眼科学

眼科学 · ML-21

角膜の手術

Corneal surgery

前提:正常
感覚器:眼
症状
デスメ膜瘤

🧠 全体像:角膜の手術は「病気がある層だけを、必要な分だけ扱う」方向へ進んできた。表面の数十 µm のや凹凸ならエキシマレーザーで削り(術 PTK)、弱くなって前へ膨らむ角膜ならコラーゲンを架橋して硬くし( CXL)、形だけ整えたいならリングを埋め込む。治らない上皮欠損や深い潰瘍には羊膜を貼って治癒を助ける。それでも透明性が戻らなければで、全層を置き換えるから、実質だけを替える DALK、内皮だけを替える DSAEK・DMEK へと、置き換える範囲が狭くなるほどと縫合の問題が減り、視力の回復が早くなる。

角膜手術の全体像

角膜は前から上皮、Bowman 層、実質、、内皮の5層でできている(層構造の詳細は感覚器:眼)。どの手術を選ぶかは、どの層に病気があるかとどのくらいの深さかでほぼ決まる。

手術 扱う層・目的 主な対象
術 PTK 上皮〜実質の表層を削って滑らかにする 、表層の変性・ジストロフィー、上皮下
のレーザー手術(PRK・LASEK・LASIK) 実質の表層を削ってカーブを変える ・・(詳細は角膜)
CXL 実質のどうしを架橋して硬くする 進行性の、後の角膜拡張
角膜内リング 実質のに弧状のリングを入れて形を整える
羊膜を貼って上皮化と実質の修復を助ける 治らない上皮欠損、角膜潰瘍、
前部 DALK 実質をまで取り除いて置き換える。宿主の内皮は残す 内皮が健全な・実質の
後部 DSAEK・DMEK 病的な内皮とを置き換える Fuchs ー、
角膜の全層を円形に切り抜いて置き換える 全層に及ぶ瘢痕・、穿孔、重い感染
flowchart TD
    A["角膜の病変"] --> B{"病変は表層の<br>上皮・Bowman 層・実質<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superficial'>浅層</span>に<br>限られるか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic'>治療的</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratectomy'>角膜切除</span>術 PTK<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='refractive correction'>屈折矯正</span>なら PRK など)"]
    B -->|"いいえ"| D{"問題は角膜の<br>強さ・形か"}
    D -->|"はい:進行する拡張"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal cross-linking'>角膜クロスリンキング</span>"]
    D -->|"はい:形を整えたい"| F["角膜内リング"]
    D -->|"いいえ"| G{"上皮が治らない<br>潰瘍が深いか"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amniotic membrane transplantation'>羊膜移植</span><br>(原因疾患の治療と並行)"]
    G -->|"いいえ:透明性の喪失"| I{"どの層が<br>透明性を失っているか"}
    I -->|"実質(内皮は健全)"| J["DALK"]
    I -->|"内皮"| K["DSAEK・DMEK"]
    I -->|"全層"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='penetrating keratoplasty'>全層角膜移植</span>"]

エキシマレーザーによる表層の手術

エキシマレーザーは193 nm の紫外線で分子の結合を直接切り、熱を出さずに約1 µm ずつ組織を削る。原理とへの応用は角膜で扱う。ここでは、屈折ではなく病気の治療のために削る使い方を中心に整理する。

治療的角膜切除術 PTK

角膜の表層のや凹凸をレーザーで削り取り、滑らかな面の上に上皮を張り直させる。削るのは表層だけなので、深いには向かない。

対象 所見 PTK で何を狙うか
の上皮が不整に荒れ、はがれかけた上皮の小片がきらきらと光る 基底膜の異常な面を削り、上皮がしっかり接着し直す面を作る
Salzmann 結節変性 角膜周辺部に、灰白色でやや盛り上がった結節状のが並ぶ 盛り上がった結節を平らにする
上皮下 のすぐ下に、境界のぼやけた白い斑状のが多数散らばる の層を削り取る
・点状・状ジストロフィー(ー) で、上皮内に地図の輪郭のような線、細い曲線の状の線、小さな点状の白い沈着が混在する 異常な基底膜を削り、再発性びらんを防ぐ

