眼科学

眼科学 · ML-16

角膜炎の鑑別診断

Differential diagnosis of keratitis

前提:病態
眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断眼感染を起こす原虫と蠕虫(一覧)とその診断

🧠 全体像:角膜炎は、まず感染性(細菌・真菌・ウイルス・アカントアメーバ)か(無菌性・免疫性)かで分け、感染性なら病原体ごとの「顔つき」で当たりをつける。細菌は速く・単一ので・膿と、真菌は遅く・上皮の下で・ぼやけた辺縁と、ヘルペスはの低下、アカントアメーバは所見に見合わない激痛と多発・神経に沿う浸潤・輪状浸潤。ただし見た目だけでは専門医でも3回に1回は外れるので、重い角膜炎は治療を始める前にをして検体を採り、を始めて、効き目と検査結果を見ながら治療を確定・変更する。

角膜炎は赤目の中で視力を脅かす代表であり、赤目全体の中での位置づけは赤目の鑑別で扱う。ここは病原体ごとの見分け方と、診断のための検査の正本である。各論は・・ヘルペス角膜炎・、薬の選び方は眼科の抗微生物薬が正本である。

角膜炎の分類

💡 分類の第一歩が「感染か非感染か」であるのは、治療が正反対になるからである。無菌性の免疫性角膜炎はステロイドで治まるが、、とくに真菌・アカントアメーバ・ヘルペス上皮型にステロイドを使うと急速に悪化する。

病原体ごとの臨床像

細菌性角膜炎

特徴 内容 なぜそうなるか
所見は菌種で異なる 菌の種類によって浸潤の形や進み方が違う 菌が出す毒素・酵素の違い(緑膿菌の酵素は融解を速める)
上皮欠損とその下の壊死した実質 で染まる上皮欠損の下に、白〜黄白色の濃い 菌と好中球の酵素が実質を溶かす
進行が速い 数時間〜数日で拡大し、穿孔に至ることがある 細菌の増殖と好中球の反応が速い
単一の は通常1つ 1か所の上皮の傷から菌が入る
と 膿性の、の下方に白い膿の層 強い炎症で好中球がへ出る

⭐ 上皮欠損があり、その下に濃い浸潤がある単一のが急速に広がり、膿とを伴えば細菌性を第一に考える。米国ではがの最大の危険因子で、それ以外の地域の多くでは外傷が最大の危険因子である1。詳しくは。

真菌性角膜炎

特徴 内容 なぜそうなるか
傷ついた角膜・免疫の落ちた角膜に起こる 植物による外傷、ステロイド点眼の長期使用、 真菌は健康な上皮を破りにくく、傷や局所の免疫低下が入口になる
進行がゆっくり 数日〜数週かけて広がる 真菌の増殖は細菌より遅い
無傷の上皮の下で活動していることがある 上皮欠損が小さいか無いのに、実質に浸潤がある 菌糸が実質の中を横に深く伸びる
ぼやけた辺縁、綿くず状の、 辺縁が羽毛状・にぼやけ、主から離れて小さな浸潤が点在する 菌糸が主から実質内を伸びて離れた場所で増える

写真を使った研究では、不整・羽毛状の辺縁が真菌性と、輪状の浸潤や上皮のプラークが細菌性と関連した2。別の研究では、の辺縁・盛り上がった壊死組織・黄色以外の色調が独立して糸状菌性と関連し、1つあれば真菌の確率63%、3つそろえば83%であった。逆にとフィブリン性の滲出物は細菌性に多かった3。詳しくは。

ウイルス性(ヘルペス)角膜炎

特徴 内容
所見は侵された層で決まる 上皮なら樹枝状・の上皮欠損、実質なら・浸潤・、内皮なら円板状の浮腫と
他の角膜炎をまねる は細菌・真菌・アカントアメーバの角膜炎と見分けにくい
の低下 診断的価値が高い(ほぼ決め手になる)

💡 が落ちるのは、ヘルペスウイルスがに潜伏し、再活性化のたびに角膜のを傷めるからである。綿の先で角膜に触れて左右を比べるだけで確かめられる。詳しくはヘルペス角膜炎と。

