病理学

病理学 · A/42

後天性免疫不全症候群(AIDS)

AIDS

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High-yield / ポイント

🧠 全体像:はCD4⁺T細胞そのものを乗っ取って自らを複製し、宿主の免疫系を内側から破壊するウイルスで、感染から日和見感染の出現までの臨床像の大部分はCD4数の低下という軸で整理できる。

定義

() はHIVが引き起こすレトロウイルス性疾患。感染と進行性のCD4⁺ T細胞の枯渇 → 重度の免疫抑制 → 日和見感染、腫瘍、。

感染経路: 性行為、非経口(、輸血、針刺し)、・周産期(子宮内、分娩時、母乳)。

ウイルス構造と侵入

  • 円錐形のコア:タンパクp24(診断用抗原)、p7/p9、2本のコピー(遺伝子gag、pol、env)、酵素逆転写酵素、、プロテアーゼ。
  • エンベロープ糖タンパクgp120とgp41。
  • 侵入:gp120がCD4に結合()+(CCR5:早期・マクロファージ、CXCR4:後期・T細胞)→ 変化 → gp41がを。
  • ライフサイクル:逆転写 → cDNA → として組み込み → 潜伏または転写 → 新しいの出芽。
  • CCR5-Δ32変異(CCR5の32塩基欠失)は感染のしやすさと進行速度を変える。6つのコホート1,955例の解析では、欠失の17例はすべて曝露歴がありながら抗体陰性の612例の中にあり、感染者1,343例には1例もいなかった。ではでが遅かった1。CCR5を使えない細胞にはの株が入れないためで、の株はこの防御を迂回しうる。
flowchart TD
    A["gp120がCD4に結合"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='co-receptor'>共受容体</span>に結合<br>CCR5(早期・マクロファージ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='directionality'>指向性</span>)<br>またはCXCR4(後期・T細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='directionality'>指向性</span>)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conformational'>立体構造</span>変化"]
    C --> D["gp41が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane fusion'>膜融合</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediate'>仲介</span>"]
    D --> E["ウイルス侵入・逆転写<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='provirus'>プロウイルス</span>として組み込み"]
    E --> F["潜伏 または 新規<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ビリオン</span>産生"]

臨床経過

相 特徴
初感染・(2〜4週) マクロファージ+CD4 T細胞(CCR5)に感染。、リンパ節腫脹、発熱
臨床的潜伏期(未治療で平均約10年、が大きい) リンパ節で複製が持続、CD4数は徐々に低下、多くは無症状
CD4の急激な低下、日和見感染+癌。一部の患者ではへの切り替えが起こる

の定義(米国の2014年版): 6歳以上ではCD4数200/µL未満(CD4数が無いときに限りCD4比率14%未満)が3()で、3を定義する疾患(、、など)が診断されればCD4数にかかわらず3とする。この病期は上の集計用であり、患者のを決める物差しではないと定義自身が明記している2。

モニタリング: 抗原/抗体検査 → 確認。CD4数が日和見感染リスクを予測、ウイルス量が治療反応を追う。

日和見感染(CD4数別)

CD4 感染
<200 Pneumocystis jirovecii肺炎、口腔・食道カンジダ症
<100 脳炎、髄膜炎
<50 MAC()、CMV網膜炎

ほかに結核、HSV、播種性。

💡 CD4別の閾値は臨床ガイドラインの基準と対応する。 のはCD4数200/µL未満またはの既往、のはCD4数100/µL未満かつIgG陽性が基準である。のはCD4数50/µL未満かつARTを開始しない患者にのみ用いる——ARTを開始・継続してウイルス抑制が得られている患者には推奨されない3。

AIDS指標悪性腫瘍と中枢神経

⭐ (ART)は感染者のを非感染者に近づけた。 欧米206,891例のコホートでは、2015年以降もARTを1年以上続けていた感染者の40歳時点の推定残存生存年数は、追跡開始時のCD4数が500/µL以上なら一般人口より数年短い程度まで近づいた(2015年以降にART開始した群で女性42.0年・男性39.2年)。ただし追跡開始時のCD4数が49/µL未満だった群はなお大きく短縮しており(同じく女性24.9年・男性23.7年)、・早期治療の有無が余命を左右することに変わりはない4。

⭐ 「治療が予防になる」ことはで、U=U(Undetectable = Untransmittable、ウイルス量が抑制されていれば性的伝播しない)は観察研究で裏づけられている。 9か国1,763組の血清不一致カップルのうちCD4数350〜550/µLの感染者を即時ART群と群にしたHPTN 052試験では、ウイルス学的に連鎖が確認された28件の伝播のうち早期治療群での発生は1件(0.04、95%信頼区間0.01〜0.27)だった5。さらに陽性パートナーがARTでウイルス抑制(血漿 200コピー/mL未満)されたゲイカップル782組・追跡1,593カップル年を観察したPARTNER2研究では、追跡中に15件の新規感染が起きたが、でカップル内の伝播と確認されたものは0件だった6。

