眼科学

眼科学 · ML-42

糖尿病網膜症の治療

Treatment of diabetic retinopathy

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症

🧠 全体像:の治療は3つの層でできている。土台は全身の管理(血糖・血圧・脂質。すべての病期で、内科医・眼科医・患者の三者で行う)。その上に、「漏れ」=にはの(に及び視力が落ちていれば第一選択。とステロイドは第二選択)、「詰まり」=には(虚血網膜を焼いて VEGF の出どころを減らす。確実に通院できる人ではも代わりになる)を置く。薬でも光でも戻せない・には。は「1〜2回で長く効くが視力は戻さない」、は「視力を戻すが通い続ける必要がある」——この対比がの鍵である。

分類とスクリーニングは糖尿病の、の手技はの疾患と手術、の治療は緑内障 IIで扱う。疾患としての整理はとを参照。

なぜ治療が要るか:疫学と自然経過

ハンガリーのデータ(2002年)

指標 値
糖尿病の 7.5%
の 60%
による失明 4.2%

罹病期間とともに増える網膜症

とのの関係を示した古典的な曲線では(グラフからの読み取り、概数)、次のようになる。

何らかの
5年 約25% ほぼ0%
10年 約70% 数%
15年 約95% 約30%
20年以上 ほぼ100% 約40〜55%(30年あまりで約60%が最大)
50年 90%超 約35%

💡 はに強く依存する。最初の5年はほとんど出ず、10〜15年でほぼ全員に何らかのが現れる。は10年を過ぎてから急に増える。長いでの割合が下がるのは、重症の人が早く亡くなって観察集団から抜けるためと考えられる。1型糖尿病で初回のを発症5年後からとするのは、この曲線と合う。

正常な眼底と比べると、の眼底ではに点状・しみ状の出血と黄白色のが散らばる。

分類の2本の軸

治療を決めるには、の病期と()を別々に判定する。

flowchart TD
    A["糖尿病の眼底"] --> B["軸1:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>"]
    A --> C["軸2:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maculopathy'>黄斑症</span>"]
    B --> B1["なし"]
    B --> B2["非増殖<br>軽症・中等症・重症"]
    B --> B3["増殖"]
    C --> C1["なし"]
    C --> C2["あり<br>軽症・中等症・重症"]

を軽症・中等症・重症に分けるのは、が中心からどれだけ離れているかによる旧来の整理である。現在は中心(直径1 mm)を含むかどうかで分け、これが治療法を決める(糖尿病の)。

視力が落ちる2つの道

原因 見え方 所見
視野の中心がぼやけ、細かいものが見えない(周辺は保たれる) OCT でが大きく盛り上がり、網膜内に大小のの腔が並ぶ
視野の一部が暗い影や濁りで覆われる。量が多いと急に見えなくなる 眼底では黄斑を覆う大きな暗赤色の出血を認める(、)

💡 はゆっくりと中心から、は突然に一部または全体から見えにくくなる。には、とには・・と、原因ごとに治療が変わる。

眼科の診察

検査の時期

従来の整理では、1型・2型とも糖尿病の診断時に眼科を受診し、その後は眼科医の指示で1〜12か月ごとに診る。も診断時に診るとされていた。

現行の ADA 2026 の推奨は、ここと2点で違う1。

対象 従来の整理 現行(ADA 2026)
1型糖尿病 診断時 発症から5年後に初回の眼科検査
2型糖尿病 診断時 診断時(同じ)
以後 1〜12か月ごと があれば少なくとも年1回、進行すればより頻回。が無く血糖が目標域なら1〜2年ごとも可
診断時 妊娠中の眼科検査は不要(の危険が上がらないため)。妊娠前からの1型・2型糖尿病は妊娠前と妊娠初期に診る

