免疫学

免疫学 · 2.1

自然(先天)免疫の原理

Principles of natural (innate) immunity

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IL-1受容体拮抗蛋白欠損症Majeed症候群クリオピリン関連周期熱症候群
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🧠 免疫応答のを3段階の時計として読む:0〜4時間=自然免疫(認識と排除)、4〜96時間=(の動員と排除)、96時間以降=獲得免疫(抗原のへの輸送・認識・増殖・排除)。 自然免疫は「遺伝子に固定された、クローン性のない受容体で、パターン(分子パターン)を認識する」系であり、獲得免疫のような体細胞を経ない。

自然免疫の基本性質

  • 進化的に保存され(evolutionarily conserved)、すべての多細胞生物に存在する。
  • 第一線の防御。
  • 受容体のはゲノムに固定され、を経ない——受容体はで、同じ細胞種のすべての個体が共有する。
  • を特徴とする。
  • 遺伝的欠損はきわめて稀だが、ほぼ常に致死的——それだけ生存に不可欠。

バリア:機械的・化学的・生物学的

分類 例
機械的 皮膚、粘膜、粘液、・
化学的 皮膚pH 5.5、胃pH 1.2〜3、膣pH 4.5、膿pH 5.5〜6、膵液pH 8、、、(NO)
生物学的 、ラクト(lactoperoxidase:唾液・)、(lysozyme:涙・汗・唾液)、、天然IgM自己抗体、

補体系

全身にで存在するの系で、活性化されると次々に互いを切断・活性化するで働く(詳細は03-1-the-complement-system)。

自然免疫の細胞

①単核食細胞系

・単球・結合組織のを含む。

表現型 由来 機能
M1マクロファージ
M2マクロファージ 動員性(recruited、感染・炎症時)

⚠️ M1/M2の二分は「単純化しすぎ」と明確に批判されている。 2014年のガイドラインは、がM1とM2の2型しかないという理解が分野の進歩を妨げていると述べ、①マクロファージの供給源、②活性化因子の定義、③マーカーの合意、という3原則で記述するよう求めている1。M1/M2は連続したスペクトラムの両端を指す便宜的なラベルであり、試験ではこの表のまま問われうるが、「活性化状態」の軸であって「由来」の軸ではない点に注意する。

⚠️ 組織の多くは骨髄由来ではない。 マウスの運命追跡では、肝の・脳の・表皮の・肺のの大半が、造血幹細胞とは別系統の卵黄嚢由来の赤芽球‐骨髄球系前駆細胞(EMP)に由来する。EMPは胎生8.5日に卵黄嚢で生じ、胎生10.5日より前に胎児肝へ移住する。赤血球・顆粒球・単球は後に造血幹細胞由来へ置き換わるのに対し、・・は1歳のマウスでもほとんど置き換わらない(は加齢とともに徐々に置き換わりうる)2。つまり組織は単球から補充されるのではなく、多くは胚性由来で自己維持している。

②肥満細胞

で異なる応答を示す:秒〜分単位で、時間〜日単位で顆粒の、日〜週単位で生存・増殖。内皮細胞の発現増加・・(chemotaxis:好中球・T細胞・マクロファージ)・細菌殺傷などを引き起こす。

③樹状細胞

状態 抗原提示能
未成熟DC(immature, iDC) 高い なし
成熟DC(mature, mDC) なし T細胞へ抗原提示

⚠️ 未成熟/成熟という軸と、サブセットの軸を混同しない。 この表は同じ細胞の成熟段階を示すもので、の種類の分類ではない。種類の方は2014年の統一以降、まずで分け、次いで局在・機能・表現型で分ける方式に整理され3、現行の呼び方はcDC1・cDC2・pDCである。「DC/リンパ系DC」という古い二分はこの枠組みではない。なお略号「mDC」はトピック01-1ではDC(myeloid DC)の意味で使われており、同じ略号が別の軸を指すことがある。

⭐ DCは自然免疫と獲得免疫をつなぐ架け橋。 mDCはT細胞分化(Th1・Treg・Th9・Th17・Th2・への分化)を指揮する(orchestrate)。iDCはに、mDCはに存在する——「どこにいるか」でその成熟段階と役割が推測できる。

