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Disease Atlas · 血液 · 病態

溶血性輸血反応

Hemolytic transfusion reaction

別名
HTR急性溶血性輸血反応遅発性溶血性輸血反応AHTRDHTR
臓器系
血液免疫・膠原病
科目
Internal MedicineSurgery
トピック
内科学 L-65:輸血の適応と規則外科学 G-13:出血の種類・止血・輸血
鑑別疾患
輸血関連急性肺障害輸血関連循環過負荷
合併症
播種性血管内凝固急性腎障害
関連疾患
鎌状赤血球症
症状
発熱悪寒低血圧濃色尿側腹部痛黄疸
検査値
直接抗グロブリン試験間接クームス試験ハプトグロビン乳酸脱水素酵素ビリルビンヘモグロビン尿
下位分類
過剰溶血症候群

🧠 全体像:は、輸血された赤血球が受血者の抗体に壊される病態である。実地の骨格は「いつ・どこで壊れるか」の2型に分けることに尽きる——⭐ 急性型は主にで、補体が活性化して血管内で壊れ、数分〜数時間で発熱・低血圧・を起こす。⭐ 遅発性型は過去の妊娠・輸血で作ったが以下に落ちていたところへ再曝露してが立ち上がるもので、主にで壊れ、2週間ほど遅れて発熱・黄疸・貧血として現れる1。⚠️ 急性型の原因の大半は免疫学的不適合、すなわち採血時・輸血時の取り違えである2——だから「治療」より先に「患者確認」が対策の本体になる。

急性型と遅発性型

発症時期 輸血後24時間以内(多くは最初の1時間以内) 輸血後24時間より後。通常は2週間後、輸血後30日まで起こりうる
抗体 主にABO()。Duffy・Kellなど「マイナー」抗原でも起こる 。Rh・Kidd・Duffy・Kell・MNS
溶血の場 血管内が主 が主
頻度 輸血約7万件に1件 輸血800件に1件〜11,000件に1件
主な症状 発熱・側腹部痛・赤色ないしの(実際にはまれにしか揃わない)。悪寒・輸血部位の灼熱感・胸痛・頭痛・悪心・嘔吐・呼吸困難 発熱・黄疸・貧血の徴候。急性型より軽症であることが多い
死亡 あり(・腎不全) まれ

いずれもStatPearlsの記載による1。全体では全の1〜3%を占める1。

💡 「血管内かか」は抗体が補体を活性化するかどうかで決まる。 補体を活性化する抗体がに結合すれば、にとどまればマクロファージ・・好中球による捕捉と貪食=になる1。⚠️ ただしこれは「主にどちらか」であって排他的ではない——急性型の病態にもとの双方があり、を伴うこともあれば伴わないこともある2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red blood cell transfusion'>赤血球輸血</span>"] --> B{"受血者に対応する抗体があるか"}
    B -->|"ABO<span class='jp-term jp-term-diagram' title='natural antibody'>自然抗体</span><br>(多くは取り違えによる不適合)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complement activation'>補体活性化</span>を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravascular hemolysis'>血管内溶血</span>"]
    C --> D["24時間以内(多くは1時間以内)の<br>発熱・悪寒・低血圧・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoglobinuria'>ヘモグロビン尿</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation, DIC'>播種性血管内凝固</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute kidney injury, AKI'>急性腎障害</span>・ショック"]
    B -->|"過去の妊娠・輸血で獲得した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alloantibody'>同種抗体</span>が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='limit of detection'>検出限界</span>以下に低下していた"| F["再曝露による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary response'>二次応答</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anamnestic response'>既往免疫応答</span>)"]
    F --> G["主として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravascular hemolysis'>血管外溶血</span>"]
    G --> H["24時間以降・多くは2週間後の<br>発熱・黄疸・貧血"]

なぜABO不適合が重いのか

⭐ 抗原の「数」が効いている。 赤血球上のABの発現量は他の抗原より多く、そのぶん抗原抗体複合体が多く形成され、の場も多くなる——これがの重症度を説明しうるとされる2。溶血の程度は関与する免疫グロブリンのクラス・サブクラス・抗体そのものによって左右される。

輸血量も効く。では輸血量200 mLを超えるとより高い死亡率が関連する一方、25 mLという少量でも致死的な輸血が小児を中心に報告されている2。⚠️ 「少ししか入っていないから大丈夫」とは言えない。