アカントアメーバ角膜炎

特徴 内容
な所見が多い 初期は上皮の変化だけで、ヘルペスとされやすい
所見に不釣り合いな激痛 な所見が軽いのに、非常に強い痛みを訴える
汚れた上皮 上皮が不整で濁り、ざらついて見える
多発性 が複数ある
神経に沿った浸潤 に沿って線状の浸潤が走る()
輪状の 進行すると角膜中央に輪状の浸潤ができる

💡 痛みが強いのは、アメーバがに沿って集まり、神経そのものに炎症を起こすからである(神経に沿った浸潤と同じ理由)。者で「所見のわりに痛がる」角膜炎は、まずアカントアメーバを疑う。詳しくは。

非感染性(無菌性・免疫性)角膜炎

病態 特徴
カタル性(辺縁角膜炎) 眼瞼炎の黄色ブドウ球菌の抗原への過敏反応。との間にを残した周辺部の浸潤
・ 関節リウマチ・血管炎などに伴う、周辺部から進む実質の融解
・性角膜症 やによる上皮障害・

⚠️ と判断してステロイドを使う前に、感染を否定しておく。周辺部の浸潤でも、上皮欠損が大きい・痛みが強い・が強い場合は感染として扱い、する。

4つの感染性角膜炎の対比

⭐ 鑑別の要点を1つの表にまとめる。

項目 細菌 真菌 ヘルペス アカントアメーバ
背景 コンタクトレンズ、外傷 植物による外傷、ステロイド、 再発(発熱・紫外線・ストレス)、既往 コンタクトレンズ(水道水での洗浄など)
進行 速い(数時間〜数日) 遅い(数日〜数週) 再発を繰り返す 遅い、寛解と増悪
の数 単一 主+ 上皮型は樹枝状病変(1つのことも複数のこともある) 多発
上皮 欠損し、その下に壊死した実質 無傷の上皮の下に浸潤がありうる 樹枝状・の欠損(上皮型) 汚れて不整な上皮
浸潤の形 境界の比較的はっきりした濃い浸潤、輪状の浸潤 羽毛状・の辺縁、乾いて盛り上がる、綿くず状 層によって多様、円板状の浮腫 神経に沿う線状の浸潤、輪状浸潤
膿性と もありうる (内皮型) 進行例で
痛み 強い さまざま で痛みが軽いことがある 所見に不釣り合いな激痛
決め手 グラム染色・培養 塗抹(菌糸)・培養・ の低下、樹枝状病変 (嚢子)・PCR・培養
ステロイド 抗菌薬を48時間以上使い、起因菌の同定か治療反応を確かめてから検討1 避ける1 上皮型は禁忌 避ける1

⚠️ 臨床像だけの判定には限界がある。角膜専門医が写真で細菌か真菌かを区別できたのは66%にとどまり、グラム染色の型まで当てられたのは46%だった2。「見た目で決めつけず、検体を採る」が鑑別の原則である。

flowchart TD
    A["角膜の浸潤・潰瘍<br>充血・眼痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>"] --> B{"感染を疑う所見があるか<br>(上皮欠損・強い痛み・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber reaction'>前房反応</span>・<br>コンタクトレンズ・外傷)"}
    B -->|"ない<br>周辺部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='zona pellucida'>透明帯</span>を残す浸潤"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-infectious'>非感染性</span>(免疫性)を考える<br>感染を否定してから治療"]
    B -->|"ある"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal sensation'>角膜知覚</span>は落ちているか<br>樹枝状の上皮欠損はあるか"}
    D -->|"はい"| E["ヘルペス角膜炎"]
    D -->|"いいえ"| F{"所見に不釣り合いな激痛<br>神経に沿う浸潤・輪状浸潤はあるか"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Acanthamoeba keratitis'>アカントアメーバ角膜炎</span>"]
    F -->|"いいえ"| H{"進行は速く<br>単一<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lesion (focal)'>病巣</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypopyon'>前房蓄膿</span>か"}
    H -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial keratitis'>細菌性角膜炎</span>"]
    H -->|"いいえ<br>遅い・羽毛状辺縁・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='satellite lesions'>衛星病巣</span><br>植物による外傷"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fungal keratitis'>真菌性角膜炎</span>"]
    I --> K["どれも重症なら<br>治療前に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>して検体を採る"]
    J --> K
    G --> K