④多形核好中球顆粒球

好中球のはIL-8(マクロファージ・上皮細胞・線維芽細胞・由来)、(sialyl Lewis X)、P/Eを介する。した好中球は「」を形成し、B4(LTB4)がこれを促進する。

flowchart TD
  A["好中球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effector function'>エフェクター機能</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravesicular killing'>細胞内殺菌</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen-dependent'>酸素依存</span>性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nicotinamide adenine dinucleotide phosphate (reduced)'>NADPH</span>オキシダーゼ・HClO<br>酸素非依存性経路も存在"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='degranulation'>脱顆粒</span><br>リソソーム酵素による分解"]
  A --> D["NETosis(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil extracellular trap (NET)'>好中球細胞外トラップ</span>形成)"]

⚠️ はオキシダーゼの欠損。 依存性の殺菌ができなくなり、・皮膚感染・を繰り返す——「殺菌に失敗した病原体を肉芽腫に封じ込める」という代償機序が病態を作る。

NETosisの: とが核内へ移行しクロマチン凝縮を起こす→PAD4がヒストンをしクロマチン脱凝縮を誘導→が核・細胞外へ放出される。

貪食とオプソニン化

好中球・マクロファージは・・という受容体を介して貪食する。

💡 =「抗原に目印をつけて食べやすくする」こと。 抗体(=免疫グロブリン)はでFab(抗原結合部)とFc(fragment crystallisable、可能断片)に切断できる。抗体または補体タンパクが抗原表面に結合すると、(例:FcγRI)・を介した「」で内部取り込みが促進され、マクロファージのも誘導される。はの除去にも関わる。

⑤自然リンパ球様細胞

型 産生サイトカイン
Type I(ILC1) IFN-γ(NK細胞+非NK型ILC1)
Type II(ILC2) Th2型サイトカイン(IL-5・)
Type III(ILC3) IL-17またはIL-22

この3群への分類は、産生しうるサイトカインと発生・機能を規定する転写因子に基づいて2013年に提案された統一である(それ以前は同じ細胞集団に多様な名称が併存していた)4。10年後の総説では、局所の組織微小環境がと機能に及ぼす影響が明らかになり、既存の区分が再評価されている5。NK細胞はこのファミリーから外れた別物ではなく、ILCの細胞傷害性の系列として、ILC1・ILC2・ILC3と並べて扱う6——ILC1(サイトカイン産生のヘルパー型)とNK(細胞傷害型)の関係は、CD4陽性とCD8陽性の関係になぞらえられる。

周産期から既にリンパ組織・バリア組織に定着し、T細胞と並んで抗微生物防御の初期対応を担う。はもたない(not Ag-specific)が、T細胞に似たサイトカイン分泌パターンをもち、(互いに転換しうる)が特徴。由来だが、自身は新たな前駆細胞を産生しない。

NK細胞

BCR・TCRをもたない。とをもち、KARリガンドはストレスを受けた細胞上の分子、KIRリガンドはMHC-Iである。ウイルス感染細胞・腫瘍細胞をにより破壊する。

💡 NK細胞には「記憶」がある。 マウスの感染では、ウイルス特異的なLy49H受容体をもつNK細胞が脾臓で100倍・肝臓で1,000倍に増殖し、収縮期のあと数か月にわたって組織に残る。この自己複製する記憶NK細胞は再刺激で速やかに・サイトカイン産生を行い、ナイーブ個体へ移入すると二次拡大とを示す7。「自然免疫に記憶はない」という断定は現在は成り立たない——(後述)とこの adaptive/memory NK が2つの反例である。

パターン認識— 3つの層

①分泌型パターン認識受容体

C型(type C lectin:C1q・MBL・サーファクタント)、(pentraxin:血清P=SAP・)、、、(cathelicidin:等)、(defensin:=amphiphilic moleculeで膜に孔を形成する可溶性抗菌分子)。

②膜結合型パターン認識受容体

・構造をもつ高度に保存された(TLR:Toll-like receptor)が代表。細胞表面型・細胞内小胞型の両方が存在し、を認識する。

⚠️ PRRシグナルの帰結は「」の発信。 PRR活性化はDCのMHC発現増強・(co-stimulatory molecule、例:B7)発現増強を誘導し、獲得免疫の起動スイッチになる。

