免疫学

免疫学 · 5.2

Tリンパ球と細胞性免疫応答

T lymphocytes and the cell-mediated immune response

タグ
W7Lecture / 講義
応用トピック
ハンセン病とリーシュマニア症の臨床病型・治療再生不良性貧血伝染性単核球症候群がん免疫療法の基礎全身性エリテマトーデス・強皮症・皮膚筋炎・血球貪食性リンパ組織球症EBV感染症と合併症
疾患
CTLA-4ハプロ不全症

🧠 T細胞の一生は「胸腺での→末梢での活性化(2シグナルモデル)→エフェクターへの分化」という3幕構成で読む。 胸腺では自己MHCを認識できない細胞(無用)とに強く反応する細胞(危険)がふるい落とされ、生き残った約5%だけがとして末梢へ出る。末梢では抗原刺激(シグナル1)と(シグナル2)の両方が揃って初めて活性化し、サイトカイン環境に応じてTh1/Th2/Th17/Treg/などへ分化する。

胸腺内T細胞発生と選択

胸腺内では皮質→髄質の方向に成熟が進む。未熟T細胞(、thymocyte)はと選択を経る。

flowchart TD
  A["二重陰性(DN:CD4−CD8−)<br>DN1〜DN4、TCR<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gene rearrangement'>遺伝子再構成</span>開始"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='double-positive'>二重陽性</span>(DP:CD4+CD8+)<br>TCRが抗原ペプチド+MHCを認識"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive selection'>正の選択</span><br>自己MHC+ペプチドを認識できるか"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative selection'>負の選択</span><br>自己ペプチドに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high affinity'>高親和性</span>で反応しないか"]
  D --> E["単一陽性(SP:CD4+ or CD8+)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='naive T cell'>ナイーブT細胞</span>として末梢へ"]

⭐ とは「対称的だが逆向きのふるい」。 :自己MHCを認識できない細胞は不要として死ぬ(アポトーシス)、自己MHC+ペプチドを認識できる細胞のみ生存(約45%)。:自己ペプチドにで結合する危険な細胞を除去し、を確立する(最終的に生存するのは約5%)。生き残った細胞はCD4かCD8いずれか一方のマーカーを失い(単一陽性化)、ナイーブ・ヴァージンT細胞として胸腺を出る。

💡 胸腺はどうやって「全身のあらゆる」を提示できるのか——AIRE遺伝子のという力技。 はAIRE(自己免疫調節因子、autoimmune regulator)転写因子により、本来その細胞が発現しないはずのを含む既知遺伝子の5〜10%(約3000個)を「無差別に(promiscuously)」発現する。これにより、膵臓・甲状腺など全身の組織抗原に対するT細胞を胸腺内であらかじめ除去できる。マウスの深部トランスーム解析では、は最大19,293個のタンパク質コード遺伝子を発現し(既知のどの細胞種よりも多い)、そのうちAIRE発現だけで3,980個の組織限定遺伝子が正に制御されていた——「約3000個」という数字はこの桁の実測とよく合う1。AIRE依存性遺伝子は他の体細胞ではPolycomb(H3K27me3)で沈黙させられており、AIREはその抑制を解除して転写を呼び起こしている。ただし個々のmTECは全部を出しているのではなく、1細胞あたりでは低頻度・に転写している1。

末梢でのαβT細胞活性化

は二次リンパ器官でとを形成し、活性化されると「武装した」になる。

シグナル 内容
シグナル1 TCR+(CD4またはCD8)によるペプチド-MHC複合体の認識
シグナル2(、costimulation) パートナー細胞(例:APC)からのB7-CD28シグナル

CD3のITAMリン酸化を経て転写因子が活性化し、IL-2(のT細胞、autocrine T-cell growth factor)のmRNAが誘導され、適合する抗原を認識したT細胞クローンが増殖する。

⚠️ CTLA-4はB7を奪い合うことでシグナル2そのものを消す「初期」。 CTLA-4はCD28と同じB7分子を標的とし、にB7を減少させることでCD28を阻害する。作用部位はリンパ器官、抑制される段階は——のちに登場するPD-1(作用部位:末梢組織、抑制段階:)とは作用の場も段階も異なる、免疫チェックポイントの「二段構え」を理解する鍵になる。

T細胞の分類

分類軸 種類
受容体による 通常のαβT細胞、γδT細胞、非通常αβ(NKT細胞)
役割による (細胞傷害性・ヘルパー・制御性)、(少数、長寿命)

記憶T細胞の2型

型 局在 特徴
TCM(中央記憶、central memory) 産生(自己複製、self-renewer)、CD40L発現()。活性化するとTEMまたはに分化
TEM(エフェクター記憶、effector memory) 抗原侵入経路沿い(肺など) 寿命が短い。活性化後は数時間以内にエフェクターへ分化
TRM(組織常在記憶、tissue-resident memory) 皮膚・肺・腸管・肝臓などの非リンパ組織に定住 しない。CD69・CD103を発現し、その場で最初に応答する。末梢血には出てこないため採血では捉えられない2

