免疫学

免疫学 · 9.2

移植免疫学

Immunology of transplantation

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W14Lecture / 講義
応用トピック
自家造血幹細胞移植同種造血幹細胞移植腎移植と腎代替療法自家・同種造血幹細胞移植小児の移植医療肺移植移植の基本概念・脳死・適応・免疫抑制
疾患
移植片対宿主病

🧠 は「MHCという最強のへの、自己/非自己識別の教科書通りの適用」として読む。 (既存抗体による)・急性(T細胞介在性のMHC攻撃)・慢性(血管硬化性の緩徐な拒絶)という3つの時間スケールがあり、それぞれ異なる予防・治療戦略を要する。移植免疫学は多くのノーベル賞を生んだ分野でもある。

移植免疫学とノーベル賞

受賞者 年 業績
Alexis Carrel 1912 血管縫合技術の開拓
Burnet & Medawar 1960 の発見
Snell, Benacerraf & Dausset 1980 をコードする遺伝子群の発見・同定
Elion, Hitchings & Black 1988 合理的薬物設計——(最初の抑制)の開発
Murray & Thomas 1990 臓器・細胞移植によるヒト疾患治療
Ralph Steinman 2011 の発見とその獲得免疫における役割

用語の定義

移植=細胞・組織・臓器をある部位から別の部位へ移すことで、傷害・疾患を受けた臓器・組織を置換・修復する。ドナー・・というで記述される。

拒絶反応の3型

症状発現時期・学的特徴・過程の激しさにより、・急性・慢性の3型に分類される。

💡 の前提は「自己・非自己識別」という免疫系の基本原理そのもの。 自然免疫・獲得免疫の両方が関与し、中枢性・(08-1-immunological-tolerance参照)が本来は自己反応性応答を抑制する機構だが、は「非自己」として認識されてしまう。

同種抗原:MHCと副次組織適合抗原

分類 特徴
移植反応を最も強く誘導する。ドナー・間にMHCの相違があれば、反応性免疫応答はMHC分子そのものに向けられる
(mH-Ag/Miha) MHC以外の。より弱く緩徐に発達するを誘発する

⚠️ 急性は「多型MHC分子そのもの」に対するT細胞介在性攻撃——host versus graft反応。 高度に多型なMHC分子が細胞上でT細胞介在性の免疫応答を誘発し、組織を破壊する。

副次組織適合抗原の特殊性

Mihaは細胞表面でMHC-I/IIと会合する小さなペプチドで、単独ではを誘導しない。単独では強い拒絶を起こさないが、MHC不一致による拒絶の強度を増強しうる——複数のMiha不一致が重なると、完璧なMHC適合でもを妨げることがある。

💡 Mihaの正体は「同じタンパクの、ちょっと違うバージョン」。 自己タンパクはを介し常にMHC-Iで提示され続けているが、Miha領域の多型により、ドナー・間で異なるペプチド配列がMHC-Iポケットに挿入される——これがの免疫系を活性化しうる。アミノ酸の違いはタンパク本来の生理機能には影響しないが、プロファイル(自己タンパク変異体=)だけが異なる、という点が重要。

同種認識の機構

ドナーのAPCが内因性・外因性経路を介し(ドナー特異的抗原)を提示し、のTc・Th細胞を活性化する(直接認識、direct allorecognition)——あるいは自身のAPCがを提示することもある(間接認識)。

⭐ 直接・間接に加えて「」という第3の経路がある。 古典的な「乗客白血球仮説」は、由来のAPCがリンパ組織へ移動して直接認識を担うと予測していた。ところが完全の皮膚・モデルでは、所属リンパ組織へ移動するドナー由来はほとんど検出されない。実際に起きているのは、のがドナーMHC分子とを載せた()を取り込み、それをそのまま直接アロ反応性T細胞へ提示する経路である1。直接/間接の2分法は骨格として今も正しいが、「直接認識は必ずドナーAPCが担う」とまでは断定しない。

⭐ 直接認識では、MHCポケット内のペプチドの正体は実はさほど重要ではない。 アロ反応性TCRとの相互作用には、MHC分子のポケットに入っているペプチド配列が必ずしも関与しない——TCRが外来MHC分子そのものを(自己ペプチド+自己MHCを認識するのと同じような高頻度で)認識してしまうため、通常の免疫応答よりもはるかに強い反応が起こる。

