症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

動眼神経麻痺

Oculomotor nerve palsy

別名
動眼神経障害第III脳神経麻痺
臓器系
神経眼科
科目
Neurology and NeurosurgeryNeurologyMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
神経内科 03:脳神経の診察(Cranial nerves I〜XII)神経内科 G2-06:中脳障害の症候群神経内科 G1-01:瞳孔支配の障害解剖学 9.2:中枢神経・神経解剖:脳幹
関連疾患
Benedikt症候群Tolosa-Hunt症候群Weber症候群くも膜下出血眼部帯状疱疹脳動脈瘤

🧠 全体像:動眼神経麻痺の診療は、三徴(・眼球の・)をそろえて確認したあとに、瞳孔が巻き込まれているかどうかという1点でを決める作業である。瞳孔を支配するは神経の表層を走り外からの圧迫に弱いため、=圧迫性、瞳孔温存=虚血性という対応がおおむね成り立つ。ただし瞳孔温存を無条件の安全として扱うと部分麻痺の初期を見逃す。責任神経を決める作業は、全体の局在の枠組みはに譲り、このノートは第III脳神経に絞って掘り下げる。

定義と用語の整理

動眼神経麻痺は、・・・・(とを除くの大半)と、・へのが同時に障害された状態である。で開瞼できず、開瞼させると眼球は拮抗する・の作用だけが残るため外下方を向く。をしない例もあり、「見えづらい」というだけで来院することがある。同じでも、を伴えばを伴う本症とは対照的なであり、下垂の程度もののみのにとどまるため軽度である。

見た目が似ていてもそのものの麻痺ではない状態を区別する。

状態 瞳孔 区別の手がかり
動眼神経麻痺(・末梢性) 病変によりしうる ++が揃う
重症筋無力症 必ず保たれる ・がし、を誘発すると悪化する
による 保たれる 、、・外転の制限、(下垂ではなく)
による絞扼 保たれる 外傷歴、上方視での悪化、の
保たれる 内転障害+対側眼の外転時眼振で、では内転できる

💡 瞳孔はの平滑筋()が動かしておりのを介さない。だからの障害である重症筋無力症では、・がどれほど強くても瞳孔だけは必ず保たれる。

病態生理

(瞳孔・調節)はの表層を走行し、神経自体は由来の血管から中心部を栄養される。この配置が、原因ごとの瞳孔所見の違いをそのまま説明する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oculomotor nerve (CN III)'>動眼神経</span>の障害"] --> B{"障害の様式"}
    B -->|"外からの圧迫"| C["表層の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parasympathetic fibers'>副交感線維</span>が先に落ちる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary dilation'>瞳孔散大</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='(pupillary) light reflex'>対光反射</span>消失"]
    B -->|"神経内部の微小血管虚血"| E["中心部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor efferents'>運動線維</span>が優位に落ちる"]
    E --> F["瞳孔は保たれやすい"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ptosis'>眼瞼下垂</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='down and out'>外下方偏位</span>は<br>どちらの機序でも起こる"]
    F --> G

⭐ を伴う動眼神経麻痺=圧迫性を疑う。 代表は(のうちの原因となる)と、による中脳の圧迫である。一方、糖尿病・高血圧などを背景とするの麻痺は疼痛を伴うことが多いが瞳孔は保たれ、多くは数か月の経過でする。

障害される部位によって随伴所見が変わる。

部位 特徴 代表的な原因
中脳(核・線維内) 同側動眼神経麻痺+対側徴候の。は、はさらに対側の不随意運動・失調を伴う 中脳の・、脱髄
単独の動眼神経麻痺。が典型的 、による圧迫
・ 第IV・第VI脳神経、の、 、、腫瘍
眼窩 を伴えば 外傷、

⭐ 慢性のでは、が誤った標的へ再生するが起こりうる。しようとすると瞳孔が収縮する、下方視で瞼が挙上するといった瞼・眼球運動・瞳孔の共同運動がその所見で、の麻痺では回復過程でこれが起こらない。急性の麻痺が先行しないままが現れた場合(一次性)は、部の・部動脈瘤・といった緩徐に増大するを疑う。

