微生物学

微生物学 · 3/12

ヘルペスウイルス:単純ヘルペスウイルス1・2型

Herpesviruses: HSV-1 and -2

応用トピック
単純ヘルペスと帯状疱疹性器ヘルペスウイルス感染症血管炎・多形紅斑・結節性紅斑ヘルペスウイルスによる神経疾患妊娠中の感染症・ウイルス感染口腔・咽頭の炎症性疾患食道の検査・疾患、嚥下障害、食道異物ヘルペスウイルス感染症
微生物
Herpes simplex virus 1Herpes simplex virus 2
疾患
角膜炎単純ヘルペスウイルス感染症
症状
ヘルペス性ひょう疽

🧠 とは「体のどちら側で暮らすか」で名前が決まる、生涯居座り続けるウイルスとして読む。 部位の上皮細胞では増殖してすぐ細胞を壊すを起こす一方、感染したを逆行性に軸索を伝って神経節まで到達すると、そこでは増殖を止めて潜伏感染に入り、宿主の免疫やストレスに応じて何度でも再活性化する。は主にに潜伏して腰から上(口・眼・脳)の病気を、は主にに潜伏して腰から下(性器・新生児)の病気を起こす——この「潜伏部位→再活性化時の病変部位」という対応関係は、これから続くVZV・EBV・CMV・HHV-6/7/8にも共通する全体の設計図である。

ヘルペスウイルス科に共通する特徴

は慣用的にHHV-1〜8の「8種類」と数えるが、⚠️ HHV-6は2012年にHHV-6AとHHV-6Bの別種に分けられたので、分類上の種としては9種になる1。いずれも以下のを共有する。

  • ゲノム:線状2本鎖(double-stranded , dsDNA)

  • エンベロープ:あり——由来(細胞核内で複製し、をまとって出芽する)

  • :

  • 複製の場:核内

  • 共通の性質:初感染後に生涯にわたる潜伏感染を確立する

⭐ HHV-1〜8のは「どの細胞に潜伏するか」で整理すると覚えやすい。 以下の表はこのシリーズ(3-12〜3-16)を通じて共通の参照表として使う。

ウイルス 別名 潜伏部位 代表疾患
HHV-1 () 、、脳炎
HHV-2 () 、
HHV-3 VZV(水痘帯状疱疹ウイルス) 水痘、帯状疱疹
HHV-4 EBV() B細胞 、、
HHV-5 CMV() 骨髄の(CD34陽性)・単球(マクロファージ・への分化で再活性化)2 先天性感染症、網膜炎
HHV-6(6A・6Bの2種) HHV-6 単球・マクロファージ、骨髄の前駆細胞、中枢神経系の細胞とされる(増殖の主な場は活性化CD4陽性T細胞)3 (ほぼHHV-6B)
HHV-7 HHV-7 CD4陽性T細胞 (軽症)
HHV-8 HHV-8 / KSHV B細胞 、

💡 の正式な分類名は変わったが、臨床で使う慣用名は変わらない。 ()は2024年までに全ウイルス種名を「属名+」のへ置き換えた4。あわせて科名 Herpesviridae は Orthoherpesviridae へ改称されている。現行の正式種名は =Simplexvirus humanalpha1、HSV-2=Simplexvirus humanalpha2、VZV=Varicellovirus humanalpha3、EBV=Lymphocryptovirus humangamma4、CMV=Cytomegalovirus humanbeta5、HHV-6A/6B=Roseolovirus humanbeta6a/humanbeta6b、HHV-7=Roseolovirus humanbeta7、KSHV=Rhadinovirus humangamma8 である5。かつて用いられた Human alphaherpesvirus 1 系の種名も、その前の Herpesviridae という科名も、この改称で置き換えられた旧称にあたる。ただし・・・・・といった慣用名は臨床・教科書・試験でそのまま使われ続けるので、正式名は「分類上の住所」、慣用名は「呼び名」と切り分けて覚える。

構造・分類(HSV-1/2の特徴)

  • ・2型(HHV-1/2とも呼ばれる)は科の一員である。

  • 伝播経路:直接接触(キスなど)、性的接触、(周産期)——先天性ウイルス感染症の主要な原因群であるTORCH症候群(・その他の病原体・風疹・・の頭文字を取った母子感染症の総称)の一角を占める。