💡 ・点状・状ジストロフィーは、上皮の基底膜が異常に作られて上皮内へ折り込まれる病気である。上皮が下の層にしっかり固定されないので、朝起きて眼を開けた瞬間に上皮がはがれるを起こしやすい。PTK はこの「接着の悪い面」を削り直す治療である。ーと変性の全体像はーと変性で扱う。

上皮の除去

PTK・PRK では、レーザーを当てる前にまずを取り除く。ヘラ状の器具で中央の上皮を削り取ると、その下の Bowman 層が露出する。手術顕微鏡下では、中央の円形の範囲の上皮がはがされて、赤い光点が角膜上に映る。上皮はアルコールで緩めて取る方法やレーザーで削る方法もある。

屈折矯正手術での選び方

のレーザー手術は、角膜のどこでレーザーを当てるかで3つに分かれる。リンゴの皮にたとえると違いが分かりやすい。

術式 手技 リンゴのたとえ
PRK 上皮をヘラで削り取ってから、Bowman 層と実質の表面を削る 皮をむいて捨て、その下の実を削る
LASEK 上皮をアルコールで緩めて薄いシートとしてめくり、削ったあと戻す 皮を薄くめくって、あとで元に戻す
LASIK 角膜表層をヒンジ付きのフラップとして切り、めくった下の実質を削って戻す 実ごと厚めのふたを切ってめくり、中を削ってふたを戻す

⭐ どの術式を選ぶかは、矯正したい度数の幅と角膜の厚さで決まる。 度数が大きいほど削る量が増え、フラップを作る LASIK は角膜が十分に厚くないと残る実質が足りなくなる。適応・禁忌の詳細は角膜を参照。

PTK・PRK の後のヘイズ

表層を削ったあと、上皮の下での細胞が活性化し、新しいを作ることがある。これが上皮下の(ヘイズ)である。

  • の斜めの光で、切除した範囲の上皮直下に、細かい状・すりガラス状の白いが広がる。
  • を背景にすると、淡い斑状のが浮かび上がって見える。

ヘイズはやまぶしさの原因になる。深い切除ほど起こりやすい。

角膜クロスリンキング

しくみ

角膜の強さは、実質のとその間の結合で決まる。では実質が薄く弱くなり、に押されて前へ突出していく。クロスリンキングは、の(ビタミン B2)と紫外線 A を組み合わせて、どうしに新しい橋を架け、角膜を硬くする1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='riboflavin'>リボフラビン</span>5-リン酸<br>(ビタミン B2)を点眼"] --> B["紫外線 A を照射<br>370 nm・3 mW/cm²・30分"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='riboflavin'>リボフラビン</span>が励起され<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive oxygen species'>活性酸素</span>(O₂⁻ などのラジカル)が生じる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen fibers'>コラーゲン線維</span>の間に<br>新しい共有結合(架橋)ができる"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen fibers'>コラーゲン線維</span>が太くなり<br>角膜全体が硬くなる"]
    E --> F["角膜拡張の進行が止まる・遅くなる"]

架橋の化学を段階で書くと次のようになる。

段階 起こること
1. と紫外線 A を同時に与える 5-リン酸を実質に浸み込ませてから、紫外線 A を当てる
2. 酸素ラジカルの発生 光で励起されたが、O₂⁻ などのを作る
3. コラーゲンの架橋 隣り合うの間に、–CH₂–CH₂–N=CH–CH₂– のような結合(N=CH の結合)が新しくできる

模式的に描くと、照射前は波打つの間に少数の架橋しかないが、照射後は線維の間の架橋が増え、の径が太くなり、硬さ()が増す。照射波長は365 nm と説明されることが多く、原法の論文では370 nm だが、どちらも紫外線 A の波長域である。

💡 は紫外線を吸収する「光の」も兼ねる。実質にが十分に浸み込んでいると、紫外線は前方の実質で吸収され、奥の内皮やまで届きにくい。だから角膜が薄すぎると内皮が紫外線で傷つく。

手順

原法(Dresden プロトコル)は次のとおりである2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topical anesthesia'>点眼麻酔</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid speculum'>開瞼器</span>をかける"] --> B["角膜中央の上皮を除去"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='riboflavin'>リボフラビン</span>を2分ごとに30分点眼<br>実質に浸透させる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal thickness'>角膜厚</span>を確認<br>(照射時の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stromal thickness'>実質厚</span> 400 µm 以上)"]
    D --> E["紫外線 A を30分照射<br>照射中も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='riboflavin'>リボフラビン</span>を2分ごとに点眼"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bandage contact lens'>治療用コンタクトレンズ</span>をのせ<br>抗菌薬を点眼"]

