免疫学

免疫学 · 9.4

HLAタイピング

HLA typing

タグ
W13Seminar / 演習
応用トピック
同種造血幹細胞移植血清反応陰性脊椎関節炎血清反応陰性脊椎関節炎小児の移植医療移植の基本概念・脳死・適応・免疫抑制
疾患
移植片対宿主病体軸性脊椎関節炎
症状
急性前部ぶどう膜炎
検査値
HLA-B27

🧠 タイピングは「血清型と遺伝子型は必ずしも一致しない」という一点を軸に読む。 血清学的に同じ「DQ2」であっても、分子遺伝学的には-DQB10201+-DQA10501という特定のアレル対応を意味し、はより高精度な法の登場に合わせて2年ごとに更新される。は移植適合性判定・自己免疫疾患感受性の両方において中心的な役割を果たす。

MHC-I・MHC-IIの復習

MHC-I MHC-II
発現細胞 すべての 表面
構成 + +
提示する抗原
提示先 CD8+ Tc細胞 CD4+ Th細胞
主な機能 細胞傷害性の誘導 免疫系の活性化

MHC遺伝子座の構成

第6染色体上に、MHC-I領域(-A, -B, -C、およびな-E, -F, -G, -H, -J, -X)、MHC-II領域(-DP, -DQ, -DRのα・遺伝子群)、MHC-III領域(古典的のC4A・C4B・Factor B・C2遺伝子、HSP-70、LTなどの非MHC様遺伝子)が並ぶ(04-1-antigen-presentation-and-mhcs参照)。

同定されているアレル数はMHC-Iで約6,919、MHC-IIで約1,875にのぼる。

⚠️ このアレル数は収載時点のスナップショットであり、現在は桁が1つ違う。 IPD-IMGT/データベースは2026年時点で、 因子委員会が承認した47遺伝子・43,000を超える固有のアレルを収載している1。講義で示される具体的な数字は「その版での数」であって覚える対象ではない——はヒトゲノム中で最も多型に富む(超多型 hyperpolymorphic と呼ばれる)遺伝子群であり、数は増え続けているという性質のほうを覚える。

⭐ (個体レベル)×(集団レベル)×という3つの掛け算は既に学んだ通り。 一遺伝子座内での組換え(crossing over)を伴う一倍型遺伝はきわめて稀——通常、父方・母方それぞれの第6染色体由来のMHC一倍型がセットで遺伝する。各個人は、異なるペプチド結合能をもつ固有のMHC「プール」を持つことになる。

HLAタイピングの意義

多型バリアント()の決定は、①移植におけるドナー・組織適合性関係、②組織適合抗原に対する感作の程度、③免疫疾患への素因となる一倍型(例:-DQB10201+-DQA10501)の同定、という3つの目的で行われる。

血清型 vs 遺伝子型

定義
血清型 MHC分子をの違いで区別する
遺伝子型 MHC分子をコードするアレルの同定により区別する

💡 異なる遺伝子型が必ずしも異なる血清型を生むわけではない——アレル数の方が血清学的に区別できる型よりずっと多いため。 には限界があり、複数の異なるアレルが同一の血清型として現れることがある。

HLA命名法

時代
旧 血清学的マーカーに基づく。+大文字で遺伝子座を示す(例:-A, B, C、-DR, DQ, DP)。アレルは数字で区別(例:、-B7)
新 +大文字+4桁数字(例:-B0801)。より新しい遺伝子タイピング法の精度向上に合わせ2年ごとに更新される

の(例:-DQB1*02:01): 遺伝子名(-DQのをコード)→アレル群名→特定のアレル(アレル群内の特定ヌクレオチド配列、-DQ1型タンパクのの違いに対応)。血清学的には「DQ2」という1つの型でも、分子遺伝学的にはHLA-DQB1*0201+HLA-DQA1*0501という具体的なアレルの組み合わせを意味する。

💡 HLA-A*02:01:01:01 の4つのフィールドは、それぞれ違う階層の違いを表す。 1987年の報告で導入された4桁コードに桁が足され続けた結果アレル名が桁あふれしかけたため、2010年4月にフィールドをコロンで区切る表記へ移行した(A*01010101→A*01:01:01:01、B*0808N→B*08:08N。上の表の「-B*0801」はこの改訂前の書き方で、現行では B*08:01)2。