詳しい検査間隔と紹介基準は糖尿病のにまとめた。

何を聞き、何を診るか

区分 項目
全身 、血糖値と HbA1c、最後に眼科を受診した時期
眼 視力、眼科の総合的な診察、下の

⭐ は必須である。瞳孔が小さいと眼底の中心しか見えない。超広角のに標準的なの撮影範囲を何枚か重ねると、その範囲はのごく一部にすぎず、の出血やは範囲の外にある。して周辺まで見ないと、を見落としうる。

治療の全体像

⭐ 予防と治療は、糖尿病専門医(血糖の管理)・眼科医(経過観察と治療)・患者(治療の継続)の三者の密な協力で成り立つ。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic retinopathy'>糖尿病網膜症</span>"] --> B["全身の管理<br>血糖・血圧・脂質<br>(すべての病期)"]
    A --> C{"主な病態は何か"}
    C -->|"中心を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-VEGF agent'>抗VEGF薬</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravitreal injection'>硝子体内注射</span><br>(第一選択)"]
    D --> E["浮腫が残る"]
    E --> F["黄斑の局所・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='grating'>格子</span>状<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photocoagulation'>光凝固</span><br>ステロイド<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravitreal injection'>硝子体内注射</span>"]
    C -->|"高リスク<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative retinopathy'>増殖網膜症</span><br>一部の重症 NPDR"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='panretinal photocoagulation'>汎網膜光凝固</span>"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative retinopathy'>増殖網膜症</span>で<br>通院が確実"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-VEGF agent'>抗VEGF薬</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='panretinal photocoagulation'>汎網膜光凝固</span>の代わり)"]
    C -->|"消えない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous hemorrhage'>硝子体出血</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tractional retinal detachment'>牽引性網膜剥離</span>"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitrectomy'>硝子体手術</span>"]

全身の管理

血糖

⭐ HbA1c が1%下がると、の危険が37%減る、という値がよく引用される。

1型糖尿病でと従来療法を比べた DCCT では、9年間のの進行が次のように減った。

群 対象 進行の頻度(9年、グラフから概数) 危険の減少
群 の無い726人 従来療法 約55%、 約13% 76%(p<0.001)
二次介入群 軽症ののある715人 従来療法 約54%、 約27% 54%(p<0.001)

💡 二次介入群では、最初の1〜2年はの群のほうが進行がやや多く、その後に逆転する。これが「急な血糖の改善による一過性の悪化」で、長い目で見ればがを大きく減らす。ADA も、GLP-1 受容体作動薬などでを強めるときはの状態を確かめるよう述べている1。

  • ICO は、HbA1c が7.5%(58 mmol/mol)を超えていればを改善するとしている2。
  • ADA は、血糖・血圧・脂質を目標に近づけることでの発症と進行を抑えるよう推奨している1。

血圧と脂質

項目 従来の数値 現行の知見
血圧 115 mmHg を超える範囲では、10 mmHg 下げるごとに進行が11%減る での進行は減るが、収縮期120 mmHg 未満の厳格な目標にの利益はない1
脂質 脂質が正常なら、が要る割合が30%減る のある人ではの追加で進行が遅くなりうる(とくに早期の)。スタチンでとが減る1
  • があっても、心血管の予防のためのは禁忌ではない。の危険を上げない1。
  • などのはの発症・悪化と関連する可能性があるが、証拠は一致していない1。

レーザー光凝固

黄斑浮腫への局所・格子状光凝固

ETDRS が確立した治療で、効果はおよそ50%(の危険をおよそ半分にする)とされた。

方法 対象 何をするか
局所 局所的な漏れによる 漏れているを狙って小さく凝固する。凝固斑は漏れの部位に集まる
状 びまん性の漏れによる 黄斑の周りに状に一様に凝固斑を並べる

⚠️ 現在、黄斑のはの第二選択である。中心を含むにはのほうが単独より有効で、はのあとも残る浮腫や、の対象にならない眼に使う1。は浮腫の進行を止めることが主で、視力を戻す力は弱い。

増殖網膜症への汎網膜光凝固

眼底の周辺からにかけて、黄斑と乳頭を避けて数百〜数千の凝固斑を並べる。凝固後の眼底には、周辺に白っぽい円形の瘢痕が敷き詰められたように並ぶ。効果はおよそ50%とされた。