手術では、で開いた眼に注射器の先からの黄色い液をし、角膜がでに染まる。その後、仰向けの患者の眼の真上に筒形の紫外線照射装置を据えて、決められた距離から角膜中央に照射する。原法の報告では1 cm の距離から30分照射した1。

照射時間を短くするための高の短時間法や、上皮を残したまま行う経上皮法も考案されているが、経上皮法は合併症が少ない代わりに効果が弱まる可能性がある2。

適応・禁忌・結果

項目 内容
適応 進行性の、後の角膜拡張。米国 FDA は14〜65歳を対象に承認している2
位置づけ 進行性に推奨される治療。視力が落ちてからではなく、進行が分かった早い段階で考える2
禁忌 照射時の厚が400 µm 未満(を防ぐため)。ので一時的に角膜を厚くして400 µm に届かせる方法がある2
注意 紫外線でが再活性化しうるので、HSV 角膜炎の既往では慎重に行う。実質の瘢痕、重い、角膜が薄くなる自己免疫疾患も禁忌に挙げられる2
合併症 、角膜線条、、、眼痛、、無菌性浸潤、・瘢痕、治らない上皮欠損、(による)2
結果 最初の臨床報告では23眼の全例で進行が止まり、70%で最大角膜が平均2.01 D 下がった。角膜との透明性、、は変わらなかった1

⭐ クロスリンキングは角膜を元の形に戻す治療ではなく、進行を止める治療である。止めた後の見え方は、・・角膜内リングで補う。の診断と病期はで扱う。

角膜内リング

角膜拡張症の形

角膜が薄くなって突出する病気(角膜拡張症)は、突出の場所と形で区別する。角膜の断面の輪郭で比べると次のようになる。

病名 断面の輪郭
角膜の中央〜やや下方が薄くなり、円錐状に前へ尖る
角膜トーラス(ペルーシド角膜辺縁変性) 角膜の下方周辺部が帯状に薄くなり、そのすぐ上が突出する
角膜 角膜全体が一様に薄くなり、全体がに大きく膨らむ
限局性後部 角膜の前面は正常で、後面だけが局所的にくぼむ

はで横から見ると、角膜の中央が尖った円錐形に前へ張り出して見える。ペルーシド角膜辺縁変性はより発症が遅く、角膜はまれで小児にみられ、多くは先天性である2。

リングの原理と所見

角膜内リングは、透明な弧状の片をのの深い層に埋め込み、周辺を持ち上げることで中央を平らにし、突出の頂点を中央寄りに整える。

  • では、瞳孔を囲むの実質内に、弧状のリングが2本、輪郭のくっきりした帯として見え、リングの端に小さな穴が見える。
  • OCT では、角膜のの実質の深い層の中に、リングの断面が左右1つずつ、周囲より明るく縁取られた小さな楕円として写る。
項目 内容
適応 中央が透明で、厚さが400 µm 以上ある拡張角膜。・を上げ、コンタクトレンズを合わせやすくする2
限界 病気の進行そのものは止めない(進行を止めるのはクロスリンキング)2
製品 米国で承認されている Intacs は、ポリメタクリル酸メチル製の弧の長さ150°の半円2本で、光学域は約7 mm2
FDA が定める Intacs の禁忌 21歳未満、コンタクトレンズで機能的な視力が得られる、角膜中央が透明でない、切開部のが450 µm 未満2
合併症 感染、、術中の穿孔、術後のリングの露出・移動、上皮欠損、瘢痕、2

💡 クロスリンキングとリングは役割が違う。クロスリンキングは「これ以上悪くしない」、リングは「今の形を整える」。両方を組み合わせることも多い。

羊膜移植

羊膜とは

羊膜は胎盤の最も内側の膜である。帝王切開で得た胎盤から羊膜を丁寧にはがし、洗浄して保存する。はがした羊膜は、手袋をした両手で広げると向こうが透けて見えるほど薄く透明な膜である。

羊膜の構造 角膜との共通点
の細胞が1層に並ぶ上皮 上皮の土台として働く
基底膜 が這い広がり、接着するになる
血管のない実質(III・IV・V・VII 型コラーゲン) 角膜と同じくで、構成が角膜に似る

