眼科学

眼科学 · ML-19

ヘルペス角膜炎

Herpetic keratitis

前提:病態
ヘルペスウイルス:単純ヘルペスウイルス1・2型眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断
症状
デスメ膜瘤

🧠 全体像:ヘルペス角膜炎は「どの層で、何が起きているか」で治療が正反対になる。上皮では生きたウイルスが増えているのでステロイドは禁忌、実質(非壊死性)と内皮では残ったウイルス抗原への免疫反応が主体なのでステロイドが主役(抗ウイルス薬で覆う)、はウイルスも免疫反応もない「燃え尽きた」状態なので上皮の保護が主役になる。同じ病名でも見た目が次々に変わる「カメレオン」であり、病型を見分けることがよい結果への第一歩である。

ウイルスはどこに潜み、どう角膜へ来るか

は、初感染のあと(Gasser神経節)の神経細胞に潜伏する。三叉神経は第1枝()・第2枝()・第3枝()に分かれて顔面の知覚を担い、角膜の知覚は第1枝の枝が受け持つ。第1枝のはを通って上皮の直下に神経叢をつくり、上皮の中まで末端を伸ばしている。

再活性化したウイルスは、このに沿って神経節から末梢へ運ばれ、神経末端のある上皮、さらに実質の細胞へ出てくる。ウイルスがどの層に出て、そこで増えるのか、抗原だけが残って免疫反応を起こすのかで、病型が決まる。

flowchart TD
    A["初感染(多くは小児期、口唇・顔面)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trigeminal ganglion'>三叉神経節</span>に潜伏"]
    B --> C["誘因で再活性化<br>発熱・紫外線・ストレス・免疫低下・局所ステロイドなど"]
    C --> D["第1枝の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve fiber'>神経線維</span>を下って角膜へ"]
    D --> E["上皮でウイルスが増殖<br>→ 感染性上皮型(樹枝状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='geographic pattern'>地図状</span>)"]
    D --> F["実質でウイルスが増殖<br>→ 壊死性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal form'>実質型</span>(ヘルペス性潰瘍)"]
    D --> G["実質・内皮にウイルス抗原が残る<br>→ 免疫反応:非壊死性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal form'>実質型</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endotheliitis'>内皮炎</span>"]
    E --> H["再発を繰り返すと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal nerves'>角膜神経</span>が障害<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurotrophic keratopathy'>神経栄養性角膜症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal scar'>角膜瘢痕</span>"]
    F --> H
    G --> H

💡 再発のたびに角膜の神経が壊されるので、が低下していく。これが診断の手がかりになると同時に、晩期のの原因にもなる。関連する全身の感染症としての整理はを参照。

診断の手がかり

ヘルペス角膜炎の診断は、ほとんどの場合、角膜の所見と病歴だけで下す。次の手がかりを組み合わせる。

手がかり 内容 なぜ手がかりになるか
頻度 非常に多い角膜炎である 片眼の角膜炎を見たら、まず鑑別に挙げる
片眼性 通常は片眼に起こる 潜伏した神経節は片側ずつ。ただし小児は成人より両眼性が多い(小児3.4〜26%、成人1.3〜12%)1
再発の既往 以前にも同じ眼に炎症を起こしている 潜伏と再活性化を繰り返すウイルスだから
の低下 知覚が落ちている 再発のたびにが壊れる。⚠️ の前に調べる(でを使うと知覚が評価できなくなる)
所見と痛みの食い違い 他覚所見の程度と的な痛みが釣り合わない 知覚が低下しているので、所見のわりに痛がらないことがある
に病的所見がない 濾胞の増生を伴わない を伴うなどとの区別に役立つ
生体染色 ローズベンガルなどで病変を染める 傷んだ上皮細胞・ウイルスを含む病変の辺縁が染まり、形がはっきりする

⭐ 「片眼・再発・」の三つがそろえばヘルペスを強く疑う。典型的な樹枝状の上皮型は所見だけで確実に診断でき、検査は通常いらない。ではウイルスが通常培養できないので、検査は役に立たない。非典型例では培養やPCRなどの検査を考える1。