  • 研究では、でによる重いが15.9%から6.4%に減った。乳頭やのある進んだ眼ほど利益が大きかった1。
  • ADA は、を高リスクと一部の重症 NPDR の適応としている1。

💡 なぜ網膜を焼くと良くなるのか:虚血に陥ったが VEGF を出してを作らせている。そこを凝固して酸素を消費するを減らすと、残った網膜の酸素が足り、VEGF の産生が減ってが退縮する。を守るために周辺を犠牲にする治療である。

高リスク:次の4項目のうち3つがそろうもの(研究の定義)3。

項目 内容
① がある(部位を問わない)
② がの上または近くにある
③ 中等度以上の:乳頭から1以内で1/4〜1/3乳頭面積を超える、または乳頭以外で1/2乳頭面積以上
④ またはがある
  • 高リスクの多くは、速やかにを行う3。
  • 重症 NPDR と高リスクでないでは、高リスクになるまで待つこともできるが、2型糖尿病では早めの凝固で重いまたはが2.5%対5%と半分になった3。通院が不確実な人、や妊娠を控えた人、反対眼の経過も凝固の時期を早める理由になる2。
  • 行うなら完全な(ETDRS の方式で1200〜1600発)で、部分的な凝固は推奨されない3。

凝固の設定の例(ICO)2

項目 設定
網膜上の凝固斑の大きさ 500 µm
照射時間 0.05〜0.1秒(資源の多い施設では0.02〜0.03秒も)
強さ 淡い白色の反応
間隔 1発分あける(重いでは0.5〜0.75発分)
範囲 乳頭から500 µm 以上、黄斑の中心から3000 µm 以上離し、から以遠まで
回数 1〜3回に分ける
波長 緑または黄(があれば赤も)

治療前に説明すること2

  • 何度も受診が要り、追加の凝固が必要になることがある。
  • 凝固はと失明の危険を減らす。
  • 凝固してもは起こりうる。それはレーザーではなく糖尿病によるもので、追加の凝固が要るという意味でもある。
  • と夜間の見え方が落ちることが多く、が中等度に落ちることもある。
  • 従来の100 ms の照射はと関連し、20〜30 ms の短い照射のほうがこれを起こしにくい。

⚠️ はを悪化させうる。中心を含むを合併していれば、最初の治療でを併用することを考える。ただし高リスクでは凝固を遅らせない3。

抗VEGF薬の硝子体内注射

効果

指標 効果
進行を止める 約90%
視力が改善する 約40%

の2つの第3相試験(RIDE・RISE)を合わせた解析では、ETDRS の文字数で見た視力の平均の変化は次のとおりだった。

群 24か月 36か月
0.3 mg +11.7文字 +12.4文字
0.5 mg +12.0文字 +11.2文字
+2.5文字 +4.5文字(24か月以降はへ切り替え)

💡 視力の改善は注射開始後7日目から始まり、1年ほどでほぼ頭打ちになって3年まで保たれた。の群は24か月以降にへ切り替えても、早くから治療した群に追いつかなかった。治療の開始が遅れた分は取り戻しにくいことを示している。

薬の種類

薬 構造と標的 要点
VEGF-A に対する抗体の Fab 断片 RIDE・RISE で視力を速やかに持続的に改善した
VEGF-A・VEGF-B・胎盤に結合する融合タンパク 2 mg に加え、高用量の8 mg は12〜16週ごとまで間隔を延ばせる
VEGF-A に対する完全な抗体 眼科ではだが安価。資源の少ない国で重要な選択肢
VEGF-A に対する 乾燥させる効果は強いが、との報告がある
VEGF とアンジオポエチン2の両方に結合する 最長16週ごとまで間隔を延ばせる

