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Disease Atlas · 呼吸器 · 症候群

輸血関連急性肺障害

Transfusion-related acute lung injury

別名
TRALI
臓器系
呼吸器血液
科目
Internal MedicineSurgery
トピック
内科学 L-65:輸血の適応と規則外科学 G-13:出血の種類・止血・輸血
鑑別疾患
急性呼吸窮迫症候群輸血関連呼吸困難輸血関連循環過負荷溶血性輸血反応
原因薬剤
新鮮凍結血漿
症状
呼吸困難頻呼吸チアノーゼ低血圧発熱
検査値
動脈血液ガスナトリウム利尿ペプチド
画像所見
肺野陰影

🧠 全体像:(TRALI)は、輸血中から輸血終了後6時間以内に発症する透過性亢進性(非)の肺水腫である。実地でいちばん大事なのは、同じ時間枠・同じ見た目で起こる(TACO)との区別——TRALIは肺血管の透過性が上がる炎症性の病態、TACOはによる性の病態で、輸液を絞るか足すかという治療の向きが逆になる。⭐ 病態は(患者側の炎症+輸血)で理解し、⭐ 予防は側(白血球抗体を含む血漿を避ける)で成果が出ている、という2点を軸にする。

2019年の改訂定義

2004年の(CCC)の定義が14年ぶりに改訂され、2019年に国際パネル(、10名)による新定義が示された。改訂の要点は2つで、「possible TRALI」という区分の廃止と、type I / type II への分割である1。

TRALI type I TRALI type II
危険因子 無い 有る、または既存の軽症(P/F 200〜300)がある
臨床基準 急性発症、低酸素血症(P/F 300以下 または room air で SpO₂ 90%未満)、画像上の明らかな両側性肺水腫、上昇の証拠がない(あっても低酸素の主因と判断されない) type I と同じ臨床基準を満たす
時間 輸血中または輸血終了後6時間以内 同左
追加要件 の代替危険因子との時間的関連がない 輸血前12時間の呼吸状態が安定している

⭐ type II を分ける鍵は「輸血前12時間」である。 の危険因子を持つ患者が輸血後に悪化したとき、輸血前12時間の呼吸状態が安定していたならTRALI type II、すでに悪化していたならに分類する。P/F 300未満という記録が無い場合は(TAD)とする1。

flowchart TD
    A["輸血後6時間以内の肺水腫"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span>の危険因子があるか"}
    B -->|"無い"| C["TRALI type I"]
    B -->|"有る/軽症<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span>がある"| D{"輸血前12時間の呼吸状態は安定していたか"}
    D -->|"安定していた"| E["TRALI type II"]
    D -->|"すでに悪化していた"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute respiratory distress syndrome'>ARDS</span>(輸血が原因ではない)"]
    A --> G{"TACOと区別できるか"}
    G -->|"できない"| H["TRALI/TACO鑑別不能として報告"]

⚠️ 6時間という時間枠は「・低酸素の発生」についてのものである。 診断に必要な画像所見と評価は、理想的には同時に得られるべきだが、TRALI発症後24時間以内に記録されていればよいとされている1。

Berlin定義との整合

改訂はの(2012年)に歩み寄る形で行われたが、そのまま揃えなかった点が2つある1。

  • PEEP基準は採用しない。 Berlinは診断にPEEP 5 cmH₂O以上を求めるが、TRALIは酸素投与だけで済む軽症として一般病棟で起こりうるため、この基準は不必要に厳しい。
  • の基準は削除した。 の使用が減ったためで、の評価には心エコーなど画像を用いる。上昇が多少あってもTRALIと分類してよい——問うのは「呼吸悪化の主因が炎症性の肺水腫か、性の肺水腫か」である。

なお大量輸血は、ではの危険因子に挙げられているが、この新定義では危険因子の一覧から外されている。他の危険因子が無ければ、大量輸血後6時間以内のはTRALI type I として扱う1。

病態:2ヒット仮説

TRALIはfirst hit(患者側の炎症)+second hit(輸血)で成立すると考えられている。炎症は好中球や血管内皮を「」にし、そこへ輸血という第二撃が加わって肺血管の透過性が破綻する。重症患者や外傷患者でTRALIが多いのはこのためである1。

内容
first hit(患者側) 輸血前血漿IL-8高値、敗血症、30 cmH₂O超の人工呼吸、、現喫煙、、心臓手術、手術、、、など
second hit(輸血側) 強いcognate抗クラスII抗体(MFI 1500超)の総量、(GIFT)陽性血漿の総量、(のに含まれる脂質など)