💡 羊膜の基底膜は、が這い上がって接着するための「新しい床」になる。さらに羊膜には炎症と、血管の侵入を抑える働きがあるとされ、上皮化が進まない眼表面の環境を整える。

羊膜移植の術式

羊膜の置き方には、上から覆う「」、欠損を埋める「」、両者を重ねる「サンドイッチ」がある。

術式 羊膜の置き方 羊膜の向き・固定 対象 羊膜のその後
(上に被せる) 角膜全体を覆う大きな羊膜を、輪部を越えた外側で縫い付ける のように上から覆う びらん、浅い潰瘍 上皮はの下で伸びる。は数日〜数週で溶けるか外れる
(単層・埋め込み) 欠損の大きさに切った1枚の羊膜を、潰瘍の底に敷く 潰瘍の縁の上皮を小さく削り取り(局所的な)、その縁で縫う 浅い潰瘍 上皮が羊膜の上に這い上がり、羊膜は角膜に取り込まれる
(多層・埋め込み) 大きさを少しずつ変えた複数枚の羊膜を、深い潰瘍の底から重ねて埋める 同上。最を縁の部で縫う 深い潰瘍 重ねた羊膜が実質の欠損を埋めて、実質に取り込まれる
サンドイッチ(+) 潰瘍に多層のを埋めたうえに、さらに大きなを被せる は縁で、は輪部の外で縫う 深い潰瘍 埋めた層は実質に取り込まれ、上のは早期に外れる
キャリア(運び手) 羊膜を土台にして、培養した細胞を眼表面へ運ぶ ― 輪部の幹細胞の不足など ―

羊膜の置き方を断面で比べると、は角膜の上皮も潰瘍もまとめて覆い、輪部より外で縫われる。は潰瘍の範囲だけに収まり、周囲の健常な上皮の縁を局所的に削った部分で縫われる。多層とサンドイッチでは、潰瘍の深さに合わせて径の小さい羊膜から順に積み重ねる。

キャリアとしての羊膜は、で培養した上皮細胞を移植する際の土台として使われる。

flowchart TD
    A["治らない上皮欠損・潰瘍"] --> B["原因疾患の治療を並行<br>(ヘルペス・関節リウマチ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular pemphigoid'>眼類天疱瘡</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='atopic dermatitis, AD'>アトピー性皮膚炎</span>など)"]
    B --> C{"潰瘍の深さは"}
    C -->|"上皮のびらん・浅い潰瘍"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patch'>パッチ</span><br>または単層<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft'>グラフト</span>"]
    C -->|"深い潰瘍"| E["多層<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft'>グラフト</span>"]
    C -->|"深い潰瘍で<br>表面の保護も要る"| F["サンドイッチ<br>(多層<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft'>グラフト</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patch'>パッチ</span>)"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='descemetocele'>デスメ膜瘤</span>"| G["多層<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft'>グラフト</span>で補強<br>緊急の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal transplantation (keratoplasty)'>角膜移植</span>を避ける"]

所見

  • :角膜全体が、周辺で縫合された半透明の膜に覆われ、膜の下の角膜がやや白くかすんで見える。は強く充血する。
  • :角膜の一部の潰瘍の範囲に、境界のある小さな羊膜片が数本ので固定されている。
  • 多層:角膜の潰瘍の範囲に、何枚も重ねた羊膜が花びらのような縁をもつ円形の白い塊として乗り、放射状の十数本で固定されている。

症例から学ぶ:移植片上のヘルペス性潰瘍

を受けた眼に、ヘルペス性角膜炎による深い角膜潰瘍がの上に生じた例である。

時期 所見
術前 の中央に、実質が溶けてだけが残り前へ膨らむを認める。周囲のはし、は充血している
後5日 径3・3・3・4・5 mm の羊膜を5層重ねた5層を潰瘍に埋め、放射状ので固定。中央に厚い白い円形の羊膜が乗る
4週後 羊膜は角膜と一体化し始め、中央は白いとして残る。縫合糸は残っている
6か月後 中央に瘢痕性のが残った状態で、再度のを予定した

