免疫学

免疫学 · 4.1

抗原提示とMHC

Antigen presentation and MHCs

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W4Lecture / 講義
応用トピック
がん免疫療法の基礎吸収不良、セリアック病薬剤性有害反応:スティーブンス・ジョンソン症候群
検査値
β2ミクログロブリン

🧠 T細胞は「抗原そのもの」ではなく「MHCに載ったペプチド断片」しか見ていない、と読む。 これをMHC認識と呼び、TCR()は抗原ペプチド+MHCの複合体を同時に認識するを行う(Doherty & Zinkernagelの1996年ノーベル生理学・医学賞の発見)。が可溶性・そのままのを直接認識できるのとは対照的——同じ「抗原認識」でもT細胞とB細胞では見ているものが根本的に違う。

T細胞認識の絶対条件

可溶性のや、加工されていないだけではT細胞応答は起こらない。T細胞が反応するのは、MHC分子に提示された、加工済み(processed)の抗原ペプチドだけ。

抗原提示細胞とMHC

MHC(、major histocompatibility complex)=ヒトでは(、human leukocyte antigen)と呼ばれる、細胞表面の。MHC-Iはすべてのに、MHC-IIは・マクロファージ・B細胞などのに限定して発現する。

2つの抗原処理経路

flowchart TD
  A["抗原の由来"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endogenous pathway'>内因性経路</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytosol-derived'>細胞質由来</span><br>自己・ウイルス・腫瘍タンパク"]
  A --> C["外因性経路<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='endosome'>エンドソーム</span>/リソソーム由来"]
  B --> D["MHC-I 提示 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic T cell'>細胞傷害性T細胞</span>(Tc)が認識"]
  C --> E["MHC-II 提示 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='helper T cell'>ヘルパーT細胞</span>(Th)が認識"]

💡 細胞内では病原体は細胞質かベシクル(小胞)のどちらかに存在し、MHC-IとMHC-IIはこの違いを反映して働く。 の例:ウイルス、、一部の細胞内寄生細菌(例:Listeria monocytogenes)。外因性経路の例:細胞内寄生菌(例:Mycobacterium)や細胞外寄生菌(例:Neisseria gonorrhoeae)が貪食された場合。細胞内でMHC-Iと抗原ペプチドは物理的に分離した場所に存在し、細胞内で出会って初めて強固に結合し、以後は常に一緒に細胞表面へ現れる。

MHC-I:内因性経路の詳細

プロテアソームが細胞質内タンパク(自己・変性自己=腫瘍、ウイルス由来)を8〜9アミノ酸のペプチドに分解する。

💡 「プロテアソーム」は1種類ではない——免疫用に切れ味を変えた版と、胸腺専用の版がある。 IFN-γに曝された細胞では、なβ1・β2・β5が誘導型のLMP2(β1i)・MECL-1(β2i)・LMP7(β5i)に置き換わり、になる。この置換は多数のMHCクラスIT細胞エピトープの産生に必要である1。さらに胸腺皮質上皮には胸腺プロテアソームという第3の亜型があり、とともに遺伝子重複を通じて、獲得免疫とに必要な自己・非自己の識別のために進化したと考えられている2。つまり「どのプロテアソームで切るか」でMHC-Iに載るペプチドの顔ぶれが変わる——感染時にエピトープが増える理由も、胸腺で選択に使うペプチドが末梢と異なる理由も、ここにある。TAP1-2(抗原プロセシング関連輸送体、transporter associated with antigen processing)がATP依存的にこれらのペプチドを内腔へ輸送する——TAPは8アミノ酸超の疎水性ペプチドでカルボキシ末端をもつものを優先的に選ぶ。

RER内では、新規合成されたMHC-I(+、β2-microglobulin)がの助けを借りてペプチドを受け取り、ペプチドがMHC-Iの構成要素そのものになることで安定化する。完成したMHC-I+内因性ペプチド複合体はを経て細胞表面へ輸送され、(Tc)に認識される。この経路はすべてので常時作動している。

MHC-II:外因性経路の詳細

の2大系統:

