眼科学

眼科学 · ML-28

失明の原因(世界とハンガリー)とスクリーニング・予防

Causes of blindness, screening and prevention

前提:正常
視覚の生理学
症状
ロービジョン

🧠 全体像:失明の原因は国の豊かさで入れ替わる。貧しい国ではと(治せる・防げる病気)が主役で、豊かな国では・緑内障・(慢性で、早く見つけるほど守れる病気)が主役になる。ハンガリーもこの後者の型で、50歳以上の失明の半分以上はとその他の疾患が占め、もなお2割残る。だから予防の鍵は、症状が出る前に見つける=スクリーニングであり、方法が確立しているとでは、による全国的な眼底スクリーニングが失明を減らす最も効率的な手段になる。

眼が「体で最も重要な1平方インチ」である理由

眼はわずか1平方インチほどの面積しかないが、3つの意味で体の中で特別な場所である。

観点 内容
① 診断の窓 動脈硬化、高血圧、糖尿病の、頭蓋内圧亢進が眼底にそのまま現れる。神経・内科・皮膚・自己免疫など多くのが特徴的なをもつ
② 最も重要な 視覚は外界(と自分の体の位置)について、速く、生きるうえで欠かせない情報を与える
③ 失うと大きい 失明すると生活の質が大きく下がり、働けなくなり、が必要になる。世界的に医学的・社会経済的な大問題である

💡 眼底は、生きた人の血管と神経を切らずに直接見られる唯一の場所である。高血圧(高血圧)や、がその代表で、眼科医はの発見者にもなる。

失明の問題に対して、国際的には次の枠組みがある。

枠組み 期間 内容
VISION 2020(視覚への権利) 2000〜2020年 WHO と国際失明予防協会が進めた、回避可能な失明をなくす世界的な取り組み
WHO の視覚に関する世界報告 2019〜2030年 人を中心とした統合的な眼科医療を各国のに組み込むことを提案
欧州 — 視覚を生活の質の重要な要素として位置づける

視覚障害と失明の定義

視力は「完全な視力=1.0」から下へ、0.5、0.1と下がり、さらにの最大の視標も読めなくなると、遠くの → 近くの → → → の順で表す。

flowchart TD
    A["視力 1.0<br>完全な視力"] --> B["視力 0.5"]
    B --> C["視力 0.1<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual acuity chart'>視力表</span>の最大視標"]
    C --> D["遠くの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counting fingers (CF, vision test)'>指数弁</span>"]
    D --> E["近くの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counting fingers (CF, vision test)'>指数弁</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hand motion'>手動弁</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='light perception'>光覚弁</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='no light perception (NLP)'>光覚なし</span>"]
    B -.-> V["ここから下が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual disturbance'>視覚障害</span>"]
    D -.-> W["このあたりから下が<br>失明の範囲"]

は視力0.5未満から始まる広い範囲で、そのいちばん重い端が失明である。

⭐ で使う重症度は、WHO の国際分類に沿って良いほうの眼の日常視力(普段使っているのままの視力)で決める。区分と根拠の詳細はとにまとめてあり、ここでは小数視力で整理しておく。

区分 良いほうの眼の日常視力 ハンガリーの全国調査での呼び方
軽度 0.5 未満〜0.3 以上 初期
中等度 0.3 未満〜0.1 以上 中等度
重度 0.1 未満〜0.05 以上(または視野がの周囲20度未満) 重度
失明 0.05 未満(または視野がの周囲10度未満) 失明

中等度と重度をまとめて「中等度〜重度」と呼ぶことが多い。世界研究も、中等度〜重度を日常視力6/18未満〜3/60、失明を3/60未満またはの周囲10度未満の視野と定義している1。

💡 日常視力で数える意味:を持っていない・合っていないために見えない人もに数える。こうすると「1本、1回で治る障害」がどれだけ放置されているかが統計に現れる。

世界の視覚障害

WHO の視覚に関する世界報告(2019年)