病型分類

角膜のどの層が主に侵されているか、そこで起きているのが「ウイルスの増殖」か「免疫反応」か「神経の障害」かで分ける。以下はSeitzとHeiligenhausの分類(2011年)に基づく。

病型 別名 主な病態 治療の軸
感染性上皮型 ・ 上皮内でのウイルス増殖 抗ウイルス薬。ステロイドは禁忌
「メタヘルペス性」角膜炎 ウイルスも免疫反応もない。神経支配と分泌の低下 上皮の保護(・清・羊膜・眼瞼を閉じる処置)
壊死性 ヘルペス性潰瘍 実質での活動性ウイルスの増殖と組織の壊死 抗ウイルス薬(局所+全身)、抗菌薬。初期はステロイドを使わない
非壊死性 残存ウイルス抗原への免疫反応 ステロイド+抗ウイルス薬
円板状角膜炎・角膜ぶどう膜炎 内皮への免疫反応と内皮での抗原の残存 ステロイド+抗ウイルス薬+下降
(を伴う) — 炎症の 静かな時期のと、その後の抗ウイルス薬による予防

米国眼科学会の治療指針は、層で分ける同じ考え方を使い、上皮型・(潰瘍あり/なし)・内皮型の3つに整理している。「円板状角膜炎」は内皮型の旧来の呼び名で、限局したの上に円形〜楕円形の浮腫を伴うことから付いた名前である。角膜全体に及ぶ内皮型もあるので「円板状」は必ずしも正確ではない1。

⚠️ ⭐ 「非壊死性=円板状角膜炎」ではない。円板状角膜炎はの一型である。

flowchart TD
    A["ヘルペス角膜炎を疑う<br>片眼・再発・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced corneal sensation'>角膜知覚低下</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescein staining'>フルオレセイン染色</span>で<br>上皮欠損はあるか"]
    B -->|"ある:樹枝状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='geographic pattern'>地図状</span>"| C["感染性上皮型<br>抗ウイルス薬のみ<br>ステロイド禁忌"]
    B -->|"ある:丸く辺縁がなめらか<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoesthesia'>知覚低下</span>が強い"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurotrophic keratopathy'>神経栄養性角膜症</span><br>上皮の保護が主役"]
    B -->|"ある:実質の潰瘍・菲薄化"| E["壊死性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal form'>実質型</span><br>抗ウイルス薬の局所+全身、抗菌薬<br>初期はステロイドなし"]
    B -->|"ない"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>や浮腫の主座は<br>実質か内皮か"]
    F -->|"実質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal neovascularization'>血管侵入</span>"| G["非壊死性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenchymal form'>実質型</span><br>ステロイド+抗ウイルス薬"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stromal edema'>実質浮腫</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratic precipitates'>角膜後面沈着物</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endotheliitis'>内皮炎</span><br>ステロイド+抗ウイルス薬<br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraocular pressure'>眼圧</span>下降"]

使う抗ウイルス薬の種類・・副作用の一覧は点眼薬の薬理に、病原体別の薬の組み立ては抗微生物薬による治療にまとめてある。ここでは病型ごとの所見と治療の考え方を扱う。

感染性上皮型:樹枝状角膜炎と地図状角膜炎

所見

は、ウイルスが上皮細胞の中で増え、隣の細胞へ次々に広がってできる線状の上皮欠損である。

  • 線状の病変が枝分かれしながら伸びる。
  • 病変は上皮の基底膜を破る。
  • 枝の先端が丸くふくらむ(終末球)。
  • 病変の縁の上皮は腫れていて、そこに生きたウイルスがいる。

で染めて青色光で見ると、潰瘍の底が緑に光る枝分かれした線として浮かび上がり、枝の先端のふくらみもよくわかる。病変は1本の長い樹枝のこともあれば、小さな樹枝がいくつも散らばることもある。

は、樹枝状の病変が広がって、縁が入り組んだ大きな上皮欠損になったものである。ローズベンガルで染めると、病変とその縁の傷んだ上皮が赤紫に染まり、地図のような輪郭が浮かび上がる。

