眼科学

眼科学 · ML-41

糖尿病の眼合併症

Ocular complications of diabetes mellitus

前提:病態
糖尿病の細小血管合併症
前提:正常
感覚器:眼
症状
眼瞼黄色腫

🧠 全体像:糖尿病は眼のほぼすべての部位を傷めるが、視力を奪う主役は網膜のである。持続する高血糖で毛細血管の壁が壊れると、「漏れる」と(どの病期でも起こる、の最大の原因)、「詰まる」と → VEGF → (、・・で失明)になる。どちらも見えているうちは症状が無いので、糖尿病と診断されたら症状の有無にかかわらず決まった間隔でを受け続けることが失明を防ぐ唯一の方法である。分類は「の病期」と「の有無と中心への広がり」の2本の軸で行う。

治療(血糖・、、、ステロイド、)はの治療で扱う。スクリーニングをの視点から見た整理は失明の原因とスクリーニング・予防、疾患としてのまとめはにある。

糖尿病が眼に起こすもの

糖尿病のは、網膜だけではない。眼瞼から脳神経まで、次のように並べると見落としにくい。

・付属器・眼窩・脳神経
眼瞼炎、、 と()
の
眼窩 乳頭症
(・・) ()
、、性角膜潰瘍
へのの散布
・隅角ルベオーシス、
の低下
屈折の変動(一過性の・化)
(雪片状)

前眼部と付属器

合併症 何が起こるか・所見
両側の上眼瞼の内側に、やや隆起した黄色の扁平な斑を認める。を伴いやすい
・眼瞼炎 眼瞼縁に赤く腫れた有痛性の結節ができる。高血糖で感染に弱くなり、繰り返しやすい(眼瞼の病気は眼瞼の疾患)
角膜の障害 角膜の神経が障害され(糖尿病性の末梢神経障害の一部)、知覚が落ちてになり、傷が治りにくい。重いとの潰瘍になり、角膜全体が灰白色にし周囲のが充血する()
の色素 のから色素が遊離してや隅角に散る
・隅角ルベオーシス で出た VEGF がに届き、の表面と隅角に細い不規則なが伸びる。進むとになる(緑内障 II)
の低下 同年代より早く近くが見えにくくなる
屈折の変動 血糖値の変動での水分量が変わり、屈折がずれる。一過性のと化のどちらも起こりうる。血糖が落ち着くまでの処方を待つ
若年で血糖が非常に高いと、の皮質に白い雪片状のが両眼に散らばって急に出る(雪片状)。成人では加齢が早く多く起こる(の疾患と)

💡 緑内障とは、糖尿病のある人で早く、多く起こる1。のあとはが速く進むので、手術の前にとを評価し、できれば安定させてから手術する2(の治療)。

眼窩と脳神経

合併症 要点
眼窩 などの重い高血糖で、鼻・副鼻腔から眼窩・頭蓋内へ急速に広がる真菌感染。鼻腔や口蓋の黒い壊死が手がかりで、救急の治療が要る()
神経を養う細い血管の閉塞で、・・が麻痺し、急にが出る

の原因は、神経ごとに次のように整理できる。どの神経でも血管性(糖尿病・高血圧による虚血)と腫瘍が共通の原因である。

⚠️ 糖尿病の患者の動眼神経麻痺でも、瞳孔がしていれば動脈瘤による圧迫を否定するまで緊急として扱う。虚血性の麻痺では瞳孔が保たれやすいが、圧迫ではが先に障害される(と)。

視神経と色覚

疫学:なぜ糖尿病網膜症が重要か

糖尿病の爆発的な増加

2010年の国際糖尿病の推計では、世界の糖尿病患者は2007年に2億4,600万人で、2025年には3億8,000万人に増えると予測されていた。ハンガリーの患者はおよそ200万人である。地域ごとの2000年のと2030年の予測は次のとおりで、先進地域より途上地域の伸びがはるかに大きい。

地域 2000年(百万人) 2030年の予測(百万人) 増加率
米国・カナダ 19.7 33.9 72%
欧州 28.3 37.4 32%
中東 20.0 52.8 164%
インド 31.7 79.4 150%
中国 20.7 42.3 104%
東南アジア 22.3 58.1 161%
サハラ以南アフリカ 7.1 18.6 162%
中南米・カリブ海 13.3 33.0 148%
オーストラリア 0.9 1.7 89%

