切な治療で比較的良好 無治療でを経て・失明

⚠️ この対比を取り違えると、無症候性の慢性型を見逃す。 急性型は患者が痛みを訴えて受診するため見逃しにくいが、JIAの慢性型は症状がないまま進行し、定期的なでしか発見できない。の枠組みで「症状がなければ大丈夫」と考えると、慢性型のスクリーニングの必要性を見失う。

病態生理

前部ぶどう膜炎を起こす機序は、大きく4群に分けられる。

  • HLA-B27関連などHLA-B27関連に共通する。HLA-B27分子の誤った折りたたみによる、またはをCD8⁺T細胞へ提示する機序がIL-23/Th17経路を介した炎症へ合流すると考えられ、・付着部・腸管とともに、ぶどう膜という粘膜面に近い組織が炎症の主座になる。
  • 感染性による水痘・帯状疱疹角膜ぶどう膜炎、梅毒結核など、病原体が眼内へ波及するか免疫反応を誘発する。
  • など、性疾患のとして生じる。
  • ・特発性後の炎症反応、あるいはとの関連を認めない特発性のものがあり、HLA-B27陰性例の一部を占める。

💡 これらの機序は排他的ではない。HLA-B27陽性であっても初発時に感染性の除外は必須であり、「HLA-B27陽性だから感染性は考えなくてよい」という判断は誤りである。

⚠️ 見逃してはいけない病態

危険度の高い順に並べる。

  • ⚠️ との切り分けが最優先。 いずれも「赤い眼」で受診し、なしでは前部ぶどう膜炎と紛らわしい。によるそのものが視神経を不可逆的に傷めるため測定を急ぎ、感染性角膜炎は病原体そのものへの治療が必要でステロイド点眼が禁忌になりうる。この3つを除外できて初めて、前部ぶどう膜炎としてのに進める。
  • ⚠️ ぶどう膜炎そのものの合併症も危険度で並べる。 炎症によりに癒着するを介したへ進み、放置すれば不可逆的なを残す。、慢性・反復例ではも視力予後を左右する。いずれも炎症を抑えれば自然に治るものではなく、癒着やの兆候を測定で追う。
  • ⚠️ の初発症状でありうる。 の後眼部病変(後部・)は視力予後にかかわる緊急病態であり、梅毒・結核によるはそれぞれのの初発症状として現れることがある。片側性・典型的なの初回発作をすべて全身精査に回す必要はないが、両側性・腫性・非典型・再発性であれば、これらのを必ず考慮する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["赤い眼で受診"] --> B{"疼痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>を伴うか"}
    B -->|"なし"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>炎など軽症疾患を優先して評価"]
    B -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp examination'>細隙灯検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber cells'>前房内細胞</span>・フレアを確認"]
    D -->|"陰性"| E["角膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sclera'>強膜</span>など他の原因を検索"]
    D -->|"陽性"| F{"片側性・急性・非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>腫性か"}
    F -->|"はい(初回・典型例)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute anterior uveitis'>急性前部ぶどう膜炎</span>として<br>局所治療を開始、全身検索は必須でない"]
    F -->|"いいえ(再発性・両側性・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation'>肉芽</span>腫性・非典型)"| H["HLA-B27・胸部画像・<br>梅毒/結核検査などの全身検索へ"]
    G --> I{"再発を繰り返すか"}
    I -->|"はい"| H

対応の考え方

  • 眼科への当日紹介が原則。 非眼科医がなしで前部ぶどう膜炎を確定させることはできず、という眼科緊急疾患の除外も眼科での評価を要する。
  • 治療の主軸は局所ステロイド点眼の併用である。ステロイドは炎症そのものを抑え、の予防と痙攣による疼痛の緩和を目的とする2
  • ⚠️ ステロイド点眼を開始する前に、・帯状疱疹による角膜炎を除外する()。 未診断のまま角膜病変にステロイドを使うとヘルペス角膜炎を悪化させうる3なしにステロイド点眼を処方しない。
  • 非眼科医が単独で診断・処方を担い続けるべき疾患ではない。初期対応で点眼を開始した場合も漫然と継続せず、速やかに眼科へ引き継ぐ。
  • 再発性でHLA-B27関連のを伴う例では、TNF阻害薬の中でもモノクローナル抗体型を優先する方針が現行のASAS-EULAR勧告に沿う4など)はぶどう膜炎の再発抑制効果に乏しいとされ、選択が分かれる点はと地続きである。

まとめ

  • は急性・片側性・反復性という経過が本質で、JIAの慢性・無症候性・両側性の前部ぶどう膜炎とは対照的な臨床像を持つ。
  • はぶどう膜炎を炎症の主座で前部・・後部・汎の4型に分け、とフレアを標準化した基準で数値化して活動性を追う。
  • 機序はHLA-B27関連・感染性・/特発性の4群に分けられ、HLA-B27陽性でも感染性の除外は必須である。
  • 最優先で除外すべきはであり、ぶどう膜炎自体の合併症()も危険度で評価する。
  • 眼科への当日紹介が原則で、治療は局所ステロイド点眼+が主軸だが、開始前に・帯状疱疹角膜炎をで除外する。
  • 再発性でHLA-B27関連のを伴えばTNFモノクローナル抗体を優先する。

出典

  1. 1.Standardization of uveitis nomenclature for reporting clinical data. Results of the First International Workshop(Standardization of Uveitis Nomenclature (SUN) Working Group・2005)ぶどう膜炎の解剖学的分類(前部・中間部・後部・汎ぶどう膜炎)は炎症の主座がどこにあるかで決まり、前部ぶどう膜炎は虹彩・毛様体扁平部を主座とする炎症であることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Acute anterior uveitis and HLA-B27(Survey of Ophthalmology・2005)HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎は片側性・交代性の非肉芽腫性ぶどう膜炎として発症する例が9割以上を占め、初回発作後も再発を繰り返しやすいことを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Herpes Simplex Virus Keratitis: A Treatment Guideline(American Academy of Ophthalmology (Ocular Microbiology and Immunology Group)・2014)未診断のまま角膜病変に副腎皮質ステロイドを使用すると単純ヘルペス角膜炎を悪化させうるため、上皮病変の評価で除外してから開始する必要があることを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.ASAS-EULAR recommendations for the management of axial spondyloarthritis: 2022 update(ASAS / EULAR・2022)反復するぶどう膜炎を伴う体軸性脊椎関節炎では、TNF阻害薬の中でもモノクローナル抗体型を優先することを確認した。閲覧 2026-08-02