外科学

外科学 · G-11

移植の基本概念・脳死・適応・免疫抑制

Transplantation: basic concepts, brain death, indications, and immunosuppression

前提:病態
移植拒絶反応(移植片拒絶)
前提:正常
移植免疫学HLAタイピング
疾患
移植後リンパ増殖性疾患

🧠 全体像:移植医療は、不可逆的臓器不全に対して臓器機能を置き換える治療である。成功には「適切な候補選択、ドナー・適合、拒絶予防、感染・悪性腫瘍・薬剤毒性の監視」が必要で、判定と臓器提供の意思決定は明確に分離する。

移植の種類

種類 ドナーと 例
同一個体 皮膚、血管、造血幹細胞
同系移植 遺伝的に同一 間
同一種の遺伝的に異なる個体 の大部分
間 臨床研究・限定的

腎、肝、心、肺、膵、小腸などの固形臓器と、造血幹細胞・組織移植を区別する。

脳死/神経学的基準による死

/基準による死(brain death/death by neurologic criteria:BD/DNC)は、既知の不可逆的脳障害により、昏睡、消失、自発呼吸消失が確認された死である。

前提条件

  • 不可逆的な脳障害の原因が確立している
  • 低体温、低血圧、鎮静薬・・中毒、重い代謝異常などを除外
  • 検査を安全かつ標準化して実施できる

臨床判定

flowchart TD
    A["不可逆的脳障害の原因を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confounding factor'>交絡因子</span>を除外"]
    B --> C["昏睡と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Motor response, M'>運動反応</span>を評価"]
    C --> D["瞳孔・角膜・眼球・咽頭・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cough reflex'>咳反射</span>を評価"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apnea test'>無呼吸試験</span>で自発呼吸消失を確認"]
    E --> F["法令・施設手順に従いBD/DNCを宣告"]

画像検査で脳障害を示すこと自体は、臨床判定の代わりにならない。補助検査は、臨床診察またはを・解釈できない場合などに限定し、検査法は法域と最新指針に従う。例えば2023年のAAN/AAP/CNS/SCCM指針では、は脳幹機能を評価できないため補助検査として許容されず、を評価する所定の検査が選択される。補助検査を一律に追加するのではなく、その法域で認められた方法を必要時に用いる。

⚠️ BD/DNCの判定は臓器提供の有無と独立して行う。判定者の資格、必要な診察回数、補助検査は国・地域の法令に従う。

💡 国によって具体的な基準は異なる。 例えば米国の現行ガイドライン(2010年AAN成人版・2011年小児版を置き換えた2023年合同ガイドライン)では、成人は最低1回の診察でBD/DNCと判定でき、小児は2名のがそれぞれ独立して行う診察を最低12時間あけて2回必要とする。判定者は神経内科医に限定されず、医なども担いうる。補助検査は診察項目のいずれかを安全に評価できない場合に限って用いる1。

💡 後提供(DBD)と循環提供(DCD)は同じデッドドナー・ルールの下でも手順が異なる。 DBDではの判定をもって死亡しているため心停止を待つ必要はないが、DCDでは生命維持を中止した後の心停止を待ち、(オートレサシテーション)が起こらないことを確認するため、循環停止後に一定の観察時間を置く。米国移植外科学会は5分間の観察時間を推奨している2。

💡 提供の同意方式も国によって異なる。 本人の明示的同意を要するオプトイン方式と、拒否の意思表示がない限り同意とみなす推定同意(オプトアウト)方式があり、どちらを採るかは国ごとに異なる3。

移植適応の概念

臓器 主な候補
腎 。透析前移植や生体腎移植も検討
肝 、、選択された・代謝疾患
心 最大限治療でも予後不良な
肺 最大限治療でも生命予後・生活が強く損なわれる進行肺疾患
膵 主に重症低血糖・血糖不安定を伴う1型糖尿病、しばしば腎移植と
小腸 依存ので生命を脅かす合併症