WHO の報告は、世界のを2つの輪で示した2。

  • 外側の輪:少なくとも22億人がをもつ(や手術ですでに対処済みの人も含む)。
  • 内側の輪:そのうち少なくとも10億人は、予防できたはずか、まだ対処されていないである。

内側の10億人の内訳は次のとおりである。はの、それ以外は遠見の中等度〜重度または失明のである2。

原因 対策
未矯正の 8億2,600万人 近用
未矯正の(遠見) 1億2,370万人 ・コンタクトレンズ
6,520万人
緑内障 690万人 早期発見と下降
420万人 感染・外傷・の予防、
300万人 スクリーニングとレーザー・抗 VEGF 治療
200万人 衛生改善・抗菌薬・睫毛乱生の手術

💡 表の2つ(と)はだけで解決する。10億人の大半が、最も安い医療で防げるだということが、この報告のいちばんの教訓である(、)。

同じ報告は、を起こしうる眼疾患を持っている人の数(になっているとは限らない)も示している。調査年と対象年齢がそろっていない点に注意する2。

眼疾患 推計 対象と年
26億人 全年齢、2020年
 うち19歳未満 3億1,200万人 2015年
18億人 全年齢、2015年
1億9,600万人 30〜97歳、2020年
1億4,600万人 成人(糖尿病にの34.6%を掛けた推計)
緑内障 7,600万人 40〜80歳、2020年
性睫毛乱生 250万人 全年齢、2019年

地域による差(国際失明予防協会の視覚アトラス、2020年)

国別のを色分けした世界地図(全年齢、男女計、2020年)から、次の傾向が読み取れる。

指標 低い地域 高い地域
失明 北米・欧州・ロシア・中国・オーストラリアなど多くの国が最も低い区分(0〜0.5%) サハラ以南アフリカ・北アフリカ・中東・南アジアが0.5〜1.5%、サヘル地域の一部・アフガニスタン・パキスタンなどは1.5〜2.0%
中等度〜重度 北米・西欧・オーストラリアが0.5〜1.5% ロシア1.5〜2.0%、中国2.5〜3.0%、南アジア・サヘル地域・中東の一部は4.5%超

⚠️ 地図は色の区分で示されたもので、国ごとの正確な値は読み取れない。上の数値は区分の範囲である。

現行の推計(世界疾病負担研究・視覚喪失専門家グループ)

WHO の報告のもとになった推計は、その後、世界研究の視覚喪失グループが2020年の値に更新した。対象は調査データの多い50歳以上である1。

2020年、50歳以上 主な原因
失明 3,360万人 1,520万人(約45%)、緑内障360万人、矯正不十分な230万人、180万人、86万人
中等度〜重度 2億600万人 矯正不十分な8,610万人(約42%)、7,880万人

⭐ 世界全体では失明の最大の原因は、中等度〜重度の最大の原因はである。ただし高所得の地域だけは失明の最大の原因が緑内障で、西欧では緑内障32.5%に対し11.4%だった1。

💡 30年間で年齢調整はを除くすべての原因で下がったが、人口の増加と高齢化のためは増えた1。だけは、糖尿病の世界的な増加を反映してそのものが上がっている。

経済状況と失明の原因

国を経済状況で4群(とても貧しい・貧しい・中程度・良好)に分け、人口100万人あたりの失明者数を原因別に積み上げると、次のようになる。値は横棒グラフから読み取った概数で、調査年と出典年は示されていない。

経済状況 失明者数(100万人あたり、概数) その他 緑内障
とても貧しい 約9,500 約1,000 ほぼなし 約1,500 約4,000 約3,000
貧しい 約7,000 約1,000 約100 約1,500 約3,900 約500
中程度 約5,000 約1,000 約750 約1,000 約2,250 なし
良好 約3,000 約1,500 約750 約750 なし なし
flowchart TD
    A["国の経済状況が良くなる"] --> B["失明者の総数が減る<br>(約9,500 → 約3,000/100万人)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal scar'>角膜瘢痕</span>が消える<br>(感染・栄養・衛生の改善)"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cataract'>白内障</span>が消える<br>(手術が受けられる)"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic retinopathy'>糖尿病網膜症</span>が現れ<br>比重が増す"]
    E --> F["豊かな国の失明は<br>慢性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior segment'>後眼部</span>疾患が中心"]
    C --> F
    D --> F

