免疫学

免疫学 · 1.1

免疫系の役割・機構・器官・細胞

The role, processes, organs and cells of the immune system

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W1Lecture / 講義
応用トピック
小児のリンパ節腫大

🧠 免疫系は「認識→応答→排除、あるいは寛容」という一本のフローチャートとして読む。 標的は外部の寄生体(bacteria・viruses・fungi・helminths)と内部の。この認識・応答系は5つの特徴(・感受性・記憶・・)で定義され、自然免疫と獲得免疫という時間スケールの異なる2層で構成される。

免疫系がなぜ重要か

免疫系の機能異常は多くの疾患の根底にあり、への対応や、がん免疫療法のような最先端治療の基盤にもなっている。免疫系の理解が新しい治療・ワクチン・慢性疾患の治療につながる。

自己と非自己

💡 「拡張された自己」という視点。 体内にはと同数以上のが存在し、に生息するを形成する(70 kgの「標準人」で細菌約3.8×10^13個に対しヒト細胞約3.0×10^13個。長く引用されてきた「細菌はヒト細胞の10倍」という比はこの実測で改訂され、実際は同オーダーである)1。これらは食物由来のエネルギーを消費・貯蔵・再分配する「多細胞器官」として、免疫系にとって排除すべきでない存在——免疫系は単純な「異物=敵」ではなく、「破壊すべきもの(to be destroyed)」と「許容すべきもの(to be tolerated)」を区別する、より洗練されたロジックで動いている。

分類 対象
破壊すべき(dangerous) 外因性:bacteria・viruses・fungi・helminths;内因性:tumor cells
許容すべき(tolerated) 、

リンパ系と免疫器官

の動脈側では静脈側で回収される以上の体液が組織間隙に漏出し、となる。これがリンパ管に集められリンパとして循環する。

一次(中枢)免疫器官と二次(末梢)免疫器官

区分 器官 機能
一次(中枢、central) 骨髄、胸腺 リンパ球の成熟の場
二次(末梢、peripheral) リンパ節、脾臓、MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)、SIS(skin immune system) リンパ球が抗原と出会う(encounter)場
慢性炎症部位に形成 慢性炎症に伴い新生

⭐ 一次免疫器官の障害は致命的、の障害は代償されうる。 骨髄機能不全は・易感染性を招く(例:広島原爆——爆心地2km以内では約2週間、放射線障害の中でも骨髄・白血球破壊が最も重篤な症状になった)。の(thymus removal in infancy、心臓手術に伴うことがある)は生命維持と両立しない、または末梢T細胞集団に影響し早期のを招きうる——年齢依存的に結果が異なる。実際、手術でに胸腺を全摘された若年成人ではCD4/の絶対数が減り、の喪失とオリゴクローナルなの蓄積が起こる。22歳で75歳超の高齢者に典型的なT細胞プロフィールを示す例もあり、これは感染と強い特異的応答に直結していた2。「摘出しても生きられる」ことと「免疫が無傷である」ことは別、と読むのが正しい。一方、リンパ節摘出は局所的なとにとどまり、はへの易感染性を招く(が転移診断に応用される所以)。

CD抗原:白血球表面分子の共通言語

CD(Cluster of Differentiation)抗原はを検出・分類するための共通(1〜350番)。

CDマーカー 発現細胞
CD3 T細胞
CD4 ・、単球
CD8
CD19, CD20 B細胞

免疫応答の5つの特徴

①抗原特異性

抗原=免疫応答を引き起こす分子・細胞。=エピトープは、T・に認識される抗原の特定部分。抗体(antibody/immunoglobulin)は通常、のを認識する。

受容体 認識するエピトープ
・抗体 天然の
MHC()のに提示された

💡 B細胞とT細胞は抗原認識の仕方が根本的に違う。 B細胞は抗原の「形」をそのまま認識するが、T細胞はがMHC分子に載せて提示するペプチド断片しか認識できない。MHC-I結合ペプチドは8〜9アミノ酸、MHC-II結合ペプチドは11〜20アミノ酸という長さの違いがある。

②抗原感受性

1つの細胞は1種類のしかもたないが、活性化後のにより、感染性病原体への反復曝露に対して効率的な防御が可能になる。

③記憶

T・B記憶細胞の形成により、同じ抗原との再会に迅速に対応できる。

④クローン選択

⭐ がに勝った理由。 抗原があらかじめ多様なリンパ球クローンの中から適合するものを「選択」して増殖させる()のであって、抗原が受容体の形を「指令」するのではない(は誤り)。活性化リンパ球は短命なに分化する。