APC 取り込み機構
:・マクロファージ 、、受容体(mannose受容体等)を介し、あらゆる抗原を非特異的に取り込む
B細胞 BCRで選択的に特異抗原のみを取り込む(、adaptive)

取り込まれた抗原は内で分解される。一方、新規合成されたMHC-II(+)はRER・でと結合した状態(MHC-IIαβ+Ii複合体)で輸送され、酸性リソソーム(酸性リソソーム区画=MIIC:MHC class II compartment)でIiは部分分解されCLIPという断片として溝に残る。HLA-DMがCLIPを外し、代わりに外因性ペプチドをMHC-IIの溝にロードする(MHC-IにおけるTAPと機能的に類似した役割)。完成したMHC-II+外因性ペプチド複合体は細胞表面へ運ばれ、(Th)に提示される。

⭐ は「CD4リンパ球のを決める監督」。 シグナルを受けたは、抗原提示と同時にCD4陽性リンパ球がどのT細胞サブセット(例:Th1)に分化するかを決定する。Th1へ分化すれば末梢へ移動しを発動、マクロファージが効率的に細菌を排除する。は病原体をリンパ節へ運びに抗原を提示してその活性化・分化の方向性を決定する(=、priming)のに対し、B細胞・マクロファージはすでに分化したに抗原を提示し、その機能を促進するシグナルを受け取るという役割分担がある。

MHC分子の構造比較

項目 MHC-I MHC-II
構成 + +
ペプチド長 8〜9アミノ酸 11〜25アミノ酸
溝の形状 閉じた固定ポケット 開いた溝
安定化 ペプチドのアミノ末端・カルボキシ末端で固定 が溝内の固定位置に、N/C末端は溝からはみ出す(overhang)
アンカーアミノ酸の性質 疎水性(チロシン・・・・等) 溝内の位置は固定だが末端からの距離は可変

MHCの遺伝学

ヒト第6染色体上にMHC-I遺伝子領域・MHC-II遺伝子領域・MHC-III遺伝子領域(補体遺伝子:C4b, Factor B, C4a, C2, )が並んで存在する。

性質 意味
同じ機能をもつ複数の遺伝子座が存在する
集団レベルで座に多数のアレル(対立遺伝子)が存在する
両方のアレルが同時に発現する

⭐ ××の掛け算が、MHC分子の圧倒的な多様性を生む。 1個体は最大6種類の異なるMHC-I分子・6種類の異なるMHC-II分子を同時に発現でき、これにより1つの細胞が多様なMHC分子群を表面に呈示できる。個体内・集団内双方でのMHC多様性が、感染症・自己免疫疾患への抵抗性/、移植適合性、さらには体臭・にまで影響するとされる。

HLA型と疾患の関連

主に自己免疫疾患との関連が多い。

⚠️ 「-DR2/DR4」はの時代の粗い分解能である。 これらは抗血清で分けた型で、現在のタイピングはアレルレベル(例:HLA-DRB1*04:01)まで解像する。さらに関節リウマチでは、関連の実体はアレルですらなくであることが示されている——血清反応陽性関節リウマチ5,018例と対照14,974例の解析で、-DRβ1の11・71・74番の3つのアミノ酸位置と、-B 9番・-DPβ1 9番の一アミノ酸多型(いずれもペプチド結合溝の中)だけで、MHC領域と発症リスクの関連のほぼ全てが説明された3。「どの型か」ではなく「溝のどこにどんな残基が並ぶか」=どのペプチドを載せられるかが関連の正体である、と読み替えるのが現在の理解。表の血清型は試験・臨床の共通語として残るので消さずに覚え、その上にこのを重ねる。

💡 「なぜ私たちはこれほど互いに違うのか」——MHC多型の進化的説明。 観察される非同類交配(dissortative mating、自分と異なるMHC型のパートナーを好む傾向)は、集団レベルでアレルの多様性(特にアレルスーパータイプの)を最大化する適応戦略と考えられている。これは集団にとっての選択上の利点であり、個体レベルでの単純な説明はない。