💡 原因が入れ替わる理由:(、、の)とは、衛生・栄養・手術で防げる・治せる。それらが片付くと、寿命が延びて糖尿病が増えた社会で、・緑内障・という「治すより守る」病気が残る()。

ハンガリーの失明

全国調査 RAAB+DR(2015年)

ハンガリーでは2015年に、回避可能な失明の迅速評価調査にの項目を加えた方式(RAAB+DR)で、人口に基づく全国調査が行われた。対象は50歳以上で、失明・・糖尿病の3つを同時に調べた。

項目 内容
規模 約3,600人を検査
地点 全国105か所に散らばる調査地点
方法 住民の自宅や庭先で(E 字視標)を使って視力を測り、眼科医が眼の診察をして原因を判定する

有病率

50歳以上のハンガリー国民で、は約50万1,000人、失明は約3万3,000人と推計された。

区分(日常視力) 男性 推計 男性 (95%信頼区間) 女性 推計 女性 (95%信頼区間) 合計 推計 合計 (95%信頼区間)
失明(0.05 未満) 11,817 0.7%(0.3〜1.2) 20,959 1.0%(0.6〜1.4) 32,776 0.9%(0.6〜1.2)
重度(0.1〜0.05) 5,793 0.4%(0.0〜0.9) 11,478 0.5%(0.2〜0.8) 17,271 0.5%(0.2〜0.7)
中等度(0.3〜0.1) 55,087 3.5%(2.3〜4.6) 136,089 6.3%(5.2〜7.3) 191,177 5.1%(4.3〜5.9)
初期(0.5〜0.3) 93,235 5.9%(4.4〜7.4) 166,796 7.7%(6.5〜8.9) 260,036 6.9%(5.9〜7.9)

💡 4区分の推計を合計すると約50万1,000人になる。つまり「50万1,000人」は失明の3万3,000人を含んだ数である。

💡 どの区分でも女性のほうが多い。女性は長生きで、加齢とともに増える・の影響を長く受けるためである。

原因

各区分の中で、原因ごとの割合(%)は次のとおりである(各列の合計が100%)。

原因 失明 重度 中等度 初期
0.0 0.0 23.9 40.7
21.2 35.3 49.7 42.6
の合併症 3.0 11.8 3.6 2.7
0.0 0.0 1.0 0.8
3.0 0.0 0.0 0.0
緑内障 12.1 17.6 2.0 1.1
6.1 11.8 1.5 1.9
27.3 17.6 11.2 5.7
その他の疾患 27.3 0.0 4.6 2.7
その他の眼疾患・中枢神経疾患 0.0 5.9 2.5 1.9

この表から読むべき要点は3つある。

  1. 失明の原因の首位はとその他の疾患(各27.3%)で、両者で半分を超える。次いで21.2%、緑内障12.1%、6.1%である。
  2. 重度〜初期のでは、が35〜50%で常に最大である。
  3. 中等度・初期のではが24〜41%を占める。で治るがこれだけ残っている。

⚠️ は手術で治るのに、先進国のハンガリーでも50歳以上の失明の5分の1を占め、の合併症による失明・重度もある。手術を受ける機会と手術の質の両方が課題である(は外傷や重い炎症の終末像)。

💡 世界全体(50歳以上の失明の約45%が)と比べると、ハンガリーはの比重が小さく、・緑内障・の比重が大きい。前節の「経済状況が良い国」の型に近い。

年齢層ごとの主な失明の原因(2005年の報告)