⑤免疫恒常性

が去れば恒常性を再確立する必要がある。免疫は可逆的:活性化・抑制・調節のバランスで制御される。

役割 細胞例
Th1, Th17, B細胞, mDC(myeloid dendritic cell)
Treg, Breg, iDC(immature DC)

⚠️ 「mDC」という略号は文脈で意味が変わる。 ここでのmDCはだが、トピック02-1ではの意味で使われている。さらに「DC/リンパ系DC」という二分は現行の分類ではない——2014年に提案された統一は、(単球・・マクロファージ)をまずで分類し、次いで局在・機能・表現型で分ける方式をとる3。現在の標準はcDC1・cDC2・pDCという呼び方で、ヒト末梢血の1細胞-seqではさらに6種・単球4種が同定され、pDCの定義自体が見直されている4。旧来の呼び方は講義・試験で出うるので消さずに覚え、現行分類と重ねて持っておく。

自然免疫 vs 獲得免疫

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor cells'>脅威</span>の認識"]
  A --> B["自然免疫<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='immediate response'>即時応答</span>"]
  A --> C["獲得免疫<br>1〜2週間で発達"]
  B --> D["バリア:皮膚・粘膜・分泌物<br>分子:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complement system'>補体系</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='natural antibody'>自然抗体</span><br>細胞:マクロファージ・顆粒球・肥満細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendritic cell'>樹状細胞</span>・ILC・NK細胞"]
  C --> E["細胞性免疫:T細胞<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='humoral immunity'>液性免疫</span>:B細胞・抗体"]
特徴 自然免疫 獲得免疫
受容体特異性 限定的 高い特異性
なし あり(1〜2週間)
記憶 限定的5 あり
増幅様式
的起源 より古い 以降に出現(約5億年前の有顎脊椎動物)6

💡 自然免疫の方が獲得免疫より進化的に古く、量的にも重要。 講義の take-home message の筆頭。自然免疫は「」として、獲得免疫が動員される前に大部分のに対応している。体細胞組換えでを作る獲得免疫系は約5億年前の有顎魚類で成立したもので、RAGの出現と2回の全ゲノム重複が関与したと考えられている。無顎脊椎動物(ヤツメウナギ等)にはこの系は無いが、RAGに依らない別系統の獲得免疫がで生じている6。また表の「記憶:限定的」は記憶が無いという意味ではない——自然免疫にもおよび代謝のに基づくという事実上の記憶があり、なT/B細胞記憶とは別の機序で成り立つ5。

リンパ球再循環と一次・二次免疫応答

の約30%/日が循環中に存在し、リンパ節で自分のエピトープを探索する。で自分の抗原に出会うと、遊走を止め(stop migrating)、活性化・増殖・分化する(芽球化:blast transformation)。特定の抗原に反応するの割合は0.01%未満という驚くほど低い頻度。マウスでは、あるペプチド-MHCクラスII複合体に特異的なナイーブCD4陽性T細胞は個体あたり20〜200個しかなく、このナイーブ集団の大きさが一次応答の規模とTCR多様性をそのまま規定する7。

長い(slower, longer latency) 短い(faster, shorter latency)
振幅 低い 高い
優勢な抗体クラス IgM IgG

⭐ SARS-CoV-2迅速検査のIgM/IgG判定はこの原理そのもの。 IgM+/IgG+=新規感染、IgM+/IgG−=新規感染、IgM−/IgG+=既感染、IgM−/IgG−=未感染または検査時期尚早。

顆粒球もリンパ球と同様に循環するが、平均20時間循環にとどまり一方通行(循環から出たら戻れない)。炎症時には皮膚・滑膜(synovial membrane、関節リウマチ=rheumatoid arthritisで顕著)でが一過性にへ変化し、通常はほとんど到達しない部位へリンパ球の遊走を可能にする。

サイトカイン

分子量約5〜20 kDaの小型可溶性タンパク質・で、メッセンジャー・調節分子として働く。

flowchart TD
  A["サイトカインによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='signal transduction'>情報伝達</span>の様式"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paracrine signaling'>傍分泌</span>(近傍細胞へ)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autocrine signaling'>自己分泌</span>(分泌した細胞自身へ)"]
  A --> D["内分泌(血流を介し遠隔へ)"]
  A --> E["接触分泌 juxtacrine(細胞間接触を介して)"]

サイトカインに共通する性質

性質 内容
膜受容体作用 は比較的少数
一過性の効果 短寿命mRNA・負のフィードバックによる
1つのサイトカインが複数の効果をもつ
拮抗・・・カスケード 複数のサイトカインが相互作用しあう

主なサイトカインファミリー

(IL-1〜36)、、(tumor necrosis factor)、IFN(interferon)に加え、脂肪組織由来の・筋由来の・肝由来の・骨由来の——これらを総称してと呼ぶ。