特殊な抗原提示

いずれも「常識」を覆す例外的パターンとして講義で強調される。

⚠️ すべてのMHC-Iがを活性化するわけではない。 -E・-F・-G分子はが低く、提示するペプチドのレパートリーも限定的。妊娠中に胎児(母体から見れば「異物」)が拒絶されないよう保護する調節的機能をもち、NK細胞のに認識されを送る。

⚠️ NKG2AはKIRではない——受容体ファミリーが違う。 -Eのリガンドとして働くのはCD94/NKG2A・NKG2B・NKG2CというC型様の受容体で、-Eテトラマーは免疫グロブリンファミリーのNK受容体(KIR)には結合しないことが実験的に示されている。-Eの表面発現だけでCD94/NKG2A陽性NK細胞クローンによる傷害を防ぐのに十分で、-EはCD94/NKG2Aの主要リガンドである4。KIR=免疫グロブリン様、古典的-A/B/Cを見る/CD94-NKG2=様、-Eを見る、と2系統に分けて覚える。-Eの表面発現量は他のの由来ペプチドの供給に依存するので、-Eは「クラスI全体が正常に作られているか」の要約センサーとして働く。

⚠️ はをだけに提示するわけではない。 により、外因性由来の抗原がMHC-Iに載せられにも提示される。ウイルスはしばしば古典的なMHC-I提示経路を阻害するため、抗ウイルス・抗腫瘍の(細胞傷害性)免疫を成立させるには(の場合は交差=cross-priming)が不可欠になる。

⭐ は「なら誰でもできる」わけではなく、特定のサブセット(cDC1)の仕事。 マウスで転写因子Batf3を欠損させるとCD8α陽性の発生そのものが失われ、そのはができず、西ナイルウイルスに対するウイルス特異的応答を欠き、の高い同系腫瘍の拒絶も障害された5。ヒトでこれに相当するのがCD141(BDCA-3)陽性で、TLR3を高発現しIL-12p70とIFN-βを産生する。poly(I:C)で活性化するとCD1c陽性より可溶性タンパク抗原の能が高く、ウイルス感染壊死細胞を取り込んだ後にウイルス抗原をできたのはCD141陽性だけだった6。現行のでは、このマウスCD8α陽性/ヒトCD141陽性の系列がcDC1にあたる(cDC1・cDC2・pDCという分類はトピック02-1参照)。・ワクチンでこのサブセットが標的として重視されるのはこのためである。

⚠️ 抗原を取り込んだだけがそれを提示できるわけではない。 により、は感染細胞表面に既に出来上がっているMHC-Iペプチド複合体を、を介して他の細胞から受け取り、追加の抗原処理なしにそのまま提示できる——提示効率を高める仕組み。

⚠️ が提示するのはタンパク質由来の抗原だけではない。 CD1を介しての脂質抗原もT細胞に提示される。CD1の構造はMHC-Iに似るが、溝はより大きく・深く・疎水性が強く、リガンドの部分がTCRに露出する構造になっている。

⚠️ 加工・提示された抗原だけがT細胞を活性化するわけではない。 はMHC-ペプチド複合体とはに、TCRとMHC分子の間を(抗原処理を経ずに)し、誤った抗原提示を強制する。黄色ブドウ球菌のブドウ球菌(SE)やトキシックショック症候群毒素1(TSST-1)が代表例——大量のサイトカイン産生を引き起こし、全身性の毒性を招く。

まとめ

  • T細胞はMHC認識により「MHC+加工済みペプチド」の複合体だけを認識し、B細胞はをそのまま認識する(Doherty & Zinkernagel、1996年ノーベル賞)。
  • (プロテアソーム→TAP→RER→MHC-I→Tc認識、全)と外因性経路(貪食/BCR取り込み→→Ii/CLIP→-DM→MHC-II→Th認識、プロフェッショナルAPC限定)の2系統がある。
  • MHC-Iは閉じたポケットで8〜9アミノ酸、MHC-IIは開いた溝で11〜25アミノ酸を提示するという構造的な違いがある。
  • MHC遺伝子は・・という3つの性質の掛け算で、個体・集団レベルの圧倒的な多様性を生み、型は特定の自己免疫疾患と関連する。
  • MHC-I(妊娠時の胎児保護)、・交差(抗ウイルス/抗腫瘍免疫)、(微小小胞を介した提示効率化)、CD1による脂質提示、によるT細胞活性化——「例外」が抗原提示システムの奥行きを示す。

