疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 先天性疾患

Majeed症候群

Majeed syndrome

別名
マジード症候群
臓器系
免疫・膠原病運動器血液小児
科目
Medical Genetics and Immunology (Immunology)
トピック
免疫学 2.1:自然(先天)免疫の原理
鑑別疾患
IL-1受容体拮抗蛋白欠損症慢性再発性多発性骨髄炎
関連疾患
Sweet症候群
治療薬
アナキンラカナキヌマブ

🧠 全体像:Majeed症候群は、DIRA()と同じ「が起こす慢性反復性(CRMO)」でありながら、壊れている部品がまったく違う病気である。DIRAはIL-1シグナルの受け皿(受容体拮抗蛋白)そのものが欠けるのに対し、Majeed症候群の原因であるLPIN2は本来「の酵素」であり、IL-1とは一見に見える。ところがLPIN2を欠くと細胞内コレステロールが低下し、それが引き金となってが暴走し、結局は同じIL-1β過剰産生という帰結に至る。遠回りの経路をたどって同じ炎症のスイッチに行き着くという構図が、Majeed症候群をDIRAと並べて学ぶ意味であり、そのままIL-1遮断薬が劇的に効く理由の説明にもなる。

三徴と、実際の頻度のずれ

Majeed症候群は「①慢性反復性(CRMO/CNO所見)、②先天性赤血球異形成性貧血、③(様)」の三徴として最初に記載されたが、⚠️ 三徴すべてが揃う例は全体の10%未満にとどまる。文献上で遺伝学的に確定した24例中、①と②の両方を満たすのは91%だが、③のは8%(2例、いずれも)にしか出ない1。「三徴」という言葉から③を必須と誤解すると、多くの症例を見落とす。

発症年齢の中央値は生後12か月(平均20.4か月)で、乳幼児期発症が典型である1。

遺伝子と病態

の遺伝形式をとり、染色体18p上の*LPIN2*の両アレルが原因である。非血縁の2家系のマッピングにより最初に同定され2、現在までに9種類の変異が報告されている1。

flowchart TD
    A["*LPIN2*の両アレル<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss-of-function mutation'>機能喪失型変異</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal recessive'>常染色体劣性</span>)"] --> B["LIPIN2(ホスファチジン酸ホスファターゼ)の<br>酵素活性が失われる"]
    B --> C["マクロファージの細胞内コレステロール低下"]
    C --> D["P2X7受容体の機能異常"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NLRP3 inflammasome'>NLRP3インフラマソーム</span>の活性化"]
    E --> F["IL-1βの過剰産生"]
    F --> G["炎症性M2様マクロファージへの分極と<br>破骨細胞形成の促進"]
    G --> H["無菌性の慢性反復性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multifocal osteomyelitis'>多発性骨髄炎</span>"]

💡 LIPIN2は「の酵素」であって、IL-1経路の部品ではない。 それでもIL-1β過剰産生に至るのは、LIPIN2欠損によるマクロファージ内コレステロール低下がP2X7受容体の異常な感作を介してを活性化するためである1。この機序により、Majeed症候群はNLRP3インフラマソパチーの一種として位置づけられる。単一症例の詳細な検討では、Majeed症候群由来の単球・M2様マクロファージが、同じくNLRP3インフラマソパチーであるNOMIDの細胞とは異なり、破骨細胞形成を促す産生の亢進を示した——骨だけが標的になる理由は、IL-1β産生そのものよりもこのマクロファージ分極の違いにあると考えられている1。

臨床像

  • :下肢優位のに病変が多い。⚠️ 通常のCRMOで多い下顎・・胸骨前面・脊椎・骨盤の病変はMajeed症候群では報告されていない(ただしを施行した例は少数にとどまる)1。
  • 血液:先天性赤血球異形成性貧血(・)。重症度の幅が大きく、約4分の1でを要する1。
  • 皮膚:(様)を伴うことがあるが、頻度は8%にとどまり必発ではない1。
  • 全身:反復性の発熱(約半数)、・体重増加不良、肝脾腫(約3割)を伴いうる1。

⭐ 発熱を伴う反復性の炎症という側面から、の鑑別に挙がることがある。 は施行された7例中6例が培養陰性の骨髄炎、1例がであった1。

診断・分類上の位置づけ

確定診断はLPIN2のの同定による。⭐ 小児の(CNO)に対する/ACR分類基準は、Majeed症候群をの対象として名指ししている。 同基準は「な鑑別疾患の確定的証拠」をの一つに置き、その鑑別疾患の例示としてMajeed症候群やなどの骨疾患を挙げている3。⚠️ つまりMajeed症候群は「CRMOに含まれる」のではなく「CRMOという臨床像を示すが分類上は除外される」という位置づけである。 遺伝学的に確定すれば、CNOという的なラベルからは外れる。

治療

は症状を部分的にしか制御できず、副腎皮質ステロイドも・貧血を完全には抑えられない4。

⚠️ 阻害薬は無効であった症例が報告されている。 血族結婚家系の兄弟2例では、阻害薬の投与中も(IL-1β・IL-6・IL-8・)に変化がなく、臨床的にも改善しなかった4。

⭐ IL-1経路を遮断する治療は劇的に効く。 文献上でIL-1受容体またはIL-1βを遮断する治療(・)を受けた10例は全例で炎症性・の速やかな改善が報告されている1。上記の兄弟例でも、およびへの切り替え後にが正常化し、でのがほぼ完全に消退した4。この治療反応の違い(遮断は無効、IL-1遮断は著効)は、Majeed症候群がIL-1β依存性のであることを裏づける臨床的な証拠になっている4。⚠️ 貧血への効果はほど明確ではない。 先天性赤血球異形成に慢性炎症による二次的な貧血が重なっている可能性があり、IL-1遮断でどこまで改善するかは十分に検証されていない1。