💡 は上皮の欠けた部分(潰瘍の底)を染め、ローズベンガルはのに守られていない傷んだ上皮細胞を染める。ウイルスが生きているのは病変の縁の腫れた上皮なので、ローズベンガルでは縁が強く染まる。

鑑別

鑑別疾患 見分けるポイント
上皮の(上皮欠損が治るときの合わせ目) 上皮びらんの治りかけにできる線状の模様。枝の先端のふくらみがなく、数日で消える
の初期 者。上皮が盛り上がった偽樹枝状の病変で、先端のふくらみを欠く。所見に不釣り合いな強い痛み

⚠️ 者の「」はアカントアメーバを必ず考える。ヘルペスとして治療して治らない場合は特に注意する。

治療

経路 病型別の 米国眼科学会の指針での位置づけ
局所 、アシクロビル、または 局所抗ウイルス薬はどれも有効で、効果はほぼ同等とみなされる
局所ステロイド 使わない 初期治療では避ける
全身 使わない 経口アシクロビル400 mg 1日5回は局所アシクロビルと少なくとも同等の効果があり、も選択肢になる
処置 角膜の表層(ウイルスを含む上皮を拭い取る)は補助的な扱い だけでは治療として不十分で、抗ウイルス薬へのの根拠も弱い

米国眼科学会の指針は、上皮型の第一選択を抗ウイルス薬単独とし、局所ステロイドは初期治療で避けるべきとしている。経口アシクロビルは局所アシクロビルと比べて少なくとも同等の効果が示されている一方、表層を単独で行うのは不十分とされる1。

⚠️ ⭐ 樹枝状の上皮欠損にステロイド点眼を出すと、ウイルスの増殖を助けてに拡大する。赤い眼にステロイドを出す前に、必ずで上皮を確認する。

💡 上皮型の治療中に経口アシクロビルを3週間追加しても、後にが起こるのは防げなかった。上皮型だけを繰り返してきた人が後にを起こすことは少ない1。

神経栄養性角膜症

病態

再発を繰り返した末の典型的な晩期の状態で、「燃え尽きた」段階と表現される。

  • 免疫反応はない。
  • 感染もない(ウイルスは活動していない)。
  • 角膜の神経支配が低下している。
  • の分泌が低下している。

💡 角膜の神経は知覚を伝えるだけでなく、上皮の増殖や修復を支える栄養因子を供給している。神経が壊れると上皮が治らなくなり、さらにで瞬きや涙の反射も減るので、上皮欠損が遷延する。詳しくはを参照。

所見

潰瘍を伴うでは、境界がはっきりして辺縁がなめらかに盛り上がった上皮欠損〜浅い潰瘍を認める。樹枝状病変のような枝分かれや先端のふくらみはない。周囲の実質には、過去の炎症によるが残っていることが多い。

⚠️ 見た目が潰瘍なので抗ウイルス薬を続けたくなるが、ウイルスは活動していない。抗ウイルス薬の点眼を長く続けると、薬そのものので治癒がさらに遅れる。

治療

経路 治療 ねらい
局所 を含まない のを避けて眼表面を潤す
局所 ゲル(粘稠な点眼) 長く眼表面にとどまって保護する
局所 血清に含まれるなどで上皮の治癒を助ける
全身 なし —
処置 上皮が伸びるをつくり、炎症を抑える
処置 による一時的な医原性 を一時的に麻痺させて眼瞼を下ろし、角膜を覆う
処置 (一時的な) 上下の眼瞼を縫い合わせて角膜の露出を減らす

を注射した眼では、上眼瞼が下がってがほぼ閉じた状態()になる。効果は数か月で切れるので、上皮が治るまでの時間を稼ぐ方法である。

羊膜移植:パッチ(被覆)

羊膜は、胎児を包む膜の内側の層で、上皮が伸びるとなり、炎症を抑える作用をもつ。術式の全体像は角膜の手術で扱う。(被覆)として使う場合は、浅いと上皮欠損の上に羊膜を1枚かぶせ、の外側で縫合する。羊膜の下で周囲の上皮が欠損部へ伸びてくる。

flowchart TD
    A["遷延する上皮欠損・浅い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavitation'>実質欠損</span>"] --> B["羊膜をかぶせる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patch'>パッチ</span>)<br>輪部の外側で縫合"]
    B --> C["羊膜の下を周囲の上皮が伸びる"]
    C --> D["上皮欠損が閉じる<br>羊膜は溶けるか取り除く"]

