病理学

病理学 · A/41

先天性・後天性免疫不全症

Inherited and Acquired immunodeficiencies

タグ
Mechanism / 機序High-yield / ポイント
疾患
C1q欠損症無脾症・脾機能低下症

🧠 全体像:一次性免疫不全は欠損した系で感染パターンが決まる——抗体・補体の欠損はの化膿性感染、T細胞の欠損はウイルス・真菌・日和見感染を招く。二次性免疫不全は一次性よりはるかに多く、AIDSが最重要。

概要

免疫不全は一次性(先天性)と二次性(後天性)に分けられる。いずれも感染や一部の癌への感受性を高める。感染のパターンが障害された系を示す:抗体・補体欠損 → 化膿性の、T細胞欠損 → ウイルス・真菌・日和見感染。

一次性(先天性)免疫不全

多くは遺伝性。自然免疫(補体、NK、)または獲得免疫(液性・細胞性)を侵す。

疾患 欠陥 主な特徴
SCID() 液性+細胞性(T・B)の両方。X連鎖:/4/7/9/15受容体の(IL-7が鍵)、:ADA欠損 → 毒性アデノシン 重度(Candida、Pseudomonas、CMV、水痘)、胸腺低形成、リンパ組織の萎縮。治療:
X連鎖(Bruton) BTK変異 → pre-B細胞が成熟できない → Igなし なので患者はほぼ男児。生後約6か月で発症(母体Ig消退後)、反復性化膿性感染(S. aureus、S. pneumoniae、H. influenzae)。治療:IVIG
(胸腺低形成、Thymic hypoplasia) 22q11.2欠失 → 第3・4の形成不全 胸腺低形成によるT細胞減少(胸腺が完全に欠如する完全型ではT細胞がほぼ欠如)、(副甲状腺の低形成)、・の異常
IgA B細胞ののブロック 白人集団では最も多い(東アジアではまれ。下の💡)。多くは無症状。反復性の副鼻腔・肺・、自己免疫の合併、へのアナフィラキシー
() B細胞の成熟障害(形質細胞への不全)、は多様 反復性の副鼻腔・肺感染()。自己免疫疾患・・の合併リスクが高い
Wiskott-Aldrich症候群 WAS遺伝子変異(X連鎖) → 細胞骨格制御異常 血小板減少(血小板は小型)・湿疹・の3徴。とウイルスの両方に易感染性
(CGD) のオキシダーゼ欠損 → 産生障害・低下 菌(黄色ブドウ球菌、Burkholderia、Serratia、Nocardia)・Aspergillusによる反復性の膿瘍・肉芽腫
(C5〜C9) 欠損 → 形成不全 Neisseria属(髄膜炎菌・淋菌)への反復・

⚠️ 「」は「」へ置き換わりつつある。 (IUIS)の専門委員会は分類を定期的に改訂しており、収載数は版を重ねるたびに増え続けている——2022年版はの総数を485とし1、2024年版(2025年公表)は508の遺伝子にかかわると17のを収載した2(前者は疾患の数、後者は遺伝子の数で、数える単位が違うので引き算はできない)。旧称のPIDは試験でも臨床でもなお通用するので消えないが、疾患数や群数を挙げるときは「何年版のIUIS分類か」を添える(上表も網羅ではなく代表例である)。

💡 SCIDは単一の病気ではなく、複数の遺伝子異常で起こる。 上表はADA欠損と欠損のみを挙げているが、最も頻度の高い病型とされるのはX連鎖のIL2RG(共通)欠損で、IL2RG・変異ではT細胞とNK細胞が減りB細胞は残る(T−B+NK−)一方、IL7R変異ではNK細胞は残る(T−B+NK+)3。V(D)J組換えを始動するRAG1/RAG2の変異は、SCIDから自己免疫までの幅広い臨床像を示す4。この幅にはのようなが含まれ、変異タンパクに残る組換え活性の違いがその一因と考えられている。

