眼科学

眼科学 · ML-27

眼内炎

Endophthalmitis

🧠 全体像:は、とという眼の中の液体が化膿する感染で、時間単位で視力を奪う眼科の救急疾患である。菌の入口は4つ:眼の手術、穿孔性の、血流(内因性)、角膜・の感染。手術後の眼が「痛い・見えない・赤い・」になったらを疑い、その日のうちにの専門医へ送る。治療の中心はの検体を採り、バンコマイシンとセフタジジムをに注射することで、視力がしかなければ即時にを行う。

の疾患としての整理は、赤目の鑑別の中での位置づけは赤目の鑑別、眼科の抗微生物薬の全体は眼科の抗微生物薬にある。

定義

は、眼内の液体(と)の化膿性の炎症で、次のいずれかから感染が入って起こる。

入口 型 代表的な場面
眼の手術 術後 、、緑内障手術()
穿孔性の 外傷後 眼球の穿孔、
血流 菌血症・から眼へ播種
角膜・の感染 角膜炎からの波及 角膜潰瘍の穿孔

💡 眼の中は血管のない透明な液体で満たされ、も抗菌薬も届きにくい。いったん菌が入ると、はよい培地になり、増えた菌と好中球の出す毒素・酵素が数時間〜数日で網膜を壊す。これが「時間との勝負」になる理由である。

型ごとの特徴

型 発症時期 主な起因菌 特徴
急性術後 ・挿入から6週以内1。約75%は術後1週以内2 ()が最も多く、ほかに黄色ブドウ球菌・レンサ球菌。グラム陽性菌が主体1 眼表面・眼瞼の常在菌が手術の創から入る
遅発性(慢性)術後 6週を超えて プロピオニバクテリウム・アクネス、、、真菌12 弱毒菌で軽い炎症がくすぶり、ステロイドで一時的に良くなってはする
後 通常、注射後5日以内2 口腔・眼表面の常在菌 抗 VEGF 薬の注射の普及で増えた
外傷後 受傷後 Bacillus 属、ブドウ球菌、真菌など Bacillus 属の感染は劇症2
全身感染の経過中 カンジダなどの真菌、()、の菌 両眼のこともある。全身の感染源を探す

⚠️ 遅発性のは「治らないぶどう膜炎」に見える。 から数か月たって、ステロイドで一時的に良くなってはするの炎症を見たら、の後ろのに白い斑状の沈着がないかを確かめ、弱毒菌によるを疑う。

外傷後眼内炎

穿孔性の後にが起こる割合は、次のように示されている。

条件 の
なし 11.9%
あり 41.8%

報告によって幅は大きく、成人の0.9〜18%、小児の5〜54%とする総説もある2。

  • 汚染された異物(土・植物・金属片)が危険因子である。
  • は緊急に取り出す。
  • 予防的・に抗菌薬を使う。

💡 異物があると割合が跳ね上がるのは、異物そのものが菌を眼の奥まで運び、さらに菌のになるからである。土で汚れた外傷では、劇症の Bacillus 属を考えて治療を急ぐ。の扱いは鋭的外傷とで扱う。

症状と所見

所見 内容
痛み 眼痛。ただし痛みを欠く例もある
ほぼ全例
充血 赤目()
。の下方に白〜黄白色の膿が水平面をつくってたまる
、膜()。眼底の赤い反射が弱まる・消える
分泌物
眼瞼
角膜

典型例では、強い・の中で、角膜がやや濁り、の下方に黄白色の膿の水平面()を認め、の模様がかすんで見える。

⭐ 術後の眼で「痛み・・」がそろったら、として動く。 手術後の通常の炎症は日ごとに軽くなるのに対し、は日ごとに(ときには時間ごとに)悪くなる。

診断

手順 内容
最近の眼の手術・・外傷、全身の感染症・免疫抑制・静脈カテーテル
視力、(・の炎症)、眼底(見えるなら)
B モード超音波 が濁って眼底が見えないときに、の特徴的な(点状〜膜状のエコー)を確かめる。・の有無も
検体の微生物検査 タップ(または)で採ったをグラム染色・培養・PCR