いずれも過去の予測値であり、現在のを示すものではない。

失明の原因としての糖尿病網膜症

  • 世界では、全失明の4.8%が糖尿病によるとされた(WHO 2005年)。
  • ハンガリーでは、働く世代の失明原因の第1位である(2006年の報告)。
  • 高所得国では、は20〜74歳の成人の新規失明の最も多い原因である1。

ハンガリーの失明原因の割合(%)の推移は、グラフから読み取ると次のようになる(概数)。

原因 1976〜1983年 1982〜1990年 1996〜2000年 傾向
黄斑変性 約23 約22 約27 首位のまま増える
約9 約12 約16 一貫して増える
緑内障 約11 約11.5 約13.5 やや増える
約18 約20 約10 減る
約22 約13 約7 大きく減る(手術の普及)
約8 約6 約5 減る

💡 は手術で治せるので失明原因から退き、治しにくく慢性に進む黄斑変性との比重が上がる。の進んだ眼では、眼底に多数の小さな円形の斑が散らばり、OCT ではに大きなの腔が並ぶを認める。

病態:3つの柱

は、3つの過程が重なって進む。

過程 内容
虚血・再灌流 血管収縮と毛細血管の閉塞で網膜が低酸素になり、VEGF が増える
炎症 白血球が網膜の血管内皮に接着し、炎症物質がを壊す
血管の変化に先立って、網膜の神経細胞とが傷む

持続する高血糖から黄斑浮腫・牽引まで

持続する高血糖は、複数の経路で VEGF の増加との破綻に集まる。

flowchart TD
    A["持続する高血糖"] --> B["DAG の増加"]
    A --> C["ヒスタミンの増加<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal vessel'>網膜血管</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='histamine receptor'>ヒスタミン受容体</span>"]
    A --> D["最終<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycation'>糖化</span>産物 AGEs の増加"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin system'>レニン・アンジオテンシン系</span>の活性化"]
    A --> F["過酸化脂質・NADH/NAD+比・NO の増加<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antioxidant enzymes'>抗酸化酵素</span>の変化"]
    A --> G["網膜の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytokeratin'>サイトケラチン</span>と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='glial fibrillary acidic protein (GFAP)'>グリア線維性酸性タンパク</span>の蓄積"]
    A --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>の不安定化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen cross-linking'>コラーゲン架橋</span>の異常<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='matrix metalloproteinase, MMP'>マトリックスメタロプロテアーゼ</span>の活性上昇"]
    B --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein kinase'>プロテインキナーゼ</span>Cの活性化"]
    C --> I
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelin'>エンドセリン</span>の増加"]
    D --> J
    F --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>による障害"]
    K --> J
    J --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericyte'>周皮細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelin'>エンドセリン</span>受容体"]
    I --> M["血管収縮"]
    L --> M
    M --> N["低酸素"]
    N --> O["IL-6 の増加"]
    O --> P["VEGF の増加"]
    E --> Q["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin'>アンジオテンシン</span>IIの増加"]
    Q --> P
    K --> P
    G --> P
    P --> R["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tight junctions'>タイトジャンクション</span>のタンパクのリン酸化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood-retina barrier'>血液網膜関門</span>の破綻"]
    R --> S["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span>"]
    G --> T["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreomacular traction'>硝子体黄斑牽引</span>"]
    H --> T
    T --> S

💡 流れの合流点は VEGF である。だから治療の中心はになる。もう一つの出口がによる牽引で、これは薬では外せないので、牽引が強ければが要る。

炎症と黄斑浮腫

flowchart TD
    A["糖尿病"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adhesion molecules'>接着分子</span>の増加<br>ICAM-1・VCAM-1"]
    B --> C["白血球が網膜の血管内皮に接着"]
    C --> D["炎症物質の放出<br>VEGF・TNF-α・アンジオポエチン2"]
    C --> E["白血球のうっ滞"]
    D --> F["内皮細胞の接合の破綻<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericyte'>周皮細胞</span>の消失<br>無細胞毛細血管"]
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood-retina barrier'>血液網膜関門</span>の変化"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic macular edema, DME'>糖尿病黄斑浮腫</span>"]