💡 どちらか一方が十分に強ければ、単独でも肺障害を起こしうる()。健常者に強い抗クラスII抗体を輸血すればTRALIが起こり、逆に敗血症だけでもは起こる。だから「輸血が原因か、もともとの病態が原因か」の線引きが難しく、それが type II という区分と「輸血前12時間」という要件を必要にした1。

⚠️ TRALIは臨床診断であり、白血球抗体の検出を要しない。 免疫学的検索の結果が出るまで数週間から数か月かかるため、ベッドサイドの診断には役立たない。ただし抗体情報は病態の理解と、抗体陽性ドナーの以後のを含むの評価に重要なので、制度が収集・報告すべきものとされている1。

TACOとの鑑別

TRALIと(TACO)は、いずれも輸血後の急性呼吸窮迫として現れる輸血関連死亡の主因である。⚠️ ただし定義上の時間枠は同じではない——TRALIが輸血中〜輸血終了後6時間以内であるのに対し1、TACOの2018年改訂は輸血中〜輸血終了後12時間以内を採る2。6時間を過ぎたをTACOの候補から外さない。TACOは性()肺水腫、TRALIは透過性亢進性(非)肺水腫という点が本質的な違いだが、臨床的な区別はきわめて難しい3。

TRALI TACO
定義上の発症時間 輸血中〜終了後6時間以内 輸血中〜終了後12時間以内
肺水腫の性質 透過性亢進性(非) 性()
first hit 炎症 心・、
second hit または(脂質など) 不適切な輸液管理、輸血製剤中の成分
上昇 無いか、低酸素の主因ではない 主因である
低値ならTACOを除外できる 高値・輸血前後の上昇はTACOを示唆する

の使い方には条件がつく。 300 pg/mL未満または 2000 pg/mL未満であればTACOを除外でき、輸血後/輸血前の比が1.5を超えればTACOを示唆しうる。⚠️ ただし重症患者と重症TRALIではによって常に上昇するため、この指標が役立つのは一般病棟の患者と軽症例に限られる1。

区別がつかない場合に無理に片方へ寄せず、「TRALI/TACO鑑別不能」というカテゴリーで報告するのが2019年定義の立場である。両者が同時に起こることもある1。

なおTACOの側でも、国際輸血学会(ISBT)・国際ネットワーク(IHN)・AABBによる改訂が2018年に定められ、16の制度から集めた178症例で検証されている(TACO 126例中96例=76%が陽性一致、47名の一致度はTACO特異的にκ=0.54)4。

予防

⭐ TRALIは「治す」より「起こさせない」ことで減った疾患である。 白血球抗体を含む女性ドナー由来のが重要な危険因子であり、男性のみないし男性優先の血漿を供給するというリスク低減策により、英国・フランス・ドイツ・オランダ・米国からTRALIの低下が報告されている1。

💡 女性ドナーの血漿が問題になるのは性別そのものではなく、妊娠を通じて・を獲得している頻度が高いためである(この機序の説明は教科書的な理解による)。抗体陽性と判明したドナーの以後のも、の一部として扱われる1。

⚠️ 一方、possible TRALI(旧区分)に対する女性血漿の寄与と、リスク低減策の効果については、報告が一致していない1。

治療と報告

TRALIにもTACOにも特異的な治療法は存在しない3。輸血の中止と、酸素化・循環に対する支持療法が中心になる。輸血中に呼吸困難・低酸素が現れたときの初動(直ちに輸血を中止し、輸血部門へ連絡して検体と血液バッグを提出する)は内科学 L-65:輸血の適応と規則にまとめてある。

⚠️ 輸血後の肺水腫はすべて輸血部門へ報告する。 報告があって初めて、TRALI(type I / type II)、ARDS、TACO、TRALI/TACO鑑別不能、あるいは別の診断へと分類でき、ドナー側の調査と予防につながる1。をはじめとする血漿を多く含む製剤では特に念頭に置く。

まとめ

  • TRALIは輸血中から輸血終了後6時間以内に発症する透過性亢進性(非)肺水腫で、臨床診断であり白血球抗体の検出を要しない。
  • 2019年の改訂定義は「possible TRALI」を廃止し、危険因子の有無で type I と type II に分けた。type II は輸血前12時間の呼吸状態が安定していたことを要件とする。
  • 病態はで、first hit が患者側の炎症、second hit が輸血(抗/または生物学的活性脂質)である。
  • TACOとの鑑別が実地の核心で、透過性亢進性か性かを問う。は軽症例と一般病棟でのみ有用で、区別がつかなければ「鑑別不能」として報告する。
  • 特異的治療は無く、予防が主戦場である。男性のみ・男性優先の血漿供給により複数国でTRALIの低下が報告されている。