出典

  1. 1.The immunoproteasome in antigen processing and other immunological functions(Current Opinion in Immunology・2013)IFN-γで細胞を処理すると、構成的な触媒サブユニットβ1・β2・β5がそれぞれ誘導型のLMP2(β1i)・MECL-1(β2i)・LMP7(β5i)に置き換わり、免疫プロテアソームが構築される。これらのサブユニットの取り込みは多数のMHCクラスI拘束性T細胞エピトープの産生に必要である。β5iの遺伝的素因はヒト自己免疫疾患とも関連する閲覧 2026-08-25
  2. 2.The immunoproteasome and thymoproteasome: functions, evolution and human disease(Nature Immunology・2018)MHCクラスI分子に載る抗原ペプチドを作るのはプロテアソームであり、獲得免疫と自己寛容に必要な自己・非自己の識別を担うために、遺伝子重複を通じて免疫プロテアソームと胸腺プロテアソームという2つのプロテアソーム亜型が進化した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Five amino acids in three HLA proteins explain most of the association between MHC and seropositive rheumatoid arthritis(Nature Genetics・2012)血清反応陽性関節リウマチ5,018例と対照14,974例のゲノムワイドSNPデータからHLA-A・B・C・DPA1・DPB1・DQA1・DQB1・DRB1の古典的アレルとアミノ酸多型を補完・検定した結果、HLA-DRβ1の11・71・74番の3つのアミノ酸位置と、HLA-B 9番・HLA-DPβ1 9番の一アミノ酸多型(いずれもペプチド結合溝に位置する)だけで、MHC領域と関節リウマチ発症リスクの関連のほぼ全てが説明された閲覧 2026-08-25
  4. 4.HLA-E binds to natural killer cell receptors CD94/NKG2A, B and C(Nature・1998)HLA-Eは配列多様性が限られた非古典的MHC分子で、その細胞表面発現は他のMHCクラスI分子のシグナル配列に由来するペプチドの結合により制御される。HLA-EテトラマーはCD94/NKG2A・CD94/NKG2B・CD94/NKG2Cという受容体に結合したが、免疫グロブリンファミリーのNK細胞受容体(KIR)には結合しなかった。HLA-Eの表面発現だけでCD94/NKG2A陽性NK細胞クローンによる標的細胞の傷害を防ぐのに十分であり、HLA-EはNK抑制性受容体CD94/NKG2Aの主要リガンドである閲覧 2026-08-25
  5. 5.Batf3 deficiency reveals a critical role for CD8alpha+ dendritic cells in cytotoxic T cell immunity(Science・2008)転写因子Batf3を欠損させるとCD8α陽性樹状細胞の発生が失われる。Batf3欠損マウスの樹状細胞は交差提示ができず、西ナイルウイルスに対するウイルス特異的CD8陽性T細胞応答を欠き、強い免疫原性をもつ同系腫瘍の拒絶も障害された。交差提示はこの特定の樹状細胞系列が担っている閲覧 2026-08-25
  6. 6.Human CD141+ (BDCA-3)+ dendritic cells (DCs) represent a unique myeloid DC subset that cross-presents necrotic cell antigens(Journal of Experimental Medicine・2010)ヒトCD141(BDCA-3)陽性樹状細胞はリンパ節・骨髄・扁桃・血液に存在し、TLR3を高発現しIL-12p70とIFN-βを産生する。poly(I:C)で活性化したCD141陽性樹状細胞は、より一般的に研究されてきたCD1c陽性樹状細胞よりも可溶性タンパク抗原をCD8陽性細胞傷害性Tリンパ球へ交差提示する能力が高く、ウイルス感染壊死細胞を取り込んだ後にウイルス抗原を交差提示できるのはCD141陽性樹状細胞だけであった。マウスのCD8α陽性樹状細胞に相当するヒトのサブセットである閲覧 2026-08-25