③細胞質内パターン認識

PAMPまたはを示す分子シグナルであるDAMP(damage-associated molecular pattern)を感知すると、(inflammasome:NLR+ASC+プロからなる細胞質内多タンパク複合体)が活性化し、pro-IL-1β・pro-IL-18・pro-IL-33を成熟型へ切断する。やなどがこの経路を刺激し、に関与する。

自然免疫と獲得免疫の橋渡し細胞

細胞 特徴
B1 B細胞・ 天然IgM、の貪食、DAMP(例:dsDNA)除去による自己免疫予防
iNKT細胞 脂質・抗原を認識する不変T細胞
MAIT細胞 細菌が産生するビタミンB代謝物を認識、T細胞認識様式

高頻度Q&A

⭐ 組織像での=な急性感染、=少なくとも1週間持続した感染。 好中球はより古い時間軸、リンパ球はより新しい(獲得免疫が立ち上がった後の)時間軸を反映する組織学的になる。

  • 自然免疫に記憶はあるか? →「」として存在し、主にな変化に基づく(獲得免疫の記憶T/B細胞とは異なる機序)。はと代謝の両方ので成立する「事実上の自然免疫記憶」と定義されている8。な記憶をもつNK細胞という別型の反例もある(上記)7。
  • がなぜと認識されないか? →では外側・内側のに守られ、TLRはまたは細胞内小胞にのみ存在するため、管腔側の細菌には反応しにくい。
  • 好中球のを促す因子は? →基底膜を分解する酵素(等)、による。
  • 貪食できないほど大きな粒子に対しては? →:リソソーム内容物を細胞外に放出する。
  • 感染部位に遊走した好中球の運命は? →膿を形成する(死んだ好中球・死んだ組織細胞・生死問わない細菌の混合物——膿自体が感染性をもちうる)。
  • 自然免疫に特徴的なサイトカインは? →、IL-1、(IL-8等)、。
  • 肥満細胞との違いは? →は骨髄で成熟してから循環に入る(白血球の1%未満)のに対し、肥満細胞は未成熟なまま組織に到達しそこで成熟する。
  • 好中球と単球/マクロファージの違いは? →好中球は寿命1〜2日で速い貪食・・NET形成、単球/マクロファージは寿命が週〜年単位で貪食は遅く、iNOS産生・サイトカイン産生が顕著。
  • が産生後すぐに拡散しないのはなぜか? →のに結合し局所にとどまるため。
  • DCはどこに存在するか? →と。
  • 自然免疫細胞は・リンパ系のどちらが優勢か? →NK細胞を除きが優勢。
  • 自然免疫にも制御性/抑制性細胞は存在するか? →M2マクロファージ、未成熟DC(iDC)、(MDSC:myeloid-derived suppressor cells、病的造血の偏りにより生じる)。
  • 細菌にも自然免疫はあるか? →CRISPR-Cas9系がに対する細菌の防御機構として機能する。ただし厳密には、CRISPR-Cas系は「自然免疫」より「獲得免疫」に近い——細菌はファージ攻撃後にファージゲノム由来の配列を新しいとして自分のCRISPR領域に組み込み、耐性の特異性はとファージ配列の相同性で決まる(=経験に基づく特異的で継承される記憶)9。細菌側の「自然免疫」に相当するのは制限の方である。

まとめ

  • 免疫応答は自然免疫(0〜4h)→(4〜96h)→獲得免疫(>96h)という時間軸で進行する。
  • 自然免疫は・の受容体でパターンを認識し、機械的・化学的・生物学的バリアとがこれを支える。
  • 細胞側の主役はMPS(M1/M2マクロファージ)・肥満細胞・DC(iDC/mDC)・PMN(好中球、NETosis・CGD)・ILC(Type I-III)・NK細胞。
  • は分泌型(・・等)・・細胞質型()の3層構造。
  • B1/MZ B細胞・iNKT細胞・MAIT細胞は自然免疫と獲得免疫の境界に位置する橋渡し役。
  • ()は獲得免疫の記憶とは異なる、自然免疫なりの「記憶」様現象。