組織では、の上に5層の羊膜が層状に重なったまま実質の中に取り込まれ(実質への統合)、その表面をが覆っている。1〜5の番号を付けた羊膜の層が、実質の線維と区別しにくいほどになじんでいる。

💡 この症例の教訓は、が穿孔しかけた角膜を「つなぎ」として支え、炎症の強い時期の緊急を避けられることである。炎症が落ち着いてから計画的にを行えば、は生き残りやすい。ヘルペス性角膜炎そのものはヘルペス性角膜炎で扱う。

羊膜移植のまとめ

  • 治らない上皮欠損に対する治療の選択肢の一つである。
  • どの症例でも原因疾患の十分な治療が欠かせない(ヘルペス、関節リウマチ、、など)。羊膜は原因を治すものではない。
  • で緊急のを避けられることがある。
  • と同時に羊膜を移植すると、創傷治癒とのを助ける。

⚠️ 上皮欠損が治らない背景には、、性角膜症、重い、自己免疫疾患がある。原因を放置して羊膜だけ貼っても、再び溶ける。

全層角膜移植

角膜の全層を円形に切り抜き、提供者の角膜(ドナー角膜)の同じ大きさの円板を縫い付ける。最も古くからあるで、全層に及ぶ瘢痕・・穿孔に対応できる。

切り抜き方(トレパン)

方法 内容
手持ちのトレパン 円筒形の刃。径8.0・8.25・8.5・9.0・10.0 mm などのがあり、病変の大きさに合わせて選ぶ
Hessburg-Barron の吸引式トレパン 角膜に吸着させるリングと刃が一体になった器具。注射器と細い管で陰圧をかけて固定し、刃を回して切る。眼球が動かず、垂直に切りやすい
エキシマレーザーによるトレパン 金属のマスクを角膜にのせ、HeNe レーザーで誘導した回転するエキシマレーザー光をマスクの縁に沿って当てる。マスクで守られた部分の角膜は残り、縁だけが光切除される

エキシマレーザーによるトレパンでは、ドナー側はドナー用マスクでを覆ってその外周を、受け手側は受け手用マスクで周囲を覆ってその内側を、どちらも上皮側から切る。刃で押さないので組織がゆがまず、ドナーと受け手の切り口の形と傾きがよくそろう。

縫合

は、周囲に放射状のを並べるか、2本のを星形に交差させて固定する。では、透明なの縁に沿ってジグザグの縫合糸が2重の星形を描き、のは透明に保たれている。縫合糸は、創が安定する3〜6か月以降に、角膜形状でを見ながら選んで抜く。ゆるんだ・露出した・血管が入り込んだ縫合糸は、感染やの引き金になるので早めに抜く2。

特殊な全層角膜移植

術式 状況 所見・要点
同側自己回転 のあとに角膜中央に縦の線状瘢痕が残り、にかかる 自分の角膜を円形に切り抜き、回転させて瘢痕をの外へ移して縫い戻す。術後は瞳孔の前が透明になり、周囲にが並ぶ。自分の組織なのでが起こらない
ーへの移植 実質全体がかすみ、灰白色で境界の不明瞭なが角膜中央から周辺まで多数散らばる 実質全層の病気なのでを行う。組織では実質の線維の間と細胞に青く染まる沈着物を認める。移植後は星形ので固定した透明なになる
の小径 角膜の一部に限局した病変(小さな穿孔など) の中心からずれた位置に、小さなをで縫い付ける
楕円形のエキシマレーザー「急性期」 炎症の強い時期の(薬で制御できない感染・穿孔のおそれがある場合など) 角膜中央に輪状のとその内側のがあり、は強く充血する。を含めて楕円形に大きく切り取り、炎症の強い時期(急性期)のうちに移植する(を取り除く)。術後は楕円形のが放射状ので固定される。視力回復のための移植は、感染が治まった静かな眼で行うのが原則である

の診断と薬物治療はで扱う。

全層角膜移植の問題点

問題 内容
の全層(上皮・実質・内皮)が拒絶の標的になる
縫合 縫合糸のゆるみ・露出から感染や拒絶が起こる。までが不安定
屈折 強い角膜・が残りやすく、視力の回復に1年以上かかることがある
強度 創は完全には元の強さに戻らず、外傷で創から眼球が破裂しうる
術中 角膜を全層開放した状態(開放眼)になるので、駆逐性出血の危険がある
その他 感染、不全、緑内障、2

