免疫学

免疫学 · 3.3

補体アッセイ

Complement assays

タグ
W6Seminar / 演習
疾患
C1q欠損症補体C2欠損症
検査値
C1インヒビターCH50可溶性C5b-9補体C1q補体C4

🧠 補体検査は「を利用した(CH50)」と「個々の成分の濃度・活性化産物を測る免疫学的検査」の2本柱として読む。 CH50が正常でも一部の成分が50〜80%減少していることがあり、逆にCH50上昇の方がむしろ多い(補体タンパクはでもあるため)——「正常値=異常なし」と単純に読まない注意が必要。C3・C4のパターン(同時低下 vs C3のみ低下)で、どの経路が活性化しているかまで推定できる。

補体検査で測定できるパラメータ

検査対象 内容
個々の因子活性 or 総合的な活性化
個々の補体因子濃度
濃度
遺伝性疾患が疑われる場合、該当成分の

CH50試験:溶血活性を利用した機能検査

補体のを利用し、溶血によってのを検出する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sheep RBC'>羊赤血球</span>+ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensitized RBC'>抗羊赤血球抗体</span>"]
  A --> B["+ ヒト血清(補体源)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classical pathway'>古典経路</span>活性化"]
  C --> D["溶血 → ヘモグロビン遊離 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='absorbance'>吸光度</span>に反映"]
  A --> E["+ 56°C前加温血清(heat-inactivated)"]
  E --> F["補体は高温で失活 → 溶血なし(対照)"]

CH50=の50%を溶血させる血清希釈倍数の逆数。血清中のは約142〜279 CH50 unit。他の体液中では通常血清の25〜30%程度。

⚠️ CH50は「の検査」であって「補体全体の検査」ではない。 感作を使う以上、CH50が見ているのはC1→C4→C2→C3→C5〜C9という+の通り道だけである。臨床検査室ではCH50()・AP50/AH50()・MBL活性()の3つで3経路を別々に評価する1。経路ごとに特異的なコーティング(IgM=古典、LPS=第二、マンナン=)と特異的な緩衝液を組み合わせた形式なら、1枚のプレートで3経路を並べて評価でき、によりのどの階層に欠損があるかまで絞り込める2。

💡 2つ組み合わせると欠損部位が絞れる、という読み方。 3経路はC3より下流(C3・C5〜C9)を共有し、上流はそれぞれ固有である。したがって、CH50だけ低下→に固有の成分(C1q/C1r/・C4・C2)、AP50だけ低下→に固有の成分(Factor B・Factor D・)、両方低下→共有部分(C3・C5〜C9)、と当たりをつけられる。単独のCH50では、にしかない成分の欠損は原理的に検出できない。

⚠️ CH50が内でも「異常なし」とは言い切れない。 正常なCH50は全成分(C1〜C9)の存在を示すが、個々の因子は50〜80%減少してもCH50値には反映されないことがある(機能的なが大きいため)。また補体因子の産生速度は炎症状態で増加するため、内の値がを除外する根拠にはならない。

CH50上昇 vs 低下:どちらがより多いか

💡 CH50上昇の方が低下よりも頻度が高い——補体タンパクはでもあるから。 炎症状態では補体タンパクの産生自体が増加するため、CH50は「低下」よりむしろ「上昇」する方がよくある所見。

CH50上昇 CH50低下
状態、白血病、、肉腫 肝疾患、急性・、関節リウマチ、溶血性貧血、SLE、

CH50低下の原因:一次性 vs 二次性欠損

分類 機序
多くは遺伝性:特定成分の先天的欠如・機能不全
①産生不足(insufficient production:・)、②免疫反応での過剰消費(overconsumption:・免疫複合体疾患)

欠損部位ごとの臨床像

欠損部位 帰結
→免疫複合体が除去されない(not cleared)→(例:SLE)
後期成分(late components:C5b, C6, C7, C8, C9) 形成不能→の反復

補体検査の一般的な臨床適応

家族歴に、反復性細菌感染、疾患、・糸球体腎炎、蕁麻疹を伴わない——これらが補体検査を考慮する典型的な契機になる。

⚠️ 補体検査は「検体の扱いで結果が変わる検査」——低値を見たらまず検体を疑う。 補体タンパクは壊れやすく、採血後に in vitro で活性化・分解するため、採血後できるだけ速やかに冷却するのが原則である。実測では、CH50とAP50は氷上の血清なら約1週間安定する。室温ではCH50は血漿で血清の約2倍速く低下し、逆にAP50は血漿で約2倍遅く低下する(のC3安定化作用による)。実務上の落としどころは、氷上の血清が第一選択、氷上輸送ができなければ室温24時間以内の血清、検査に限れば4日以内の血漿まで許容(いずれも基準活性の85%以上が保たれる条件)1。

⚠️ 施設間で数値が揃わないことも「この検査の限界」に含まれる。 C3・C4などごく少数のタンパクを除いて、よく特性評価された標準品もされたアッセイも存在せず、これは特に・・のの施設間差として現れる3。他施設の値や過去の値と直接比べない、は同じ検査室で追う——これが実務上の帰結になる。

個々の補体成分・活性化産物の測定法

に基づく手法(免疫沈降=immunoprecipitation、=radial immunodiffusion、法=turbidimetry、、、RIA、)で、個々のの濃度や欠損を直接測定できる。

補体活性化ELISA

IgM・・LPSなどでプレートをコーティングし、抗C9抗体で検出——活性化・分解産物そのものを検出することで機能を評価する。

⭐ 活性化産物の測定は「経路のどこが動いたか」をより精密に教えてくれる。 利点:経路機能のより精密な特徴づけ、病的な活性化(消費増加)の検出が可能。測定対象は①酵素的(C4a-C4b、C3a-C3b、Bb、C5a、iC3bなど)、②免疫複合体(C1rs-C1-INH、C3bBbP、)の2種。