壊死性実質型(ヘルペス性潰瘍)

病態と所見

  • 実質に活動性のウイルスが多い。ウイルス増殖と強い炎症で実質が壊死し、溶ける。
  • 典型的な潰瘍をつくるが、初期にはを伴わない。
  • 細菌のを起こしやすい。
  • ⚠️ 穿孔に注意する。

実質が溶けて薄くなると、最後に残るのは強いだけになり、それがで前方へ膨らむ()。では、潰瘍の中心に暗く小さな陥凹を認め、の光切片で見ると角膜がその一点で極端に薄くなっている。周囲には強い充血を伴う。摘出した角膜の組織では、実質が失われた部分でと内皮だけが残って膨らんでいる。

⚠️ 穿孔の危険があるので、点眼NSAIDsと抗菌薬の組み合わせは避ける。点眼NSAIDsにはとの関連が知られており、すでに溶けかけている角膜にはさらに不利に働く。

💡 を伴わない潰瘍が、あとからを伴うようになったら、細菌のを疑う。潰瘍を伴うは、細菌・真菌・アカントアメーバなどの角膜潰瘍と最も紛らわしい病型である1。

治療

経路 治療
局所 アシクロビル、抗菌薬、。初期はステロイドを使わない
全身 アシクロビル内服400 mgまたは800 mgを1日5回、抗菌薬
処置 。PTKは行わない。のは慎重に考える

💡 は、のけいれんによる痛みを和らげ、のを防ぐ。抗菌薬はの予防と治療のために局所・全身で使う。PTKはエキシマレーザーで角膜の表層を削る治療で、薄く溶けかけた角膜をさらに薄くし、ウイルスを活性化させるおそれがあるので行わない。

米国眼科学会の指針は、潰瘍を伴うの最適な治療は試験で十分に調べられていないとしたうえで、治療量の経口抗ウイルス薬と慎重な局所ステロイドの組み合わせを示唆している。経口アシクロビル400 mg 1日5回でに治療濃度が得られる。については、症例集積の報告はあるものの、その役割はまだ推測の域にあるとしている1。

炎症期の角膜移植とその難しさ

穿孔した、あるいは穿孔しかけた眼では、炎症が残っている時期にをせざるを得ないことがある(の)。小さな穿孔なら、から外れた位置に小径のを縫い付けるの移植で対応することもある。の周囲を単縫合で固定する。

のには次の難しさがある。

問題 理由
提供角膜がない・質が十分でない 緊急手術なので、よい提供角膜をすぐに確保できない
感染が持続する を取り切れないことがある
感染が再発する 神経節に潜むウイルスがに再び出てくる
上皮欠損が遷延する と炎症で上皮が治らない
縫合糸がゆるむ 炎症で組織が溶け、糸が効かなくなる
炎症眼ではに血管が入りやすい
免疫反応() と炎症でが起こりやすい
炎症と隅角の障害でが上がる

症例から学ぶ:同時羊膜パッチ

ヘルペスによる瘢痕に対して、同じ眼の角膜を回転させて移し替える回転を受けた眼に、のちにができ、さらに褐色の核も進んでいた。この眼には、エキシマレーザーで楕円形に切り出したのによるトリプル手術(・・挿入の同時手術)をに行い、同時に羊膜をかぶせた。術後は放射状の単縫合で固定されたが得られている。

💡 教訓は二つある。回転はヘルペス瘢痕の眼では勧められないこと(後述)と、に移植せざるを得ないときは羊膜を同時にかぶせて上皮化を助けることである。

ヘルペス性潰瘍の治療計画

flowchart TD
    A["ヘルペス性角膜潰瘍"] --> B["抗菌薬(局所・全身)<br>+抗ウイルス薬"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amniotic membrane transplantation'>羊膜移植</span>で潰瘍をふさぐ<br>(推奨される流れ)"]
    C --> D["炎症のない時期に<br>予定手術として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal transplantation (keratoplasty)'>角膜移植</span>"]
    B --> E["穿孔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impending perforation'>切迫穿孔</span>で待てない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory phase'>炎症期</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal transplantation (keratoplasty)'>角膜移植</span>"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>で覆う(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>被覆)"]