アロ反応性T細胞のエフェクター機構

細胞 機構 帰結
CD8+ Tc細胞 実質のMHCを認識し細胞傷害・サイトカイン産生 組織炎症
CD4+ Th1細胞 へ戻りマクロファージを活性化 炎症・線維化
CD4+ 細胞の動員 炎症・線維化
濾胞 B細胞活性化() 抗体産生

⚠️ MHC抗原はにも発現するため、抗体介在性の傷害の大半はの血管系を標的にする。 これが・のいずれもが「血管の病理」として現れる理由。

超急性拒絶と慢性拒絶の病態機序

型 病態機序
拒絶 体内に既存の・多型MHC分子に対する抗体が存在し、血管内皮に結合→による→臓器不全
血管の硬化性・による低灌流→線維化・萎縮(血管症、graft vasculopathy)

拒絶反応の2段階

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensitization phase'>感作期</span><br>CD4+/CD8+T細胞が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Alloantigen'>同種抗原</span>を認識(直接・間接認識)"]
  A --> B["活性化リンパ球の増殖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effector cells'>エフェクター細胞</span>への分化"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effector phase'>エフェクター期</span><br>抗体介在性(補体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antibody-dependent cellular cytotoxicity'>ADCC</span>)+細胞介在性(T細胞・マクロファージ)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft'>移植片</span>破壊"]

HLA適合検査の手法

分類 手法
マイクロサイトトキシシティ試験(Terasaki法:血清+リンパ球)、、(ドナー細胞+血清)
、、配列特異的プライマー、(SBT:後にシーケンシング)

腎移植拒絶反応の診断

疑うタイミング: の25%以上上昇、増悪する高血圧、蛋白尿>1g/日、血漿ドナー由来セルフリー(dd-cfDNA)>1%。

診断法 内容
の検出 —
反応性のモニタリング ドナー抗原に応答するIFN-γ産生細胞を測定
ドナー由来セルフリー(dd-cfDNA) ストレスの指標

⭐ 拒絶の分類は「・急性・慢性」という時間軸だけではない——生検所見に基づく Banff 分類が国際的な共通言語になっている。 1990年代に始まったBanff病理分類はおよそ2年ごとの国際会議で改訂され続け、2022年の会議は最初の分類から30年の節目にあたった。抗体関連型拒絶(AMR)は(DSA)・症・C4d沈着といった所見の組み合わせで定義される。2022年の合意では、DSA陽性でAMRの組織所見を一部もつが確定基準に届かない症例を「probable AMR」として、またDSA陰性かつC4d陰性の症を原因不明の別表現型として、それぞれ線引きした2。現代の拒絶診断は「T細胞関連型かAMRか」「DSAはあるか」を軸に読み、時間軸による3分類はその上に重ねる。

💡 dd-cfDNAは「からの悲鳴」を血液検査で拾う新しい発想。 循環セルフリー(cfDNA)は1948年に初めて観察された概念で、その大部分は活動性アポトーシスの産物と考えられている。では、ドナー由来cfDNAの割合上昇がストレスの直接的なシグナルになる——生検という侵襲的手段に頼らないモニタリングの可能性を開く。腎移植102人・生検107件の前向き研究では、1.0%をにしたときの活動性拒絶に対するは61%、は84%で、-は全拒絶で0.74、抗体関連型拒絶に限れば0.87だった3。

⚠️ が6割にとどまる以上、dd-cfDNAの上昇だけで拒絶と決めつけられない。 のほうが高いので、実態としては「陰性なら活動性拒絶は考えにくい」という除外寄りの使い方になる。生検がである位置づけは変わっていない。

拒絶反応の予防と治療

戦略 内容
①の低下 間移植、、。既存の保有患者には
②免疫抑制 (induction therapy:、・モノクローナル抗体を使用)、維持免疫抑制(=・が中心、細胞周期阻害薬・・・T細胞阻害薬と併用)

💡 はかつて腎移植のだったが、によって「越えられる壁」になった。 の中身は結局2つしかない——①既存の抗A/抗Bを除去すること(・)、②抗体のを防ぐこと(リツキシマブによるを含む免疫抑制)。研究の集積では、腎移植の患者生存・生存はABO適合腎移植と同程度と報告されている4。ドナー特異的(DSA)を持つ症例へのも、考え方は同じ(除去+再産生の抑制)である。