2005年のハンガリーの報告は、年齢層ごとの失明の主な原因を次のように整理している。

年齢層 主な原因
0〜20歳
21〜40歳 ()
41〜60歳 、
61〜80歳 、、緑内障
81〜100歳 、緑内障

⭐ 子どもは、働き盛りはと、高齢者はと緑内障。この年齢の流れは、後で述べるスクリーニングの対象(、糖尿病患者、高齢者)とそのまま重なる。

同じ報告の年齢・性別の分布(縦軸の単位は示されていないが失明者数とみられる折れ線グラフ)から読み取れる概数は次のとおりである。

年齢層 女性 男性
0〜39歳 約180 約190
40〜60歳 約380 約440
60歳以上 約2,080 約1,120

60歳未満では男女差がほとんど無い(40〜60歳ではむしろ男性がやや多い)が、60歳を超えると失明は急増し、女性が男性の約2倍になる。

失明の社会的費用(2011年の報告)

60歳以上の失明がハンガリー社会に生む費用を1年あたりで推計した報告がある(単位は百万フォリント/年)。

費用の項目 社会全体の費用 うち公的財源
費用 188.0 0
社会保障の給付(手当など) 2,568.2 2,568.2
社会福祉サービス 582.7 461.6
日常生活の手助け(家族などによる介助) 2,035.6 0
生活を助ける補助具 605.4 9.5
医療費 857.4 786.0
合計 6,837.3 3,825.3

💡 医療費は全体の約1割強にすぎず、費用の大半は手当と日常生活の介助である。しかも介助の約20億フォリントは公的財源から出ておらず、家族が担っている。失明を1件防ぐことは、医療費以上に大きな負担を減らす。

予防の3段階

予防医学の目標は病気のない状態であり、病気の発生を防ぐか、発症後に病気を止めて合併症を避けることで達成する。

段階 定義 眼科での例
病原を取り除くか抵抗力を高めて、病気の発生そのものを防ぐ 屋外活動によるの発症予防、の衛生改善、糖尿病の血糖・
症状が出る前に、すでにある病気を見つけて対処する ・・緑内障・のスクリーニング
予防 症状の出た病気による障害や死亡を、治療とリハビリテーションで減らす 抗 VEGF 治療、、()

スクリーニングの考え方

ハンガリーでは、眼科のスクリーニングが本来必要とされる頻度より少なくしか行われてこなかった。スクリーニングの効率を考えるうえでの原則は次のとおりである。

  • 病気の頻度がを左右する。まれな病気を全員から探すと、1例見つけるための費用が膨らむ。
  • そのため、危険因子をもつ集団に絞って行うと効率が上がる(、糖尿病患者、緑内障の家族歴のある人、高齢者など)。

⭐ の高いスクリーニング計画が成り立つ条件は2つある。

条件 意味
根拠に基づく正確な治療指針がある 見つけた後に、何をすれば視力が守れるかが確立している
妥当なスクリーニング方法がある 安全・簡便で、感度と特異度が十分な検査がある

とは、この2つの条件をどちらも満たしている。

flowchart TD
    A["危険因子をもつ集団を決める<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='premature infant'>未熟児</span>・糖尿病患者など)"] --> B["妥当な検査で拾い上げる<br>(眼底撮影・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect ophthalmoscope'>倒像鏡</span>)"]
    B --> C{"治療が必要な<br>病変があるか"}
    C -->|"ある"| D["根拠に基づく治療<br>(レーザー・抗VEGF)"]
    C -->|"ない"| E["決められた間隔で<br>再検査"]
    E --> B
    D --> F["視力を守り<br>失明を防ぐ"]

小児の眼疾患の有病率

小児の主な眼疾患の頻度は次のとおりで、スクリーニングの優先度を決める基礎になる。

疾患
0.06%
出生体重750 g未満で52%、750〜799 gで32%、1,000〜1,250 gで15%(2005年の報告)
0.01%
0.005%(15歳未満)
4%
2〜3%
9%(5〜17歳)
13%(同上)
28%(同上)