病原性・伝播

線維芽細胞・上皮細胞では、神経細胞では潜伏感染を起こす。

  1. との相互作用で細胞に結合する

  2. (nectin-1)・(HVEM)を介して細胞内へ侵入する

  3. ウイルスエンベロープと細胞膜が融合し、タンパク質(など)が細胞内へ放出される

  4. →初期→後期の順に遺伝子産物が発現する

  5. 細胞内で組み立てられ、またはによって放出される

💡 を介した拡散が抗体からの回避を可能にする。 ウイルスは細胞外に出ずに隣接細胞へ直接移動できるため、()の監視をすり抜けながら広がることができる。

flowchart TD
  A["初感染<br>(直接接触・性的接触・周産期)"] --> B["上皮細胞・線維芽細胞で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lytic infection'>溶解感染</span>"]
  B --> C["感覚神経終末から<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='retrograde axonal transport'>逆行性軸索輸送</span>"]
  C --> D["神経節に到達し潜伏感染<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex virus type 1'>HSV-1</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trigeminal ganglion'>三叉神経節</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex virus type 2'>HSV-2</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacral ganglion'>仙骨神経節</span>)"]
  D -->|"ストレス・免疫抑制・紫外線など"| E["再活性化"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterograde axonal transport'>順行性軸索輸送</span>で<br>同じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dermatomes'>皮膚分節</span>に病変が再出現"]

臨床像

HSV-1(腰から上に病変、三叉神経節に潜伏)

疾患 特徴
・ 口腔粘膜の水疱様病変
眼瞼腫脹と水疱、しうる。のスリット灯検査でが見える。未治療では失明しうる
脳炎 の病変と。神経の壊死・出血による。発熱・頭痛・意識障害を呈する
指の発疹。「バラの花びらの」様の外観。歯科医に多い
標的様の隆起性浮腫性丘疹。感染後1〜2週間で出現し、手足の背側から中心に向かって広がる

HSV-2(腰から下に病変、仙骨神経節に潜伏)

疾患 特徴
リンパ節腫脹と有痛性の性器病変。発熱・倦怠感・筋肉痛などの全身症状を伴うことがある
産道通過時の感染。肝障害や脳炎を伴う重症例は死亡率が高い。皮膚・眼・口のみのもある
思春期〜成人に生じる

⚠️ は母体の初感染時期に強く左右される致死的合併症である。 分娩時に産道でに曝露すると、肝障害・脳炎を伴う全身型は死亡率が高い——先天性・周産期ウイルス感染症の中でも特に警戒すべき一つ。

⭐ は3病型に分けて考える。 ①皮膚・眼・口(SEM型)、②中枢神経型(脳炎・けいれん)、③(肝炎・肺炎・)で、水疱がなくても敗血症様症状やけいれんで発症しうる。分娩様式の判断は「既往があるかどうか」ではなく「陣痛・破水の時点でまたはがあるかどうか」で決め、あれば帝王切開とする。分娩時に病変のある母から生まれた児では、口腔咽頭・鼻腔・・直腸・病変部の (血液・も考慮)を提出したうえで、結果を待たずに静注アシクロビルを開始するかを検討する6。

⚠️ 「=口、=性器」は現在の疫学とずれている。 の普及と小児期の感染の減少により、初発の性器・肛門ヘルペスの原因としてが増えている。メルボルンの性感染症クリニックで初発肛門4517例を14年間追跡した研究では、の占める割合は女性で45%→61%、異性愛男性で38%→41%へ有意に増加し、男性間性交渉者ではほとんどの年で最大3分の2をが占めた7。「腰から上/腰から下」は潜伏部位と再発部位の対応を覚えるための骨格であって、型と部位が1対1に決まるという意味ではない。

診断

検査 用途
(脳炎)、皮膚病変。現在ので、培養や抗原検出を置き換えた
臨床診断 口腔病変
性器病変でを確認。核内好酸性も見られる。とを区別できず感度も低いため、現行ガイドラインでは推奨されない古典的・歴史的検査
(糖蛋白G:gG) 既感染とその型を判定する。今ある皮疹の原因確定には使えない(抗体は初感染から数週間遅れて出る)

⚠️ (/)が培養を置き換えた。 欧州ガイドラインは、ウイルス抗原検出(・)・・染色はもはや推奨されず、が診断のであると明記している6。培養は病変が・治癒に向かうほど感度が落ちるのに対し、はその段階でも検出できる。

⚠️ 無症候の人にをスクリーニングとして行うことは推奨されない。 ()は2023年に2016年勧告を再確認し、の既往・徴候・症状のない思春期以降の成人(妊婦を含む)へのルーチンのを、中等度の確実性で害が利益を上回るとして推奨しない(D推奨)とした8。理由は、の低い集団では偽陽性が相対的に多くなること、陽性と分かっても伝播を確実に減らせる介入がないこと、その一方で不安・関係性への影響という心理社会的な害が確実に生じることにある。