💡 炎症が関わるので、が効きにくいにはステロイドのも効く。が失われると毛細血管の壁が袋状に膨らみ、これが最初の所見であるになる。

網膜の所見

正常な眼底では、から・静脈が出て細動脈・に分かれ、耳側に黄斑とその中心のがある。では、ここに次の所見が加わる。

所見 何を意味するか
を失った毛細血管の壁が膨らんだ赤い点。最も早い所見
(点状・しみ状・炎状) 壊れた毛細血管からの出血
漏れた血漿の脂質が沈着した黄白色の斑。浮腫の跡でもある
細動脈の閉塞でのが止まった白い綿状の斑。虚血の印
静脈の拡張 静脈の太さが拡張と狭窄を繰り返す。虚血の進行の印
無の周りで網膜内に拡張・短絡した異常血管。の一歩手前
(乳頭上・網膜上) 網膜の表面からへ向かって伸びる脆い血管。の定義

💡 静脈の拡張とは、どちらもが近いことを告げる所見である。5万眼を超える研究では、のある眼は静脈の拡張のある眼より、5年以内にになる危険が高かった(1.77)3。

分類 1:網膜症の病期

⭐ 国際臨床は、下のだけでを5段階に分ける。

病期 所見 旧来の呼び名
なし 異常なし —
軽症 NPDR のみ 前
中等症 NPDR が多く、出血が加わる。重症の基準には満たない
重症 NPDR 4-2-1則のいずれか1つ(下記)。増殖の所見は無い 前
、または・(どちらか、または両方) —

重症 NPDR の4-2-1則(国際定義)

数字 基準
4 4すべてで、それぞれ20個を超える
2 2以上で明らかな静脈の拡張
1 1以上で明らかな
  • 重症 NPDR の基準は、ICO と米国眼科学会の国際定義で上のとおりである23。
  • 2つ以上そろえば最重症の NPDR とする3。
  • 2番目の基準を「静脈の屈曲」とする整理もあるが、国際分類の基準は静脈の拡張(太さの不整)であって、や屈曲ではない。
  • 米国の定義は ETDRS の標準写真と比べて出血の程度を判定する(「重い出血とが4」)3。国際分類は、標準写真との照合を要する ETDRS の細かい段階分けを一般のが使える形にまとめたもので、ETDRS を置き換えるものではない。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>なし"] --> B["軽症 NPDR<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='microaneurysm'>毛細血管瘤</span>のみ"]
    B --> C["中等症 NPDR<br>出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hard exudates'>硬性白斑</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cotton-wool spot'>軟性白斑</span>が加わる"]
    C --> D["重症 NPDR<br>4-2-1則のいずれか"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative diabetic retinopathy, PDR'>増殖糖尿病網膜症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascularization (new vessels)'>新生血管</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous hemorrhage'>硝子体出血</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous hemorrhage'>硝子体出血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tractional retinal detachment'>牽引性網膜剥離</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascular glaucoma'>血管新生緑内障</span>"]
    A -.-> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic macular edema, DME'>糖尿病黄斑浮腫</span><br>どの病期でも起こりうる"]
    C -.-> G
    E -.-> G

自然経過と進行の危険

進行は直線的ではなく、が大きい。非の重症度ごとに、高リスクへ進む割合は次のように示されている。

非の重症度 1年で進行 5年で進行
軽症 1% 15%
中等症 3% 27%
重症 15% 56%
最重症 45% 71%

💡 重症 NPDR になると1年で15%、最重症では45%が高リスクになる。だから重症 NPDR は3か月未満の間隔で診て、を早めに考える段階である。病期を正しく決めることが、次の受診日と治療の開始時期を決める。

を並べると、正常な眼底から、に点状の出血とが散らばる眼底へ、さらに黄斑の周りに黄白色のが集まり出血が増える眼底へと進む。

進行の危険因子

危険因子 補足
不良 最も重要。HbA1c が高いほど進む
腎疾患 腎症とは並行して進む
高血圧 で進行が遅くなる
とに関わる
貧血 網膜の低酸素を強める
妊娠 妊娠中に急速に進みうる(下記)
—
の表れで、血糖が不安定になる
肥満 —