推奨される流れは、で潰瘍をふさぎ、炎症のない時期に予定手術としてを行うことである。のと被覆は、それができないときの手段になる。

羊膜移植:サンドイッチ法(トリプルグラフト・サンドイッチ)

深いには、1枚では足りない。欠損の縁の上皮を部分的に擦り取ったうえで、()として羊膜を何層か欠損の中に詰め、その上をオーバーレイ()として羊膜で覆い、輪部の外側で縫合する。これを「サンドイッチ=+オーバーレイ」、層を重ねるものを「トリプル・サンドイッチ」と呼ぶ。

方法 羊膜の置き方 向いている欠損
(オーバーレイ) 欠損の上に1枚かぶせる 上皮欠損・浅い
() 欠損の中に詰める。上皮は羊膜の上を伸びる
サンドイッチ で詰めて、で覆う 深い・

の前にを行うことには、次の利点がある。

  • 炎症を抑える。
  • 上皮化を促す。
  • 炎症のある状態でのを避けられる。
  • その結果、の予後がよくなる。

実際に、潰瘍の眼にトリプル・サンドイッチを行って炎症を鎮め、その後に予定手術としてを行うと、透明なが得られている。後の組織では、の上に重ねた羊膜の層(1〜5層)が実質に組み込まれ、上を上皮が覆っている(実質への統合)。

非壊死性実質型

病態と所見

  • を伴う、または伴わないとして現れる。
  • 実質が硬く白くしていくの形をとることもある。
  • 実質に残ったウイルス抗原に対して、抗原・抗体・補体が連鎖的に反応して起こる免疫反応である。

上皮は保たれ、実質にと浮腫を認める。の光切片では実質がし厚くなっている。

⚠️ 非壊死性は「円板状角膜炎」ではない(円板状角膜炎はの一型)。

治療

経路 治療
局所 アシクロビル、ステロイド
全身 アシクロビル内服400 mg 1日5回、ステロイド
手術 なし

免疫反応が主体なので、ステロイドが治療の中心になる。ステロイドでウイルスがしないよう、抗ウイルス薬で覆う。

⭐ この治療の根拠がHEDSである。活動性の実質炎106例で、点眼を全例に併用し、点眼を10週かけてした群は、プラセボ群に比べて実質炎が遷延・悪化する危険が68%低く、早く消退した。6か月後の視力と再発には差がなく、慎重に経過をみながらステロイドを数週間遅らせても6か月後の視力に悪影響はなかった2。

同じくHEDSで、点眼と点眼に経口アシクロビル400 mg 1日5回を10週追加した試験では、までの期間や消退の割合に有意な効果はなかった。ただし6か月で視力が改善した患者はアシクロビル群で多かった3。

米国眼科学会の指針はこれらを踏まえ、潰瘍のないには局所ステロイドと経口抗ウイルス薬の併用を少なくとも10週行うことを推奨している。HEDSでは10週のが終わって6週以内にステロイド併用群の約半数がしており、10週では短すぎた可能性があるので、ステロイドは10週を超えてする。抗ウイルス薬は、点眼やゲルでは実質への移行が不十分で、は長く使うと毒性やの狭窄を起こすので、が好まれる1。

💡 ステロイドでが上がりやすい患者では、点眼がステロイドを減らす補助として使われた報告がある1。病型別のでは重症例に全身ステロイドも併用するが、米国眼科学会の指針が中心に据えているのは局所ステロイドである。

内皮炎・線維柱帯炎

病態と所見

所見 内容
限局性(円板状)またはびまん性の
浮腫の境界 浮腫のある部分とない部分の間に、はっきりしたを認める
微小なの
浮腫の範囲の内皮面に沈着物を認める
の細胞 に炎症細胞が浮かぶ()
続発性のを伴うことが多い()