治療

  • 第一選択:アシクロビル——類似体として合成を阻害する。ウイルスの(TK)によって選択的にリン酸化されてはじめて活性体になる(の教科書例)

  • 同じ系統の選択肢:、、——や投与回数の違いで使い分ける

  • アシクロビル耐性時:()、次いで

⚠️ アシクロビル耐性の切り札は//ではない。 アシクロビル耐性の約95%はTK遺伝子の変異・欠損によるもので、とそのである、およびアシクロビルのであるはいずれも同じTKによる活性化を必要とするため、耐性株にはほぼ確実にを示す。TKに依存しない()と()がを直接阻害するため、これらが耐性例の治療薬になる(いずれもアシクロビルより毒性が強い)。耐性株は後などの免疫不全者から高頻度に分離され、免疫正常者ではまれである9。

⚠️ 脳炎は「検査より治療を先行させる」数少ない神経救急である。 疑った時点での結果を待たずに静注アシクロビル(免疫正常成人で10 mg/kgを8時間ごと、14〜21日間。新生児・11歳以下では15〜20 mg/kgとより高用量)を開始する。発症3日以内に採取したは陰性でも偽陰性がありうるため、初回陰性のみで中止しない10。

まとめ

  • HHV-1〜8の(HHV-6は6Aと6Bの別種に分かれるので、種としては9種)は、線状2本鎖・由来のエンベロープ・という共通構造を持ち、いずれも生涯潜伏感染を確立する——潜伏部位の違いがそのまま疾患の違いになる(本表は3-13〜3-16でも参照する)。

  • /2は→/HVEMを介して細胞に侵入し、上皮・線維芽細胞では、神経細胞では潜伏感染を起こす。を介した拡散は抗体からの回避を可能にする。

  • はに潜伏し腰から上(、、脳炎、、)を、はに潜伏し腰から下(、、)を主に侵す。

  • 診断は(脳炎・皮膚病変)、臨床診断(口腔病変)、(、)を使い分ける。

  • 治療の第一選択はアシクロビル(TK依存の)。・・は同系統の選択肢であって耐性時の切り札ではなく、TK変異による耐性にはTK非依存の(次いで)を用いる。脳炎は疑った時点で結果を待たず静注アシクロビルを開始する。

  • 現行の正式種名はのにより Simplexvirus humanalpha1/humanalpha2(科名も Orthoherpesviridae へ改称)となったが、・という慣用名は臨床で使われ続ける。疫学では、初発の性器・肛門ヘルペスの原因としてが増えている点に注意する。