💡 ポイント: HIVはgp120–CD4+CCR5(早期)/CXCR4(後期)を利用、gp41で融合、p24抗原。 = CD4 <200。CD4別の日和見感染:PCP <200、Toxo <100、/ <50。指標癌:Kaposi(HHV-8)、NHL()、()——肛門癌は増えるが指標疾患ではない。治療はART。

まとめ

  • はgp120がCD4+(早期CCR5、後期CXCR4)に結合し、gp41がをして侵入する。
  • 臨床経過は急性期()→臨床的潜伏期(未治療で平均約10年、多くは無症状)→(CD4<200、または指標疾患の発症)と進行する。
  • CD4数が日和見感染リスクを、ウイルス量が治療反応を予測する。
  • 日和見感染はCD4数で層別化される:<200でPCP・カンジダ症、<100で・、<50で・。
  • 指標悪性腫瘍は(HHV-8)、()、()。関連の肛門癌も増えるが指標疾患には含まれない。
  • 治療の中心はと日和見感染の予防。

出典

  1. 1.Genetic restriction of HIV-1 infection and progression to AIDS by a deletion allele of the CKR5 structural gene(Science・1996)6つのAIDSコホート1,955例の解析で、CCR5の32塩基欠失アレルのホモ接合体17例はすべて曝露歴がありHIV-1抗体陰性の612例の中にあり(2.8%)、感染者1,343例には1例もいなかったこと、ヘテロ接合体では病勢進行が遅いことを生存解析で示し、欠失アレルが感染に対して劣性の、AIDSへの進行の遅延に対して優性の表現型をとりうると結論していることを抄録で確認した閲覧 2026-09-23
  2. 2.Revised surveillance case definition for HIV infection--United States, 2014(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recomm Rep 63(RR-03))・2014)6歳以上ではCD4数200/µL未満(CD4数が無いときに限りCD4比率14%未満)がステージ3(AIDS)で、ステージ3を定義する日和見疾患が診断されればCD4数にかかわらずステージ3とすること、その一覧(付録)にカポジ肉腫・バーキットリンパ腫・免疫芽球性リンパ腫・脳原発リンパ腫・浸潤性子宮頸癌・HIV脳症などが含まれ肛門癌は含まれないこと、この病期分類は公衆衛生上のサーベイランス用で患者管理の指針として使うのは不適切だと明記していることを、MMWR本文(Wayback保存のcdc.gov版)で確認した閲覧 2026-09-23
  3. 3.Table 4, Opportunistic Infection Prophylaxis for Adults With HIV(NYSDOH AIDS Institute / Johns Hopkins University・2025)PCP一次予防はCD4数200/µL未満または口腔咽頭カンジダ症の既往、トキソプラズマ脳炎一次予防はCD4数100/µL未満かつIgG陽性が基準であること、播種性MAC感染の一次予防はCD4数50/µL未満かつARTを開始しない患者にのみ用い、ARTを開始または継続しウイルス抑制が得られている患者には推奨されないことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Life expectancy after 2015 of adults with HIV on long-term antiretroviral therapy in Europe and North America: a collaborative analysis of cohort studies(The Lancet HIV・2023)欧米のHIV感染者206,891例(2015年時点でART継続1年以上、または2015〜2019年にART開始して1年以上生存)のコホート統合解析で、40歳時点の推定残存生存年数は、追跡開始時のCD4数500/µL以上の群で女性40.2年(ART開始2015年前)・42.0年(2015年以降)、男性38.0年・39.2年と一般人口より数年短い程度だった一方、追跡開始時のCD4数49/µL未満の群では女性19.4年・24.9年、男性18.2年・23.7年と大きく短縮していたことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Prevention of HIV-1 Infection with Early Antiretroviral Therapy(The New England Journal of Medicine・2011)9か国1,763組の血清不一致カップルを対象としたHPTN 052試験で、CD4数350〜550/µLのHIV-1感染者を即時ART群とCD4低下または症状出現まで待つ群に1対1で無作為割付けしたところ、ウイルス学的に連鎖が確認された28件の伝播のうち早期治療群での発生は1件(ハザード比0.04、95%信頼区間0.01〜0.27)にとどまり、早期のART開始が性的伝播を減少させたことを抄録で確認した(抄録はウイルス量抑制の有無で層別した結果を示していない)閲覧 2026-08-27
  6. 6.Risk of HIV transmission through condomless sex in serodifferent gay couples with the HIV-positive partner taking suppressive antiretroviral therapy (PARTNER): final results of a multicentre, prospective, observational study(The Lancet・2019)欧州14か国の前向き観察研究(PARTNER2)で、陽性パートナーがARTでウイルス抑制(直近の血漿HIV-1 RNA 200コピー/mL未満)され、陰性パートナーがPrEP・PEPを使っていないゲイカップル782組・1,593カップル年の追跡中に15件の新規HIV感染が起きたが、系統解析でカップル内伝播と連鎖したものは0件(伝播率0、95%信頼区間上限0.23/100カップル年)だったことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27