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ を伴う急性動眼神経麻痺はとして緊急対応する。 の破裂前に唯一得られるのことがあり、痛みを伴う急性発症であればなおさら急ぐ。診察を終えたその場で急ぎ・MRAなどの血管画像を手配する。

⚠️ 意識障害+の+眼球のはの進行である。 これはを越えて中脳・を圧迫している所見であり、意識障害を伴う場合は画像検査の結果を待たず頭蓋内圧管理とへの緊急相談を開始する状況になりうる。

⚠️ 瞳孔温存を無条件の安全として読み替えない。 瞳孔を完全に保ち、は、40歳以上で血管危険因子があり、他の神経徴候を伴わない孤発例は、動脈瘤である可能性がもっとも低い組み合わせであり、画像を行わず注意深く経過観察するという選択肢がある。ただし非侵襲的な血管画像が普及した現在は、瞳孔所見にかかわらず全例に・MRAを行うべきだという意見も多い。経過観察を選ぶ場合でも24〜48時間以内に瞳孔を再検し、遅発性の悪化がないかを確認する。部分麻痺、瞳孔がわずかでも巻き込まれる、40歳未満、他のを伴う、3か月で改善しないもののいずれかがあれば、血管画像を行う。

⚠️ 動眼神経麻痺に見えて神経そのものの麻痺でないものを見逃す。 重症筋無力症はを確認しなければ動眼神経麻痺と誤認されやすく、クリーゼに至れば気道管理を要する救急疾患である。、による絞扼、も瞳孔は保たれるため、瞳孔所見だけで「軽症」と判断せず定義の項の手がかりで区別する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ptosis'>眼瞼下垂</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='down and out'>外下方偏位</span>を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diplopia'>複視</span>"] --> B{"意識障害を伴うか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uncal herniation'>鉤ヘルニア</span>として扱う<br>画像より先に頭蓋内圧管理"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary dilation'>瞳孔散大</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='(pupillary) light reflex'>対光反射</span>消失を伴うか"}
    D -->|"あり/部分的"| E["圧迫性として緊急血管画像<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior communicating artery aneurysm'>後交通動脈瘤</span>を検索"]
    D -->|"完全に正常"| F{"40歳以上・血管危険因子あり<br>単独の麻痺か"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular'>微小血管性</span>として経過観察<br>24〜48時間以内に瞳孔を再評価"]
    F -->|"いいえ"| E
    G --> H{"3か月で改善しないか"}
    H -->|"改善しない"| E

・眼球運動・眼瞼・瞳孔(と)を評価したあとに、他の脳神経(第IV・第VI脳神経、、視力)を確認し、随伴の有無から局在を絞ってから画像検査に進む。を疑う所見があれば、画像より先に反復刺激やなどの評価を組み込む。

対応の考え方

原因治療がすべてであり、麻痺そのものを抑える薬物治療はない。は的またはの緊急適応であり、の進行はを含む頭蓋内圧管理を優先する。の麻痺は血糖・血圧の管理を続けながらを待ち、中はに対する・で症状を軽減する。慢性が原因で・が残存した場合は、原疾患の治療が終わったあとに眼形成外科的・矯正的な介入を検討する。

まとめ

  • 三徴は、眼球の、と消失。は神経の表層を走り、神経本体は中心部の血管から栄養される。
  • を伴う動眼神経麻痺は圧迫性を疑い、とを緊急に除外する。
  • 瞳孔温存はを示唆するが安全の保証ではなく、・40歳以上・血管危険因子・単独麻痺の条件を満たす場合に限り経過観察とし、24〜48時間以内に瞳孔を再評価する。
  • 意識障害を伴うとはの進行であり、画像検査より先に頭蓋内圧管理を始める状況になりうる。
  • 中脳病変では・のように対側の徴候を伴うが出る。
  • 重症筋無力症、、による絞扼、は瞳孔が保たれるため、瞳孔所見だけでと決めつけない。
  • (瞼・眼球運動・瞳孔の共同運動)は慢性の手がかりで、の回復過程では起こらない。