疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 先天性疾患

補体C2欠損症

Complement C2 deficiency

別名
C2欠損症C2欠損遺伝性C2欠損症
臓器系
免疫・膠原病感染症
科目
Medical Genetics and Immunology (Immunology)Internal Medicine
トピック
免疫学 3.1:補体系免疫学 3.3:補体アッセイ内科学 R-13:原発性・続発性免疫不全
合併症
敗血症細菌性髄膜炎市中肺炎
続発疾患
全身性エリテマトーデス
関連疾患
C1q欠損症
検査値
抗Ro/SSA抗体CH50補体C4

🧠 全体像:は最も頻度の高いでありながら、多くの保因者が無症状という、頻度とが食い違う疾患である。検査上のは「CH50は下がるのにC4は正常」で、C4低値をきたすと正面から分かれる。臨床の柱は2つ——(とくに肺炎球菌)による侵襲性感染と、SLE様の自己免疫である。

遺伝学

C2遺伝子は第6のクラスIII領域にあり、欠損はに遺伝する。欧州系の集団での推定頻度は1/20,000である1。

型 分子的な機序 割合
I型 蛋白がまったく作られない。主要形は28塩基の欠失(エクソン6の3’端9塩基+イントロン6の5’端19塩基)で、エクソン6がスキップされを生じる 大多数
II型 蛋白は合成されるが分泌されない(C111Y・S189F・G444Rの) 約10%1

⭐ 28塩基欠失は特定の(-A25・B18・DRB1*15)の上に乗っている1。C2が領域の中に位置するために起きる連鎖で、自己免疫との関連を解釈するときに「C2欠損そのものの効果か、同じ上のアレルの効果か」を分けにくくする厄介の源でもある。

検査パターン——ここがこの疾患の核

C2はとの両方でC4bとともにを作る1。C4より下流の成分なので、C2が無くてもC4の合成と血中濃度には影響しない。

検査 (SLE・など)
CH50() 著明低下〜測定感度以下 低下
AP50() 正常 正常〜低下
C3 正常 低下
C4 正常 低下

⚠️ 「CH50低下・C3正常・C4正常」を見たら、C4欠損ではなくC2など他のの単独欠損を疑う。 C2はC4とは別の遺伝子産物であり、によるC4の切断とは独立して合成されるため、C2欠損単独ではC4自体は正常にとどまる(のノートと同じ読み方)。

flowchart TD
    A["反復する侵襲性感染、または若年発症のSLE様病態"] --> B["CH50・AP50・C3・C4を測る"]
    B --> C{"CH50は低いか"}
    C -->|"正常"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classical pathway'>古典経路</span>に固有の成分の完全欠損は考えにくい<br>(検体の扱いと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Acute phase reaction, APR'>急性期反応</span>にも注意)"]
    C -->|"低下"| E{"AP50も低いか"}
    E -->|"低下"| F["C3または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal component'>終末成分</span>(C5〜C9)の異常を疑う"]
    E -->|"正常"| G{"C3とC4は正常か"}
    G -->|"どちらかが低下"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune complex disease'>免疫複合体病</span>などによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased consumption'>消費亢進</span>を疑う"]
    G -->|"ともに正常"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classical pathway'>古典経路</span>に固有の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early components'>早期成分</span>の欠損<br>——C4が正常ならC2欠損が最有力"]

💡 CH50とAP50を組み合わせると欠損部位が絞れる。CH50だけ低下ならに固有の成分(C1q/C1r/・C4・C2)で、そのうちC4が正常ならC2欠損が最有力になる。検査の原理と検体の扱いは免疫学 3.3:補体アッセイに委ねる。

臨床像1——莢膜細菌による侵襲性感染

スウェーデンの33家系40人のホモ接合コホート(平均観察期間39年)では、侵襲性感染がこの疾患の主たる臨床像であった2。

所見 (40)2
侵襲性感染(主に肺炎球菌による敗血症・髄膜炎)の既往 23人
侵襲性感染の反復 12人
1回以上の肺炎 19人
10人

⭐ は主に乳児期・小児期に集中する2。年齢とともにに対する獲得抗体が積み上がり、抗体を介した経路で補われるためと考えられる。逆に言えば、乳幼児期の反復する侵襲性肺炎球菌感染は補体欠損を疑う契機になる。

に対する防御は特異的抗体と補体の両方が担っており、ヒトでは肺炎球菌に対しての活性化が優位に働く。この点はC2欠損患者の血清を用いた肺炎球菌の実験そのもので確認されている3。

臨床像2——SLE様の自己免疫

⚠️ は「最も頻度が高いがは低い」である。 SLEに対するは約10%にとどまり、C2欠損がSLE患者全体に占める割合もおそらく1%未満である1。きわめて稀だがが最も高い(88%がSLEまたは)とは、この点で正反対の位置にある1。

C2欠損に伴うSLEには特徴がある1。

  • 女性優位で、小児期発症だが経過は比較的軽い
  • 性の状が目立つ
  • の(多くは)を示す一方、は通常陰性
  • 重篤な腎病変はまれ

⭐ 40人のコホートでは10人がSLE、ほかに4人が、3人が血管炎をもった2。ただし侵襲性感染へのと疾患のあいだに相関はみられなかった2。感染しやすい人が自己免疫も起こしやすいわけではなく、2つの表現型は別々に出る。