💡 よりのほうが菌の見つかる割合が高いので、検体の中心はである。ただし検体の結果を待って治療を遅らせてはならない。検体を採ったその場で抗菌薬をに注射する。

⚠️ を疑ったら、血液培養と全身の感染源(・心内膜炎・カテーテル)を並行して探す。眼が全身感染の最初の手がかりになることがある。

の原理は眼組織の透明性とで扱う。

治療

原則

  • は視力を守るために緊急の治療を要する。
  • 早期の診断が即時の介入に欠かせない。
  • が疑われる患者は、の専門医が緊急に診察し、介入の方法を決める。

治療の選択

位置づけ 治療
最善の標準() 緊急の()+タップ+
次善の標準(シルバースタンダード) がすぐにできないとき、の生検+の注射

ESCRS の指針も同じ言葉で整理し、診断と治療を兼ねたを多くの例で勧め、のや手術室がなくて遅れるときは、待たずにとを行うとしている1。

EVS との対比(術後の)

・二次挿入から6週以内の細菌性420例を対象とした EVS では、次の結果が出た3。

初診時の視力 即時のの効果
以上 効果なし。タップ+で十分
のみ 20/40以上に達する割合が33%対11%と約3倍

同じ試験で、セフタジジムとの静注を加えても、最終視力にもの透明度にも差がなかった3。

💡 「が最善」という整理と EVS の結果は矛盾しない。は菌と毒素を大量に取り除けるが、視力が以上残っている術後の眼では、タップと注射だけでも同じ成績が得られた。EVS は術後のの試験なので、外傷後・内因性・関連・劇症のにはそのまま当てはめない。これらでは早いを選ぶことが多い。

⚠️ EVS は1995年の試験で、の最重症例を除外していた。ESCRS の指針は EVS の結果を歴史的な参考として示し、の技術が進んだ現在は、の例に限らず広くを行う立場をとる1。「以上ならタップと注射で十分」は EVS のであって、現行の指針の一律の基準ではない。

flowchart TD
    A["術後の眼の痛み・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・<br>充血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypopyon'>前房蓄膿</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endophthalmitis'>眼内炎</span>を疑う<br>当日中に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreoretinal'>硝子体網膜</span>の専門医へ"]
    B --> C{"EVS の基準:初診時の視力は<br>どの段階か"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hand motion'>手動弁</span>以上"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>タップ<br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravitreal antibiotics'>硝子体内抗菌薬</span>"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='light perception'>光覚弁</span>のみ"| E["即時の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitrectomy'>硝子体手術</span><br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravitreal antibiotics'>硝子体内抗菌薬</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous body'>硝子体</span>の培養・グラム染色・PCR"]
    E --> F
    F --> G{"治療後の経過で<br>改善しているか"}
    G -->|"はい"| H["経過観察・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood/culture results'>培養結果</span>で調整"]
    G -->|"いいえ"| I["再注射<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitrectomy'>硝子体手術</span>を検討"]

抗菌薬

薬 狙う菌 用量
バンコマイシン グラム陽性菌(ブドウ球菌・レンサ球菌・MRSA) 1 mg/0.1 mL1
セフタジジム グラム陰性菌(緑膿菌など) 2 mg/0.1 mL1。2.25 mg/0.1 mL とする施設もある
(βラクタムに過敏な患者でセフタジジムの代わり) グラム陰性菌 400 µg/0.1 mL1
(真菌) 真菌 5〜10 µg/0.1 mL1
(真菌) 真菌 100 µg/0.1 mL1

バンコマイシンとセフタジジムは、細菌性を疑う例で経験的に一緒に注射する。セフタジジムの代わりにを使うこともある2。ESCRS の指針はバンコマイシン+セフタジジムを第一選択、βラクタム系に過敏な患者でのバンコマイシン+を第二選択とする。2剤は混ぜず、別々の注射器で注射する。真菌ではかをに注射し、同じ薬を全身にも投与する1。

💡 2剤を組み合わせるのは、起因菌が分かる前にグラム陽性菌とグラム陰性菌の両方を覆うためである。術後の大半はグラム陽性菌だが、少数のグラム陰性菌(緑膿菌など)は進行が速く視力予後が悪いので、外せない。

⚠️ の薬は濃度の誤りがそのまま網膜の毒性になる。とくにアミノグリコシド系は有効な量と毒性の出る量の差が小さく(は200 µgで有効だが400 µgで黄斑梗塞を起こしうる)、のためにグラム陰性菌の治療にアミノグリコシド系を使わなくなったも多い1。調製は定められた濃度で慎重に行う。

全身投与(内服・静注)

