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Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 先天性疾患

C1q欠損症

Complement C1q deficiency

別名
補体C1q欠損症遺伝性C1q欠損症C1QA/C1QB/C1QC欠損症
臓器系
免疫・膠原病全身
科目
Medical Genetics and Immunology (Immunology)PathologyInternal Medicine
トピック
免疫学 3.1:補体系免疫学 3.3:補体アッセイ病理学 A/41:先天性・後天性免疫不全症病理学 A/39:全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)内科学 R-01:全身性エリテマトーデスの臨床像内科学 R-13:原発性・続発性免疫不全
続発疾患
全身性エリテマトーデス
関連疾患
C1q腎症補体C2欠損症
治療薬
プレドニゾロンミコフェノール酸モフェチルシクロホスファミドヒドロキシクロロキンバリシチニブ
症状
円板状皮疹蝶形紅斑光線過敏発熱関節痛
検査値
CH50補体C1q補体C4抗核抗体抗dsDNA抗体

🧠 全体像:は、の入口そのものを失うの先天性免疫不全である。C1qは細菌を攻撃するための分子であると同時に、死んだ細胞と免疫複合体を片づけるための分子でもある。この「掃除係」を失うと、片づけられなかったが免疫系に晒され続け、結果としてのうち最もの高い病型になる。ごく稀な疾患だが、「補体欠損=易感染」という単純な図式が通用しない代表例として覚える。

遺伝と分子の背景

C1qは、A鎖・B鎖・C鎖の3種のポリペプチドが6本ずつ集まってチューリップの花束状の6量体をつくる分子で、それぞれ C1QA・C1QB・C1QC にコードされる。どの遺伝子の両アレルに病的変異があってもC1q分子は完成せず、の形式をとる。報告例はごく少数で、のある家系に強く偏る。

⭐ C1qは肝臓ではなく単球・マクロファージ・が産生する。 の多くが肝細胞由来であるのに対し、C1qだけはが局所で作る。この産生元の違いが、後述するが根治になりうるという治療戦略の根拠になっている1。分子としての構造・産生・機能の詳細はに譲る。

なぜ狼瘡になるのか

C1qには2つの顔がある。抗原に結合してした抗体(免疫複合体)を認識してを起動する顔と、の表面に露出した変性自己成分に結合し、による除去()の目印を付ける顔である。C1qを欠くと後者が働かず、除去されるはずの核内抗原がとともに組織に残留する。残留した核酸はに提示され、また細胞内のを刺激しての産生を招く。

実際、遺伝子診断が確定した患者では末梢血のの発現が一様に上昇しており、はであると同時にの性格を併せ持つ病態として位置づけられている2。

flowchart TD
    A["C1QA/C1QB/C1QCの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biallelic mutation'>両アレル変異</span>"] --> B["C1q分子が作られない"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classical pathway'>古典経路</span>が起動しない"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apoptotic cell'>アポトーシス細胞</span>の除去の目印が付かない"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Encapsulated bacteria'>莢膜細菌</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defective opsonization'>オプソニン化不全</span><br>反復する化膿性感染"]
    D --> F["核内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoantigen'>自己抗原</span>が組織に残留"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoreactive B cell'>自己反応性B細胞</span>の活性化"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid sensor'>核酸センサー</span>刺激による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='type I interferon'>I型インターフェロン</span>産生"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lupus'>狼瘡</span>ないし<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lupus'>狼瘡</span>様病態"]
    H --> I

💡 「補体が減れば感染に弱くなる」という一本道では説明できない。 (C5〜C9)の欠損では髄膜炎菌を中心とするのが前面に出るのに対し、の起点であるC1qの欠損では自己免疫のほうが臨床像を支配する。同じ「」でも、欠けた場所が経路のどこかで表現型がまったく変わる。

臨床像

報告された71例を集めた文献レビューでは、約78%(71例中55例)がないし様の病態を呈していた3。⚠️ 別に74例を集計した総説はこの割合を88%とし、反復細菌感染を41%、若年での敗血症死を17%としている——集計により78〜88%と幅がある。症状の発症年齢の中央値は5歳で、散発性のが思春期以降の女性に偏るのと対照的に、性差がなく学童期前に始まる。

項目 に伴う 散発性SLE
56% 10%
49% 24%
関節炎 38% 84%
抗dsDNA抗体陽性 18% 78%

(いずれもStegertらの文献レビューによる比較3)

⭐ に偏り、関節炎と抗dsDNA抗体に乏しいという組み合わせが、この病型を疑う臨床的な手がかりになる。・・発熱・関節痛といった一般的な症状も当然みられるが、抗dsDNA抗体が陰性であることを理由にSLEを否定してしまうと診断に到達しない。

中枢神経病変はできない頻度で起こる。⚠️ 中枢神経病変を主題として集められた12例の集積では、・脳炎・・といった中枢神経病変が10例に、が11例にみられた一方、腎病変は2例にとどまった。⚠️ 74例を集計した総説では神経病変19%・糸球体腎炎約30%であり、報告により像が割れる42。⚠️ 腎病変が主役とは限らない点が、成人の散発性SLEの印象と食い違う。

感染面では、から肺炎球菌・・髄膜炎菌といったによる・重症感染を起こす。前述の文献レビューは、一部の症例が重篤な経過をたどったのは主に幼少期の重症感染によるもので、病変がとくに激烈だったためではないとしている3。

診断

診断の骨格は、「C3・C4は正常なのにが完全に止まっている」という補体パターンを捕まえることである。

検査 での所見
CH50(の) 測定感度以下まで著減
AP50(の) 正常
・C3 正常
血清C1q抗原量 検出されない
C1QA・C1QB・C1QC の 両アレルの病的変異を確認(確定診断)