分類 代表例
IL-1, , IFN-γ, IL-12, IL-18, IL-17, IL-33
IL-10, , , IFN-α, IL-35

⚠️ /は正のフィードバックの暴走。 病原体・腫瘍・自己免疫疾患により誘発されうる、著明なサイトカイン上昇とのを伴う生命を脅かす性疾患。背景には正のがある。

まとめ

  • 免疫系は「認識→応答→排除/寛容」のロジックで動き、自己(extended selfを含む)と非自己(外因性・内因性の)を区別する。
  • 一次免疫器官(骨髄・胸腺)はリンパ球成熟の場、(リンパ節・脾臓・MALT・SIS)は抗原との出会いの場。一次器官の障害はより致命的。
  • C(CD3=T細胞、CD4=Th/Treg、CD8=、CD19/20=B細胞)がの共通言語になる。
  • 免疫応答の5つの特徴:(T/B細胞で認識様式が異なる)、感受性()、記憶、、。
  • 自然免疫(即時・低特異性・)と獲得免疫(1〜2週間・高特異性・・記憶)は進化的にも機能的にも異なる2層。自然免疫の方がより古く、より重要。
  • リンパ球・一次/(IgM→IgG)・サイトカイン(・カスケード・ストーム)が、免疫系のダイナミクスを支える。

出典

  1. 1.Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body(PLoS Biology・2016)70 kgの「標準人」における細菌は約3.8×10^13個、ヒト細胞は約3.0×10^13個(うち約90%が造血系)で同オーダー。細菌の総質量は約0.2 kg。従来広く引用されてきた「細菌:ヒト細胞=10:1」という比は本研究で改訂された閲覧 2026-08-25
  2. 2.Evidence of premature immune aging in patients thymectomized during early childhood(Journal of Clinical Investigation・2009)先天性心疾患手術に伴い新生児期に胸腺を全摘された若年成人ではCD4陽性・CD8陽性T細胞の絶対数が減少し、ナイーブT細胞の著明な喪失とオリゴクローナルな記憶T細胞の蓄積を示す。一部(22歳)は75歳超の高齢者に典型的なT細胞プロフィールを呈し、CMV感染と強いCMV特異的T細胞応答がこれに直結していた閲覧 2026-08-25
  3. 3.Dendritic cells, monocytes and macrophages: a unified nomenclature based on ontogeny(Nature Reviews Immunology・2014)単核食細胞系は従来、機能と表現型で単球・樹状細胞・マクロファージに分けられてきたが、これらの性質は重なり合うため分類が難しい。まず由来(ontogeny)で分類し、次いで局在・機能・表現型で分けるという統一命名法が2014年に提案された閲覧 2026-08-25
  4. 4.Single-cell RNA-seq reveals new types of human blood dendritic cells, monocytes, and progenitors(Science・2017)ヒト末梢血の約2,400細胞の1細胞RNA-seqにより樹状細胞6種・単球4種のサブタイプが同定された。形質細胞様樹状細胞の性質をもちながらT細胞を強く活性化する新しいサブセットが見つかりpDCの定義が見直され、conventional DCの循環前駆細胞の存在が示された閲覧 2026-08-25
  5. 5.Defining trained immunity and its role in health and disease(Nature Reviews Immunology・2020)免疫記憶は獲得免疫の定義的特徴とされてきたが、自然免疫の活性化も以後の刺激への応答性を高めうる。これを訓練免疫(trained immunity)=事実上の自然免疫記憶と定義し、その成立を担うのはエピジェネティックおよび代謝のリプログラミングであるとした閲覧 2026-08-25
  6. 6.Origin and evolution of the adaptive immune system: genetic events and selective pressures(Nature Reviews Genetics・2010)体細胞組換えで多様化する抗原受容体をもつリンパ球を中心とする獲得免疫系は約5億年前の有顎魚類で成立し、無顎脊椎動物には存在しない。RAGトランスポゾンの出現と2回の全ゲノム重複が寄与したと考えられる。一方、無顎魚類ではRAGに依存しない別系統の獲得免疫系が収斂進化で生じている閲覧 2026-08-25
  7. 7.Naive CD4(+) T cell frequency varies for different epitopes and predicts repertoire diversity and response magnitude(Immunity・2007)MHCクラスIIテトラマーと磁気ビーズ濃縮により、特定のペプチド-MHC複合体に特異的なナイーブCD4陽性T細胞はマウス1匹あたり20〜200個しか存在しないことが示された。ナイーブ集団の大きさが一次応答の規模とTCR多様性を規定する閲覧 2026-08-25