⚠️ は重症度を予測しない2。検査は診断のために取るのであって、軽症だと判断する根拠には使えない。

なお非免疫性の溶血もあり、これは機械的・熱的・化学的・浸透圧的な赤血球傷害による2。加温器の異常やとの混和など、抗体の関与しない機序である。

診断

⚠️ 輸血後24時間以内の新たな症状やの変化は、すべてとして扱う2。症状が重なり合うため、・・・アレルギー反応・との区別は初期には付かない。

の生化学的な診断は、次の4項目のうち2つを満たすことを要件とする2。

  1. フィブリノゲンまたはの低下
  2. ビリルビンまたはの上昇
  3. 血漿のを来す・ヘモグロビン血症
  4. の

これに加えて・の再検とという免疫学的な検索を行う2。

血清学的にはとが中心で、を含む血算・・・・尿中ヘモグロビンを併せて提出する。塗抹では・・・・・を認めうる1。

治療

⚠️ はであり、特異的な治療は存在しない2。

あらゆるに共通する初期対応は次の4つである2。

  • 輸血を直ちに中止する
  • の確保は維持する
  • 支持的な対症療法を行う
  • 患者確認との表示を照合する

急性を疑ったら、は検査室へ返却して追加検査に回す1。

管理の中心は0.5〜1 mL/kg/hの尿量を目標とするで、は・尿pH 6.5以上・血圧正常・血小板2万/mm³以上・フィブリノゲン100 mg/dL以上とされる2。

⚠️ ステロイド・・・免疫グロブリン・は、いずれも症例報告の域を出ない。 ・・・の救命的使用を提案する報告はあるが、2022年時点で科学的根拠は無く、症例ごとに判断すべきであるとされている2。

予防——対策の本体は輸血の外にある

⭐ 明確なデータは無いものの、免疫学的不適合がの最も多い原因とみられ、それは一般に採血時または輸血時の患者取り違え・検体取り違えによって生じる2。輸血前のを丁寧に行うことが不可欠であり、患者確認と製剤照合の手順そのものが治療よりの対策になる。

⚠️ 外傷診療のの緊急輸血には、1000件に1件未満とはいえのリスクがある2。世界中の外傷センターでに行われている実践だが、リスクがゼロではないことを知ったうえで行う。

鎌状赤血球症における遅発性溶血性輸血反応

鎌状赤血球症の患者に生じるは、過小評価されており致死的になりうる3。典型的にはの数日から数週間後に、疼痛またはとして現れる。

⭐ は消える。 多くの症例ではの最中に少なくとも1つ(時に複数)のが同定されるが、それらの抗体は原因となった輸血の時点では以下に低下していたと推定される3。⚠️ 輸血前のが陰性でも、は否定できない。 さらに最大3分の1の症例では、輸血後に新規のを同定できない3。

では、輸血後のヘモグロビンが輸血前を有意に下回り、HbAが50%を超えて低下しうる3。⚠️ 「輸血したのにヘモグロビンが輸血前より下がった」という所見そのものが手掛かりになる。

補体の関与は、(赤血球に結合したによる)だけでなく、血漿中のによるの活性化を介しても起こると次第に認識されており、抗C5阻害が一部の重症例で溶血の軽減に有効であったと最近報告されている3。

治療上の要点は発症中は可能であれば輸血を回避することである3。⚠️ 重症のの既往は、や遺伝子治療といった根治療法の前の輸血の安全性に疑問を投げかけうる——長期の輸血方針をどう組むかは定まっていない3。

まとめ

  • は、急性型(24時間以内・主に・主に)と遅発性型(24時間以降、通常2週間後・既往の・主に)に分けて考える。
  • が重いのは赤血球上の抗原量が多くの場が多いためで、200 mL超で死亡率が高い一方、25 mLでも致死例がある。は重症度を予測しない。
  • 診断はフィブリノゲン/低下、ビリルビン/上昇、・血症、の4項目のうち2つ+免疫学的再検で組む。
  • 特異的治療は無く、輸血中止・患者確認と製剤照合・尿量0.5〜1 mL/kg/hを目標とする輸液が中心。などは症例報告の域を出ない。
  • 最も多い原因は採血時・輸血時の取り違えであり、対策の本体は患者確認である。
  • 鎌状赤血球症の遅発性型では、が以下に落ちて輸血前スクリーニングをすり抜ける。では輸血後のヘモグロビンが輸血前を下回る。