原因は、免疫学的な機序に、内皮でのウイルス抗原の残存が加わったものと考えられている。

「円板状角膜炎」では、の光切片で限局した実質の肥厚とを認める。「びまん性」では、角膜のほぼ全体がすりガラス状にして浮腫を起こす。

💡 内皮はポンプとして角膜から水をくみ出して透明に保っている。内皮に炎症が起きると、その範囲だけ水がたまって浮腫になる。浮腫の境界がはっきりしているのは、炎症を起こした内皮の範囲に一致するからである。にも炎症が及ぶとの流出が妨げられ、が上がる。

鑑別として、内に浮かぶ異物(小さな異物が内を漂い、内皮に接する部分に限局した浮腫を起こす)を考える。米国眼科学会の指針は、ほかに各種の角膜ぶどう膜炎、、による、後のを鑑別に挙げている1。前部ぶどう膜炎としての整理はぶどう膜炎の分類と前部ぶどう膜炎を参照。

治療

経路 治療
局所 アシクロビル、ステロイド、抗緑内障点眼(は使わない)
全身 アシクロビル内服400 mg 1日5回、ステロイド、抗緑内障薬()
手術 なし。が下がらなければ緑内障手術を検討

米国眼科学会の指針も、内皮型には局所ステロイドと経口抗ウイルス薬の併用を推奨している。米国で使える点眼とゲルは角膜への移行が不十分なので内皮型には勧められず、で角膜内の濃度を確保する。内皮型はより早く反応し、長期の治療を要しないことがある1。

⚠️ ⭐ ヘルペス角膜炎に伴うは、まず薬で保存的に下げる。ただしなどのは避ける。の使用中にヘルペスの上皮型が起こり、中止で治り再開で再発した報告があり、米国眼科学会の指針もHSVの既往がある眼では避けるのが望ましいとしている1。の選び方は緑内障(閉塞隅角・続発・治療)を参照。

角膜瘢痕

所見

炎症が治まったあとには、を伴う、または伴わないが残る。

状態 所見 意味
古い瘢痕 白いで、の光切片では実質が薄くなっていることが多い 炎症は終わっている
を伴う の部分が灰色にくもり、光切片で角膜が厚くなっている 活動性の病変が残っている

💡 瘢痕が「薄い」か「厚い」かで、炎症が終わっているかどうかを見分ける。厚く浮腫を伴うなら、まず炎症を治療する。

治療

  • エキシマレーザーによるPTKが役立つことはごくまれで、行うならアシクロビルで覆って行う。
  • 従来の方針では、内皮にウイルスが残っているという理由からは行わない(内皮を残すと、そこに残ったウイルスごと残すことになる)。一方、米国眼科学会の指針は、ヘルペス後のにを行い経口予防を併用した複数の報告で、と同程度の再発率(術後1年で0〜33%)でより良い視力が得られたと紹介しており1、現在は選択肢の一つとして扱われる。
  • 同じ眼の角膜を回転させて移し替える回転は行わない(前述の症例のように、のちになどを起こしうる)。
  • のあとは、少なくとも1年間、アシクロビルを内服させる(例:400 mgを1日2回)。

後にヘルペス角膜炎が再発すると、のと不全の危険が高まる。米国眼科学会の指針によると、抗ウイルス薬の予防をしない場合の再発率は術後2年で27〜50%にのぼり、経口アシクロビルの期間が長いほど再発は少なく、1年間続けた場合の術後1年の再発率は0〜5%であった。再発の多くは術後1年以内に起こるので、少なくとも1年続けることに利点がある。さらに、局所ステロイドを使っている間は経口予防を続けるのが妥当とされる1。

後の眼では、を星形の二重や放射状の単縫合で固定しており、予防がうまくいくとは透明に保たれる。

再発の予防

ヘルペス角膜炎を繰り返す眼での予防として、次のような組み合わせがある。

  • アシクロビルを1日1回、夜に。
  • アシクロビル内服400 mgを1日2回、月単位で続ける。
  • 酢酸点眼を1日1回。
  • (上皮を守ることが大切)。