に対するでは、オーストラリア登録でのが5年95%、10年89%と報告されている2。は血管のない若い角膜が対象なので、成績の良い代表例である。

層状角膜移植

病気のある層だけを置き換える移植である。前部層状(実質を替える)と後部層状(内皮を替える)に分かれる。

術式 置き換える部分 宿主に残る部分
前部 DALK 上皮・Bowman 層・実質をの直前まで 宿主のと内皮
剥離自動 DSAEK 宿主のと内皮をはがし、ドナーの薄い後部実質++内皮を貼る 宿主の上皮・Bowman 層・実質の大部分
DMEK 宿主のと内皮をはがし、ドナーの+内皮だけを貼る 宿主の上皮・Bowman 層・実質のすべて

断面で比べると、DALK は宿主の角膜の前方から中央の実質までを分厚いドナー組織で置き換え、と内皮は宿主のものが残る。DSAEK は宿主の角膜の後面に、薄い実質を伴ったドナー組織が一層貼り付く。DMEK は宿主の角膜の後面に、と内皮だけの極めて薄い膜が貼り付き、元の角膜の構造にいちばん近い。

DALK

利点 欠点・注意
宿主の内皮を残すので内皮型が起こらない2 手技が難しく、術中にが破れるとへ切り替える
よりの危険が低く、長期の内皮細胞の減少も少ない2 のは2〜12%で起こりうる2
内皮細胞の少ないドナー角膜も使える 境界面ので視力が伸びないことがある
開放眼にならない 急性水腫の瘢痕が深いでは術中穿孔が起こりやすい

⭐ DALK は内皮が健全な実質の病気(、実質の瘢痕、実質のジストロフィー)に向く。

後部層状角膜移植の適応

内皮が働かなくなると、角膜は水を汲み出せずにむくむ。では角膜全体が白く濁ってむくみ、組織ではが水疱状に持ち上がり、実質の線維の間に水がたまって多数の隙間ができている。これがの適応である。

主な適応 内容
Fuchs ー 内皮が進行性に減り、に滴状の突起ができる。DMEK の報告では適応の90%を占めた3
後などに内皮が減って生じる
内皮不全の 以前ののが内皮不全で濁った場合

DSAEK

ドナー角膜から、機械で薄い後部実質をつけた内皮の円板を作り、折りたたんで小切開からに入れ、空気の泡で宿主の角膜の後面に押し付けて貼る。をさらに薄く作る方法を「超薄型 DSAEK」とよぶ。

OCT では、宿主の角膜の後面に沿って、ほぼ均一な厚さの薄い層が密着しており、の端が角膜後面の小さなとして写る。

DMEK

利点

利点 内容
視力の回復が早い 数日〜数週で見えるようになる
最終視力が良い 約60%が小数視力0.8以上に達する
免疫反応が少ない は2年でわずか1%(下の表)
縫合の合併症がない を空気で押し付けて貼るので縫わない
駆逐性出血が起こらない 小切開の閉鎖した眼で行うので、のような開放眼にならない

の少なさについては、「の15分の1」と要約されることがある。元の比較研究では、DMEK の拒絶の危険は DSAEK を含む剥離の15分の1、の20分の1だった3。

術式 の確率(1年) 2年
DMEK 1% 1%
剥離(DSAEK など) 8% 12%
14% 18%

同じ施設で同じステロイド投与法を使った比較である3。

💡 なぜは拒絶されにくいのか。移植する組織が少なく抗原の量が少ないこと、が血管やリンパ管から遠い側にあること、縫合糸のような炎症のがないことが理由と考えられている。

ドナーの準備と移植

flowchart TD
    A["ドナー角膜を台に固定"] --> B["青い色素(トリパンブルーなど)で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Descemet membrane'>デスメ膜</span>を染めて見やすくする"]
    B --> C["縁に切れ目を入れ<br>鑷子で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Descemet membrane'>デスメ膜</span>と内皮をはがす"]
    C --> D["はがれた膜は内皮側を外にして<br>自然に巻物状に丸まる"]
    D --> E["受け手の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Descemet membrane'>デスメ膜</span>と内皮を<br>中央の円形の範囲ではがす"]
    E --> F["巻物状の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='graft'>移植片</span>を<br>注入器で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>に入れる"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber'>前房</span>内で広げて向きを確認"]
    G --> H["空気の泡で角膜後面に押し付け<br>術後は仰向けの安静"]