構造と標的は米国眼科学会の整理による3。に使われるのは(適応外)、、(2 mg・8 mg)、、の5剤である1。

黄斑浮腫での使い方

状況 推奨
中心を含み、視力が落ちている ⭐ が第一選択1
中心を含むが視力が良い(20/25以上) 経過を見て、視力が落ちたらを始めても、2年の視力は即時に始めた場合と同じ1。待つ間は2〜4か月ごとに診る3
中心を含まない 中心に及ぶまで経過観察するか、中心を脅かす漏れに局所2
のあとも残る浮腫 黄斑のかステロイド1
牽引がある(・) が適応になりうる()

注射の頻度:従来は「2〜3か月ごとに繰り返す」と整理されていた。現行の知見では、と2 mg は最初の12か月は4〜8週ごとの注射が要り、その後は回数が減る。新しいと8 mg は、最長16週ごとまで間隔を延ばせる1。

投与の組み立てには2つの型がある。

型 進め方
(の方式) 最初の4〜6か月は毎月注射し、視力が20/20になるか浮腫が消えるか、改善が止まれば休む。悪化すれば再開する。注射不要の受診が続けば間隔を倍にして最長4か月まで延ばす
トリート・アンド・エクステンド法 毎回注射し、反応が良ければ次の受診までの間隔を少しずつ延ばし、悪化すれば縮める

どちらも毎月投与と同等の視力と、少ない注射回数を目指す方式である3。

治療を決めた臨床試験

米国の臨床研究ネットワークの一連の試験が、現在の治療の土台になっている。

試験 問い 結果
Protocol I との組み合わせ に即時または遅延のを加える方法が、単独や併用より良い。即時のにの利益はない
Protocol T 3剤の直接比較() 視力20/40以上では差がない。20/50以下では2年の改善が18.3・13.3・16.1文字で、有意差はとの間だけ
Protocol V 視力の良い(20/25以上)中心性浮腫 即時、+悪化時、経過観察+悪化時の3つで2年の視力に差がなく、平均視力は20/20
Protocol AC 安いから始めてよいか(視力20/50〜20/320) で始め必要なら切り替えても2年の視力は同等。ただし70%がへ切り替えた
Protocol S にかか は2年でに。の欠損は2年では少ないが5年では差がない。の悪化は少ない
Protocol W 中等症〜重症 NPDR に予防的に注射するか で2年のまたはを伴う中心性浮腫が16.3%対43.5%に減ったが、視力には差がない
Protocol AB にかか 24週の視力に差はない。出血が消えるまでは手術4週、36週

いずれも米国眼科学会の整理による3。

💡 Protocol W の教訓:NPDR に注射するとの悪化は減るが、2年で視力は良くならない。そのため、非への予防的なは広くは行われていない1。

増殖網膜症での抗VEGF薬と汎網膜光凝固の比較

観点
治療回数 1〜2回(数回に分けても短期間で終わる) 繰り返しの注射と受診が要る
効果の持続 長く続く 注射をやめるとしうる
狭くなる 2年では欠損が少ない
悪化させうる 浮腫も同時に治る
視力の改善 中等度(主に悪化を防ぐ) 大きく改善しうる
通院が途切れたとき 効果が残る 視力と網膜の転帰が悪い

⚠️ 通院の確実さがの鍵である。で治療中のの患者は4年で22%が受診を中断し、長く途切れた人は視力が悪かった3。通院が不確実な人にはを選ぶ。ADA も、は予定どおりの受診を要し、意図しない中断で視力と網膜の転帰が悪くなると述べている1。

注射の手技と合併症

  • とのもとで、から3.5〜4 mm 後方の耳下側からに注射する2。
  • による消毒を行う。抗菌薬の点眼を注射の前後に常用しない(を減らさず、耐性菌を増やす)3。
  • 最も重い合併症は感染性で、では0.019〜0.09%3(、)。、、持続するはまれである。