現時点で承認された治療薬は無く、治療は経験的に行われている1。

まとめ

  • Majeed症候群はLPIN2の両アレルによるので、文献上のは10家系24例のみと極めて稀である。
  • 「三徴」がすべて揃う例は10%未満にとどまり、は8%にしか出ない。91%はCRMO所見と先天性赤血球異形成性貧血の組み合わせで発症する。
  • LPIN2欠損はマクロファージの細胞内コレステロールを低下させ、P2X7受容体の異常を介してを活性化し、IL-1β過剰産生に至る。
  • /ACR小児CNO分類基準は、Majeed症候群を「除外すべき骨疾患」として名指ししている——CRMOに含まれるのではなく、分類上は除外される位置づけである。
  • 阻害薬は無効であった一方、・によるIL-1遮断は報告例全例で・を劇的に改善させた。貧血への効果はほど明確ではない。

出典

  1. 1.Majeed Syndrome: A Review of the Clinical, Genetic and Immunologic Features(Biomolecules・2021)文献上でMajeed症候群の分子診断が確定した患者が10家系24例のみと極めて稀な疾患であること、91%が慢性反復性多発性骨髄炎(CNO/CRMO所見)と先天性赤血球異形成性貧血の両方を有する一方、三徴(CNO+先天性赤血球異形成性貧血+好中球性皮膚症)がすべて揃うのは全体の10%未満にとどまること、好中球性皮膚症の頻度は8%(24例中2例、いずれもSweet症候群)にとどまること、発症年齢中央値が12か月(平均20.4か月)であること、下肢優位の長管骨に病変が多い一方で classic CRMOで多い下顎・鎖骨・脊椎・骨盤の病変は報告されていないこと、原因は染色体18p上の*LPIN2*の両アレル機能喪失型変異(常染色体劣性)で9種類の変異が同定されていること、LIPIN2はホスファチジン酸ホスファターゼ活性を持つ脂質代謝酵素であること、LPIN2欠損マクロファージでは細胞内コレステロール低下によりP2X7受容体の機能異常が生じNLRP3インフラマソームの活性化とIL-1β過剰産生に至ること(インフラマソパチーとしての機序)、単一症例の検討でMajeed症候群由来の単球・M2様マクロファージがNOMID(NLRP3インフラマソパチー)由来細胞と異なり骨破壊性のケモカイン産生と破骨細胞形成能の亢進を示したこと、これまでにIL-1受容体またはIL-1βを遮断する治療を受けた10例全例で炎症性骨病変・全身性炎症の速やかな改善が報告された一方、TNF遮断薬(エタネルセプト)を受けた4例はいずれも無効であったこと、承認された治療薬は無く経験的治療にとどまることを全文(オープンアクセス)で確認した。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Homozygous mutations in LPIN2 are responsible for the syndrome of chronic recurrent multifocal osteomyelitis and congenital dyserythropoietic anaemia (Majeed syndrome)(Journal of Medical Genetics・2005)非血縁の2家系6例のホモ接合性マッピングと連鎖解析により責任遺伝子を染色体18p上の5.5cM(1.8Mb)領域に絞り込み、この領域内の*LPIN2*にホモ接合性変異を同定してMajeed症候群の原因遺伝子として初めて報告したこと、*LPIN2*がほぼ全組織で発現していることを確認した一方でその機能・炎症における役割は当時未解明であったことを確認した(抄録は「2つの非血縁家系(two unrelated families)」と明記している)。閲覧 2026-09-08
  3. 3.Chronic nonbacterial osteomyelitis - current perspectives in pediatric practice(The Turkish Journal of Pediatrics・2026)全文(オープンアクセス)を確認した。本総説の Table II が EULAR/ACR 小児CNO分類基準を3段階の手順で逐語転記しており、①入口基準3項目(骨痛および/または運動器の機能制限が6週間以上、発症年齢18歳未満、関節炎所見を伴わない骨での単純X線または高次画像〔MRI・CT・骨シンチグラフィ〕の異常所見)がすべて必要、②除外基準4項目(相互排他的な鑑別疾患の確定的証拠、血小板10万/mm³未満、悪性腫瘍を疑うLDH高値、抗菌薬単独での完全かつ持続的な臨床・検査上の反応)が1つもあってはならない、という構造であること。脚注が、鑑別疾患に原発性・転移性の骨悪性腫瘍・白血病・リンパ腫・神経芽腫・感染性骨髄炎・代謝性骨疾患・ビタミンC欠乏・低ホスファターゼ症・Majeed症候群やIL-1受容体拮抗蛋白欠損症などの単一遺伝子性骨疾患を含むとしていることを確認した。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Efficacy of anti-IL-1 treatment in Majeed syndrome(Annals of the Rheumatic Diseases・2013)トルコ系の血族結婚家系に生まれた兄弟2例(*LPIN2*の新規2塩基欠失変異がホモ接合で確認された)が、副腎皮質ステロイドおよびTNF阻害薬エタネルセプトに抵抗性の骨病変・貧血を呈したこと、血中に炎症性サイトカイン(IL-1β・IL-6・IL-8・TNF-α)の上昇を認めたがエタネルセプト投与中はこれらに変化がなかったこと、IL-1受容体拮抗薬アナキンラおよび抗IL-1β抗体カナキヌマブへの切り替え後に赤沈の正常化と骨病変(MRI所見)のほぼ完全な消退が得られたこと、この治療反応の違いがMajeed症候群のIL-1β依存性自己炎症性疾患としての病態を支持することを全文で確認した。閲覧 2026-09-08