免疫学

免疫学 · 1.2

検査室における免疫系

The immune system in the lab

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W1Seminar / 演習

🧠 このセミナーは「をどう数え・どう見分け・どう利用するか」という実務編として読む。 免疫学的アプローチには生物学的視点(recognition→response→elimination/tolerance)と臨床的視点(機能亢進=自己免疫・過敏症、機能低下=免疫不全・がん)の2つがあり、検査室ではCを軸にしたと、抗体を診断・治療の両方のとして使う技術が中心になる。

なぜ免疫学を学ぶか

診断と治療の両方の基盤になる。臨床的アプローチでは、免疫系の機能亢進(hyperfunction:自己免疫=autoimmunity、過敏症=hypersensitivity)と機能低下(hypofunction:免疫不全=immune deficiency、がん=cancer)という2方向の異常を扱い、それぞれワクチン接種・移植・免疫調節・という介入に対応する。

免疫細胞の基本検査

安価で簡便な検査から、高価で機器集約的な検査へと段階的に進む。

検査 目的
を含む基本検査
末梢血・標本 血球の種類の有無・比率・の確認
白血病細胞の系統分類
・ 細胞表面/組織内分子の検出
・分子遺伝学 よりの遺伝子診断

💡 末梢血・標本の目的は3点に集約される。 ①血球の種類の有無、②各細胞種の比率、③の存在——がを依頼する典型例はの骨髄・末梢血像である。

CD抗原と免疫表現型検査

=の特異性を利用し、細胞表面(または細胞内)タンパクを特異的に標識して細胞集団を同定する手法。CD(Cluster of Differentiation)抗原は①白血球サブポピュレーションの同定、②白血球の機能的・成熟段階の検出の2つに使われる。

リンパ球サブポピュレーション

サブセット CDマーカー・特徴
T細胞 CD3+
(Th) CD3+CD4+
(Tc) CD3+CD8+
CD3+CD4+CD25^high+Foxp3+(Foxp3は細胞内なので固定・が必要=生細胞のまま分離できない。表面マーカーで代用するならCD127低発現)1
Th1・Th2・Th17 サイトカインプロファイルで区別(Th1: IFN-γ+IL-12++、Th2: +IL-5++、Th17: IL-17++)
B細胞(B) CD19+
形質細胞 、B1・B2
NK細胞 CD3−CD56+
NKT細胞 CD3+CD56+(この表面表現型で拾えるのは正確には「NKT様(NKT-like)細胞」。本来のNKT細胞の定義はCD1dに拘束され、ペプチドではなく抗原を認識することであり、CD3とCD56の組み合わせはその代用にすぎない)2
γδT細胞 CD3+TCR+(CD4−CD8−)

⚠️ 「表面マーカーの組み合わせ=細胞集団の定義」ではない。 上の表はの実務であって、細胞集団そのものの定義とは一致しないことがある。の定義分子Foxp3は細胞内にあるため固定・透過が要り、生きたまま分離できない——CD4・CD25・CD127の組み合わせだと、CD25が低〜陰性のFoxp3陽性細胞まで拾えて、従来より多くのを高に得られる1。CD3+CD56+も同様で、これは「NKT様細胞」という表現型上の便宜的な呼び名であり、本来のNKT細胞はCD1dの認識で定義される2。試験では表の組み合わせで答えるが、実験・臨床では「何を定義とするか」を意識する。

急性白血病の細胞化学的分類

特異的染色(スダン黒B=Sudan black B、=myeloperoxidase、非特異的α-ナフチルアセテートエステラーゼ=ANAE等)は単球(Mo)・好中球・リンパ球(Ly)系統を鑑別し、非であるは陽性・その他の染色は陰性というパターンを示す。

💡 細胞化学は「消えた手技」ではなく、いまも分類の閾値そのものに残っている。 分類第5版(2022)の「分化で定義される」では、MPOとスダン黒Bがともに陰性(3%未満)なら最小分化型、MPO陽性芽球3%以上で成熟が骨髄の10%未満なら、10%以上なら分化型と定義される。この3%という値はもともと細胞化学で歴史的に使われてきたものであり、による系統決定は感度は高いが特異度が低く、報告されている陽性閾値は芽球の3〜28%と幅があって合意されたは確立していない3。「古い手技がフローに置き換わった」のではなく、閾値の出所は細胞化学のまま、測る手段だけがフローに移っている——ここが世代交代の実態である。

抗体の構造と多様性

抗体(免疫グロブリン、immunoglobulin)は(heavy chain:IgG, IgM, IgA, IgE, IgD)と軽鎖からなる。Fab()とFc(部位)に機能的に分かれ、IgAでは重合度(Fab>Fc>IgAの順で例示)が特徴的。

💡 エピトープ()は「抗原の中で受容体が実際に見ている部分」。 1つの抗原は複数のエピトープをもつため、は異なるエピトープを認識する抗体の集合、モノクローナル抗体は単一エピトープに特異的な抗体を指す。エピトープには線状との2型があり、非の小分子(、hapten)は単独ではをもたないが、担体と結合することでを獲得する。