⚠️ 活性化産物こそ検体の扱いに弱い——「体内で起きた活性化」と「試験管の中で起きた活性化」を区別できない。 総C3値の測定は間接的で鈍感なので、本来はC3a・iC3bのような下流の活性化産物を測る方が鋭い。ところが採血後の in vitro 活性化がこれらをにするため、検体操作を最小限にする工夫(全血のまま15分で測る系など)が必要になる4。活性化産物の高値は、まず採血・搬送の手技を疑ってから病的活性化と解釈する。

C3・C4パターンから活性化経路を推定する

パターン 示唆される経路
C3・C4が同時に低下 (または/MBL経路)の活性化
C3のみ低下、C4は正常範囲 の活性化

症例1:髄膜炎とC5欠損

23歳男性、発熱・頭痛・・倦怠感が2日間持続。:髄液圧上昇・(多数の好中球、蛋白増加、=Neisseria meningitidis)。

検査:C5値は正常の18%、C2・C3・C7は正常。治療で改善。

⭐ C5欠損はなぜへの易感染性を招くのか。 3つの活性化経路はいずれも(C3b等)の形成には至れるため、貪食による排除はある程度機能する。しかしC5欠損ではC5a(因子)と()の両方が作れない——莢膜をもつ菌のような、依存性の直接溶解が排除に重要な病原体に対して特異的に脆弱になる。

症例2:遺伝性血管性浮腫

17歳女性、軽微な外傷後に長期間持続する組織腫脹。過去2年間、間欠的な腹痛と下痢(7回/日)のエピソードあり。検査:C3正常、値は正常の20%——と診断。

⚠️ はだけでなく、-も抑制する二刀流の。 欠損では、①の自発的活性化(C1q・C1r,s→C4・C2切断)が制御されず補体側の異常を生むと同時に、②産生の増加が起こり、これがを介して浮腫・下痢の症状を直接説明する。は温存されているため、細菌感染への易感染性は増加しない——の中でも「感染症ではなくを起こす」特殊なパターン。

💡 アナフィラキシーとは臨床的に鑑別できる。 アナフィラキシー(ヒスタミン介在)ではエピネフリンに速やかに反応し、蕁麻疹を伴うことが多い。一方、ではエピネフリンは無効で、静注(またはFFP=、受容体拮抗薬、阻害薬)が必要——によるの原因を鑑別する際、この治療反応性の違いが決め手になる。

まとめ

  • CH50はを利用したの総合で、正常値でも個々の成分の50〜80%減少を見逃しうる。炎症では補体はとして増加するため、CH50上昇の方が低下より多い。
  • 欠損→、後期成分欠損(C5〜C9)→反復、という欠損部位別のパターンを押さえる。
  • C3・C4同時低下は古典/の活性化を、C3単独低下(C4正常)はの活性化を示唆する。
  • 症例1(C5欠損)は・C5a両方の欠如による髄膜炎易感染性、症例2(欠損)はと系の二重制御破綻による(感染症リスクは増加しない)を示す好対照。
  • アナフィラキシーとHANOはエピネフリンへの反応性・蕁麻疹の有無で鑑別する。

出典

  1. 1.Preanalytical classical and alternative complement pathway activity loss(Biochemia Medica・2019)補体タンパクは壊れやすく in vitro 活性化により分解するため、採血後はできるだけ速やかに冷却することが推奨される。健常者5名の検体で、CH50とAP50は氷上の血清では約1週間安定していた。室温ではCH50はEDTA血漿で血清の約2倍速く低下し、逆にAP50はEDTA血漿で約2倍遅く低下した。機能検査の検体は氷上の血清が最適で、氷上輸送ができない場合は室温24時間以内の血清、第二経路検査に限ればEDTAのC3安定化作用により4日以内のEDTA血漿が使える(いずれも基準活性の85%以上が保持される条件)閲覧 2026-08-25
  2. 2.Functional analysis of the classical, alternative, and MBL pathways of the complement system: standardization and validation of a simple ELISA(Journal of Immunological Methods・2005)古典経路・第二経路の補体欠損スクリーニングは主に溶血アッセイで行われてきたが、経路ごとに特異的なコーティングと特異的な緩衝液系を組み合わせた簡便なELISA形式で3経路すべての活性化を評価できる。標準化とカットオフ値の設定により、補体系の異なる階層にある欠損を検出できることが示された閲覧 2026-08-25
  3. 3.Complement analysis 2016: Clinical indications, laboratory diagnostics and quality control(Immunobiology・2016)C3・C4を超えた補体解析により鑑別診断の精度と補体標的治療のモニタリングが向上したが、補体系の解析法は施設間で大きくばらついている。C3・C4など少数のタンパクを除き、よく特性評価された標準品も較正されたアッセイも存在せず、これは特に古典経路・第二経路・レクチン経路の機能を評価する検査の施設間差として現れる。補体活性化産物の測定についても標準化が必要である閲覧 2026-08-25
  4. 4.A quantitative lateral flow assay to detect complement activation in blood(Analytical Biochemistry・2015)補体活性化は通常、総C3値の測定で監視されるが、これは間接的で比較的鈍感な方法である。C3aやiC3bといった下流の活性化産物を測る方が本来は望ましいが、in vitro 活性化によりこれらのバイオマーカーが偽高値になりうる。検体操作を最小限にすることで in vitro 活性化を避け、全血・血漿・血清中のiC3bを15分で測定するラテラルフロー免疫測定系が開発された閲覧 2026-08-25