💡 は出生体重が小さいほど急に増える(800〜999 g の区分の値は示されていない)。一方、頻度の高い・・は、就学前の視力検査で拾い上げる対象になる。

疾患別のスクリーニングと対策

を起こす主な疾患について、スクリーニングの方法・時期・見つかった後の対策をまとめる。「従来の整理」の列はハンガリーの従来の方式で、現行の国際的な推奨と違う点は右端に書いた。

疾患 検査方法 時期(従来の整理) 見つかったら 現行の推奨との違い
、 出生体重1,500 g未満、在胎32週以下 眼底レーザー、抗 VEGF 注射 英国の2022年指針は在胎31週未満または出生体重1,501 g未満を全例対象とする(下記)
、OCT、 糖尿病患者は毎年 眼底レーザー、抗 VEGF 注射 ADA はが無く血糖が目標域なら1〜2年ごとも可とする(下記)
視力、OCT、 見え方の訴えがあるとき 抗 VEGF 注射 詳細は
視力、診察 見え方の訴えがあるとき —
緑内障 眼底と視野の検査 2〜5年ごと を下げる点眼または手術 危険因子のある人を優先して調べる。詳細は緑内障()
視力、 見え方の訴えがあるとき 、コンタクトレンズ、 —
両眼の屈折の釣り合い、家族歴 就学前 屋外活動を増やす、特殊なコンタクトレンズ 進行抑制の詳細はの進行予防

💡 スクリーニングが特に意味をもつのは、症状が出る前に視力を奪う病気である。・・緑内障は、症状が出たときにはすでに手遅れになりうる。やは本人が見えにくさに気づいて受診できるので、「訴えがあったとき」で足りる。

未熟児網膜症のスクリーニング

誰を検査するか

は未熟な網膜の血管の病気で、放置するとから失明に至る。治療が有効な時期は限られるので、危険の高い児を決められた時期に漏れなく診ることが鍵になる(病態・分類・治療の正本は)。

基準 対象
ハンガリーの従来の整理 出生体重1,500 g未満、在胎32週以下
2000年代初めの研究 在胎30週未満かつ出生体重1,250 g未満の児に絞っても、安全かつ効果的にスクリーニングできる
英国の現行指針(2022年、2024年改訂) 在胎31週未満(30週6日まで)または出生体重1,501 g未満のいずれかを満たせば全例。31週0日〜31週6日生まれも対象として考慮する3

⚠️ 対象を狭める提案(30週未満かつ1,250 g未満)は、効率は良いが見逃しの危険と表裏一体である。英国の現行指針は、在胎31週以降に生まれて治療を要した児が報告されたことを受けて、31週台の児も考慮する推奨を加えた3。基準は国ごとに違い、各国は自国の新生児の成熟度に合わせて決めている。

初回検査の時期は、在胎31週未満生まれなら修正31週0日〜31週6日か、生後満4週(28〜34日)の遅いほうである3。

遠隔医療による未熟児網膜症スクリーニング

眼科医が常駐しない周産期センターでも検査できるよう、持ち運べる広角を使ったの仕組みが作られている。

flowchart TD
    A["持ち運べる広角<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fundus camera'>眼底カメラ</span>を<br>周産期<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>センターへ運ぶ"] --> B["訓練を受けた職員または眼科医が<br>児の眼底を撮影"]
    B --> C["インターネットで<br>サーバーへ送る"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image interpretation'>読影</span>端末で<br>担当の眼科医が判定"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>の決定"]
    E --> F["経過観察"]
    E --> G["双眼<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect ophthalmoscope'>倒像鏡</span>で<br>眼科医が直接診察"]
    E --> H["児を治療を行う場所へ搬送"]
    E --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical doctor'>医師</span>とレーザー装置を<br>治療を行う場所へ運ぶ"]

