眼科学

眼科学 · ML-05B

眼科の薬理:抗微生物薬による治療

Pharmacology in ophthalmology: antimicrobial treatment

前提:病態
眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断眼感染を起こす原虫と蠕虫(一覧)とその診断抗真菌薬

🧠 全体像:感染性角膜炎の治療は「病原体の種類で薬の系統が決まり、ステロイドを使ってよいかどうかも病原体で決まる」と押さえる。細菌は高濃度の抗菌薬を頻回に点眼し、ヘルペスは抗ウイルス薬を軸に病型でステロイドの可否が分かれ(上皮型は禁忌)、真菌は(フザリウムには)と、アカントアメーバはとを半年〜1年続ける。どの病原体でも、診断がつく前のステロイド単独使用が最悪の一手になる。

病原体から薬を選ぶ流れ

薬の系統と抗菌スペクトル、抗ウイルス薬・抗真菌薬の一覧は点眼薬の薬理にまとめてある。ここでは角膜炎の病原体ごとに、どう薬を組み立てるかを扱う。所見からの鑑別は角膜炎の鑑別で扱う。

flowchart TD
    A["角膜の浸潤・潰瘍<br>充血、眼痛、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal scraping'>角膜擦過</span>で塗抹・培養<br>(病原体が分かるまで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>)"]
    B --> C["細菌<br>高濃度抗菌薬の頻回点眼"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex (HSV)'>単純ヘルペス</span><br>抗ウイルス薬+病型別にステロイド"]
    B --> E["真菌<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyenes'>ポリエン系</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='azole antifungals'>アゾール系</span>"]
    B --> F["アカントアメーバ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='biguanide'>ビグアナイド系</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diamidine class'>ジアミジン系</span>"]
    C --> G["ステロイドは起因菌の同定か<br>治療反応を確認してから"]
    E --> H["ステロイドは避ける"]
    F --> I["抗アメーバ治療を始める前は<br>ステロイドを避ける"]

細菌性角膜炎

所見

角膜の大部分を占める黄白色の濃い(角膜膿瘍、角膜潰瘍)、強いと、の下方にたまる白い膿の層()を認める。進行が速く、数日でに至ることがある。起因菌としては黄色ブドウ球菌や、者に多い緑膿菌が代表である。詳しい臨床像はで扱う。

起因菌別の抗菌薬(米国眼科学会の診療指針 2018年版)

起因菌 抗菌薬 点眼の濃度 注射の量
同定されていない・複数菌 またはバンコマイシン 25〜50 mg/mL 100 mg()または25 mg(バンコマイシン)を0.5 mLで
 (上と併用) +または 9〜14 mg/mL 20 mgを0.5 mLで
 (または単独で) 製剤による —
50 mg/mL 100 mgを0.5 mLで
  バンコマイシン 10〜50 mg/mL 25 mgを0.5 mLで
  10,000 IU —
  製剤による —
グラム陰性桿菌 または 9〜14 mg/mL 20 mgを0.5 mLで
  セフタジジム 50 mg/mL 100 mgを0.5 mLで
  製剤による —
グラム陰性球菌 セフトリアキソン 50 mg/mL 100 mgを0.5 mLで
  セフタジジム 50 mg/mL 100 mgを0.5 mLで
  製剤による —
() 20〜40 mg/mL 20 mgを0.5 mLで
  10 mg/mL —
  アジスロマイシン 10 mg/mL —
  製剤による —
(ノカルジア) 100 mg/mL —
  20〜40 mg/mL 20 mgを0.5 mLで
  16 mg/mL+80 mg/mL —

⭐ 最も大事なのは1行目のである。起因菌が分かる前は、グラム陽性菌を狙う薬(かバンコマイシン)とグラム陰性菌を狙うアミノグリコシド系を高濃度で併用するか、を使う。抗菌薬の多くはの点眼では濃度が足りないため、注射用製剤から高濃度の点眼液を院内で調製する。

💡 起因菌の種類ごとに行を分けてあるのは、塗抹のグラム染色の結果で薬を絞り込めるようにするためである。培養と感受性の結果が出たら、それに合わせてさらに調整する。

現行の2023年版(2024年2月公開)は、2005〜2015年にMRSAと緑膿菌の局所が増えたことを指摘している。また副腎皮質ステロイドは、抗菌薬を48時間使って起因菌が同定されるか治療への反応が確認されてから検討してよいとし、アカントアメーバ・ノカルジア・真菌が疑われる場合はステロイドを避けるべきとしている1。