輸血の合併症

①感染、②(、アレルギー性/アナフィラキシー反応、=TRALI)。

造血幹細胞移植

はの治療法。幹細胞の採取・分離→(高用量化学療法・放射線照射)→への幹細胞輸注、という流れで進む。

合併症

合併症 機序
の免疫系がドナー細胞を異物と認識し、骨髄への前に破壊する
ドナー由来の()が(宿主)の健常細胞を攻撃する

早期合併症:血液学的合併症(血球減少・出血等)、、消化管(疼痛・・下痢)、その他(腎・肝・肺合併症)。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conditioning'>前処置</span>(放射線・化学療法)による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut microbiota'>腸内細菌叢</span>由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='damage-associated molecular patterns'>DAMPs</span>/PAMPs放出<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory cytokine'>炎症性サイトカイン</span>(IL-1・IL-6・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>)分泌"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recipient'>レシピエント</span>APCの活性化"]
  C --> D["ドナーT細胞が病原性T細胞(Th1・Th17・Tc1・Tc17)へ活性化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polarization'>極性化</span>"]
  D --> E["標的臓器(消化管・肝・皮膚)への浸潤 → 局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織傷害</span>"]

⭐ の引き金は「による」であって、ドナー細胞そのものではない。 放射線・化学療法によるがを傷害し、由来の・PAMPsが放出されることが、ドナーT細胞を病原性表現型へさせる引き金になる——は単純な「異物拒絶」ではなく、によるがの出発点になっている点が治療戦略上重要。

まとめ

  • は(既存抗体・血栓性)・急性(T細胞介在性のMHC攻撃)・慢性(血管硬化性の緩徐な拒絶)の3型に分かれ、MHC(強い反応)とMiha(弱いが増強因子となる反応)という2種のが関与する。
  • 直接認識ではTCRが外来MHC分子そのものを高頻度に認識するため、通常の応答よりずっと強い反応が起こる。CD8+Tc・CD4+Th1/Th17・濾胞がそれぞれ異なるエフェクター機構でを攻撃する。
  • は(認識・リンパ球増殖)と(抗体・細胞介在性の破壊)の2段階で進む。
  • 腎移植拒絶の診断は生検()に加え、・反応性・dd-cfDNAという低侵襲的マーカーが発展している。
  • 予防・治療はの低下(・)と免疫抑制(・維持療法)の2本柱。ではと(によるが引き金)が主要な合併症になる。

出典

  1. 1.Donor-derived exosomes: the trick behind the semidirect pathway of allorecognition(Current Opinion in Organ Transplantation・2017)完全ミスマッチの皮膚・心移植モデルでは所属リンパ組織へ移動するドナー由来樹状細胞がほとんど検出されない。実際にはレシピエントの樹状細胞がドナーMHC分子と共刺激シグナルを載せた細胞外小胞(エクソソーム)を取り込み、直接アロ反応性T細胞へ提示する半直接経路が働く閲覧 2026-08-25
  2. 2.The Banff 2022 Kidney Meeting Report: Reappraisal of microvascular inflammation and the role of biopsy-based transcript diagnostics(American Journal of Transplantation・2024)Banff 2022会議後の調査で、(1)ドナー特異的抗体(DSA)陽性で抗体関連型拒絶(AMR)の組織所見を一部持つが確定基準に達しない「probable AMR」、(2)DSAで説明できない微小血管炎症を指す「Microvascular inflammation, DSA-negative and C4d-negative」という2つの表現型の区分に合意が得られた。2022年の会議は最初のBanff分類から30年の節目にあたる閲覧 2026-08-25
  3. 3.Cell-Free DNA and Active Rejection in Kidney Allografts(Journal of the American Society of Nephrology・2017)腎移植102人・生検107件の前向き研究で、ドナー由来セルフリーDNAは拒絶あり群と拒絶なし群を区別した(ROC-AUC 0.74、95%CI 0.61-0.86)。1.0%をカットオフとしたときの活動性拒絶に対する陽性的中率は61%、陰性的中率は84%。抗体関連型拒絶に限ればAUCは0.87(0.75-0.97)閲覧 2026-08-25
  4. 4.Advancement in preoperative desensitization therapy for ABO incompatible kidney transplantation recipients(Transplant Immunology・2023)ABO不適合は長らく腎移植の絶対禁忌とされてきたが、術前脱感作により血液型の壁を越えられるようになった。脱感作の中身は既存のABO血液型抗体価の除去と抗体の再上昇の予防の2つで、ABO不適合腎移植とABO適合腎移植で患者生存・移植片生存は同程度と報告されている閲覧 2026-08-25