⚠️ この組み合わせのステロイド点眼は、・の既往がある眼で炎症のを抑えるための少量(1日1回)であり、必ず抗ウイルス薬(内服・)と併用する。ステロイドを単独で使うと上皮型の再発を招く。

⭐ 経口予防の根拠はHEDSである。過去1年以内に眼部ヘルペスを起こした703例で、アシクロビル400 mgを1日2回12か月内服すると、眼の再発は19%対32%に減り、実質炎の既往がある人では実質炎の再発が14%対28%に半減した。服薬をやめたあとの6か月で再発の跳ね返りはなく、長期予防は実質炎の既往がある患者で最も重要とされた4。

米国眼科学会の指針は、再発性のの既往がある患者に、1年以上の長期低用量の経口予防を推奨している。再発を減らすと証明されているのは、アシクロビル400 mg 1日2回または500 mg 1日1回の長期(1年)予防だけである1。

💡 予防の効果は服薬している間だけで、やめると元の再発率に戻る。は再発のたびに瘢痕が増えて視力を失っていくので、予防の恩恵がいちばん大きい。

病型ごとの治療のまとめ

病型 局所 全身 処置
感染性上皮型 抗ウイルス薬(・アシクロビル・)。ステロイド禁忌 通常不要(経口抗ウイルス薬も選択肢) 表層は補助的
なしの・ゲル・清 なし 、、
壊死性 アシクロビル、抗菌薬、。初期はステロイドなし アシクロビル内服、抗菌薬 (サンドイッチ)→静かな時期の。PTKは行わない
非壊死性 アシクロビル+ステロイド アシクロビル内服(+ステロイド) なし
アシクロビル+ステロイド+抗緑内障点眼(以外) アシクロビル内服(+ステロイド)、 なし(が下がらなければ緑内障手術)
— 後はアシクロビル内服を少なくとも1年 静かな時期の。回転移植は行わない。層状移植は従来避けられてきたが、現在は経口予防を併用したも選択肢

眼部帯状疱疹との関係

同じのもに沿って再活性化し、角膜炎・ぶどう膜炎・強膜炎を起こす()。による角膜炎は、の上皮型・の鑑別に挙がる1。

まとめ

  • はに潜伏し、第1枝を下って角膜に再発する。片眼・再発・(の前に調べる)がそろえば強く疑う。小児は成人より両眼性が多い。
  • 病型は、感染性上皮型・・壊死性・非壊死性・・に分ける。層と病態(ウイルス増殖か、免疫反応か、神経障害か)で治療が決まる。
  • 上皮型(樹枝状・)は抗ウイルス薬のみで、ステロイドは禁忌。者の樹枝状病変はアカントアメーバを疑う。
  • はウイルスも免疫反応もない燃え尽きた状態で、なしの・清・・・で上皮を守る。
  • 壊死性は穿孔の危険があり、抗ウイルス薬の局所+全身と抗菌薬で治療し、初期はステロイドを使わない。で炎症を鎮めてから静かな時期にするほうがの予後がよい。
  • 非壊死性とは免疫反応が主体で、ステロイドは必ず抗ウイルス薬の併用下で使う(HEDS:局所ステロイドで遷延・悪化が68%減)。現行の指針では局所ステロイドと経口抗ウイルス薬の併用を少なくとも10週、ステロイドは10週を超えてする。
  • のは保存的に下げ、は避ける。
  • 後は少なくとも1年アシクロビルを内服する。を避ける方針は従来のもので、現在は経口予防を併用したも選択肢。
  • 再発性のにはアシクロビル400 mg 1日2回(または500 mg 1日1回)を1年以上予防投与する。HEDSでは眼の再発が32%から19%に減り、実質炎の既往例では実質炎の再発が28%から14%に半減した。