単一の診断名や分類だけで決めず、、予測生存、全身状態、感染・悪性腫瘍、依存症、可能性、との比較を移植チームで評価する。

適合性と配分

  • 、、、を臓器別に評価する。
  • 適合の重要度は腎・造血幹細胞などで特に高い。
  • 臓器配分は、時間、適合性、予測利益など透明な制度に従う。
  • は独立した評価、十分な同意、強制・金銭的誘因の排除、長期追跡が必要である。

拒絶反応

型 機序・時期 要点
既存抗体により分〜時間 血栓・虚血性不全。で予防
急性抗体関連 臓器別基準で診断・治療
急性T細胞関連 T細胞性炎症 生検などで確定し免疫抑制を強化
慢性障害 免疫・非免疫性損傷の蓄積 線維化、血管障害、進行性機能低下

「急性=常に術後数週」と固定せず、移植後いつでも起こり得る。

💡 腎移植ではのがBanff分類で標準化されている。 生検所見(糸球体炎・間質炎・・動脈内膜炎などの病変スコア)を組み合わせ、抗体関連拒絶・境界病変・T細胞関連拒絶などの診断カテゴリーへ分類する4。

免疫抑制

段階 主な薬剤群
導入 、、グルココルチコイドなど
維持 +±グルココルチコイドを基本に個別化
代替・追加 、阻害薬など

主要な合併症

  • 日和見感染、などの
  • 、など
  • による腎毒性、神経毒性、高血圧
  • 糖尿病、脂質異常、骨疾患
  • 骨髄抑制、創傷治癒障害、薬物相互作用

、感染予防薬、がん検診、、腎機能・代謝を継続監視する。発熱時は感染と拒絶の双方を考え、自己判断でを中断しない。

まとめ

  • 移植は候補選択、適合、配分、免疫抑制、から成る。
  • BD/DNCは臓器提供と独立し、臨床診察とを軸に判定する。
  • 補助検査は臨床診察・をできない場合などに限定し、法域で認められた方法を用いる。
  • 拒絶は抗体関連とT細胞関連を含み、時期だけで分類しない。
  • 感染、悪性腫瘍、薬剤毒性を拒絶予防と同時に管理する。

出典

  1. 1.Pediatric and Adult Brain Death/Death by Neurologic Criteria Consensus Guideline(Neurology(American Academy of Neurology/American Academy of Pediatrics/Child Neurology Society/Society of Critical Care Medicine 合同)・2023)米国の現行BD/DNC判定基準(2010年AAN成人版・2011年小児版を置き換えた2023年合同ガイドライン)は、成人は最低1回の診察で判定でき、小児は2名の医師がそれぞれ独立して行う診察を最低12時間あけて2回行うと定めていること。判定を行う医師は脳死判定に習熟し適切な訓練を受けていればよく、神経内科医に限定されないこと。補助検査は診察項目のいずれかを安全に評価できない場合に限って行うとしていること。閲覧 2026-08-26
  2. 2.ASTS Position Statement on a 5-Minute Observation Period(American Society of Transplant Surgeons・2024)循環死後提供(donation after circulatory death)では、自己心拍再開(オートレサシテーション)が起こらないことを確認するため、循環停止後5分間の観察時間を置くことを推奨していること。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Comparison of organ donation and transplantation rates between opt-out and opt-in systems(Kidney International(2023年にcorrigendumが公表されている)・2019)死後の臓器提供における同意方式は国により、本人の明示的同意を要するオプトイン(明示的同意)方式と、拒否の意思表示がない限り同意とみなす推定同意(オプトアウト)方式に分かれ、各国をいずれかに分類したこと。閲覧 2026-08-26
  4. 4.A 2018 Reference Guide to the Banff Classification of Renal Allograft Pathology(Transplantation (Roufosse C, et al.)・2018)腎移植の拒絶反応は、糸球体炎・間質炎・尿細管炎・動脈内膜炎・傍尿細管毛細血管炎・C4d染色などの生検所見(病変スコア)を組み合わせて、抗体関連拒絶・境界病変・T細胞関連拒絶などの診断カテゴリーへ分類するBanff分類で標準化されていること。閲覧 2026-08-26