モノクローナル抗体の作製:ハイブリドーマ法

flowchart TD
  A["①マウスに抗原を免疫"]
  A --> B["②脾臓からB細胞を単離"]
  B --> C["③<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myeloma cell'>骨髄腫細胞</span>とB細胞を融合"]
  C --> D["④ハイブリドーマから抗体を単離"]

⭐ ハイブリドーマ技術はKöhlerとMilsteinに1984年のノーベル賞をもたらした。 B細胞は抗体を産生するがしていない、はしているが抗体を産生しない——両者を融合させることで「した抗体産生細胞」を作る、という着想が単一エピトープ特異的な抗体の大量生産を可能にした。原著は1975年のNature論文で、あらかじめ決めた特異性の抗体を分泌する融合細胞を培養できることを示したものである4。

抗体を臨床でどう使うか

抗体は「標的」としても「」としても利用される。

使い方 目的
抗体を標的として測定 ①感染の既往証明・病原体に対する防御レベルの確認、②自己免疫疾患・過敏反応・などの免疫病理学的状態の
抗体をとして利用 ①抗体特異的認識によるあらゆる物質の検出(免疫分析法、immunoanalytical method)、②抗体による分子の

は酵素・・・などのに共有結合され、検出可能になる。

抗原抗体反応に基づく検査法の全体像

分類 手法
定性的・半定量的 沈降反応・、電気泳動との組み合わせ(=immunofixation、=Western blotting)、
定量的・超高感度 免疫複合体検出(法=turbidimetry、レーザーネフェロメトリー=laser nephelometry)、リガンドアッセイ(=RIA、=IRMA、)、による、

(これらの詳細は10-1-methods-based-on-antigen-antibody-interactions-basic-concepts-of-the-diagnostic以降の各セミナーで扱う。)

まとめ

  • 免疫学は診断・治療の両方の基盤で、臨床的には機能亢進(自己免疫・過敏症)と機能低下(免疫不全・がん)という対をなす異常を扱う。
  • 基本検査は・末梢血/から始まり、・・へと段階的に精密化する。
  • Cは(T/B/NK/Th/Tc/Treg等)を同定する共通言語であり、の細胞化学的鑑別にも応用される。
  • 抗体はFab(抗原結合)・Fc(エフェクター)の機能単位からなり、エピトープ(線状・)・+担体の概念が抗体の特異性を理解する鍵。
  • ハイブリドーマ技術(B細胞×融合)がモノクローナル抗体の量産を可能にし、抗体は「標的」(血清学的モニタリング)と「」(免疫分析法・)の両方に使われる。

出典

  1. 1.CD127 expression inversely correlates with FoxP3 and suppressive function of human CD4+ T reg cells(Journal of Experimental Medicine・2006)制御性T細胞はCD4・CD25・転写因子FoxP3で定義されてきたが、これらのマーカーはヒトでこの細胞集団を一意に定義するには問題があった。IL-7受容体(CD127)は末梢血CD4陽性T細胞の一部で低発現しており、その多数がFoxP3陽性で、CD25が低発現ないし陰性のものも含まれる。CD4・CD25・CD127の組み合わせで従来より多くの制御性T細胞を高純度に分離でき、CD4とCD127だけで分離した細胞もアネルギー性で、古典的なCD4陽性CD25高発現分画と同等の抑制活性をもつ閲覧 2026-08-25
  2. 2.Going both ways: immune regulation via CD1d-dependent NKT cells(Journal of Clinical Investigation・2004)NKT細胞はT細胞の独立した亜系統で、従来のTリンパ球や他の制御性T細胞と対照的に、非古典的クラスI抗原提示分子CD1dに反応し、ペプチドではなく糖脂質抗原を認識する。Th1・Th2・免疫制御性サイトカインの分泌を促すことで免疫応答を増強も抑制もしうる閲覧 2026-08-25
  3. 3.The 5th edition of the World Health Organization Classification of Haematolymphoid Tumours: Myeloid and Histiocytic/Dendritic Neoplasms(Leukemia・2022)WHO分類第5版の「分化で定義されるAML」で、細胞化学によりMPOとSudan Black Bがともに陰性(3%未満)なら最小分化型AML、MPO陽性芽球が3%以上で成熟顆粒球系が骨髄有核細胞の10%未満なら未分化型AML、10%以上なら分化型AMLとすること、急性骨髄単球性白血病でもMPO陽性芽球3%以上を要すること、急性好塩基球性白血病では芽球がMPO・SBB・NSEいずれも陰性であること、この3%という値はもともと細胞化学で歴史的に用いられてきたもので、フローサイトメトリーによる系統決定では感度は高いが特異度が低いと判定されていること、報告されているフローの陽性閾値は芽球の3〜28%と幅があり10%超で特異度が改善するものの合意されたカットオフは確立していないことを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity(Nature・1975)抗原免疫したマウス脾細胞と骨髄腫細胞を融合させた細胞株を継代培養することで、あらかじめ決めた特異性をもつ抗体を持続的に分泌させられることを示した、ハイブリドーマ法の原著閲覧 2026-08-25