ADA も、に加えて慢性高血糖・腎症・高血圧・をの危険因子に挙げ、血糖・血圧・脂質の管理での発症と進行を抑えるよう推奨している1。

⚠️ 急に血糖を下げるとが一過性に悪化しうる。インスリンや GLP-1 受容体作動薬で HbA1c を速く下げるときは、の状態を確かめておく1。

糖尿病網膜症の理解を作った大規模研究

期間 研究 何を明らかにしたか
1971〜1975年 研究 DRS に対するの効果
1979〜1990年 ETDRS 重症度の段階分け、、への局所・状
1979〜1990年 研究 DRVS に対する早期の
1980〜1995年 ウィスコンシン疫学研究 WESDR のと発症・進行の疫学
1983〜1993年 糖尿病の管理と合併症の試験 DCCT 1型糖尿病でがを減らすこと

分類 2:糖尿病黄斑浮腫

は、の病期とは別の軸で評価する。どの病期にも起こり、独自の経過をたどる2。

臨床的に有意な黄斑浮腫(ETDRS の定義)

の時代に治療の目安として作られた定義で、次のどれか1つを満たすもの3。

基準 内容
① の中心から 500 µm 以内の網膜肥厚
② 中心から 500 µm 以内ので、隣接する網膜が肥厚しているもの
③ 1乳頭面積以上の肥厚域の一部が、中心から 1以内にあるもの

眼底の模式では、を中心とした半径 500 µm の円の縁にの小さな集まりがかかり、その隣に肥厚した網膜の領域がある形で示される。

現在の分類:中心を含むかどうか

⭐ 現在は OCT で網膜厚を測り、浮腫が(中心の直径1 mm の領域)に及ぶかどうかで分ける2。

分類 所見 意味
なし 黄斑に網膜肥厚ももない —
中心を含まない浮腫 肥厚が黄斑にあるが、中心の1 mm には及ばない 経過観察か局所の
中心を含む浮腫 肥厚が中心の1 mm に及ぶ の対象になりうる

💡 中心に及ぶかどうかが治療法の選択を決める。中心を含む浮腫は視力に直結し、が第一選択になる。中心を含まない浮腫は、中心へ広がらないか見張りながら経過をみるか、漏れの部位に局所のを行う(治療の詳細はの治療)。

OCT の断面では、を含めて広い範囲の網膜が厚くなり網膜の表面が盛り上がる浮腫と、の陥凹は保たれたまま傍に反射の強い沈着と嚢胞が集まる浮腫を比べられる。

は、今あるか過去にあった浮腫の印である。浮腫そのものは網膜の肥厚であり、立体的な評価(下の、立体、OCT)が要る2。

黄斑浮腫は全身の血管病の窓

米国の保険請求データで、のある患者(4,916人)とない患者(24,844人)の3年間の合併症の頻度を比べた研究では、のある群で次のすべてが有意に多かった(p<0.001)。

合併症 あり なし
心筋梗塞 5.4% 3.0%
脳卒中 4.2% 1.6%
11.9% 4.2%
11.7% 4.5%
14.6% 7.5%
1.4% 0.2%
腎疾患 22.0% 4.9%

💡 のある人は、腎・心・脳・下肢の血管もすでに傷んでいることが多い。眼科医は内科・腎臓内科へ所見を伝え、全身の管理につなげる。

スクリーニング

なぜ、誰に行うか

⭐ 視力を脅かす(と)があっても無症状のことがある。今の治療はを防ぐだけでなく改善もできるので、症状が出る前に見つけて治療へ振り分けるのがスクリーニングの目的である1。