出典

  1. 1.A consensus redefinition of transfusion-related acute lung injury(Transfusion (AABB)・2019)10名の国際専門家によるDelphi法で2004年のカナダ合意会議の定義を改訂し「possible TRALI」の語を廃止してTRALI type I(ARDSの危険因子を持たない)とtype II(ARDSの危険因子を持つか既存の軽症ARDSがある)に分けたこと、type Iの基準が①急性発症②低酸素血症(P/F 300以下またはroom airでSpO2 90%未満)③画像上の明らかな両側性肺水腫④左房圧上昇の証拠がないか、あっても低酸素の主因と判断されないこと、輸血中または輸血終了後6時間以内の発症、ARDSの代替危険因子との時間的関連がないこと、type IIがtype Iの臨床基準を満たしたうえでARDS危険因子ないし軽症ARDS(P/F 200〜300)が存在し輸血前12時間の呼吸状態が安定していることを要件とすること、輸血前12時間に呼吸状態が悪化していた症例はARDSに分類しP/F 300未満の記録が無ければ輸血関連呼吸困難(TAD)に分類すること、TRALIとTACOを区別できない症例のためのカテゴリーを設けたこと、6時間という時間枠が呼吸障害・低酸素の発生についてのもので画像所見と左房圧の評価はTRALI発症後24時間以内に記録されていればよいこと、Berlin定義のPEEP基準はTRALIの診断には適用しないとしたこと、肺動脈楔入圧の基準を左房圧上昇の判定から削除したこと、BNP 300 pg/mL未満またはNT-proBNP 2000 pg/mL未満はTACOを除外し輸血後/輸血前のNT-proBNP比1.5超はTACOを示唆しうるが重症例では常に上昇するため軽症例と一般病棟の患者でしか役立たないこと、TRALIが臨床診断であり白血球抗体の検出を要しないこと、免疫学的検索の結果が出るまで数週間から数か月かかるためベッドサイドの診断には役立たないこと、2ヒット病態でありfirst hitが患者側の炎症(輸血前血漿IL-8高値・敗血症・ピーク気道内圧30 cmH2O超の人工呼吸・慢性アルコール多飲・現喫煙・正の水分バランス・心臓手術・肝移植など)、second hitが輸血であること、輸血側の危険因子が強いcognate抗HLAクラスII抗体(MFI 1500超)の総量とGIFT陽性血漿の総量であること、女性ドナー由来の白血球抗体を含む血漿が重要な危険因子であり英国・フランス・ドイツ・オランダ・米国から男性のみないし男性優先の血漿を供給する対策でTRALI発生率が低下したと報告されていることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Association of Anaesthetists guidelines: the use of blood components and their alternatives(Anaesthesia(Association of Anaesthetists)・2025)輸血関連循環過負荷(TACO)が現在では輸血関連の死亡および重大な合併症の最多原因であること、およびTACOが「輸血中または輸血終了後12時間以内(during or up to 12 h after transfusion)の急性のもしくは増悪する呼吸障害ならびに/または急性のもしくは増悪する肺水腫」に、患者の基礎疾患では説明できない心血管系の変化(頻脈・高血圧)、容量過負荷の所見、および脳性ナトリウム利尿ペプチドなど関連バイオマーカーの支持的結果を加えたものとして広く定義されることを、Europe PMC の全文(PMC11885198)で逐語確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Transfusion-associated circulatory overload and transfusion-related acute lung injury(Blood (American Society of Hematology)・2019)TACOとTRALIがいずれも輸血後6時間以内に生じる急性呼吸窮迫の症候群であり輸血関連死亡の主因であること、特異的な治療法が存在しないこと、TACOが静水圧性(心原性)肺水腫でTRALIが透過性亢進性(非心原性)肺水腫であること、両者の鑑別が困難であること、いずれも2ヒットモデルで説明され、TACOのfirst hitが心・腎機能障害と正の水分バランスでsecond hitが不適切な輸液管理や輸血製剤中の成分、TRALIのfirst hitが炎症でsecond hitが抗白血球抗体または生物学的活性物質(脂質など)と想定されることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03
  4. 4.Revised international surveillance case definition of transfusion-associated circulatory overload: a classification agreement validation study(The Lancet Haematology・2019)国際輸血学会(ISBT)・国際ヘモビジランスネットワーク(IHN)・AABBが改訂TACO定義を策定し検証したこと、16のヘモビジランス制度から提供された178症例(うちTACO 126例)を用いた検証で2018年版定義により126例中96例(76%)が陽性一致したこと、20か国47名の専門家による評価で全症例の一致度がκ=0.43、TACO特異的な一致度がκ=0.54であったこと、検証結果に基づく微調整を経て2018年版TACO定義が確定したことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03