出典

  1. 1.Macrophage activation and polarization: nomenclature and experimental guidelines(Immunity・2014)マクロファージ活性化の記述は用語が乱立して混乱しており、いまだ多くの研究者が活性化マクロファージをM1・M2の2型しかないと考えていることが進歩を妨げている。マクロファージの供給源・活性化因子の定義・マーカーの合意という3原則からなる共通の命名枠組みが提案された閲覧 2026-08-25
  2. 2.Tissue-resident macrophages originate from yolk-sac-derived erythro-myeloid progenitors(Nature・2015)マウスの運命追跡により、肝のクッパー細胞・脳のミクログリア・表皮のランゲルハンス細胞・肺の肺胞マクロファージという成体の組織常在マクロファージの大半は、造血幹細胞とは別系統のTie2陽性経路から生じるCsf1r陽性の赤芽球‐骨髄球系前駆細胞(EMP)に由来する。EMPは胎生8.5日に卵黄嚢で発生し、胎生10.5日より前に胎児肝へ移住して少なくとも胎生16.5日まで胎児赤血球・マクロファージ・顆粒球・単球を生む。その後、赤血球・顆粒球・単球は造血幹細胞由来の細胞に置き換わるが、クッパー細胞・ミクログリア・ランゲルハンス細胞は1歳のマウスでもごくわずかしか置き換わらない(肺胞マクロファージは加齢にともない徐々に置き換わりうる)閲覧 2026-08-25
  3. 3.Dendritic cells, monocytes and macrophages: a unified nomenclature based on ontogeny(Nature Reviews Immunology・2014)単核食細胞系は従来、機能と表現型で単球・樹状細胞・マクロファージに分けられてきたが、これらの性質は重なり合うため分類が難しい。まず由来(ontogeny)で分類し、次いで局在・機能・表現型で分けるという統一命名法が2014年に提案された閲覧 2026-08-25
  4. 4.Innate lymphoid cells--a proposal for uniform nomenclature(Nature Reviews Immunology・2013)自然リンパ球(ILC)は発生上関連する細胞群で、免疫と組織の発生・再構築に関わる。新たに同定された各サブセットに多様な名称が使われて混乱していたため、産生しうるサイトカインと発生・機能を規定する転写因子に基づいて3群(ILC1・ILC2・ILC3)に分類する統一命名法が2013年に提案された閲覧 2026-08-25
  5. 5.Innate Lymphoid Cells: 10 Years On(Cell・2018)ILCはT細胞・B細胞が発現するような多様化した抗原受容体をもたないリンパ球で、大部分が組織定住性である。粘膜での常在細菌・病原体への応答、獲得免疫の増強、組織炎症の制御に加え、代謝恒常性・組織リモデリング・神経系との対話にも関わり、局所の組織微小環境が可塑性と機能に影響するという知見を受けて既存の分類が再評価された閲覧 2026-08-25
  6. 6.Natural killer cells and other innate lymphoid cells in cancer(Nature Reviews Immunology・2018)NK細胞は自然リンパ球の一員(細胞傷害性の系列)として扱われ、ILC1・ILC2・ILC3のサブセットと並べて論じられる。NK細胞は多様な腫瘍細胞に細胞傷害活性を示し、がん免疫療法の標的として研究が進んでいる閲覧 2026-08-25
  7. 7.Adaptive immune features of natural killer cells(Nature・2009)マウスのサイトメガロウイルス感染モデルで、ウイルス特異的Ly49H受容体をもつNK細胞は感染後に脾臓で100倍・肝臓で1,000倍に増殖し、収縮期を経て数か月にわたりリンパ組織・非リンパ組織に留まる。この自己複製する「記憶」NK細胞は再刺激で速やかに脱顆粒しサイトカインを産生し、ナイーブ個体へ移入すると二次拡大と防御免疫を示す閲覧 2026-08-25
  8. 8.Defining trained immunity and its role in health and disease(Nature Reviews Immunology・2020)免疫記憶は獲得免疫の定義的特徴とされてきたが、自然免疫の活性化も以後の刺激への応答性を高めうる。これを訓練免疫(trained immunity)=事実上の自然免疫記憶と定義し、その成立を担うのはエピジェネティックおよび代謝のリプログラミングであるとした閲覧 2026-08-25
  9. 9.CRISPR provides acquired resistance against viruses in prokaryotes(Science・2007)ファージ攻撃後の細菌はファージゲノム由来の新しいスペーサーをCRISPR領域に組み込み、特定スペーサーの除去・付加によりファージ耐性の表現型が変化する。CRISPRとcas遺伝子はファージへの耐性を与え、その特異性はスペーサーとファージ配列の相同性で決まる閲覧 2026-08-25