免疫学

免疫学 · 5.1

抗原受容体とその形成

Antigen receptors and their formation

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W6Lecture / 講義

🧠 中心の謎:わずか19,000〜20,000個のヒトタンパク質コード遺伝子から、どうやって10¹⁰種類もの異なる抗原を認識できるのか。 答えは「遺伝子そのものを増やす」のではなく「限られた遺伝子断片(V・D・J)を体細胞レベルで組み合わせ直す(体細胞組換え、somatic recombination)」こと。はこの原理の発見で1987年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。BCR()とTCR()は構造も遺伝子形成の仕組みも並行しているが、シグナル伝達複合体や活性化の場は異なる。

抗原特異的受容体 vs 非特異的受容体

分類 受容体
BCR(抗体)、TCR
非特異的 、、(受容体)

BCR/抗体の構造

免疫グロブリンは・軽鎖からなり、——・・・などが共有する——に属する。

💡 6つのCDR(決定領域)が抗原結合ポケットを作る。 の中でも特に多様性の高い部分を=CDR(complementarity-determining region)と呼ぶ。・軽鎖それぞれに3つずつ、計6つのCDRが組み合わさって実際のを形成する。

イディオタイプ・アイソタイプ・アロタイプ

用語 定義 臨床的意義
(VH・VL)に固有の=(、paratope)そのものの;個々のの ワクチン設計、B細胞由来腫瘍の標的
の構造差異による分類(IgG・IgM・IgA・IgD・IgE) 抗体のを規定
同一内の対立遺伝子(アレル)によるのわずかなアミノ酸差(が原因) 抗原結合・には影響しない(機能的に無意味);のモニタリング・に応用

BCR複合体とシグナル伝達

成熟B細胞表面の膜型IgM(およびIgD)は、Igα・Igβ(CD79a/b)というと会合し、そのにあるITAM(免疫受容体チロシン活性化モチーフ)がシグナル伝達を媒介する。1つのB細胞は複数の抗体を発現しうるが、すべて同一の特異性をもつ。

BCR共受容体複合体

複合体 効果
CD21(CR2)-C3b/C3d + BCR/CD19/CD81 活性化(B細胞活性化を強化する)
FcγRIIb + 抗原(ITIM経由) 抑制
CD22(を認識、ITIM経由) 抑制

💡 膜(脂質)はBCRシグナル伝達の「仮設」。 静止状態では受容体・シグナル分子は膜上に散在しているが、活性化に伴いへし、を形成して特殊な生化学的機能を発揮する。

BCRシグナル伝達カスケード

flowchart TD
  A["抗原による架橋(crosslinking)"]
  A --> B["Fyn・Lyn(Srcファミリーキナーゼ)活性化"]
  B --> C["Igα/Ig<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta chain'>β鎖</span>のITAMリン酸化"]
  C --> D["Syk(チロシンキナーゼ)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='docking'>ドッキング</span>"]
  D --> E["Grb2・PLC活性化"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diacylglycerol'>DAG</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inositol 1,4,5-trisphosphate'>IP3</span>・MAPK経路活性化"]
  F --> G["PKC活性化、細胞内Ca²⁺上昇"]
  G --> H["転写因子の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuclear translocation'>核内移行</span>"]

TCR複合体

T細胞上に発現し、αβ型またはγδ型の(8本のポリペプチド鎖からなる複合体)を形成する。CD3複合体(εγ・εδ+ζζ)と会合し、MHC-ペプチド複合体を認識する。

⭐ MHC——T細胞は「自己MHCに載った抗原」しか認識できない。 ZinkernagelとDoherty(1996年ノーベル賞)の実験が示した通り、T細胞は提示細胞上のMHCを「自己」として認識する必要がある。CD4・CD8のMHC結合部位はいずれも内に存在する。

免疫学的シナプス

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pre-activation state'>前活性化状態</span>"]
  A --> B["pMHC-TCRが中心性超分子活性化<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cluster'>クラスター</span>(cSMAC)に集積"]
  B --> C["周辺をpSMACが取り囲む"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='actin cytoskeleton'>アクチン細胞骨格</span>再構成を介しMLRが側方移動しcSMACへ集まる"]

TCRシグナル伝達カスケード

flowchart TD
  A["TCRとCD4/CD8の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coligation'>共連結</span>"]
  A --> B["Fyn・p56lck(リンパ球特異的チロシンキナーゼ、Lck)活性化"]
  B --> C["CD45(チロシンホスファターゼ)による調節"]
  C --> D["ITAMリン酸化 → ZAP70(チロシンキナーゼ)動員"]
  D --> E["LAT(T細胞活性化の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linker'>リンカー</span>)リン酸化"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphatidylinositol'>ホスファチジルイノシトール</span>経路 → 細胞内Ca²⁺上昇"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuclear factor of activated T cells'>NFAT</span>(活性化T細胞核<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrinsic factor'>内因子</span>)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nuclear translocation'>核内移行</span>"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interleukin-2'>IL-2</span>遺伝子の活性化"]