治療の始め方

  1. 臨床像に基づいてを始める。
  2. 重い角膜炎では、治療を始める前に検体を採る。 重いとは、にかかる、大きい、深いのいずれかである。
  3. 検査結果を待つ間に、初期治療が効いているかを判断する。結果がわかれば、治療をそのまま続けてよいと確かめられるか、変更の手がかりになる。

米国眼科学会の2023年版は、のの多くを占める小さな周辺部の潰瘍は局所ので治るが、特定の状況では塗抹・培養が特に適応になるとし、治療効果は主に臨床反応で判断するとしている1。

flowchart TD
    A["角膜炎を診る"] --> B{"重症か<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual axis'>視軸</span>にかかる・大きい・深い)"}
    B -->|"いいえ<br>小さな周辺部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lesion (focal)'>病巣</span>"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>を開始"]
    B -->|"はい"| D["治療前に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lesion (focal)'>病巣</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span><br>培養・塗抹(グラム・PAS・ギムザ)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empiric therapy'>経験的治療</span>を開始"]
    C --> F{"治療に反応しているか"}
    E --> F
    F -->|"反応あり"| G["結果で治療を確かめ継続"]
    F -->|"反応なし"| H["結果に合わせて変更<br>未採取なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confocal microscopy'>共焦点顕微鏡</span>・PCR"]
    H --> I{"それでも治らず<br>検査も陰性か"}
    I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal biopsy'>角膜生検</span>"]

💡 を先に始めるのは、角膜炎が数日で穿孔に進みうるからである。ただし抗菌薬を始めたあとにすると菌が育ちにくくなり培養の陽性率が下がるので、重症例では採ってから始める順番が大事である。

診断のための検査

微生物検査(培養)

項目 内容
採り方 か注射針の先で浸潤部から検体を採る
輸送 に入れて微生物検査室へ送る。特殊な真菌検査用の検体はで運ぶ
わかること 特定の病原体と、その薬剤感受性・耐性

細胞診(塗抹)

項目 内容
採り方 浸潤部をし、3枚の標本用ガラスに塗る
染色 できれば3枚でグラム染色・PAS 染色・を行う
わかること 病原体の種類(細菌・真菌・アメーバ)の見当
染色 主に見るもの
グラム染色 細菌の形とグラム陽性・陰性(薬を絞る根拠になる)
PAS 染色 真菌の菌糸・酵母、アメーバの嚢子(の壁が赤紫に染まる)
真菌、アメーバ、炎症細胞の種類(ヘルペスでみられるなど)

💡 塗抹は培養より早く結果が出る(数十分〜数時間)。培養は数日かかるが、病原体の同定と薬剤感受性がわかる。両方を出すのはこのためである。

生体共焦点顕微鏡

角膜をで生体のまま観察する機械で、アカントアメーバの嚢子や真菌の菌糸を直接見つけ、適切な治療を早く始められる。

  • 直径3 mm 以上のの前向き研究では、糸状菌の検出の感度85.7%・特異度81.4%、アカントアメーバ嚢子の検出の感度88.2%・特異度98.2%であった4。
  • 培養と塗抹が陰性の深い潰瘍で病原体を見つけるのに特に役立った4。
  • 検者の経験に左右されるので、培養の代わりではなく補助として使う。

PCR

項目 内容
欠点 高価で、に使うのは限られる
利点 特定の病原体(例:アカントアメーバ)を疑うとき、速く感度の高い助けになる
わかること 特定の病原体の同定

角膜生検

項目 内容
適応 治療に反応しない例で、それまでの微生物検査で病原体が見つからないとき
方法 手術室でトレパン(円形の刃)を使い、角膜から深い層状の組織片を採る
検体の使い道 上記の検査(培養・塗抹・PCR・病理組織)すべてに出せる