検査の時期:従来の整理と現行の指針

従来の整理(1型は診断から5年以内・思春期前は不要、2型は診断時すぐ、妊娠は計画時か妊娠初期から1〜3か月ごと)と現行の違いは、この節の最後の対比表にまとめる。

現行の指針(ADA 2026)は次のとおりである(成人と妊娠は第12章1、小児・思春期は第14章4)。

対象 初回の眼科検査 以後
1型糖尿病(成人) 発症から5年後 年1回以上の検査でが無く、血糖指標が目標域なら1〜2年ごとも考慮してよい。があれば少なくとも年1回、進行性・視力を脅かすではより頻回
2型糖尿病 診断時 1型と共通(上の行)
1型糖尿病(小児・思春期) 罹病3〜5年を経て、11歳以上または思春期開始のいずれか早い時点 2年ごと。危険因子の評価(HbA1c 8%未満の既往など)により4年ごとも可
2型糖尿病(小児・思春期) 診断時または診断後まもなく 毎年
妊娠前からの1型・2型糖尿病 妊娠前と妊娠初期 の程度に応じて各三半期ごと、産後1年まで
妊娠中の眼科検査は不要 —
  • 1型で5年後からでよいのは、高血糖が始まってからができるまで少なくとも5年かかると考えられているためである1。
  • 2型は、診断されるまでに何年も気づかれない高血糖が続いていることがあり、診断の時点で約30%に何らかのがある3。だから診断と同時に眼底を診る。
  • 小児・思春期の1型・2型糖尿病もの危険があり、スクリーニングの対象である1。米国眼科学会も、思春期の患者では進行の危険が高いので警戒を強めるとしている3。従来の「思春期前は不要」は、ADA の小児の推奨(罹病3〜5年を経て、11歳以上または思春期開始の早いほうで初回)とおおむね重なる4。
  • 妊娠中の間隔は指針によって細部が違う。米国眼科学会は妊娠成立後早期(第1三半期)に初回を行い、なし〜中等症 NPDR は3〜12か月ごと、重症 NPDR 以上は1〜3か月ごととする3。ICO は初回の妊婦健診のあとに評価し、正常なら28週に再評価、があれば16〜20週にも追加する2。従来の「一律1〜3か月ごと」は、重症 NPDR 以上に当たる間隔である。

従来の整理と現行(ADA 2026)の対比

項目 従来の整理 現行(ADA 2026) 変わった点
1型の初回 診断から5年以内(思春期前は不要) 成人は発症から5年後1。小児・思春期は罹病3〜5年を経て11歳以上または思春期開始の早いほう4 ほぼ同じ。小児の開始条件が具体的になった
2型の初回 診断時すぐ 診断時(小児・思春期も診断時か診断後まもなく) 同じ
なしの再検査 12か月ごと が無く血糖指標が目標域なら1〜2年ごとも可 安定した人では間隔を広げてよい
ありの再検査 重症度に応じて4週〜3か月ごと 少なくとも年1回、進行性・視力を脅かすではより頻回(中等症以上・は眼科へ紹介) 重症度に応じて詰める考え方は同じ
妊娠前からの糖尿病 計画時か妊娠初期、以後1〜3か月ごと 妊娠前と妊娠初期、以後はの程度に応じて各三半期と産後1年まで 一律ではなくの程度で決める
区別されていない 妊娠中の眼科検査は不要 対象から外れる

💡 従来の「が無ければ毎年」との違いは、が無く血糖が安定した人では1〜2年ごとまで広げてよいという点である。ただし血糖が目標に届かない人、やがある人では、むしろ間隔を縮める。

⚠️ 妊娠はを急に進める。とくに妊娠時点でが悪い人やが進んでいる人で危険が高い1。

所見に応じた再検査と紹介の目安

ICO は、の病期との分類に応じた再検査の間隔と眼科への紹介を、医療資源の多い国と少ない国で分けて示している(血糖が管理されている場合)2。

所見 再検査(資源の多い国) 再検査(資源の少ない・中程度の国) 眼科への紹介
なし 1〜2年 1〜2年 不要
軽症 NPDR 6〜12か月 1〜2年 不要
中等症 NPDR 3〜6か月 6〜12か月 要
重症 NPDR 3か月未満 3か月未満 要
1か月未満 1か月未満 要
中心を含まない 3か月 3か月 要(資源の少ない国では、ができれば推奨)
中心を含む 1か月 1か月 要

ADA も、程度を問わず、中等症以上の NPDR、あらゆるは、の治療に通じた眼科医へ速やかに紹介するとしている1。

flowchart TD
    A["糖尿病の診断<br>(1型は発症5年後から)"] --> B["視力検査<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilated fundus examination'>散瞳眼底検査</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fundus photograph'>眼底写真</span>"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span>は<br>どの程度か"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinopathy'>網膜症</span>なし・軽症 NPDR<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span>なし"| D["スクリーニングを継続<br>(1〜2年または6〜12か月)"]
    C -->|"中等症以上の NPDR<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span>"| E["眼科へ紹介<br>精密検査と治療の判断"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative diabetic retinopathy, PDR'>増殖糖尿病網膜症</span><br>中心を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span>"| F["1か月以内に眼科<br>治療を急ぐ"]
    C -->|"判定できない<br>説明のつかない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>"| E
  • を遠隔でする方法や、米国 FDA が承認した AI による判定も、適切なスクリーニングの方法とされる。ただし所見があれば対面の精密検査へつなぐ仕組みが要る1。
  • 眼底が十分に評価できない人、説明のつかないがある人は眼科へ紹介する2。