⚠️ 注射後に痛み・充血・が強まればを疑い、すぐに受診させる。

ステロイドの硝子体内投与

炎症もに関わるので、ステロイドも浮腫を減らす。

薬 特徴 主な副作用
の (後の眼)ではとの併用でに近い視力の改善。を含む比較では、2年の視力は黄斑ののほうが良かった の半数が2年以内にを要し、約30%でが10 mmHg を超えて上がった
の 3年で4〜5回の投与 の関連の有害事象67.9%(20.4%)、約3分の1がの治療を要した
の 1本で長く効く(3年で75%が1本のみ) の80.0%(27.3%)、緑内障手術4.8%(0.5%)

数値は米国眼科学会の整理による3。

  • ステロイドはとが多いので、主に第二選択、とくにでは後回しにする3。で残る浮腫や、の対象にならない眼に使う1。
  • 妊娠などでを避けたい人では、とステロイドが第一選択になりうる1。
  • 点眼や眼周囲注射のステロイドには明らかな効果がない3。ステロイドの副作用は眼科の薬理で扱う。

重症例の手術:硝子体手術

から、カッター(を切って吸う器具)と照明用のを眼内に入れ、濁ったと出血を取り除く。手術中の眼底では、からに沿って白いが張り、網膜を引き上げている。器具でこの膜を網膜から剥がして切り、牽引を外す。

適応(ICO)2

適応 補足
自然に消えない重い 1〜3か月以上続くもの。未治療で進んだが多い資源の少ない国では、4〜6週で手術を考えてよい
広いのあとも活動性の からのを繰り返す、が機械的に牽引されている
最近起きた黄斑の を脅かす、または進行して黄斑にかかる剥離
との合併した —
牽引による、黄斑にかかる を含む

米国眼科学会も、はやでも活動性が残る例や薬で扱えない例に行うとし、典型的な適応に消えない・黄斑に及ぶか黄斑を脅かす・との合併した・黄斑前の濃い網膜前(下)出血を挙げる。に対しては、発症から1〜6か月以内の手術のほうが1年後の手術より成績が良かった(研究)。を経過観察する間は、を繰り返してや・が隠れていないか確かめる3。

💡 では、の注射とで24週の視力は同じだが、手術のほうが出血は早く消える(Protocol AB)3。早く見えるようになる必要性、反対眼の状態、牽引の有無で選ぶ。

⚠️ 重いでは、の注射のあとにが線維化して縮み、牽引が強まってが進むことがある。ただし Protocol S では、の頻度にとの有意差はなかった3。

特別な状況

妊娠

  • 妊娠中はが進みやすい。重いや中心を含むにはでを防げる1。
  • は、胎児の血管への理論的な危険があるため、利益が危険を上回り明確な適応があるときに限る1。
  • は、妊娠初期に HbA1c が高い人の急速な血糖改善の禁忌ではなく、経腟分娩の禁忌でもない2。

白内障手術

はのあとに速く進む。ICO はの程度で次のように分けている2。

の程度 方針
軽度 を評価する。視力が落ちておらず眼底がよく見えれば手術は要らないことがある
中等度 重症 NPDR はで、はかで治療し、安定させてから手術する
高度で眼底が見えない 早めに手術し、術後に評価・治療する。があれば術前・術中・術後にを考える

遠隔医療による早期診断

重い合併症を防ぐには、早く見つけることが要る。撮影拠点(眼科以外の場所にを置く)で撮った写真を、センターへ送って判定する。遠隔のや、米国 FDA が承認した AI による判定も、スクリーニングの方法として適切とされる。ただし所見があれば対面の精密検査へつなぐ仕組みが要る1。ハンガリーでの試みは失明の原因とスクリーニング・予防で扱う。

治療の比較

治療 回数と持続 効果 向く人
全身の管理 生涯続ける 発症と進行を抑える土台 すべての患者
網膜光凝固 1〜2回で済む。効果が長く続く 中等度(主に悪化を防ぐ) 通院の継続が難しい人、
() 繰り返す必要がある(従来は2〜3か月ごと、現在は薬と反応で4〜16週ごと) 視力が大きく改善しうる 中心を含む、通院が確実な
1回(必要なら追加) 出血と牽引を取り除く 重症例(消えない、)