  • 第1フィールド(02)=アレル群。多くはそのが担う血清型に対応する
  • 第2フィールド(:01)=コードするタンパクのが変わる置換の違い。ここまでが「4桁」で、移植適合性の議論で意味を持つ単位
  • 第3フィールド(:01)=コード領域内ののみの違い(タンパクとしては同一)
  • 第4フィールド(:01)=イントロン・5’/3’の多型のみの違い

末尾に付く N(発現しない null アレル)・L(低発現)などの接尾辞は、発現の有無・量を表す。

HLAタイピングの手法

分類 手法 特徴
血清学的・細胞学的手法 マイクロサイトトキシシティ試験(Terasaki法)、クロスリアクション(PRA:パネル反応性抗体)、 旧来の。安価・迅速だが分解能が低く、生細胞・大量の血液を要し、稀な抗原に対する抗血清の入手が困難
RFLP、、配列特異的プライマー、、(まれにしか使われない) より特異的(明確に定義されたプローブ・プライマー)、より柔軟(新規アレル記載後すぐに新しいプローブ・プライマーを設計できる)、患者の生細胞の状態に依存しにくい

Terasaki法: 同一パターン=同一抗原を保有する細胞を意味する。: ①末梢血からドナー・細胞を単離(または)、②を樹立——MHC-II(HLA-D)のみを検出する点に注意。

💡 手法の世代交代( → SSP/SSO → NGS)は、そのままのになっている。 上の表ののうちSSP(配列特異的プライマー)・SSOP()は「既知アレルに合わせたプローブ/プライマーで当てにいく」方式のため、単一のアレルに一意に決まらず「曖昧性」が残ることが多い——2010年の改訂で、エクソン2・3の配列が同一のアレル群をまとめて表すGコードのような報告用コードが同時に導入されたのはこのためである2。現在は(NGS)が従来のタイピング手法を置き換え、高の配列データを大量に生成できるようになっており、データベースへ登録される配列の数と複雑さが急増した3。抗原レベル(血清型)→ アレル群(第1フィールド)→ 対立遺伝子レベル(第2フィールド)→ 全長配列(第3・第4フィールドまで)、と段階的に細かくなってきたと読む。ただし旧来のが無意味になったわけではなく、安価・迅速という利点は残る。

HLAと造血幹細胞移植

におけるは、ドナー由来のがの組織を攻撃・傷害することで生じ、ドナー・間の不一致がその主要な危険因子になる(で治療、重症例の致死率は最大90%に達する)。

⭐ 適合の目標は「を起こさない、最良のドナー・ペアを見つけること」。 ドナー候補は>双生児/同胞/家族>>非血縁ドナー登録という優先順位で検討される。

適合度の判定基準

適合度 基準
フルマッチ 最低6/6(-A, B, DRB1)。-C・DQB1を加えれば10/10マッチ。8/8(-A, B, C, DRB1)
からの逸脱 1抗原の逸脱:-A, B, C, DRB1で最低7/8。半合致()逸脱:最低4/8

一致同胞が見つかる確率: 1−(0.75)ⁿ(nは同胞数)という式で近似され、同胞1人で25%、2人で44%、5人で76%、10人で94%まで上昇する。

HLAと自己免疫疾患の関連

疾患 型 陽性率・意義
(AS) HLA-B27 AS患者の約78%が陽性(の)4。ただし陽性率は集団で大きく異なり、白人では9割前後、日本人では5割台にとどまる。健常白人集団での保有率は7%(スカンジナビアでは24%まで上昇)
セリアック病(過敏性腸症) -DQ2・-DQ8 患者の約98%が保有——既知の関連の中で最も強く、病態生理も最もよく理解されている。健常白人集団での-DQ2保有率は約30%

⚠️ 関連は自己免疫疾患だけの話ではない——薬剤過敏症の投与前スクリーニングにも使われる。 感染者1,956人を対象とした無作為化試験(PREDICT-1)ではHLA-B*57:01の保有率は5.6%で、投与前にスクリーニングして陽性者を治療から外す方針が検証された5。またHLA-B*15:02は漢民族でカルバマゼピン誘発と強く関連し、を予測する検査に応用しうると報告された6。自己免疫疾患の関連が「リスクの増加」にとどまるのに対し、これらは投与の可否そのものを決める——同じ「と疾患の関連」でも臨床での使われ方が違う。