眼科での診察の流れ

問診と診察

項目 内容
全身の病歴 糖尿病の型、、直近の HbA1c、高血圧、(腎疾患、妊娠、治療薬も)
眼の病歴 これまでの眼の病気・治療
視力 ETDRS で測る(字数で細かく評価でき、経過の比較に向く)
と
の病期と

ICO は、初診時にと、のがあるときやが高いときのも含めるとしている2。

細隙灯顕微鏡

  • :眼瞼、角膜、、そして・隅角のルベオーシスが無いか。
  • 眼底の生体:に手持ちの非接触レンズを組み合わせて眼底を立体的に見る。の重症度と、()の有無を判定する。

⚠️ のはする前に確かめる。するとが縮んで細いが見えにくくなる。

OCT

⭐ OCT はを見つける最も感度の高い方法で、網膜厚を数値で示せる2。

用途 内容
の質的・量的評価 断面で網膜内のの腔、びまん性の肥厚、を見る。網膜厚の地図にすると、中心の円(直径1 mm)・内輪・外輪に分けたに色分けの厚さを重ね、厚い部分が赤く出る
の評価 網膜表面の膜やによる牽引が無いか。牽引で網膜表面が引き上げられ、網膜内に嚢胞ができる像を認める
経過観察 治療への反応を網膜厚で追う
研究 病態の解明や新しい指標

💡 牽引による浮腫はでは治らず、の適応になりうる。OCT で牽引の有無を見るのはこのためである。

OCT アンギオグラフィー

造影剤を使わずに、網膜の層ごとの血流を描き出す。

評価項目 での変化
毛細血管の構造 が途切れ、が粗くなる
毛細血管の密度 血流密度が下がり、密度の地図にすると無灌流の暗い領域が斑状に広がる
拡大し、形が不整になる

血流密度の地図にすると、正常眼のが小さく丸いのに対し、糖尿病の眼では域が大きく不整に広がり、周囲にも血流の無い領域が点在する。の眼でも域の拡大と無を認める。層ごとの画像を並べると、・のと、(本来は血管が無い)・の信号の違いが分かる。

蛍光眼底造影

  • と虚血(無)の検出に使う。
  • は造影剤が漏れて後期に強いの塊として広がり、毛細血管が閉塞した領域は暗く抜ける。無との境目にができやすい。
  • ・・の診断には必須ではない。診断はで行い、造影は無・・や黄斑の虚血の評価に使う2。

画像検査の原理は眼球の解剖 II:と・OCT・眼底造影、、を参照。

検査 得意なこと 限界
・ 病期の判定、スクリーニング、記録(写真) 浮腫の厚さは分かりにくい
OCT の有無・範囲・厚さ、牽引 周辺の網膜は見にくい
OCT アンギオグラフィー 毛細血管の密度、 漏れ(蛍光の漏出)は見えない。撮影範囲が狭い
の漏れ、広い無 静脈注射が要る。まれに重い副作用

まとめ

  • 糖尿病は眼瞼・角膜・・・網膜・視神経・脳神経・眼窩のすべてに合併症を起こすが、視力を奪う主役はとである。
  • 病態は虚血・炎症・。経路は VEGF に集まり、の破綻で、虚血でができる。の牽引も浮腫を悪くする。
  • ⭐ は国際分類でなし → 軽症(のみ)→ 中等症 → 重症(4-2-1則:4の出血20個超・2の静脈の拡張・1の)→ 増殖(・)。
  • 重症 NPDR は1年で15%、最重症は45%が高リスクへ進む。
  • は病期と別の軸で、中心(直径1 mm)を含むかどうかが治療を決める。ETDRS の臨床的に有意なは「中心から500 µm」「1乳頭面積・1」の基準。
  • のある人は腎疾患・心血管病・脳血管病・が多い。
  • ⭐ スクリーニングは1型は発症5年後(小児は罹病3〜5年を経て11歳以上か思春期開始から)、2型は診断時、妊娠前からの糖尿病は妊娠前と妊娠初期。以後は年1回が基本で、が無く血糖が安定していれば1〜2年ごとも可(ADA 2026)。は妊娠中の眼科検査は不要。
  • 中等症以上の NPDR・・は眼科へ紹介し、と中心を含む浮腫は1か月以内に診る。
  • 急な血糖の改善と妊娠はを一過性に悪化させうる。
  • 診断は、は OCT、毛細血管の密度は OCT アンギオグラフィー、と無は。は前に確かめる。