⚠️ はTCR可変部(Vβ)とMHC-IIのを、通常のの外側でする。 これによりT細胞活性化が起こる——例:黄色ブドウ球菌のA・B・C、のA・B・C毒素(、erythrogenic toxin)。特定の抗原を認識しないはずのT細胞まで無差別に活性化する点が、通常の抗原認識と根本的に異なる。

BCRとTCRの共通点

いずれも(V)・(C)・・という共通構造をもつ。ただしBCRは・可溶型(分泌型抗体)の両方をとりうるのに対し、TCRはのみ。

抗原受容体遺伝子の再構成

生殖細胞系列のIg・TCR遺伝子は、すべての細胞で空間的に離れた複数の断片として存在し、発生中のリンパ球でのみ組み合わされる。

遺伝子座の構成

遺伝子 染色体 断片の種類
Ig 第14染色体 V, D, J
Igκ軽鎖 第2染色体 V, J(D断片なし)
Igλ軽鎖 第22染色体 V, J(D断片なし)
TCR 第7染色体 V, D, J
TCR α・δ鎖 第14染色体 V, J(α)/V, D, J(δ)
TCR 第7染色体 V, J

D断片をもつのはとTCR のみ。

V(D)J組換えの機構

flowchart TD
  A["①組換えシナプス形成<br>ランダムに選ばれたV・D・J断片が近接"]
  A --> B["RAG1/RAG2複合体がRSS(組換え<span class='jp-term jp-term-diagram' title='signal sequence'>シグナル配列</span>)を認識<br>ヘプタマー・ノナマー+12/23bp<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spacer'>スペーサー</span>"]
  B --> C["②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cleavage'>切断</span><br>RAG1が一本鎖にニックを入れ共有結合ヘアピンを形成"]
  C --> D["③<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hairpin opening (V(D)J recombination)'>ヘアピン開裂</span>・末端修飾<br>Artemis<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endonuclease'>エンドヌクレアーゼ</span>がヘアピンを開く(P-ヌクレオチドが生じる)<br>TdTが鋳型非依存的にN-ヌクレオチドを付加"]
  D --> E["④結合<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-homologous end joining (NHEJ)'>非相同末端結合</span>でコード末端・シグナル末端を連結"]

💡 RAG1/RAG2は「あるか無いか」ではなく「どれだけ残っているか」で表現型が決まる。 ヒトのRAG変異は、組換え活性が完全に失われれば(SCID)を、活性が部分的に残ればやより軽症の複合免疫不全を、さらにわずかな低下では自己免疫を主症状とする病型を生む——同じ2つの遺伝子の変異が、重症複合免疫不全から自己免疫までの連続したスペクトラムを作る1。この受容体形成の一段階が、そのままトピック06-2(免疫不全)の一群に対応している。

💡 は「不正確さ」自体が多様性の源泉になる好例。 V・D・J断片の結合部でヌクレオチドの付加・除去が起こると、新規のヌクレオチド配列・が生まれる。TdT(末端デオキシトランスフェラーゼ)は鋳型なしで最大20塩基程度のN-ヌクレオチドをランダムに付加し、その後ポリメラーゼが不適合部位を鋳型依存的に埋める——「ランダムに壊してから修復する」ことで、生殖細胞系列にない配列を作り出す。

⚠️ TdTが付けるのはN-ヌクレオチドであって、P-ヌクレオチドではない。 接合部に入る余分な塩基には由来の違う2種類がある。P-ヌクレオチドはArtemisがヘアピンを非対称に開いたときに生じる短い(palindromic)配列で、TdTがなくても生じる。N-ヌクレオチドは鋳型を持たないTdTがコード末端に継ぎ足す配列で、こちらがの主役である。TdT遺伝子を欠損させた成体マウスのにはN-ヌクレオチドがほとんど見られず、この酵素が多様性創出に必須であることが証明された2。TdTの発現は生後1週間ほどで立ち上がるため、に作られるレパトアはN-ヌクレオチドを欠き、成体より多様性が低い2。

抗原受容体多様性を生む5つの機構

  1. :多数のV・D・J遺伝子断片そのものの存在
  2. 体細胞組換え(somatic recombination):のVDJ組換え、軽鎖のVJ組換え
  3. :TdTによるヌクレオチド付加
  4. ・改訂
  5. :抗原に出会った後のさらなる多様化

💡 「10¹⁰種類」は控えめな見積もりで、文献によって桁が違う。 レパトアシーケンシングの時代に入って推定値は上振れしており、ヒトのナイーブ抗体レパトアの多様性は少なくとも10¹²種類と見積もられている。一方、健常成人の末梢血B細胞は5×10⁹個程度しかない——つまり理論上の多様性は、ある瞬間に体内に実在するB細胞の数をはるかに超える。10人・約30億本の抗体配列を読んだ研究では、レパトアはほぼ個人固有でありながら、全員に共通するクロノタイプの小集団も見つかっている3。この手の数値を暗記するときは「どの受容体(BCRかTCRか)の、理論値か実測値か」を必ず添えて覚える。

