免疫学

免疫学 · 8.1

免疫寛容

Immunological tolerance

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W12Lecture / 講義
応用トピック
全身性エリテマトーデスの臨床像がん免疫療法の副作用
疾患
Vogt-小柳-原田病

🧠 自己認識の帰結は「認識するが攻撃しない(寛容)」か「認識して攻撃する(自己免疫)」かの二択として読む。 後者はさらに、に資すると、疾患を起こすに分かれる。は中枢性(胸腺・骨髄での)と末梢性(Treg・・・)の2層構造で維持される。

自己認識の3つの帰結

帰結 内容
「認識するが攻撃しない」——能動的な寛容
自己反応性が生理的に組み込まれ、に働く
「認識して攻撃する」——疾患を引き起こす自己反応性

💡 はどこに置くか。 「自己反応性クローンは発生初期に除去される(禁止クローン)」という古典的な図式は、の骨格としては今も有効である。ただし現在の理解ではは除去しきれず末梢へ出てくるのが常態で、だからこその4機構が必要になり、健常者にもが存在する(天然抗体は無菌・無抗原マウスにも出現し、その産生は一部がに駆動されている)1。を捨てるのではなく、その上に末梢での能動的制御を重ねると整理できる。

免疫寛容の機構

中枢性寛容

胸腺・での(詳細は05-2-t-lymphocytes-and-the-cell-mediated-immune-response・05-3-b-lymphocytes-and-the-humoral-immune-response参照)。

💡 は「全身の自己」を胸腺の中に映して見せる。 が膵臓や網膜といった末梢組織限定抗原にまで及ぶのは、(mTEC)がそれらの遺伝子を異所性に発現するからで、その中心にあるのが因子AIRE(autoimmune regulator)である。AIRE欠損マウスでは髄質上皮細胞での末梢抗原の異所性転写が特異的に低下し、決まった型の臓器自己免疫が起こる——ヒトのAIRE機能欠損型変異も多臓器の自己免疫疾患を生じる2。

⚠️ を「AIREひとつ」で説明する段階は終わっている。 2015年、AIREとは独立に別のクラスの組織限定抗原をmTECで発現させる転写因子Fezf2が同定された。mTECでFezf2を欠くマウスはと末梢臓器へのを伴う重い自己免疫症状を示し、その内容はAIRE欠損マウスのそれとは異なる——2つの因子が別々の経路で制御され、別のクラスのタンパクを担当している3。AIREを覚えることは今も正しいが、「AIREが唯一の」と書いてある記述は古い。

末梢性寛容

制御性T・B細胞、、、という4つの機構からなる。

⭐ は「細胞集団」ではなく「Foxp3という遺伝子」で定義できるようになった。 Foxp3はするCD4陽性に特異的に発現し、レトロウイルスでにFoxp3を導入するだけで様の表現型へ変換できる。つまりFoxp3はの発生を決める鍵遺伝子であり、ヒト・マウスでこの遺伝子が壊れると自己免疫・炎症性症候群(ヒトではIPEX)が起こる4。表面マーカーCD4/CD25だけでは活性化T細胞と区別しきれなかった集団が、この転写因子によって定義され直した点が転換点である。

💡 「」は積極的な抑制ではなく、単に出会わないこと。 自己反応性TCRのが弱く、かつの存在量が低い場合、免疫系はそのの存在に気づかない(=)まま共存できる。ただし例外がある——壊死などにより細胞内が大量に放出されると、この「」の前提が崩れ、自己免疫の引き金になりうる。

⚠️ は「隔離」と「免疫抑制」の二重の壁で守られている。 眼・脳・精巣・卵巣などのにはリンパ管系のドレナージがなく、血液脳関門・のような物理的バリアで保護されている。それでも抗原が漏出する場合、のような免疫抑制性サイトカインと混合した状態で放出され、これらの部位の細胞はFasLを発現して攻撃してくるをアポトーシスに導く——単なる「物理的隔離」ではなく「能動的な抑制」も併せ持つ二重防御5。根拠は明快で、眼に入った炎症細胞はFas(CD95)-FasL依存性にアポトーシスへ向かいを残さないのに対し、機能するFasLを欠くgldマウスでは同じウイルス感染で眼組織への炎症と浸潤が起こる。

⭐ はの破綻を示す劇的な例。 一方の眼球への重度の外傷により、本来隔離されているはずの眼のがリンパ節に到達すると、外傷を受けていないもう一方の眼にも炎症が生じる——のバリアが破られたときに何が起こるかを示す教科書的な症例。

天然自己免疫:天然自己抗体

Paul Ehrlichに端を発する概念。は生理的な保護的役割を担い、の維持に寄与する。自然免疫の第一線防御分子系として感染性病原体に対抗する(02-1-principles-of-natural-innate-immunityのB1 B細胞・も参照)1。天然抗体の反応性は広くで、異物と自己に共通する進化的に保存されたエピトープを認識する——「・」という性質が欠陥ではなく機能そのものである理由がここにある。