⚠️ に最初からステロイドを使うと、実は真菌やアカントアメーバだった場合に急速に悪化させる。を伴うでは、まずして培養を出す。

単純ヘルペス角膜炎

病型と所見

による角膜炎は、ウイルスそのものが上皮を壊す型と、ウイルス抗原に対する免疫反応が実質や内皮を傷める型に分かれる。

病型 所見 主な病態
(上皮型) で染まる、枝分かれした線状の上皮欠損 ウイルス増殖による上皮の破壊
(上皮型) 樹枝状病変が広がった大きなの上皮欠損。ローズベンガルで病変部が赤紫に染まる ウイルス増殖による上皮の破壊
潰瘍を伴う実質炎(壊死性) 実質の浸潤と潰瘍、菲薄化 ウイルスと免疫反応の両方
間質性実質炎(非壊死性) 上皮は保たれ、実質にと 免疫反応
円板状角膜炎 角膜中央の円板状の 内皮を中心とした免疫反応
(ヘルペス後) 治りにくい丸い上皮欠損 と上皮の治癒障害(ウイルスは活動していない)

詳しい臨床像はヘルペス角膜炎とで扱う。

病型ごとの薬の組み合わせ

凡例:+=使う、(+)=状況により使う、++=特に重要、禁忌=使ってはならない、空欄=通常使わない。

病型 抗ウイルス薬(局所) 抗ウイルス薬(全身) ステロイド(局所) ステロイド(全身) 抗菌薬
上皮型 + (+) 禁忌 禁忌 (+) (+)
実質炎(潰瘍性) + + (+) (+) + (+)
実質炎(間質性) + (+) + + (+)
円板状角膜炎 + (+) + (+) (+)
(ヘルペス後) (+) (+) (+) ++

表を読み解くと次のようになる。

  • 上皮型はウイルスが増えている病型なので、抗ウイルス薬が主役で、ステロイドはウイルス増殖を助けるため局所も全身も禁忌。上皮欠損からの予防に抗菌薬を、眼表面の保護にを使うことがある。
  • 潰瘍性の実質炎は、抗ウイルス薬を局所と全身の両方で使い、潰瘍があるので抗菌薬も加える。ステロイドは炎症の強さに応じて慎重に使う。
  • 間質性の実質炎と円板状角膜炎は免疫反応が主体なので、ステロイドが治療の中心になる。ステロイドでウイルスがしないよう、抗ウイルス薬で覆う。
  • はウイルスが活動していないので、主役はによる上皮の保護である。
  • 実質炎・円板状角膜炎では、の痙攣による痛みとを防ぐためを使うことがある。

米国眼科学会の治療指針でも、上皮型には抗ウイルス薬が必要であり、実質炎には通常、抗ウイルス薬とステロイド点眼の併用が必要とされる。再発を減らすと証明されている予防は、アシクロビル400 mgを1日2回、または500 mgを1日1回、1年間内服する方法だけである2。

⚠️ ⭐ 樹枝状の上皮欠損を「ただの結膜炎・角膜炎」と見てステロイド点眼を出すと、に拡大して重症化する。ステロイドを出す前にで上皮を確認する。

使う抗ウイルス薬(アシクロビル・・・)のと副作用は点眼薬の薬理の表にある。

真菌性角膜炎

所見

角膜中央に、境界が不整な灰白色のを認め、周囲に充血を伴う。典型的には表面が盛り上がって乾いた感じに見え、辺縁が羽毛状にぼやける。植物による外傷や農作業が典型的な誘因である。詳しい臨床像はで扱う。

真菌を疑わせる所見(Behrens-Baumannの徴候)

徴候 所見 意味
第1の徴候 主から離れて点在する小さな浸潤()と、上縁が水平でなく山型に盛り上がった(ピラミッド状の) 菌糸が実質内を広がり、にも達している
第2の徴候 上皮欠損のない 菌糸が上皮の下の深い層で増える。上皮が保たれているため薬が浸透しにくい

💡 上皮が無傷の浸潤では、点眼が浸透しにくい。表層をして薬の通り道を作る(角膜)のはこのためで、同時に検体も採れる。

治療の例(Behrens-Baumannらの提案、2015年)