⭐ が「1つのリンパ球=1つの特異性」を保証する。 B・T細胞では、両の対立遺伝子のうち片方だけが発現する(どちらが選ばれるかはランダム)。これにより発現される免疫グロブリン/TCRは母方・父方どちらか一方(または両鎖が異なる)由来となるが、1つの細胞が示すは常に1つだけに保たれる。この現象はB細胞・T細胞にのみ見られる。

⚠️ ただしは絶対ではない——TCR が最大の例外。 多くのT細胞は2つのVα対立遺伝子をいずれもインフレームで再構成しており、Vα2・Vα12・Vα24に対するモノクローナル抗体で調べると、成熟T細胞の最大3分の1が2種類のVを、機能的に独立した2つのTCRとして同時に細胞表面に出していた4。「1細胞1受容体」はαβT細胞の大きな部分集団には当てはまらず、この二重TCR細胞は自己免疫・アロ反応性への関与が指摘されている。原則としての(とくにIg・TCR では厳密)を覚えたうえで、TCR には例外があると付け加えておく。

B細胞の発生段階

flowchart TD
  A["リンパ系幹細胞(骨髄、抗原非依存的)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='precursor B cell'>前駆B細胞</span>(Pro-B cell)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='heavy chain'>重鎖</span>のVDJ再構成"]
  B --> C["前B細胞(Pre-B cell)<br>軽鎖のVJ再構成"]
  C --> D["未成熟B細胞(Immature B cell)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptor editing'>受容体編集</span>=中枢性トレランス"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='naive B cell'>ナイーブB細胞</span>(Naive B cell)<br>IgM・IgDの同時発現(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alternative splicing'>選択的スプライシング</span>)"]
  E --> F["成熟B細胞(Mature B cell、末梢、抗原依存的)"]

クラススイッチと体細胞高頻度変異

現象 内容
・サイトカイン制御性。活性化B細胞でAID(、activation-induced deaminase)がの組換えを誘導する
/ AIDがV遺伝子の変異を開始(変異率が通常の約1000倍に上昇)。リンパ節ので、クローンがを受け増殖する

💡 は「抗体の」。 でランダムに変異したのうち、抗原への親和性が高いものだけがで 陽性 selection を受けてする——ダーウィン的な選択が抗体レベルで起きている。

T細胞依存性抗原 vs 非依存性抗原

(TI) 抗原(TD)
抗原の種類 糖質・脂質・核酸 タンパク質・ペプチド
抗体 IgM IgG・IgA・IgE
なし あり
なし あり
記憶細胞 短命 長命

まとめ

  • の多様性は遺伝子数の増加ではなく、V・D・J遺伝子断片の体細胞組換え(Tonegawa、1987年ノーベル賞)による「組み合わせの多様性」から生まれる。
  • BCRは6つのCDR(・軽鎖各3つ)でを形成し、・・という3層の分類をもつ。Igα/Igβ(CD79a/b)とCD21/CD19/CD81(活性化)・FcγRIIb/CD22(抑制、いずれもITIM経由)がとして働く。
  • TCRはCD3複合体と会合しMHC認識を行い、を形成してLck→ZAP70→LAT→→という経路で活性化する。
  • V(D)J組換えはRAG1/RAG2によるRSS認識・切断・Artemisによる・TdTによる付加という4段階で進み、により1細胞1特異性が保証される。
  • とはいずれもAID依存性で、でのが抗原(・長命記憶)と(・短命)の違いを生む。

出典

  1. 1.Human RAG mutations: biochemistry and clinical implications(Nature Reviews Immunology・2016)RAG1/RAG2がV(D)J組換えを開始すること、ヒトのRAG遺伝子変異が重症複合免疫不全症から自己免疫までの広い臨床スペクトラムを示すこと、残存する組換え活性の程度が表現型の幅を説明することを確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.Mice lacking TdT: mature animals with an immature lymphocyte repertoire(Science・1993)TdT(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ)が付加するのは鋳型非依存的なN-ヌクレオチドであり、TdT遺伝子を欠損させた成体マウスの受容体遺伝子ではN-ヌクレオチドがほとんど見られないこと、TdTは生後1週間ほどで発現が立ち上がるため胎児期のレパトアは成体より多様性が低いことを確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Commonality despite exceptional diversity in the baseline human antibody repertoire(Nature・2019)ヒトのナイーブ抗体レパトアの多様性は少なくとも10の12乗種類と見積もられる一方、健常成人の末梢血B細胞は5×10の9乗個程度にすぎず、循環B細胞はその多様性のごく一部しか標本化していないこと、10人・約30億本の抗体重鎖配列の解析でレパトアはほぼ個人固有でありながら全員に共通するクロノタイプの小集団も存在したことを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Expression of two T cell receptor alpha chains: dual receptor T cells(Science・1993)抗Vα2・Vα12・Vα24モノクローナル抗体を用いた解析で、成熟T細胞の最大3分の1が2種類のVα鎖を機能的に独立した2つのTCRとして同時に発現しており、「1細胞1受容体」の原則がαβT細胞の大きな部分集団には当てはまらないこと、この二重TCR集団は自己免疫・アロ反応性に関与しうることを確認した閲覧 2026-08-25