💡 の利点:撮影は訓練を受けた職員でもでき、判定は熟練した眼科医が離れた場所でまとめて行える。画像が記録として残るので、経過の比較や家族への説明にも使える。広角デジタル眼底撮影は、標準である双眼と比べて特異度が高く(78〜100%)、感度は研究によって幅がある(57〜99%)3。判定が難しい例はで確かめる。

光凝固治療

治療を要するには、網膜の周辺の領域をレーザーで凝固する。

項目 内容
装置 双眼に組み込んだレーザー
波長 アルゴンまたは
出力 200〜500 mW 程度
照射時間 0.1〜0.5秒
レンズ 28 D の非球面レンズ
場所 周産期センターまたは手術室
医または麻酔科医が立ち会い、全身麻酔下で行う

現在はレーザーに加えて抗 VEGF 薬の注射も選択肢である(使い分けは)。

糖尿病網膜症のスクリーニング

なぜスクリーニングが要るか

つまり、治療法はすでにある。問題は治療が間に合うかどうかで、現在の課題は次の2つである。

  1. 糖尿病患者を見つけること(糖尿病そのものの拾い上げ)
  2. を適切な時期に治療すること(スクリーニング → 精密検査 → 治療の流れをつなぐこと)

分類と治療の詳細は糖尿病のとの治療で扱う。

多くの糖尿病患者が眼底検査を受けていない

RAAB+DR 調査(2015年)で、糖尿病のある参加者に最後にを受けた時期を尋ねた結果である。値は調査の実測の割合で、分母(糖尿病のある参加者の)は示されていない。

pie showData
    title "最後の眼底検査からの期間(RAAB+DR 2015、糖尿病のある参加者、%)"
    "12か月未満" : 45.7
    "12〜24か月" : 10.0
    "24か月超" : 16.9
    "一度もない" : 27.4

⚠️ 指針では毎年のが求められているのに、1年以内に受けていた人は45.7%にとどまり、54.3%は1年以上受けていないか一度も受けたことがない。4人に1人以上は一度も眼底を診てもらっていない。

現行の検査間隔

ADA の2026年版の指針では、次のとおりである4。

対象 初回の
1型糖尿病 発症から5年後
2型糖尿病 診断時
初回以降の所見(1型・2型共通) 次の検査
がある 少なくとも年1回(進行している・視力を脅かすならさらに頻回)
年1回以上の検査でが無く、血糖指標が目標域 1〜2年ごとも考慮してよい

💡 2型糖尿病は、診断されるまでに気づかれない高血糖の期間が長いので、診断の時点ですでにがあることがある。そのため初回検査は診断時に行う。従来の「毎年」という整理は、の無い安定した患者では間隔を広げてよいという点で現行の推奨と異なる。

遠隔医療による眼底スクリーニング

せずに撮影できる()を使うと、眼科以外の場所でも撮影できる。2009年の研究では、糖尿病患者135人でとの有無を判定し、無で黄斑中心の45度の写真を1枚または3枚撮る方法で、感度82%、特異度92%だった。

研究 目的 撮影方法 感度 特異度
2009年の研究 135 の有無、の有無 無、1視野または3視野、中心45度 82% 92%

撮影範囲は、黄斑とを含む1枚の写真、少しずつ位置をずらした3枚の写真、さらに多くの写真を貼り合わせて周辺まで写す方法と広げられる。視野を増やすほど周辺の病変を拾えるが、撮影の手間は増える。

ハンガリーでは、店に置いたと大学のセンターを結ぶ仕組みが試みられた。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>店で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-mydriatic fundus camera'>無散瞳眼底カメラ</span>で撮影"] --> B["写真に年齢・糖尿病・高血圧・<br>視力の情報を添えて送る"]
    B --> C["大学の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image interpretation'>読影</span>センター"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image interpretation'>読影</span>者が一次判定"]
    D --> E["監督医が確認"]
    E --> F["結果を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spectacles'>眼鏡</span>店へ返す"]
    F --> G["屈折の処方"]
    F --> H["次回検査の予約"]
    F --> I["緑内障・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='age-related macular degeneration (AMD)'>加齢黄斑変性</span>の疑い<br>その他の所見は眼科へ紹介"]