病態 薬と濃度 用法 備考
角膜真菌症(菌種不明) 点眼2% 30分〜1時間ごと 薬局で調製
  点眼1% 1日2〜3回 —
フザリウム属 点眼5% 30分〜1時間ごと 国外から取り寄せ
  点眼1% 1日2〜3回 角膜
治療無効 点眼0.5% 1時間ごと 薬局で調製
  点眼1% 1日2回 角膜を2日ごと
  または、、 — —
あり(菌種不明) 上記に加え 7.5 µgまたは 毎日〜2日ごと 薬局で調製、内注射
(外因性・内因性、菌種不明) 4 mg/kgを1日2回、または600 mg内服 高価(1日約209ユーロ)
  7.5 µgまたは100 µg/0.1 mL 所見に応じて繰り返す 薬局で調製、

⚠️ この提案はステロイド点眼を早期から併用しているが、現行の米国眼科学会の2023年版は真菌が疑われる角膜炎ではステロイドを避けるとしている1。ステロイドは真菌の増殖を助けるので、臨床で使う場合は専門施設の判断に限られ、学習上は「にステロイドは使わない」を原則として覚える。

⭐ 薬の選び方の根拠として、の323例で5%と1%の点眼を比べた試験では、のほうが3か月後の視力がよく、・も少なかった。この差はフザリウム属でとくに大きく、フザリウム以外の菌では差がなかった。著者らは、にを単剤で使うべきではないとしている3。上の提案が菌種不明の角膜真菌症に点眼から始めているのとは食い違うので、糸状菌が疑われるときはを軸に考える。「糸状菌、とくにフザリウムには」「カンジダには」と覚える。

眼内に及んだ真菌感染()では、点眼では届かないので内服・静注とを組み合わせる。

アカントアメーバ角膜炎

所見

アカントアメーバ角膜炎は、ほとんどが者に起こる。早期は充血が軽いのに所見に不釣り合いな強い眼痛を訴え、上皮の細かな程度しか見えないことがある。進行すると、角膜中央の円板状〜輪状の、強い、周辺からの、角膜全体の浮腫とへ進む。ヘルペス角膜炎とされやすい。詳しい臨床像はで扱う。

保存的治療

(細胞膜を傷害) (酵素を傷害) 抗菌薬
イセチオン酸塩0.1% PHMB 0.02%
二イセチオン酸塩0.1% 0.02% —
ジブロモイセチオン酸塩0.15% — —

⭐ 基本の組み合わせは、各列の最上段の0.1%+PHMB 0.02%+である。治療は6〜12か月続く。

💡 アカントアメーバはと、乾燥や薬に非常に強い嚢子の2つの形をとる。嚢子は薬が効きにくく、治療をやめると嚢子からが出てするので、長期間続ける必要がある。を加えるのは、アメーバが餌にする細菌を減らし、併存する細菌感染を抑えるためである。

現行の選択肢として、欧州のではPHMB 0.08%単剤とPHMB 0.02%+0.1%の併用を比べ、12か月以内に手術や薬の変更なしで治った割合が86.7%と86.6%でほぼ同じだった。単剤はの条件を満たしたが、は示されなかった4。

⚠️ アカントアメーバが疑われる段階ではステロイドを避ける1。とくに診断がつき抗アメーバ治療を始める前のステロイドは予後を悪くする。抗アメーバ治療を始めたあとに炎症が続く例でステロイドを加える扱い(時期と、中止後も抗アメーバ治療を続けること)はで扱う。

病原体ごとの比較

病原体 典型的な誘因 手がかりになる所見 薬の軸 ステロイド
細菌 コンタクトレンズ、外傷 急速に進む濃い浸潤と 高濃度抗菌薬の頻回点眼(経験的には陽性菌用+陰性菌用の併用か) 起因菌同定か治療反応確認の後に検討
再発(発熱、紫外線、ストレス) 樹枝状・の上皮欠損、円板状の、 抗ウイルス薬 上皮型は禁忌、・円板状は抗ウイルス薬で覆って使う
真菌 植物による外傷 、ピラミッド状の、上皮欠損のない浸潤 (糸状菌)、(カンジダ)、 避ける
アカントアメーバ コンタクトレンズ(水道水での洗浄) 所見に不釣り合いな強い痛み、輪状の +を6〜12か月 診断前・抗アメーバ治療の開始前は避ける(開始後に炎症が続けば追加しうる)