ドナー角膜は、の縁をつけた円板として台の上に置き、染色したをヘラや鑷子で少しずつはがしていく。はがしたと内皮は青く染まった薄い膜で、液の中では両端が内側へ巻いた巻物状に丸まって浮かぶ。移植では、この巻物をガラスやの注入器に吸い込み、角膜の小切開からへ押し出す。

⚠️ の裏表を取り違えると内皮が働かない。の中で巻物の向きを確かめてから広げる。貼り付かなかった(剥離)は、再び空気を入れて押し付ける。

拒絶反応

角膜は血管もリンパ管もないため、他の臓器より拒絶されにくい(免疫学的な特権)。それでもへのは、が濁る最大の原因の一つである。

型と所見

型 所見2
上皮型 の上皮に、盛り上がった拒絶線が移動していく。上皮下の浸潤を伴うこともある
実質の浮腫。上皮下に浸潤が散らばる
内皮型 の内皮面にの、内皮の拒絶線(Khodadoust線)、実質の浮腫、の炎症

⚠️ 内皮型が最も重い。内皮細胞は再生しないので、壊れた分だけの透明性が失われる。

警告症状と対応

移植を受けた人には、充血・・視力の低下・痛みが出たらすぐに受診するよう伝えておく2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal transplantation (keratoplasty)'>角膜移植</span>後の<br>充血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>・痛み"] --> B["すぐに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp'>細隙灯</span>で診察"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transplant rejection'>拒絶反応</span>の所見があるか<br>(拒絶線・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='keratic precipitates'>角膜後面沈着物</span>・浮腫)"}
    C -->|"はい"| D["ステロイドの頻回点眼"]
    D --> E["重症なら内服・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subconjunctival'>結膜下</span>注射<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sub-Tenon'>Tenon嚢下</span>注射・全身投与を加える"]
    C -->|"いいえ"| F["感染・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated intraocular pressure'>眼圧上昇</span>・<br>縫合糸の問題などを鑑別"]
    E --> G["高リスク例では<br>全身の免疫抑制を検討"]

治療はステロイドが中心で、重症度に応じて点眼・内服・または 注射を組み合わせる2。

が起こりやすい条件 理由
受け手の角膜に血管が侵入している がに届きやすい
以前のが拒絶された() すでに感作されている
大きな・偏心した 輪部の血管に近い
炎症の強い時期の移植(活動性の感染・潰瘍) 炎症が免疫反応を強める
縫合糸のゆるみ・露出 炎症とのになる

💡 だから、炎症の強い潰瘍ではまずで急場をしのぎ、落ち着いてから計画的に移植する、という流れに意味がある。

まとめ

  • 角膜手術は、病変のある層と深さで選ぶ。表層は PTK、強さの問題はクロスリンキング、形の問題は角膜内リング、治らない上皮欠損・潰瘍は、透明性の喪失は。
  • PTK は、Salzmann 結節変性、上皮下、・点状・状ジストロフィーの表層病変を削る。PTK・PRK の後には上皮下のヘイズが出ることがある。の術式(PRK・LASEK・LASIK)は矯正する度数と角膜の厚さで選ぶ。
  • クロスリンキングはと紫外線 A で(原法は370 nm・3 mW/cm²・30分)を作り、を架橋して角膜を硬くする。進行性に推奨され、照射時の400 µm 未満は禁忌。進行は止めるが形は戻さない。
  • 角膜内リングはの深い実質に弧状のリングを入れて中央を平らにし、形を整える。進行は止めない。
  • 羊膜は胎盤の最で、の実質と基底膜が上皮化のになる。(上に被せる)、(単層・多層で欠損を埋める)、サンドイッチ(両方)、キャリアを使い分け、でも緊急のを避けられることがある。原因疾患の治療が必須。
  • はトレパン(手持ち・吸引式・エキシマレーザー)で切り抜いて縫う。、縫合、、開放眼による駆逐性出血、創の弱さが問題。自己回転、の小径移植、急性期の楕円形移植などの特殊型がある。
  • DALK は実質を替えて宿主の内皮を残すので内皮型拒絶がない。DSAEK・DMEK は内皮を替え、Fuchs ーとが主な適応。
  • DMEK は回復が早く、約60%が0.8以上、縫合なし、駆逐性出血なし。は2年で1%で、剥離の15分の1、の20分の1。
  • は上皮型・・内皮型に分かれ、内皮型が最も重い。充血・・・痛みがあればすぐ受診させ、ステロイドで治療する。