心血管疾患

同じコホートでは心血管疾患のが高く、6人に10回・5回が集中していた2。死因は感染5人・3人・癌1人で、感染だけがこの疾患の予後を決めるのではない2。補体欠損と動脈硬化の関連は、免疫複合体やの除去不全という共通の機序で説明が試みられている。

管理

C2そのものを補う実用的な手段は無い。管理はへの備えが中心になる。

  • ワクチン:肺炎球菌・(Hib)・髄膜炎菌の。特異的抗体を上げることが防御の一方の柱だからである3
  • ⚠️ ワクチンは欠けた補体の段を埋めるものではない。 抗体単独でも一部の血清型では貪食を促せるが、補体が加わると貪食は著明に増える3。接種済みであっても発熱時は侵襲性感染を前提に対応する
  • 発熱時に速やかに評価と抗菌薬に到達できる(患者・家族への説明、受診の閾値の共有)
  • SLE様症候の監視。ただしは約10%であり、全例が自己免疫を発症するかのように説明しない1

まとめ

  • は最も頻度の高い(欧州系で1/20,000)で、C2遺伝子はクラスIII領域にあるの欠損。
  • ⚠️ 検査のは「CH50低下・AP50正常・C3正常・C4正常」。C4正常という点でC4欠損・と分かれる。
  • 主要な臨床像は肺炎球菌などのによる侵襲性感染で、40人のコホートの23人に既往があり、反復は乳児期・小児期に集中した。
  • SLEへのは約10%と低い。発症例は小児期発症・・抗Ro/SSA陽性・抗陰性・腎病変まれという軽い型をとる。きわめて稀だが88%がSLE様となるとは対照的。
  • 心血管疾患のも高く、死因は感染だけではない。
  • 管理はに対すると、発熱時に侵襲性感染を前提とする対応。

出典

  1. 1.Early Components of the Complement Classical Activation Pathway in Human Systemic Autoimmune Diseases(Frontiers in Immunology(Lintner KE, Wu YL, Yang Y ほか)・2016)C2遺伝子が第6染色体短腕のHLAクラスIII領域にあること、C2が古典経路だけでなくレクチン経路でも切断されてC3転換酵素を作る中心成分であること、欧州系の集団におけるC2欠損症の推定頻度が1/20,000で全身性エリテマトーデス患者に占める割合はおそらく1%未満であること、C2欠損症にはI型(蛋白がまったく作られない)とII型(蛋白は合成されるが分泌されない、全体の約10%、C111Y・S189F・G444Rのミスセンス変異)があること、I型の主要形がエクソン6の3'端9塩基とイントロン6の5'端19塩基を除く28塩基欠失でエクソン6のスキップと未成熟終止コドンを生じること、この28塩基欠失がHLA-A25(A10)・B18・DRB1*15(DR2)を含むハプロタイプ上にあること、C2欠損症の全身性エリテマトーデスに対する浸透率が約10%であること、C2欠損に伴うSLEは女性優位で小児期発症だが経過は比較的軽く光線過敏性の皮膚症状が目立ち斑紋型ANA(多くは抗Ro/SSA)を示す一方で抗DNA抗体は通常陰性で重篤な腎病変はまれであること、対照的にC1q欠損では88%がSLEまたはループス様疾患を発症し41%が反復性細菌感染を起こしたことを、全文(PMC4753731)で確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Hereditary C2 deficiency in Sweden: frequent occurrence of invasive infection, atherosclerosis, and rheumatic disease(Medicine (Baltimore)(Lund大学)・2005)スウェーデンで25年間に同定された33家系40人のホモ接合C2欠損症の臨床像で、平均観察期間39年(1〜77年)のうち、23人が侵襲性感染(主に肺炎球菌による敗血症または髄膜炎)の既往をもち12人がそれを反復したこと、19人が1回以上の肺炎を経験し10人が反復性肺炎であったこと、反復感染は主に乳児期・小児期に起きたこと、10人が全身性エリテマトーデスを、ほかに4人が未分化結合組織病・3人が血管炎をもったこと、侵襲性感染への易罹患性とリウマチ性疾患のあいだに相関はみられなかったこと、6人に急性心筋梗塞10回・脳血管イベント5回が集中し心血管疾患の発生率が高かったこと、死因が感染5人・急性心筋梗塞3人・癌1人であったことを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-02
  3. 3.Protection Against Invasive Infections in Children Caused by Encapsulated Bacteria(Frontiers in Immunology(Sadarangani M)・2018)莢膜をもつ肺炎球菌・髄膜炎菌・インフルエンザ菌・B群連鎖球菌に対する防御が莢膜多糖特異的抗体と補体によって担われること、ヒトでは肺炎球菌に対する防御に古典経路の活性化が優位に働き第二経路の寄与は一部にとどまること、この知見がC2欠損症患者の血清やC1q・factor Bを除いた血清を用いた肺炎球菌のオプソニン化実験で確認されたこと、オプソニン化貪食が肺炎球菌の主たる殺菌機構であり抗体単独でも一部の血清型では貪食を促せるが補体の追加で貪食が著明に増えること、結合型ワクチンの莢膜多糖特異的IgGの防御閾値が3試験のデータから0.35 mg/mLと見積もられ承認の根拠に用いられてきたこと、無脾・脾機能低下の患者にはこれら3病原体すべてのワクチン接種と長期の抗菌薬予防が推奨されることを、全文(PMC6255856)で確認した閲覧 2026-09-02