💡 「最多の」という定石は、民族的背景によって頻度の桁が違う。 総説がまとめた各国の報告では、の頻度はアラビア半島1:143・スペイン1:163・英国1:875に対し、中国1:2,600〜1:5,300、日本1:14,840〜1:18,500とアジアで低く、一般に白人に多いとされる5。日本で「最多」とそのまま覚えると実感と合わない理由はここにある。

二次性(後天性)免疫不全

💡 ポイント: SCID = T+B欠陥(ADA/)→ 。Bruton XLA = BTK、ほぼ男児、B細胞・Igなし、生後6か月以降。DiGeorge = 22q11.2、胸腺低形成(T細胞減少)、。 = 白人集団で最多の(東アジアではまれ)、輸血へのアナフィラキシー。終末補体(C5〜C9)欠損 = Neisseria属。二次性 ≫ 一次性、が最重要。

まとめ

  • 一次性免疫不全の代表はSCID(T+B両欠損、で治療)、Bruton XLA(BTK変異、B細胞・Igなし、ほぼ男児)、(22q11.2欠失、胸腺低形成によるT細胞減少、)、(白人集団で最多の一次性免疫不全、東アジアではまれ)。
  • 二次性免疫不全は一次性よりはるかに多く、癌・感染・栄養不良・医原性免疫抑制が原因となる。
  • 抗体・補体欠損は感染に、T細胞欠損はウイルス・真菌・日和見感染に感受性が高まる。
  • 二次性免疫不全の中で最も重要なのはである。

出典

  1. 1.Human Inborn Errors of Immunity: 2022 Update on the Classification from the International Union of Immunological Societies Expert Committee(Journal of Clinical Immunology・2022)IUISの2022年更新が55の新規単一遺伝子異常と1つの表現型模倣を加え、先天性免疫異常症の総数を485としたことを抄録で確認した(2024年更新の「508遺伝子」とは数える単位が異なる)閲覧 2026-09-23
  2. 2.Human inborn errors of immunity: 2024 update on the classification from the International Union of Immunological Societies Expert Committee(International Union of Immunological Societies / Journal of Human Immunity・2025)IUISの2024年分類が508の遺伝子にかかわる先天性免疫異常症(inborn errors of immunity)と17の表現型模倣(phenocopy)を収載し、2022年6月公表の前回更新以降に見つかった(または確認・拡張された)67の新規単一遺伝子異常と2つの表現型模倣を報告していることを確認した。前回更新の総数(485)はこの論文の本文には出てこないため、別出典(tangye-iuis-2022-update)で確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Defective IL7R expression in T(-)B(+)NK(+) severe combined immunodeficiency(Nature Genetics・1998)SCIDは複数の遺伝子異常により起こり最も頻度の高い病型はIL2RG(IL-2・IL-4・IL-7・IL-9・IL-15受容体に共通するγ鎖)の変異によるX連鎖SCIDであること、IL2RG変異とJAK3変異ではT細胞とNK細胞が減りB細胞は正常(T−B+NK−)となり、IL7R発現異常はT−B+NK+型SCIDを起こすことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Human RAG mutations: biochemistry and clinical implications(Nature Reviews Immunology・2016)RAG1/RAG2がV(D)J組換えを開始すること、ヒトのRAG遺伝子変異が重症複合免疫不全症から自己免疫までの広い臨床スペクトラムを示すことを抄録で確認した(残存組換え活性と表現型の対応は抄録に無く、全文は未取得)閲覧 2026-08-27
  5. 5.Selective IgA deficiency(Journal of Clinical Immunology・2010)総説本文(Epidemiology)が、選択的IgA欠損症を最も多い原発性免疫不全としたうえで、頻度は民族的背景で異なりアラビア半島1:143・スペイン1:163・英国1:875に対し中国1:2,600〜1:5,300、日本1:14,840〜1:18,500とアジアで低く、一般に白人(Caucasians)に多いと述べていることを全文(PMC2821513)で確認した。各国の値は総説が他の研究から引いたもの閲覧 2026-08-27