出典

  1. 1.Riboflavin/ultraviolet-a-induced collagen crosslinking for the treatment of keratoconus(American Journal of Ophthalmology・2003)抄録(Europe PMC、PMID 12719068)で、進行性円錐角膜22例23眼に中央の上皮を剥離したのちリボフラビンを点眼し紫外線A(370 nm、3 mW/cm²)を1 cmの距離から30分照射したこと、全例で進行が少なくとも停止し、16眼(70%)で最大角膜屈折力が2.01 D、屈折異常が1.14 D減少したこと、角膜と水晶体の透明性・内皮細胞密度・眼圧は変わらなかったことを確認した閲覧 2026-09-29
  2. 2.Corneal Ectasia Preferred Practice Pattern®(American Academy of Ophthalmology・2024)AAO配布のPDF本体(2024年6月版)で、角膜拡張症に円錐角膜・ペルーシド角膜辺縁変性・球状角膜・屈折矯正手術後の拡張・角膜移植後の創部拡張が含まれること、CXLはリボフラビンと365 nmの紫外線Aによる光重合で角膜実質の結合を増やして拡張の進行を止めるか遅らせる処置で、進行性円錐角膜に推奨される治療であること、FDAが14〜65歳の進行性円錐角膜と屈折矯正手術後の角膜拡張に承認したこと、原法のDresdenプロトコルは上皮を除去してリボフラビンを2分ごとに30分点眼し、続けて30分照射すること、照射時の実質厚が400 µm未満は内皮障害を避けるため禁忌で、HSV角膜炎の既往では再活性化に注意すること、合併症(点状角膜炎・感染性角膜炎・無菌性浸潤・混濁・遷延性上皮欠損・角膜浮腫など)、角膜内リングは中央が透明で厚さ400 µm以上の拡張角膜の形を整えるが病気の進行は変えないこと、IntacsはPMMA製の150°の半円2本で光学域約7 mm、FDAの禁忌が21歳未満・コンタクトレンズで機能的視力が得られる・中央が透明でない・切開部の厚さ450 µm未満であること、DALKは宿主の内皮を残すので内皮型拒絶反応がなく全層角膜移植より眼球破裂の危険が低いこと、DALKの実質型拒絶反応は2〜12%と報告されること、円錐角膜の全層角膜移植の移植片生着率が5年95%・10年89%(オーストラリア角膜移植登録)であること、全層角膜移植の合併症(感染・拒絶・移植片不全・緑内障・白内障・不同視や強い角膜乱視)、拒絶反応の警告症状(充血・羞明・視力の変化・痛み)と細隙灯所見(上皮型の拒絶線・上皮下浸潤、実質浮腫、内皮面の色素性角膜後面沈着物・内皮型の拒絶線・前房炎症)、治療がステロイドの点眼・内服・結膜下またはTenon嚢下注射であることを確認した。2026-09-29 の最終監査で、角膜移植後の抜糸は閉創の方法によるが創の安定のため通常3〜6か月以降に始め、角膜形状を見ながら選択的に抜いて乱視を調整すること、ゆるみ・露出・血管侵入のある縫合糸は感染や拒絶を防ぐため早めに抜くことも同じPDFで確認した閲覧 2026-09-29
  3. 3.Risk of corneal transplant rejection significantly reduced with Descemet's membrane endothelial keratoplasty(Ophthalmology・2012)抄録(Europe PMC、PMID 22218143)で、同一施設・同じステロイド投与法でDMEK 141眼・デスメ膜剥離角膜内皮移植598眼・全層角膜移植30眼を比べ、DMEKの90%がFuchs角膜内皮ジストロフィーであったこと、拒絶反応の累積確率が1年・2年でDMEK 1%・1%、デスメ膜剥離角膜内皮移植8%・12%、全層角膜移植14%・18%であり、DMEKの拒絶の危険はデスメ膜剥離角膜内皮移植の15分の1、全層角膜移植の20分の1であったことを確認した閲覧 2026-09-29