薬 位置づけ
(、、、) を通ってでに届くとされ、全身投与の選択肢として挙げられてきた
  • 従来の整理では「第3世代のフルオロキノロン」とまとめられてきたが、一般的な世代分類では、とは第2世代、は第3世代、は第4世代にあたる(ESCRS の指針もを第4世代と呼ぶ1)。
  • 細菌性はだけでは治らない2。術後のでは、EVS で静注のセフタジジム・の効果が示されなかった3。
  • ただし ESCRS の指針は、急性の強い細菌性ではと同じ抗菌薬の全身投与を併用することを勧めている。の薬が眼の外へ拡散するのを打ち消し、炎症で透過性の上がった眼に全身から薬が入るためである1。全身投与の扱いは指針と EVS で立場が分かれる。
  • 一方、では全身の抗菌薬・抗真菌薬が欠かせない。眼の病変はの一部であり、全身の感染源の治療そのものだからである。外傷後のでも、予防・治療として全身投与を併用する。

治療成績を左右するもの

因子 意味
感染の由来 術後は比較的良く、外傷後・関連・内因性は悪い
時間 治療開始までの時間が短いほど良い
微生物の病原性 は比較的良く、レンサ球菌・Bacillus 属・グラム陰性菌は悪い
治療法 かか

⭐ 変えられるのは時間と治療法である。非専門医にできる最大の貢献は、術後の眼の異変を見逃さず、その日のうちに専門医へ送ることである。

予防

の周術期の予防は、眼表面の菌を減らし、手術の終わりに眼内に抗菌薬を残すことが柱になる。

方法 内容
による消毒 手術前にと眼瞼を消毒する
内への抗菌薬 手術の終わりに1 mg/0.1 mL をに注入する

ESCRS の(16,603例)では、手術終了時に1 mg(0.1 mL)を内に注入しないと、術後の危険が4.92倍に上がった4。は、内の予防で0.06%、対照で0.3%だった2。同じ解析で、透明角膜切開(トンネルに比べ5.88倍)、製の(アクリルに比べ3.13倍)、術中合併症(4.95倍)も危険因子だった41。

💡 内の抗菌薬が効くのは、手術中に創から入ってしまった少数の菌を、増える前に眼の中で直接たたけるからである。点眼では内に十分な濃度が保てない。

医療安全の要点

状況 対応
・の後の痛み・ を疑い、当日中に眼科へ
術後なら、術後でなければ角膜潰瘍の穿孔・内因性・ぶどう膜炎を鑑別
穿孔性の外傷 を画像で探し、緊急に取り出す。抗菌薬を始める
敗血症・の患者 視力の訴えがなくても眼底を診る

⚠️ はだけの所見ではない。角膜炎()のは多くが無菌だが、角膜が穿孔すると菌が眼内に入り、本物のになる。

まとめ

  • はとの化膿性の炎症。入口は眼の手術・・内因性・角膜やの感染。
  • 緊急の治療が視力を守る。が即時の介入に欠かせず、疑えばの専門医が緊急に診る。
  • 急性術後はから6週以内(多くは1週以内)でが最多。遅発性はプロピオニバクテリウム・アクネスや真菌。後は5日以内が多い。
  • 外傷後はなし11.9%、ありで41.8%。汚染された異物が危険因子。異物は緊急に取り出し、抗菌薬を使う。
  • 所見は眼痛・・赤目・・のや膜・・・。
  • 診断は・・B モード超音波(の特徴的な)・検体の微生物検査。
  • 最善()は緊急の+タップ+、手術ができなければ+(シルバースタンダード)。EVS(1995)では術後ので、以上ならタップと注射で十分、のみなら即時ので20/40以上が約3倍。ESCRS の指針は EVS を歴史的な参考とし、より広くを行う。
  • にはバンコマイシン1 mg/0.1 mL+セフタジジム2 mg/0.1 mL(βラクタム過敏では400 µg/0.1 mL。アミノグリコシド系はに注意)。全身ではがに届きやすいとされるが、だけでは治らない。EVS では静注の効果はなく、ESCRS は重症例で全身投与の併用を勧める。内因性では全身治療が欠かせない。
  • 成績は感染の由来・時間・微生物の病原性・治療法で決まる。
  • 予防はと内1 mg/0.1 mL。ESCRS の試験で投与しないと危険が4.92倍。