⚠️ 型陽性は「発症リスクの増加」を意味するにすぎず、それだけで発症するわけではない——これはすべての関連疾患に共通する原則。 陽性者の大多数はASを発症しない。セリアック病でもDQ2・DQ8保有者の大部分は無症状——DQ2・DQ8は他のMHC型よりもへの親和性が高いことがその病態機序として最もよく解明されている例だが、それでも「保有=発症」ではない点が重要。

まとめ

  • はMHC-I(-A,B,C)・MHC-II(-DP,DQ,DR)・MHC-III(補体遺伝子)の3領域からなり、既知アレル数はMHC-Iで約6,919、MHC-IIで約1,875ときわめて多い。
  • 血清型と遺伝子型は必ずしも一対一で対応せず、は血清学的マーカーベースの旧法から、2年ごとに更新される4桁数字ベースの新法(例:-DQB1*02:01)へ移行してきた。
  • タイピング手法は(Terasaki法・MLC、旧だが分解能が低い)と(-SSOP・SBT等、より特異的・柔軟)に大別される。
  • 不一致はにおけるの主要な危険因子であり、適合度(6/6・8/8・10/10等)とからの逸脱度でドナー選択を判断する。
  • 型は自己免疫疾患(と、セリアック病と-DQ2/DQ8)と強く関連するが、いずれも「リスク増加」であって「発症の確約」ではない。

出典

  1. 1.The IPD-IMGT/HLA database: recent developments in sequence submission(Nucleic Acids Research・2026)IPD-IMGT/HLAデータベースは、WHO HLA因子命名委員会が承認した47遺伝子について43,000を超える固有のアレルを収載している。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Nomenclature for factors of the HLA system, 2010(Tissue Antigens・2010)2010年4月にHLAアレル名へコロン区切りのフィールド表記を導入した(A*01010101→A*01:01:01:01、B*0808N→B*08:08N)。第1・第2フィールド(1987年導入の4桁)はコードするタンパクのアミノ酸配列が異なるアレルを区別し、第3フィールド(5〜6桁目)はコード領域内の同義置換のみが異なるアレル、第4フィールド(7〜8桁目)はイントロンおよび5'・3'非翻訳領域の多型のみが異なるアレルを区別する。多くのタイピング法では単一アレルに一意決定できず曖昧性ストリングが残るため、エクソン2・3の配列が同一のアレル群をまとめるGコードなどの報告用コードも同時に導入された。閲覧 2026-08-25
  3. 3.25 years of the IPD-IMGT/HLA Database(HLA・2024)次世代シーケンシング(NGS)はHLAタイピングの従来手法に取って代わり、大量の高解像度配列データを生成できるようになった結果、データベースへ登録される配列の数と複雑さが急増した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Prevalence of peripheral and extra-articular disease in ankylosing spondylitis versus non-radiographic axial spondyloarthritis: a meta-analysis(Arthritis Research & Therapy・2016)強直性脊椎炎患者におけるHLA-B27陽性率のメタアナリシスによる統合有病率は78.0%(95%信頼区間73.9〜81.9%)であり、非放射線学的体軸性脊椎関節炎(77.4%)と有意差がないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  5. 5.HLA-B*5701 screening for hypersensitivity to abacavir(New England Journal of Medicine・2008)19か国1,956人のHIV-1感染者を対象とした二重盲検無作為化試験で、HLA-B*5701の保有率は5.6%(1,956人中109人)であり、投与前にHLA-B*5701をスクリーニングして陽性者をアバカビル治療から除外する方針の有効性を検証した。閲覧 2026-08-25
  6. 6.Medical genetics: a marker for Stevens-Johnson syndrome(Nature・2004)漢民族においてHLA-B*1502とカルバマゼピン誘発Stevens-Johnson症候群との間に強い関連があり、重症薬疹を予測する信頼性の高い検査に応用しうることを示した。閲覧 2026-08-25