💡 生検が役立つのは、真菌やアカントアメーバが角膜の深い層にいて、表面のでは届かないことがあるからである。

まとめ

  • 角膜炎は感染性(細菌・真菌・ウイルス・アカントアメーバ)と(無菌性・免疫性)に分ける。感染性にステロイドを使うと悪化するので、この区別が最初の分かれ目になる。
  • 細菌:菌種で所見が異なる、上皮欠損の下に壊死した実質、進行が速い、単一、膿性と。
  • 真菌:傷ついた・免疫の落ちた角膜、進行が遅い、無傷の上皮の下で活動しうる、ぼやけた辺縁・綿くず状の・。
  • ヘルペス:侵された層で所見が決まり、他の角膜炎をまねる。の低下がほぼ決め手。
  • アカントアメーバ:な所見、所見に不釣り合いな激痛、汚れた上皮、多発、神経に沿う浸潤、輪状浸潤。
  • 見た目だけの判定は専門医でも66%しか当たらない。重い角膜炎(にかかる・大きい・深い)は治療前に検体を採り、を始め、効き目と結果で治療を確定・変更する。
  • 検査:培養(、真菌用は、感受性もわかる)、塗抹(3枚でグラム・PAS・ギムザ)、(アメーバの嚢子・菌糸)、PCR(高価だが特定の病原体に速く鋭敏)、(治療抵抗性で検査陰性のとき、トレパンで深い層を採る)。
  • ステロイドは細菌性では抗菌薬を48時間以上使い、起因菌の同定か治療反応を確かめてから検討し、真菌・アカントアメーバ・ノカルジアが疑われれば避ける。薬の選び方は眼科の抗微生物薬へ。

出典

  1. 1.Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern(American Academy of Ophthalmology・2023)米国眼科学会の2023年版のページの要点(Highlighted Findings)で、市中発症の細菌性角膜炎の多くを占める小さな周辺部の潰瘍は局所の経験的治療で治るが、特定の状況では塗抹・培養が特に適応になること、米国ではコンタクトレンズ装用が微生物性角膜炎の最大の危険因子で、それ以外の地域の多くでは外傷が最大の危険因子であること、治療効果は主に臨床反応で判断すること、ステロイドは抗菌薬を48時間使い起因菌が同定されるか治療に反応してから検討してよく、アカントアメーバ・ノカルジア・真菌が疑われる場合は避けるべきことを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.The clinical differentiation of bacterial and fungal keratitis: a photographic survey(Investigative Ophthalmology & Visual Science(Dalmon C, et al.)・2012)抄録(PubMed 22395880)で、培養で証明された細菌性角膜炎と塗抹で証明された真菌性角膜炎の写真80枚を角膜専門医15人が判定し、細菌か真菌かを正しく区別できたのは66%で、グラム染色の型・属・種の的中は46%・25%・10%にとどまったこと、不整・羽毛状の辺縁は真菌性と、輪状(リース状)の浸潤や上皮のプラークは細菌性と関連したこと、初診時に微生物検査を行う重要性を結論としていることを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Characteristic clinical features as an aid to the diagnosis of suppurative keratitis caused by filamentous fungi(British Journal of Ophthalmology(Thomas PA, Leck AK, Myatt M)・2005)抄録(PubMed 16299128)で、インドの化膿性角膜炎の症例で、鋸歯状の辺縁・盛り上がった壊死組織・乾いた質感・衛星病巣・黄色以外の色調が細菌性より糸状菌性に多く、前房蓄膿とフィブリン性滲出物は細菌性に多かったこと、多変量解析で独立して糸状菌性と関連したのは鋸歯状の辺縁・盛り上がった壊死組織・色調の3つで、1つあれば真菌の確率63%、3つそろえば83%であったこと、可能な限り微生物検査を行うべきとしていることを確認した。閲覧 2026-09-29
  4. 4.Prospective Study of the Diagnostic Accuracy of the In Vivo Laser Scanning Confocal Microscope for Severe Microbial Keratitis(Ophthalmology(Chidambaram JD, et al.)・2016)抄録(PubMed 27538797)で、インドの直径3 mm以上の微生物性角膜炎239例を対象とした二重遮蔽前向き研究で、レーザー走査型生体共焦点顕微鏡の糸状菌の検出は統合感度85.7%・特異度81.4%、アカントアメーバ嚢子の検出は感度88.2%・特異度98.2%で、検者間の一致もよく、培養と光学顕微鏡が陰性の深い潰瘍で病原体の検出に特に役立ったことを確認した。閲覧 2026-09-29