出典

  1. 1.Hemolytic Transfusion Reaction(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)急性溶血性輸血反応が輸血後24時間以内(多くは最初の1時間以内)に、遅発性溶血性輸血反応が24時間より後に生じ、遅発性は通常は輸血の2週間後に現れるが輸血後30日まで起こりうること、血管内溶血が補体を活性化する抗体が赤血球抗原に結合したときに起こり、血管外溶血が赤血球抗原を標的とする抗体によるオプソニン化からマクロファージ・樹状細胞・好中球による捕捉と貪食に至る経路で起こること、急性型で通常問題になる不適合がABO血液型であるがDuffy・Kellなどの「マイナー」抗原でも起こりうること、遅発性型の既往免疫応答(anamnestic response)がRh・Kidd・Duffy・Kell・MNSといったマイナー抗原に関わること、溶血反応が全輸血反応の1〜3%を占め、急性型は輸血血液製剤約7万件に1件、遅発性型は輸血800件に1件から11,000件に1件の頻度であること、急性型の古典的三徴(発熱・側腹部痛・赤色ないし褐色尿)が実際にはまれにしか揃わず、実際には興奮・悪寒・輸血部位の灼熱感・胸痛や胸部絞扼感・頭痛・悪心・嘔吐・呼吸困難として現れ、身体所見では発熱・皮膚の紅潮や浮腫・頻脈・低血圧・赤色調の尿を認めること、重症化・遅発の徴候として播種性血管内凝固によるびまん性出血と腎不全による尿量減少があること、遅発性型の主症状が発熱・黄疸・貧血の徴候であり急性型より軽症であることが多く死亡はまれであること、検査が直接および間接クームス試験に加えて末梢血塗抹を含む血算・間接ビリルビン・ハプトグロビン・乳酸脱水素酵素・尿中ヘモグロビンからなること、塗抹でケラトサイト・ヘルメット細胞・咬傷赤血球・水疱細胞・球状赤血球・微小球状赤血球を認めうること、急性輸血反応を疑ったらまず輸血を中止し血液製剤を検査室へ返却することを、2023年9月12日最終更新版の全文で確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Blood Transfusion Reactions-A Comprehensive Review of the Literature including a Swiss Perspective(Journal of Clinical Medicine(Ackfeld T, et al.)・2022)本総説が急性輸血反応を対象とし遅発性輸血反応と供血者側の有害事象を扱っていないこと、2020年のスイスで溶血性輸血反応が輸血1万件あたり1件を占め22件が重症以上に分類されたこと、免疫性の急性溶血性輸血反応がABO不適合によることが最も多いがanti-K・anti-Fya・anti-Jkb・anti-Jka/anti-Jkb/anti-Jk3を含む混合抗体・anti-Eとanti-Kなど非ABO抗原でも起こること、赤血球上のABO抗原の発現量が他の抗原より多いため抗原抗体複合体が多く形成され補体活性化の場も多くなることがABO不適合の重症度を説明しうること、ABO不適合血液製剤の輸血量200 mL超でより高い死亡率が関連する一方で25 mLという少量でも致死的な輸血が小児を中心に報告されていること、検査値は重症度を予測しないこと、明確なデータは無いものの免疫学的不適合が溶血性輸血反応の最も多い原因とみられ、それは一般に採血時または輸血時の患者取り違えや検体取り違えによって生じること、非適合血の緊急輸血では1000件に1件未満の急性溶血性輸血反応のリスクがあること、非免疫性の反応が機械的・熱的・化学的・浸透圧的な赤血球傷害によること、急性溶血性輸血反応の診断には①フィブリノゲンまたはハプトグロビンの低下②ビリルビンまたは乳酸脱水素酵素の上昇③血漿の変色を来すヘモグロビン尿・ヘモグロビン血症④塗抹の球状赤血球、のうち2つを満たす必要があり、加えて交差適合試験・血液型判定の再検と解離試験を行うこと、急性溶血性輸血反応が医学的緊急事態であり特異的治療は存在せず0.5〜1 mL/kg/hの尿量を目標とする輸液蘇生が管理の中心であること、治療目標が正カリウム血症・尿pH 6.5以上・血圧正常・血小板2万/mm3以上・フィブリノゲン100 mg/dL以上であること、ステロイド・血漿交換・持続血液濾過透析・免疫グロブリン・補体阻害薬を提案する報告があるがルキソリチニブ・エクリズマブ・持続血液濾過・血漿交換の救命的使用は症例報告にとどまり2022年時点で科学的根拠は無く症例ごとに判断すべきであること、あらゆる輸血反応の初期対応が輸血の中止・静脈路の確保の維持・支持的対症療法・患者確認と血液製剤の表示の照合であること、臨床では輸血後24時間以内の新たな症状やバイタルサインの変化はすべて輸血反応として扱うべきであることを、PMC9144124の全文で確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.Management of hemolytic transfusion reactions(Hematology, American Society of Hematology Education Program(Hendrickson JE, Fasano RM)・2021)鎌状赤血球症患者の遅発性溶血性輸血反応が過小評価されており致死的になりうること、典型的には赤血球輸血の数日から数週間後に疼痛または濃色尿として現れること、過剰溶血(hyperhemolysis)を伴う遅発性溶血性輸血反応では輸血後のヘモグロビンが輸血前を有意に下回りHbAが50%を超えて低下しうること、多くの症例で遅発性溶血性輸血反応の最中に少なくとも1つ、時に複数の赤血球同種抗体が同定され、それらの抗体は原因となった輸血の時点では検出限界以下に低下していたと推定されること、ただし最大3分の1の症例では輸血後に新規の赤血球同種抗体が同定できないこと、補体が古典経路(赤血球に結合した補体結合性抗体による)だけでなく血漿中の遊離ヘムによる副経路の活性化を介しても関与すると次第に認識されていること、抗C5阻害が一部の重症の遅発性溶血性輸血反応で溶血の軽減に有効であったと最近報告されたこと、遅発性溶血性輸血反応の最中は可能であれば輸血を回避することが推奨されること、重症の遅発性溶血性輸血反応の既往が造血幹細胞移植や遺伝子治療といった根治療法の前の輸血の安全性に疑問を投げかけうることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03