まとめ

  • は、まずで塗抹・培養を出し、病原体が分かるまで経験的に治療する。
  • のは、グラム陽性菌用(かバンコマイシン)とグラム陰性菌用(か)の高濃度点眼の併用、または。グラム染色の結果で薬を絞る。
  • のステロイドは、抗菌薬48時間後に起因菌が同定されるか治療反応を確認してから。アカントアメーバ・ノカルジア・真菌が疑われればステロイドは避ける。
  • ヘルペス角膜炎の上皮型ではステロイドが局所・全身とも禁忌。・円板状は抗ウイルス薬で覆ってステロイドを使う。はが主役。再発予防はアシクロビル400 mg 1日2回を1年。
  • は・ピラミッド状・上皮欠損のない浸潤が手がかり。フザリウムにはがより優れる。上皮が保たれていればで薬を届かせる。
  • は+PHMB+を6〜12か月。PHMB 0.08%単剤も併用とほぼ同じ治癒率を示した。抗アメーバ治療を始める前のステロイドは予後を悪くする。

出典

  1. 1.Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)米国眼科学会の2023年版(2024年2月公開)のページで、副腎皮質ステロイドは抗菌薬治療を48時間行い起因菌が同定されるか治療への反応が確認されてから検討してよいこと、Acanthamoeba・Nocardia・真菌が疑われる場合はステロイドを避けるべきこと、米国ではコンタクトレンズ装用が微生物性角膜炎の最大の危険因子であること、2005〜2015年にMRSAと緑膿菌の局所フルオロキノロン耐性が増えたことを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Herpes Simplex Virus Keratitis: A Treatment Guideline(American Academy of Ophthalmology (Ocular Microbiology and Immunology Group)・2014)上皮型(樹枝状)の単純ヘルペス角膜炎には抗ウイルス薬による治療が必要であること、角膜実質炎は通常、抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイド点眼の併用を要すること、再発を減らすと証明された抗ウイルス薬は長期(1年)低用量のアシクロビル400 mg 1日2回またはバラシクロビル500 mg 1日1回だけであることを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.The Mycotic Ulcer Treatment Trial: A Randomized Trial Comparing Natamycin vs Voriconazole(JAMA Ophthalmology(Prajna NV, et al.)・2013)PubMedの抄録で、塗抹陽性の糸状菌性角膜潰瘍323例を対象とした二重盲検多施設RCT(MUTT I、ボリコナゾール1%とナタマイシン5%を覚醒中1時間ごとに点眼)で、3か月時点の最良矯正視力がナタマイシン群でボリコナゾール群より有意に良好であり(回帰係数0.18 logMAR、P=.006)、角膜穿孔・角膜移植の必要性もナタマイシン群で少なかった(オッズ比0.42、P=.009)こと、Fusarium属によるサブグループではこの差がさらに大きく(視力の回帰係数0.41 logMAR、P<.001、穿孔オッズ比0.06、P<.001)、Fusarium属以外の起因菌では両群で有意差がなかった(視力P=.81、穿孔P=.86)こと、臨床への応用として糸状菌性角膜炎にボリコナゾールを単剤で使うべきでないと述べていることを確認した。閲覧 2026-09-29
  4. 4.The Orphan Drug for Acanthamoeba Keratitis (ODAK) Trial: PHMB 0.08% (Polihexanide) and Placebo versus PHMB 0.02% and Propamidine 0.1%(Ophthalmology(米国眼科学会)・2024)Europe PMCで取得した構造化抄録で確認した(出版社の全文は取得していない)。欧州6施設で135例を組み入れた前向き無作為化二重遮蔽実薬対照の第III相試験で、設計が「あらかじめ非劣性マージンを定めた優越性試験」であること、主要評価項目が12か月以内に手術も抗アメーバ薬の変更も要さない医学的治癒率であること、事前規定の多変量調整後の治癒率がPHMB 0.02%+プロパミジン0.1%で86.6%(未調整88.5%)・PHMB 0.08%単剤で86.7%(未調整84.9%)で、単剤の非劣性要件は満たされたが優越性は示されなかったこと(調整後の差0.1ポイント、片側95%信頼限界の下限 -8.3ポイント)、結論が「単剤は併用と同等か、悪くても8ポイント劣る程度でありうる」という条件付きの言い方であること、誌上版がOphthalmology 2024年3月号131巻3号277-287頁(PMID 37802392)であることを確認した。閲覧 2026-09-14