💡 店は糖尿病患者もに訪れる場所で、眼科の予約を取るより敷居が低い。撮影を身近な場所で、判定を専門施設で行うことで、受診しない54%に手を届かせることを狙っている。副次的に、緑内障やの疑いも拾える。

近視

増え続ける近視

指標 値
世界人口に占めるの割合 2017年の約23%から、2050年には約50%に増えると予測されている
アジア(都市部の若年層など、の多い集団) 90〜95%に達する
の多い集団では20%に達する

WHO の報告では、2020年のは全年齢で26億人、そのうち19歳未満は(2015年に)3億1,200万人と推計されている2。

⚠️ 90〜95%という値はアジア全体の平均ではなく、が特に多い集団の値である。

の眼では眼軸が正常より長く、平行光線が網膜より前で焦点を結ぶ。強いでは眼軸の伸びで網膜・が引き伸ばされ、黄斑にからの出血(血腫)と液体の貯留が起こる。眼底造影像では、液の貯留が黄斑の明るい点として、血腫がその脇の暗い部分として示される()。だからは単なるではなく、若い世代の失明の原因になる(年齢層の表で21〜60歳にが挙がる理由)。

近視の予防

手段 考え方
屋外での運動・スポーツを増やす 屋外の明るい光が眼軸の伸びを抑える。発症予防の中心
近業を減らし、こまめに中断する 長時間の近距離作業を区切る
光学的矯正 特殊なコンタクトレンズ(や多焦点ソフトコンタクトレンズ)で周辺の焦点をずらす
低濃度点眼 の遮断薬。進行を抑える

詳細な効果と濃度の比較はの進行予防で扱う()。

小児のスクリーニングと弱視

小児のスクリーニングの最大の目的はとの闘いである。は視覚が発達する時期に治療しないと、大人になってから治せない()。

ハンガリーでは、国の児童保健プログラムの一環として、国立小児保健研究所が方法論の指針を作った。

  • 地域の保健師(乳幼児の家庭訪問を担う看護職)と小児科医向けに、指針と実技・理論の教育用 DVD を配布する。
  • 保護者向けに、子どもの見え方の発達を家庭で見守るための情報をインターネットで提供する。保健師は保護者と話し合い、気になることがあれば検査を受けるよう勧める。

💡 の早期発見は、眼科医だけでは担えない。子どもにに接する保健師・小児科医・保護者が「おかしい」と気づく仕組みを作ることが、小児の失明予防の基盤になる。

まとめ

  • 眼はの診断の窓であり、最も重要なであり、失うと生活の質・労働能力が大きく損なわれる。国際的には VISION 2020(2000〜2020年)と WHO の視覚に関する世界報告(2019〜2030年)が取り組みの枠組みである。
  • の重症度は良いほうの眼の日常視力で決め、軽度0.5未満、中等度0.3未満、重度0.1未満、失明0.05未満(詳細はML-10)。
  • WHO(2019年):世界で少なくとも22億人がをもち、少なくとも10億人は予防できたか未対処で、その大半はと(で治る)。
  • 世界研究(2020年、50歳以上):失明3,360万人、最大の原因は(約45%)。中等度〜重度2億600万人、最大の原因は(約42%)。高所得地域では緑内障が失明の最大の原因。
  • 貧しい国ほど失明が多く、原因はと。豊かな国では・緑内障・など慢性の疾患が中心になる。
  • ハンガリー(RAAB+DR 2015、50歳以上):約50万1,000人(失明を含む)、失明約3万3,000人(0.9%)。失明の原因はとその他の疾患が各27.3%、21.2%、緑内障12.1%、6.1%。ではとが多い。女性に多い。
  • 年齢層では、小児は、働き盛りはと、高齢者はと緑内障。60歳以上の失明の費用は年約68億フォリントで、大半は手当と家族の介助。
  • 予防は一次(発生を防ぐ)・二次(症状の前に見つける)・(障害を減らす)。スクリーニングは危険集団に絞ると効率が上がり、根拠に基づく治療指針と妥当な検査法の2条件がそろうとで特に有効。
  • :従来は1,500 g未満・32週以下、英国の現行指針は31週未満または1,501 g未満。で撮影と判定を分け、治療はレーザー(全身麻酔下)または抗 VEGF。
  • :失明は一般人口の25倍、適時の治療で90%のを守れるが、ハンガリーでは54.3%が1年以上を受けていない。無の遠隔スクリーニングは感度82%・特異度92%。ADA は2型は診断時、1型は発症5年後に初回検査。
  • は2050年に世界人口の約半分に達すると予測され、は若年の失明原因になる。予防は屋外活動、近業の中断、特殊なコンタクトレンズ、。
  • 小児スクリーニングの目的はの早期発見で、保健師・小児科医・保護者を巻き込む仕組みが要る。