まとめ

  • 治療の土台は血糖・血圧・脂質の管理で、内科医・眼科医・患者の協力で行う。DCCT ではでの進行が76%()・54%(二次介入)減った。
  • ⚠️ 急な血糖の改善はを一過性に悪化させうる。収縮期120 mmHg 未満の厳格なにの利益はない。とスタチンはに有利。は禁忌ではない。
  • ⭐ 中心を含み視力の落ちたの第一選択は。黄斑のとステロイドは第二選択(残る浮腫、の対象にならない眼)。視力20/25以上なら経過観察して悪化時に始めてよい(Protocol V)。
  • 視力20/50以下のではがより視力が良い(Protocol T)。
  • ⭐ 高リスクには速やかに。4項目(・乳頭の・中等度以上の・)のうち3つで高リスク。完全な凝固(1200〜1600発)を行う。
  • はでにだが、通院が途切れると転帰が悪い。通院が不確実な人には。
  • はと夜間視力を犠牲にし、を悪化させうる。
  • ステロイドはとが多い。の注射の最大の合併症は(0.019〜0.09%)。
  • は消えない、活動性の増殖、黄斑の、牽引によるに。
  • 妊娠中はを優先し、は明確な適応があるときに限る。の前にとを安定させる。

出典

  1. 1.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC全文(PMC12690177)で確認した。推奨12.10が汎網膜光凝固を高リスク増殖網膜症と一部の重症非増殖網膜症に、12.11が抗VEGF硝子体内注射を一部の増殖網膜症で従来の汎網膜光凝固の妥当な代替とし、12.12が中心窩を含み視力を損なう黄斑浮腫の大半の眼で抗VEGFを第一選択、12.13が抗VEGF後も残る浮腫や抗VEGFの対象にならない眼に黄斑の局所・格子状光凝固とステロイド硝子体内注射を妥当とし、12.14が網膜症はアスピリンの禁忌ではないとすること。糖尿病網膜症研究で汎網膜光凝固が重い視力低下を15.9%から6.4%に減らしたこと、黄斑の局所・格子状光凝固が現在は第二選択とされること、抗VEGFが2年で汎網膜光凝固に非劣性または優越し、周辺視野の欠損・硝子体手術・黄斑浮腫の発症が少ない一方で受診と治療の回数が多く、中断例は転帰が悪いこと、非増殖網膜症への抗VEGFは新生血管と黄斑浮腫を減らすが2年で視力を改善せず広くは使われていないこと、黄斑浮腫に使う抗VEGFがベバシズマブ(適応外)・ラニビズマブ・アフリベルセプト(2 mgと8 mg)・ブロルシズマブ・ファリシマブの5剤で、ラニビズマブとアフリベルセプトは最初の12か月に4〜8週ごとの注射が要り、ファリシマブとアフリベルセプト8 mgは最長16週ごとまで延ばせること、視力20/25以上の黄斑浮腫では悪化時に始めても2年の視力は即時開始と同等であること、視力20/50以下ではアフリベルセプトがベバシズマブより良いこと。降圧で網膜症の進行が減るが収縮期120 mmHg未満の厳格な目標は上乗せの利益がないこと、脂質異常症ではフェノフィブラートの追加で進行が遅くなりうること、スタチンで黄斑浮腫と増殖網膜症が減ること。妊娠中の抗VEGFは利益が危険を上回り明確な適応があるときに限ること。閲覧 2026-09-29