💡 「はTCMとTEMの2型」という分け方は、第3の型が加わって拡張された。 組織常在(TRM)はせず、皮膚・肺・腸管などの組織に住み着いたまま、そこで再び出会った感染に最初に応答する。末梢血に出てこないため、採血を材料にしたヒトの研究では長く見落とされていた——マウスの感染モデルで確立され、臓器提供者からの組織採取という新しい手法でヒトへ外挿されつつある知見である2。従来の2型分類は誤りではなく、「血液で追える記憶」の分類として今も有効だが、の相当部分が血液の外にあることを併せて覚える。

エフェクターT細胞:CD8+細胞傷害性T細胞

TCR+CD8をもち、・・FasLを含む顆粒を保有する。MHC-Iを提示する変性自己・腫瘍・のFasと結合し、アポトーシスを誘導する。

エフェクターT細胞:CD4+ヘルパーT細胞のサブセット

flowchart TD
  A["Th0(ナイーブCD4+T細胞)"]
  A -->|"IL-12(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendritic cell'>樹状細胞</span>由来)"| B["Th1<br>IFN-γ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>産生"]
  A -->|"IL-4"| C["Th2<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='interleukin-4'>IL-4</span>・IL-5・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interleukin-13'>IL-13</span>産生"]
  A -->|"IL-23・IL-6"| D["Th17<br>IL-17A・IL-17F・IL-22産生"]
  A -->|"IL-21・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interleukin-4'>IL-4</span>(濾胞内)"| E["TFh(濾胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='helper T cell'>ヘルパーT細胞</span>)<br>IL-21産生 → B細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotype switching (class switching)'>クラススイッチ</span>(ICOS-ICOSL)"]

⚠️ Th1/Th2の二分から始まった枠組みは、サブセットが増え、さらに「系統」という前提自体が問い直されている。 1986年のTh1/Th2仮説に、2005年前後のTh17、続いてTfh(濾胞ヘルパー)、Th9、Th22が加わり、現在のCD4陽性T細胞の地図はこの図よりも枝が多い。さらに重要なのは、これらがした独立の系統なのか、それとも環境しだいで移り変わる「途中経過」なのかが問い直されている点である——たとえばTh17はIFN-γを出すTh1様の細胞へ転換しうる。サブセット名は「その時点で優勢なサイトカインプログラム」を指すラベルであって、不可逆な細胞系統の名前とは限らない(、plasticity)3。試験では古典的なサイトカイン→サブセットの対応で問われるので、まずそれを覚えたうえで、この限界を添えておく。

💡 Th1は「細胞性免疫の司令塔」。 Th1へ分化したCD4+T細胞は末梢へ移動しを発動、Tc細胞・NK細胞・マクロファージを活性化する——マクロファージはこれにより細菌を効率的に排除できるようになる。IL-12というたった1つのサイトカインが、この後続く一連のカスケードのスイッチになっている。

制御性T細胞

CD25^high・CTLA4+・FoxP3+を特徴とし、の効果を代償するの中心的役割を担う。・IL-10を産生する。

抑制機構 内容
CTLA4発現 APCシグナルの奪い合い(competition for APC signals)→減弱→への活性化シグナルが弱まる
受容体(CD25) サイトカインの奪い合い→の増殖障害
弱い/なしの抗原提示 への抗原提示を妨げる
直接的な細胞傷害効果 ・B放出による

⭐ は単純なYES/NOではなく、「第3の道」としてTregを生む。 自己ペプチドへの親和性・が中程度で、かつ胸腺内のごく一部の細胞にしか提示されない場合、そのはアポトーシスではなく天然Treg(nTreg:natural Treg)として胸腺を出る。さらに、末梢でも・IL-10(由来)の存在下でナイーブCD4+T細胞からTreg(iTreg:induced Treg)が新たに作られる——Tregは胸腺だけで作られるわけではない。

💡 nTreg/iTreg という呼び方は、由来を明示する tTreg/pTreg へ置き換えられている。 現在は胸腺由来TregをtTreg(thymus-derived Treg)、の末梢で誘導されたTregをpTreg(peripherally induced Treg)と呼び、でなどにより作ったものをiTreg(in vitro-induced Treg)として区別する4。tTregはに特異的、pTregはより広い抗原(食物・腸内細菌など)に対応すると考えられている。旧来の「nTreg=天然Treg/iTreg=Treg」という対も試験では通用するので、新旧を対応づけて覚えるのが安全(nTreg→tTreg、で誘導されるiTreg→pTreg)。