出典

  1. 1.Causes of blindness and vision impairment in 2020 and trends over 30 years, and prevalence of avoidable blindness in relation to VISION 2020: the Right to Sight: an analysis for the Global Burden of Disease Study(Lancet Global Health・2021)PMC全文(PMC7820391)で、2020年の50歳以上の失明は3,360万人、中等度〜重度視覚障害は2億600万人で、失明の原因は白内障1,520万人(約45%)・緑内障360万人・矯正不十分な屈折異常230万人・加齢黄斑変性180万人・糖尿病網膜症86万人、中等度〜重度視覚障害の原因は矯正不十分な屈折異常8,610万人(約42%)・白内障7,880万人であること、高所得の地域群だけは失明の最大の原因が白内障ではなく緑内障で、西欧では緑内障32.5%・白内障11.4%であること、年齢調整有病率は糖尿病網膜症を除くすべての原因で30年間に低下したが患者数は増えたこと、糖尿病網膜症は年齢調整失明有病率が世界全体で増えた唯一の原因であることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.World report on vision(World Health Organization・2019)世界で少なくとも22億人が視覚障害(対処済みのものを含む)をもち、そのうち少なくとも10億人は予防できたか未対処の視覚障害であること、その内訳として未矯正の屈折異常1億2,370万人・白内障6,520万人・緑内障690万人・角膜混濁420万人・糖尿病網膜症300万人・トラコーマ200万人(いずれも遠見の中等度〜重度視覚障害または失明)・未矯正の老視8億2,600万人(近見視覚障害)が挙げられていること、図2.1で近視26億人(全年齢、2020年)・19歳未満の近視3億1,200万人(2015年)・緑内障7,600万人(40〜80歳、2020年)・トラコーマ性睫毛乱生250万人(2019年)・老視18億人(2015年)・糖尿病網膜症1億4,600万人(成人、推計)・加齢黄斑変性1億9,600万人(30〜97歳、2020年)とされていることを確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.UK Screening of Retinopathy of Prematurity Guideline(Royal College of Paediatrics and Child Health・2024)2022年3月発行・2024年10月改訂の本文で、在胎31週未満(30週6日まで)または出生体重1501 g未満のいずれかを満たす児を全例スクリーニングし、31週0日〜31週6日生まれも対象として考慮すること、31週未満生まれの初回検査は修正31週0日〜31週6日または生後満4週(28〜34日)の遅いほうで行うこと、広角デジタル眼底撮影は双眼倒像鏡と比べて高い特異度(78〜100%)と幅のある感度(57〜99%)を示したことを確認した閲覧 2026-09-29
  4. 4.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC全文(PMC12690177)で、1型糖尿病は発症から5年後、2型糖尿病は診断時に散瞳下の総合的な眼底検査を行い、網膜症があれば少なくとも年1回(進行性または視力を脅かす網膜症ではさらに頻回)、年1回以上の検査で網膜症が無く血糖指標が目標域なら1〜2年ごとの検査を考慮してよいとしていることを確認した閲覧 2026-09-29