出典

  1. 1.Herpes Simplex Virus Keratitis: A Treatment Guideline(American Academy of Ophthalmology (Ocular Microbiology and Immunology Group)・2014)米国眼科学会のウェブ版全文で確認した。角膜の層で上皮型・実質型(潰瘍あり/なし)・内皮型に分け、円板状角膜炎は内皮型の旧称とすること、上皮型は抗ウイルス薬単独が第一選択で初期に局所ステロイドを避けること、経口アシクロビル400 mg 1日5回は局所アシクロビルと少なくとも同等で、表層掻爬を単独で行うのは不十分であること、実質型(潰瘍なし)は局所ステロイドを少なくとも10週と経口抗ウイルス薬の併用が推奨され、トリフルリジン・ガンシクロビルの点眼は実質への移行が不十分なため経口薬が好まれること、潰瘍を伴う実質型は治療量の経口抗ウイルス薬と慎重な局所ステロイドが示唆され羊膜移植の役割は推測の域にあること、内皮型は局所ステロイドと経口抗ウイルス薬の併用が推奨されること、プロスタグランジン関連薬はHSVの既往がある眼では避けるのが望ましいこと、全層角膜移植後の経口アシクロビルの期間が長いほど再発が少なく1年で0〜5%であること、長期低用量の予防(アシクロビル400 mg 1日2回またはバラシクロビル500 mg 1日1回)は再発性の実質型の既往がある患者に推奨されること、上皮型の治療中に経口アシクロビルを3週間追加しても後の実質型を防げなかったこと、HEDSでは10週の漸減終了後6週以内に併用群の半数が再燃しステロイドの漸減は10週を超える期間が推奨されること、典型的な上皮型は細隙灯所見で診断でき実質型ではウイルスが通常培養できず検査が役立たないこと、小児は成人より両眼性が多い(小児3.4〜26%、成人1.3〜12%)こと、角膜移植後は局所ステロイドを使っている間は経口予防を続けるのが妥当とされること、ヘルペス後の実質瘢痕に対する深層層状角膜移植は経口予防を併用すると全層角膜移植と同程度の再発率(1年で0〜33%)でより良い視力が得られたとする報告が複数あること、上皮型と実質型(潰瘍あり・なし)の鑑別に水痘帯状疱疹ウイルス角膜炎が挙がることを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Herpetic Eye Disease Study. A controlled trial of topical corticosteroids for herpes simplex stromal keratitis(Ophthalmology(Herpetic Eye Disease Study Group)・1994)Europe PMCの構造化抄録(PMID 7997324)で確認した。活動性の単純ヘルペス角膜実質炎106例の二重遮蔽プラセボ対照試験で、全例にトリフルリジン点眼を併用し、プレドニゾロン点眼を10週かけて漸減した群ではプラセボ群に比べ実質炎の遷延・悪化の危険が68%低く、消退までの期間も短かったこと、無作為化6か月後の視力と再発には有意差がなく、慎重に経過をみながらステロイドを数週間遅らせても6か月後の視力に悪影響はなかったことを確認した。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Herpetic Eye Disease Study. A controlled trial of oral acyclovir for herpes simplex stromal keratitis(Ophthalmology(Herpetic Eye Disease Study Group)・1994)Europe PMCの構造化抄録(PMID 7997323)で確認した。上皮病変を伴わない単純ヘルペス角膜実質炎104例で、プレドニゾロン点眼とトリフルリジン点眼に経口アシクロビル400 mg 1日5回を10週追加しても、治療失敗までの期間・失敗割合・消退割合・6か月後の最良矯正視力に有意な上乗せ効果がなかったこと、ただし6か月で視力が改善した患者はアシクロビル群で多かったことを確認した。閲覧 2026-09-29
  4. 4.Acyclovir for the prevention of recurrent herpes simplex virus eye disease. Herpetic Eye Disease Study Group(New England Journal of Medicine(Herpetic Eye Disease Study Group)・1998)Europe PMCの構造化抄録(PMID 9696640)で確認した。過去1年以内に眼部単純ヘルペスを起こした免疫正常者703例にアシクロビル400 mg 1日2回またはプラセボを12か月内服させ、眼の再発の累積確率が19%対32%(P<0.001)、実質炎の既往がある337例では実質炎の再発が14%対28%(P=0.005)であったこと、服薬中止後6か月に再発の跳ね返りがなかったこと、長期予防は実質炎の既往がある患者で最も重要であると結論していることを確認した。閲覧 2026-09-29