高頻度Q&A

  • 胸腺で自己反応性を見逃したが末梢に出たら? →すべてのはMHC-Iで自己ペプチドを常時提示しているため、はそれらを破壊してしまう——の出現。これが厳格なの存在理由。
  • 活性化中に産生されるが自身に結合できなくなったら? →SCID(、severe combined immunodeficiency)——IL-2R(・IL-15・・IL-7・IL-9・IL-21の各受容体に共通するサブユニット)の変異により起こる。
  • の終結を担うのは? →PD-1–PD-L1相互作用。CTLA-4(リンパ器官・・B7減少によるCD28阻害)とは異なり、PD-1は末梢組織・で働き、な刺激によって誘導される——免疫チェックポイントの「後半戦」を担う。や腫瘍で抗原刺激が続いた結果に生じるT細胞の機能不全はと呼ばれるが、⚠️ この語の定義はの間でも一致していない——「の完全な喪失」とする立場から「免疫病理を防ぐための機能の作り替え」とする立場まで幅がある5。共通の枠組みになっているのは、TCF1陰性のした細胞と、そこへ供給するTCF1陽性の自己複製する幹細胞様集団という二分で、PD-1を標的とした治療で増殖してくるのは後者である5。「PD-1を外せば細胞が元に戻る」という単純な図式ではない。
  • 活性化T細胞は感染部位への行き方をどう知るのか? →二次リンパ器官を出る由来のシグナルに依存する(T細胞、T cell homing)。

特殊なT細胞:MHC非依存性・限定多様性の例外

⚠️ すべてのT細胞がMHC依存的に抗原を認識するわけではない——γδT細胞。 γδT細胞は胸腺の選択過程を経る前に胸腺を離れ、粘膜・皮膚組織へ移動して第一線防御を担う。抗原認識はMHCではない——を発現する障害などを、に近い様式で認識する。活性化すると障害細胞を排除(細胞傷害性)し、周囲の細胞にヘルパー的/抑制的な影響を与える。古典的MHCに結合しない非タンパク抗原との相互作用が想定されている。

⚠️ VDJ組換えが自由に多様化するとは限らない——iNKT細胞。 iNKT細胞は不変なTCRをもち、の多様性がきわめて限定的。CD1を介して脂質抗原を認識し、ウイルス感染細胞・腫瘍細胞を直接・間接に殺傷し、を刺激する。

まとめ

  • 胸腺内でDN→DP→(自己MHC認識、45%生存)→(への反応を除去、5%生存)→単一陽性のという順に発生が進む。mTECのAIRE遺伝子がのを介してを全身規模で可能にする。
  • 末梢でのT細胞活性化はシグナル1(TCR+MHC-ペプチド)とシグナル2(B7-CD28)の両方を要し、CTLA-4()・PD-1()という2つのが順に活性化を制御する。
  • CD8+ は・・FasL経路でを殺傷し、CD4+ Th細胞はサイトカイン環境(IL-12→Th1、→Th2、IL-23/IL-6→Th17、IL-21/→TFh)に応じて多様なサブセットに分化する。
  • TregはCD25高・CTLA4+・FoxP3+を特徴とし、天然Treg(胸腺由来、中間のから)とTreg(末梢、/IL-10依存)の2起源をもつ。
  • γδT細胞(MHC非依存性認識、第一線防御)とiNKT細胞(不変TCR、CD1脂質提示)は、通常のT細胞分化・認識様式の「例外」として免疫系の守備範囲を広げている。
  • IL-2Rγ変異によるSCIDは、T細胞の破綻がいかに致命的な免疫不全を招くかを示す典型例。

出典

  1. 1.Population and single-cell genomics reveal the Aire dependency, relief from Polycomb silencing, and distribution of self-antigen expression in thymic epithelia(Genome Research・2014)マウス胸腺上皮細胞は最大19,293個のタンパク質コード遺伝子を発現し(既知のどの細胞種よりも多い)、そのうちAireの発現だけで3,980個の組織限定遺伝子が正に制御されること、Aire依存性遺伝子は体細胞組織ではPolycomb(H3K27me3)で抑制されていること、単一mTECレベルでは低頻度・確率的に転写されることを確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.Location, location, location: Tissue resident memory T cells in mice and humans(Science Immunology・2019)組織に常在して再循環しない記憶T細胞(TRM)が全身の組織に存在し、部位ごとに適応した表現型・転写プロファイル・機能をもつこと、その知見はマウス感染モデルで確立されヒトへは新しい組織採取法によって外挿されている段階であることを確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Mechanisms underlying lineage commitment and plasticity of helper CD4+ T cells(Science・2010)ヘルパーCD4陽性T細胞のサブセットを終末分化した独立の系統とみなす古典的な見方は近年の知見によって疑問視されており、分化途上で可塑性(plasticity)をもつ集団として捉え直す必要があることを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Convergences and divergences of thymus- and peripherally derived regulatory T cells in cancer(Frontiers in Immunology・2013)制御性T細胞は現在その由来により胸腺由来Treg(tTreg)と末梢誘導Treg(pTreg)に分類され、tTregは自己抗原特異的、pTregはより広い抗原に対応すると考えられていることを確認した閲覧 2026-08-25
  5. 5.Defining 'T cell exhaustion'(Nature Reviews Immunology・2019)「T細胞疲弊」は慢性抗原刺激への応答を指す広い用語で、18人の専門家の間でも定義が「エフェクター機能の完全喪失」から「免疫病理を防ぐための機能変化」まで割れていること、TCF1陰性の終末分化した疲弊細胞とTCF1陽性の自己複製する幹細胞様集団という二分が共通の枠組みになっており、後者がPD-1標的療法への増殖応答を担うことを確認した閲覧 2026-08-25