性質 内容
産生細胞 B1 B細胞・辺縁帯(MZ)B細胞
循環抗体に占める割合 約1%
特徴 ・のIgM(時にIgG・IgA)、保存された構造を認識
機能例 免疫作用(例:の除去)、アポトーシス小胞の「静かな除去」、抗ウイルス作用

天然自己抗体が認識する対象

熱ショックタンパク、酵素(C、SOD)、()、(アクチン)、(、ヒストン)、(アルブミン、IgG)、サイトカイン・ホルモン、微生物抗原、ヒト抗原——実に多様な標的を持つ。

⭐ 「」は身体の分子地図の歪んだ鏡像。 による認識のされやすさという観点から見ると、身体を構成する分子は均等に代表されているわけではなく、特定の分子(熱ショックタンパク、、ヒストンなど)が不釣り合いに強く「認識」される——ペンフィールドの脳内(体のをの密度に応じて歪めて描いた地図)になぞらえた概念。

イディオタイプ抗体ネットワーク

Niels Jerne(1984年ノーベル賞)が提唱した、抗体同士が互いを認識し合う。

flowchart TD
  A["Ab1:抗原と反応する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary antibody'>一次抗体</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-idiotype antibody'>抗イディオタイプ抗体</span> Ab-id1:Ab1をブロック"]
  B --> C["抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-idiotype antibody'>抗イディオタイプ抗体</span> Ab-id2:Ab-id1をブロックし抗原とも反応(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='natural autoantibody'>天然自己抗体</span>の一種=Ab-2)"]
  C --> D["Ab-id3:Ab-id2を阻害し抗原への免疫反応をブロック"]

💡 抗体は抗原だけでなく「互いの可変部()」も認識し合う。 この入れ子状のネットワークにより、免疫系は外部抗原がなくても自己制御的に応答の強弱を調節できる——Ab-2()はの一亜型として位置づけられる。

まとめ

  • 自己認識は・・のいずれかに帰結し、は中枢性(胸腺・骨髄の)と末梢性(Treg・・・)の2層で維持される。
  • 「」は自己反応性TCRの低と低抗原量に依存する消極的寛容で、壊死による大量抗原放出でこの前提が崩れうる。は物理的隔離と/FasLによる能動的抑制の二重で守られ、はその破綻例。
  • (B1/MZ B細胞由来、・IgM、循環抗体の約1%)は維持・・アポトーシス小胞除去という生理的機能を担う「良性の自己免疫」。
  • は抗体同士が互いを認識し合う自己制御機構で、はによる自己分子認識の偏りを示す概念。

出典

  1. 1.Natural Antibodies: from First-Line Defense Against Pathogens to Perpetual Immune Homeostasis(Clinical Reviews in Allergy and Immunology・2020)天然抗体は病的状態も意図的免疫もない状態で存在する免疫グロブリンで、無菌・無抗原マウスにも出現することから産生の一部は自己抗原に駆動される。IgM・IgG・IgAのいずれもありうる天然自己抗体を含み、アポトーシス残骸の除去、自己免疫・炎症反応の抑制、B細胞レパートリーの選択などを担う。反応性は広く交差反応性で、異物と自己に共通する進化的に保存されたエピトープを認識する閲覧 2026-08-25
  2. 2.Projection of an immunological self shadow within the thymus by the aire protein(Science・2002)転写因子AIREは胸腺髄質上皮細胞で末梢組織限局抗原を異所性に発現させる。AIRE欠損マウスは髄質上皮細胞での末梢抗原の異所性転写が特異的に低下し、多臓器の自己免疫疾患を発症する。ヒトでもAIREの機能欠損型変異は多臓器自己免疫を起こす閲覧 2026-08-25
  3. 3.Fezf2 Orchestrates a Thymic Program of Self-Antigen Expression for Immune Tolerance(Cell・2015)転写因子Fezf2はAIREとは独立に胸腺髄質上皮細胞で組織限定抗原を発現させる。mTECでFezf2を欠くマウスは自己抗体産生と末梢臓器への炎症細胞浸潤を伴う重い自己免疫症状を示し、その内容はAIRE欠損マウスとは異なる閲覧 2026-08-25
  4. 4.Control of regulatory T cell development by the transcription factor Foxp3(Science・2003)Foxp3は自然発生するCD4陽性制御性T細胞に特異的に発現し、レトロウイルスによる遺伝子導入でナイーブT細胞を制御性T細胞様の表現型へ変換できる。制御性T細胞の発生を決める鍵遺伝子で、ヒト・マウスで欠損すると自己免疫・炎症性症候群を起こす閲覧 2026-08-25
  5. 5.Fas ligand-induced apoptosis as a mechanism of immune privilege(Science・1995)眼前房に入った炎症細胞はFas(CD95)-FasL依存性にアポトーシスに陥り組織傷害を起こさない。FasLを欠くgldマウスでは同じウイルス感染で眼組織への炎症・浸潤が起こる。眼にはFasLのmRNAとタンパクが検出され、Fas-FasL相互作用が免疫特権の維持機構である閲覧 2026-08-25