💡 CH50がゼロなのにC3・C4が正常、という組み合わせは「消費」では説明できない。 免疫複合体によるの消費であればC4とC3も一緒に下がる。両者が正常のままCH50だけが底を打つのは、経路上のある成分そのものが存在しないときに起こるパターンである。経路のどこが欠けているかをCH50とAP50の組み合わせで絞る考え方は免疫学 3.3:補体アッセイに整理されている。

は陽性になるが、抗dsDNA抗体は前述のとおり陰性のことが多い。血清C1q値そのものの解釈、との区別、組織C1q沈着との区別はを参照する。

⚠️ 「C1q」という語だけで話を進めない。 血清C1qが検出されない遺伝性欠損と、腎生検でにC1qが濃く沈着するは、名前が似ているだけの別の実体である。前者は分子が作れない病気、後者は染色パターンで定義される診断カテゴリーで、両者を取り違えると検査の依頼そのものが噛み合わなくなる。

古典経路の他の欠損との位置づけ

の成分欠損はいずれもSLE様病態と結びつくが、頻度とが逆向きに並ぶ点が教育上の要点である。

欠損する成分 頻度 SLE様病態の
C2 の欠損では最も多い 低い(SLEに対するは約10%)4
C1q きわめてまれ 最も高い4

⭐ 経路の上流ほどが高い。 C1qはの除去を直接担う最上流の分子なので、これを失うことがの残留に最も直結する。逆にC2欠損は頻度こそ高いものの、無症状で生涯を終える人も珍しくない。そのものの臨床像はに譲る。

治療

と対症的治療がはっきり分かれる。

⚠️ 移植のタイミングは早すぎても遅すぎてもいけない。 上記の研究では、神経病変および/または腎病変を伴う重症の自己免疫表現型ではすでに全生存率が有意に低かった(40%対84%)1。臓器障害が固定してから移植に踏み切るのでは遅い一方、が現実に5例出ている以上、無症候例に一律で勧められるものでもない。適応は症例ごとに慎重に判断する。

まとめ

  • は C1QA・C1QB・C1QC の欠損で、の除去が破綻し、のうち最もが高い病型になる。
  • 報告例の約78%がないし様病態を呈し、発症年齢中央値は5歳で性差がない。
  • (・)が多く、関節炎と抗dsDNA抗体に乏しいという偏りがある。中枢神経病変の頻度もできないが、集積によって像が割れる(12例の集積では中枢神経優位、74例の集計では糸球体腎炎約30%・神経19%)。
  • 補体パターンはCH50著減・AP50正常・C3/C4正常で、で確定する。
  • 対症的な免疫抑制のほかに、単球由来という産生の特殊性からが根治的選択肢になりうるが、重症の自己免疫表現型では成績が落ちる。
  • 名前の似たとは別の実体である。

出典

  1. 1.Hematopoietic Stem Cell Transplantation for C1q Deficiency: A Study on Behalf of the EBMT Inborn Errors Working Party(Journal of Clinical Immunology・2024)C1qが単球で産生されることを根拠に同種造血幹細胞移植が試みられてきたこと、11施設18例(移植20回、施行年齢中央値10歳、範囲0.9〜19歳)の国際後方視的研究で移植適応は17例が既存治療で制御できない自己免疫病変、1例がMALTリンパ腫の若年発症であったこと、2年時点の全生存率71%・イベントフリー生存率59%、11例で自己免疫症状が消失し免疫抑制薬を中止できた一方5例が移植関連合併症で死亡したこと、神経病変および/または腎病変を伴う重症自己免疫表現型では全生存率が有意に低かった(40%対84%、p=0.034)ことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Hereditary C1q Deficiency is Associated with Type 1 Interferon-Pathway Activation and a High Risk of Central Nervous System Inflammation(Journal of Clinical Immunology・2024)遺伝子診断が確定した12例の国際共同症例集積で、中枢神経病変(基底核石灰化・脳炎・血管炎・慢性肥厚性硬膜炎)が10例、皮膚粘膜病変が11例、腎病変が2例、重症感染が2例にみられたこと、測定した10例全例で末梢血のインターフェロン刺激遺伝子発現が上昇し、2例では血清・髄液のインターフェロンαも高値であったこと、JAK阻害薬で治療した3例の反応は一様でなく1例が皮膚・神経症状に良好に反応した一方2例はJAK阻害薬でも病勢が持続したことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Clinical presentation of human C1q deficiency: How much of a lupus?(Molecular Immunology・2015)45家系71例の報告例を集めた文献レビューで、39例(55%)がACR分類基準を満たすSLE、16例(22.5%)がSLE様症候群(ACR基準3項目陽性)と分類され、症状の発症年齢中央値は5歳で性差はなかったこと、散発性SLEと比べて円板状皮疹(56%対10%)と口腔内潰瘍(49%対24%)が有意に多く、関節炎(38%対84%)と抗dsDNA抗体陽性(18%対78%)が有意に少なかったこと、腎・神経病変の頻度は同程度であったこと、一部の症例の重篤な経過は主に幼少期の重症感染によるものでSLE病変がより激烈なためではないと考えられたことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02
  4. 4.Early Components of the Complement Classical Activation Pathway in Human Systemic Autoimmune Diseases(Frontiers in Immunology・2016)古典経路の早期成分欠損とヒト全身性自己免疫疾患の関係を扱った総説。ホモ接合C1q欠損の報告例が74例に増え、そのうち88%にSLEまたはループス様疾患、41%に反復細菌感染がみられ、17%が敗血症により若年で死亡したこと。C2欠損の推定有病率が1/20,000でSLE患者全体に占める割合はおそらく1%未満であること、C2欠損のSLEに対する浸透率が約10%であることを確認した。閲覧 2026-09-03