  2. 2.ICO Guidelines for Diabetic Eye Care(International Council of Ophthalmology・2017)2017年1月版の本文PDF(Wayback Machineの保存版)で確認した。HbA1cが7.5%(58 mmol/mol)を超えれば血糖管理を改善すること、汎網膜光凝固の前の説明(受診と追加の凝固が要りうる、凝固後も硝子体出血は起こりうるがそれは糖尿病による、周辺視野と夜間視力が落ちうる、中心視力が中等度に落ちうる、20〜30 msの短いパルスは100 msより視力低下を起こしにくい)、凝固の設定(網膜上500 µm、0.05〜0.1秒、淡い白色、1発分の間隔、乳頭から500 µm以上・中心から3000 µm以上離し、アーケードから赤道部以遠まで、1〜3回)、硝子体手術の適応(1〜3か月以上消えない重い硝子体出血、広い凝固後も活動性の増殖、最近起きた黄斑の牽引性剥離、牽引性と裂孔原性の合併した網膜剥離、牽引による黄斑浮腫や黄斑にかかる網膜前膜)、硝子体内注射は角膜輪部から3.5〜4 mm後方の耳下側に点眼麻酔と無菌操作で行うこと、偽水晶体眼ではトリアムシノロン硝子体内注射も考えうること、妊娠では網膜症は急速な血糖改善や経腟分娩の禁忌ではないこと、白内障の程度に応じた網膜症の管理の原則。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2024)本文PDFで確認した。高リスク増殖網膜症を新生血管・乳頭上または近傍の新生血管・中等度以上の新生血管・硝子体または網膜前出血の4項目のうち3つで定義し、多くは速やかに汎網膜光凝固を行うこと、ETDRSの完全な汎網膜光凝固が1200〜1600発で部分的な凝固は推奨しないこと、2型糖尿病では早期の汎網膜光凝固で重い視力低下または硝子体手術が2.5%対5%に半減したこと。Protocol Sでラニビズマブが2年で汎網膜光凝固に非劣性で、周辺視野欠損は2年では少ないが5年では差がなかったこと、抗VEGF治療中に長く受診が途切れると視力が悪く、4年で22%が受診を中断したこと、Protocol ABで硝子体出血にアフリベルセプトと硝子体手術の24週の視力に差がなく出血の消退は手術4週・アフリベルセプト36週だったこと。Protocol Tで視力20/40以上では3剤に差がなく、20/50以下では2年の視力改善がアフリベルセプト18.3・ベバシズマブ13.3・ラニビズマブ16.1文字でアフリベルセプトとベバシズマブの間だけ有意だったこと、Protocol Iで抗VEGFに即時または遅延の光凝固を併用すると光凝固単独やトリアムシノロン併用より良かったこと、Protocol Vで視力20/25以上では3戦略に差がなく2年の平均視力が20/20だったこと、Protocol ACでベバシズマブから始めても2年の視力は同等で70%がアフリベルセプトへ切り替えたこと、Protocol Wでアフリベルセプトが2年の増殖網膜症または視力低下を伴う中心性浮腫を16.3%対43.5%に減らしたが視力に差がなかったこと。トリアムシノロン硝子体内注射は2年の視力で黄斑の光凝固に劣り、有水晶体眼の半数が2年以内に白内障手術を受け約30%で眼圧が10 mmHg超上昇したこと。硝子体手術の典型的な適応(消えない硝子体出血、黄斑に及ぶか脅かす牽引性網膜剥離、牽引性・裂孔原性の合併網膜剥離、黄斑前の濃い網膜前出血)、硝子体出血では発症1〜6か月以内の手術が1年後より良かったこと、経過観察中は超音波検査を繰り返すこと、抗VEGF後に牽引が生じ・進みうるがProtocol Sでは牽引性網膜剥離の頻度に有意差がなかったこと。ステロイドは白内障と眼圧上昇が多く主に第二選択であること(デキサメタゾンインプラントで白内障関連の有害事象67.9%対20.4%、約3分の1が眼圧治療を要した。フルオシノロンインプラントで白内障手術80.0%対27.3%、緑内障手術4.8%対0.5%)。硝子体内注射の眼内炎は0.019〜0.09%で、ポビドンヨードを使い抗菌薬点眼を常用しないこと。各抗VEGF薬の標的(アフリベルセプトはVEGF-A・VEGF-B・胎盤増殖因子、ファリシマブはVEGFとアンジオポエチン2)とブロルシズマブの眼内炎症・網膜血管炎。閲覧 2026-09-29