出典

  1. 1.12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)PMC全文(PMC12690177)で確認した。推奨12.1・12.2が血糖・血圧・脂質を目標に近づけて網膜症の発症と進行を抑えるとし、解説が網膜症の危険因子として罹病期間・慢性高血糖・腎症・高血圧・脂質異常症を挙げ、緑内障と白内障が糖尿病で早く多く起こると述べること。推奨12.3が1型糖尿病の成人の初回の散瞳総合眼科検査を発症から5年後、12.4が2型糖尿病では診断時とし、12.5が年1回以上の検査で網膜症が無く血糖指標が目標域なら1〜2年ごとを考慮してよい・網膜症があれば少なくとも年1回・進行性または視力を脅かす網膜症ではより頻回とすること。12.6が遠隔読影の眼底写真とFDA承認のAIによるスクリーニングを適切とすること。12.8が妊娠前から1型・2型糖尿病のある人は妊娠前と妊娠初期に眼科検査を受け、網膜症の程度に応じて各三半期と産後1年まで経過観察が要りうるとし、妊娠糖尿病は妊娠中の眼科検査を要しないとすること。12.9が糖尿病黄斑浮腫・中等症以上の非増殖網膜症・増殖網膜症を速やかに眼科へ紹介するとすること。急速なHbA1c低下が網膜症の一過性の悪化と関連すること。閲覧 2026-09-29
  2. 2.ICO Guidelines for Diabetic Eye Care(International Council of Ophthalmology・2017)2017年1月版の本文PDF(Wayback Machineの保存版)で確認した。Table 1が網膜症を5段階(重症非増殖網膜症は各4象限20個以上の網膜内出血・2象限の明らかな静脈の数珠状拡張・1象限の網膜内細小血管異常のいずれか)、黄斑浮腫を浮腫なし・中心を含まない・中心1 mm径の領域を含むの3段階に分けること。Table 2aの高資源国の再検査間隔が網膜症なし1〜2年・軽症6〜12か月・中等症3〜6か月(紹介要)・重症3か月未満・増殖1か月未満、中心を含まない浮腫3か月・中心を含む浮腫1か月であり、Table 2bの低・中資源国では軽症1〜2年・中等症6〜12か月であること。OCTが黄斑浮腫を見つける最も感度の高い方法で、蛍光眼底造影は網膜症・増殖網膜症・黄斑浮腫の診断に必須ではなく無灌流・新生血管・毛細血管瘤の評価に使うこと。妊娠では初回の妊婦健診後と28週(初回正常時)に、網膜症があれば16〜20週にも網膜評価を行うこと。白内障手術後に網膜症が速く進むこと。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2024)本文PDFで確認した。Table 1が重症非増殖網膜症を米国定義(4-2-1則、標準写真による判定)と国際定義(各4象限20個を超える網膜内出血・2象限以上の明らかな静脈の数珠状拡張・1象限以上の顕著な網膜内細小血管異常)で示し、2つ以上そろえば最重症の非増殖網膜症とすること。用語集が臨床的に有意な黄斑浮腫を、中心から500 µm以内の網膜肥厚、隣接網膜の肥厚を伴う中心から500 µm以内の硬性白斑、または1乳頭面積以上の肥厚域の一部が中心から1乳頭径以内にあるもの、と定義すること。Table 2が妊娠中(1型・2型)の初回検査を妊娠成立後早期・第1三半期とし、網膜症なし〜中等症非増殖網膜症は3〜12か月ごと、重症非増殖網膜症以上は1〜3か月ごとに診るとし、思春期の患者では警戒を強めるとすること。2型糖尿病の約30%が診断時に何らかの網膜症をもつこと。閲覧 2026-09-29
  4. 4.14. Children and Adolescents: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)本文(Wayback Machineの保存版)で確認した。推奨14.61が1型糖尿病の小児・思春期では罹病3〜5年を経て、11歳以上または思春期開始のいずれか早いほうで初回の散瞳総合眼科検査を行うとし、14.62が2型糖尿病の小児・思春期では診断時または診断後まもなく検査して以後毎年とし、14.64が1型では初回以降2年ごと(眼科医等の助言と危険因子評価によりHbA1c 8%未満の既往などがあれば4年ごとも可)とすること。閲覧 2026-09-29