出典

  1. 1.ESCRS Guidelines for Prevention and Treatment of Endophthalmitis Following Cataract Surgery: Data, Dilemmas and Conclusions(European Society of Cataract and Refractive Surgeons(Barry P, Cordovés L, Gardner S)・2013)ESCRS公式PDF(2013年版に2017〜2018年の追補を加えた版)の本文で、術後眼内炎は白内障手術から6週以内を急性、それ以降を慢性とし、急性例の多くは術後1〜2週に発症すること、起因菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌・レンサ球菌などグラム陽性菌が主体で、慢性例ではプロピオニバクテリウム・アクネス、ジフテロイド、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、真菌が多いこと、診断と治療を兼ねた硝子体手術を多くの例で「ゴールドスタンダード」とし、硝子体網膜の術者や手術室がなく遅れるときは硝子体生検と硝子体内抗菌薬の注射を「シルバースタンダード」とすること、EVSの結果は歴史的な参考として示され現行のESCRS指針をそのまま反映しないこと、EVSは光覚なしの例を除外していたこと、硝子体内注射の第一選択はバンコマイシン1 mg+セフタジジム2 mg、第二選択はβラクタムに過敏な患者でバンコマイシン1 mg+アミカシン0.4 mgで、アミノグリコシド系は治療域と毒性域の差が小さく(ゲンタマイシン200 µgは有効だが400 µgで黄斑梗塞を起こしうる)網膜毒性のため使わなくなる術者が多いこと、真菌ではアンホテリシンB 5〜10 µgまたはボリコナゾール100 µgを硝子体内に注射し同じ薬を全身にも投与すること、急性の強い細菌性眼内炎では硝子体内と同じ抗菌薬の全身投与の併用を勧めていること、ESCRS試験で透明角膜切開(5.88倍)・シリコーン製眼内レンズ(3.13倍)・術中合併症(4.95倍)が危険因子だったこと、モキシフロキサシンとガチフロキサシンを第4世代フルオロキノロンと呼んでいることを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Bacterial and Fungal Endophthalmitis(Clinical Microbiology Reviews(Durand ML)・2017)PMC全文(PMC5475221)で、白内障術後眼内炎の約75%は術後1週以内に発症すること、慢性の白内障術後眼内炎はまれで多くは真菌かプロピオニバクテリウム・アクネスなどの弱毒菌によること、硝子体内注射後の眼内炎は通常注射後5日以内に発症すること、穿孔性外傷後の眼内炎は成人の0.9〜18%・小児の5〜54%に起こり、Bacillus 属の感染は劇症であること、細菌性眼内炎は全身抗菌薬だけでは治らず、バンコマイシンとセフタジジムを経験的に硝子体内注射し、セフタジジムの代わりにアミカシンを使うこともあること、前房内セフロキシムの予防で術後眼内炎が0.06%対0.3%だったことを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Results of the Endophthalmitis Vitrectomy Study. A randomized trial of immediate vitrectomy and of intravenous antibiotics for the treatment of postoperative bacterial endophthalmitis(Archives of Ophthalmology・1995)抄録(PubMed 7487614)で、白内障手術または眼内レンズ二次挿入後6週以内の眼内炎420例を即時硝子体手術と硝子体タップ・生検、全身抗菌薬(セフタジジム・アミカシン)の有無に2×2で割り付けた結果、全身抗菌薬の有無で最終視力・中間透光体の透明度に差がなかったこと、初診時視力が手動弁以上なら即時硝子体手術の上乗せ効果はなく、光覚弁のみの群では硝子体手術で20/40以上に達する割合が33%対11%と約3倍になったことを確認した閲覧 2026-09-29
  4. 4.Prophylaxis of postoperative endophthalmitis following cataract surgery: results of the ESCRS multicenter study and identification of risk factors(Journal of Cataract and Refractive Surgery(ESCRS Endophthalmitis Study Group)・2007)抄録(Europe PMC、PMID 17531690)で、欧州9か国24施設の白内障手術16,603例を前房内セフロキシムと周術期のレボフロキサシン点眼の2×2要因デザインで割り付けた前向き無作為化試験で、手術終了時に生理食塩水0.1 mLに溶かしたセフロキシム1 mgを前房内に投与しないと術後眼内炎の危険が4.92倍(95%CI 1.87〜12.9)に上がったこと、透明角膜切開(強膜トンネルに比べ5.88倍)・シリコーン製眼内レンズ(アクリルに比べ3.13倍)・術中合併症(4.95倍)も危険因子だったことを確認した。閲覧 2026-09-29