  • 診断は()が培養・抗原検出・を置き換えた。(gG)は既感染の型判定に使うが、無症候者へのスクリーニングは推奨されない( D推奨)。

出典

  1. 1.Classification of HHV-6A and HHV-6B as distinct viruses(Archives of Virology・2014)Europe PMC の抄録で確認した。HHV-6の発見直後に2つの変異型HHV-6A・HHV-6Bが見いだされ、2012年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)が両者を別々のウイルスとして分類したこと、今後は両者を区別する検査を用い、すべての報告で可能な限り区別するよう求めていること閲覧 2026-09-27
  2. 2.Cytomegalovirus latency and reactivation: recent insights into an age old problem(Reviews in Medical Virology・2016)全文(PMC5458136)で、潜伏感染は骨髄の造血前駆細胞に成立し、ウイルスゲノムは単球・骨髄系の系列(自然潜伏のCD14陽性単球、CD34陽性細胞)に保持され、再活性化は最終分化したマクロファージ・樹状細胞で起こること、リンパ球の集団にはウイルスゲノムが保持されないことを確認した。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Laboratory and clinical aspects of human herpesvirus 6 infections(Clinical Microbiology Reviews(Agut H, Bonnafous P, Gautheret-Dejean A)・2015)PMC全文(PMC4402955)で確認した。HHV-6は試験管内で多くのヒト細胞に感染するが、増殖するのは主に活性化CD4陽性Tリンパ球である("it preferentially replicates in activated CD4+ T lymphocytes")。生体内の宿主組織はより広く、単球・マクロファージが、骨髄の前駆細胞・中枢神経系の細胞と並んで潜伏の主な場と考えられている("The latter cell types are suspected to be preferential sites for virus latency, in parallel with bone marrow progenitors and central nervous system (CNS) cells")。また一般人口の約1%でHHV-6ゲノムが染色体の亜テロメア領域に組み込まれている(ciHHV-6)閲覧 2026-09-27
  4. 4.Changes to virus taxonomy and the ICTV Statutes ratified by the International Committee on Taxonomy of Viruses (2024)(Archives of Virology・2024)2024年4月の批准で全ウイルス種名の二名法(属名+種小名)形式への置き換えが完了し、確立されたウイルス種は計14,690種となった閲覧 2026-08-26
  5. 5.Herpesviruses: overview of systematics, genomic complexity and life cycle(Virology Journal・2025)国際ウイルス分類委員会(ICTV)の分類でヘルペスウイルスはHerpesvirales目の3科(哺乳類・鳥類・爬虫類のOrthoherpesviridae、魚類・両生類のAlloherpesviridae、海産軟体動物のMalacoherpesviridae)に分かれ、従来のHerpesviridaeがOrthoherpesviridaeへ改称されたこと、Orthoherpesviridaeは118種をAlphaherpesvirinae(49種)・Betaherpesvirinae(27種)・Gammaherpesvirinae(42種)の3亜科に分けること、二命名法による現行の種名がHSV-1=Simplexvirus humanalpha1、HSV-2=Simplexvirus humanalpha2、VZV=Varicellovirus humanalpha3、EBV=Lymphocryptovirus humangamma4、CMV=Cytomegalovirus humanbeta5、HHV-6A/6B=Roseolovirus humanbeta6a/humanbeta6b、HHV-7=Roseolovirus humanbeta7、KSHV=Rhadinovirus humangamma8であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  6. 6.2024 European guidelines for the management of genital herpes(International Union against Sexually Transmitted Infections (IUSTI) Europe / European Academy of Dermatology and Venereology (EADV) / Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology・2024)ウイルス抗原検出法(DFA・EIA)・ツァンク試験・パパニコロウ染色はもはや推奨されず、PCR(NAAT)が性器ヘルペス診断のゴールドスタンダードであること、分娩時に初発病変のある児では口腔咽頭・鼻腔・結膜・直腸・可視病変からのHSV PCR(血液・髄液PCRも考慮)を提出したうえで結果を待たず静注アシクロビルを開始する利益とリスクを検討することを確認した。閲覧 2026-08-26
  7. 7.Increasing proportion of herpes simplex virus type 1 among women and men diagnosed with first-episode anogenital herpes: a retrospective observational study over 14 years in Melbourne, Australia(Sexually Transmitted Infections・2019)メルボルンの性感染症クリニックで初発の肛門性器ヘルペス4517例を2004〜2017年に追跡したところ、HSV-1が占める割合は女性で45%→61%(p trend<0.001)、異性愛男性で38%→41%(p trend=0.01)へ有意に増加し、男性間性交渉者ではほとんどの年で肛門性器ヘルペスの最大3分の2をHSV-1が占めたこと、28歳未満であることが全群でHSV-1の独立した危険因子だったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  8. 8.Serologic Screening for Genital Herpes Infection: US Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendation Statement(JAMA / US Preventive Services Task Force・2023)性器ヘルペスの既往・徴候・症状のない思春期以降の成人(妊婦を含む)に対する血清学的スクリーニングは、中等度の確実性で利益より害が上回ると結論され、ルーチンに行わないよう推奨されている(D推奨)こと、母子感染は多くが分娩時に起こり、性器病変や前駆症状があるときの帝王切開が伝播リスクを下げうることを確認した。閲覧 2026-08-26
  9. 9.Resistance of herpes simplex viruses to nucleoside analogues: mechanisms, prevalence, and management(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2011)アシクロビル・ペンシクロビルとそのプロドラッグ(バラシクロビル・ファムシクロビル)はいずれもウイルスのチミジンキナーゼ(TK)によりリン酸化されて活性化するため、TK欠損・TK変異による耐性株はこれらの薬剤に交差耐性を示すこと、耐性株は免疫不全者から高頻度に分離され免疫正常者ではまれであること、アシクロビル/ペンシクロビル耐性HSV感染症の管理にはピロリン酸類似体のフォスカルネットとヌクレオチド類似体のシドフォビルを用いることを確認した。閲覧 2026-08-26
  10. 10.Herpes Simplex Encephalitis(StatPearls・2024)免疫正常な成人のHSV脳炎に対する静注アシクロビルの用量(10 mg/kg・8時間ごと)と投与期間(14〜21日間)、新生児・11歳以下の小児ではより高用量(15〜20 mg/kg)を要すること、画像・髄液所見・脳波所見から疑った時点で確定診断を待たず開始すべきこと、発症3日以内に採取した髄液HSV PCRは陰性でも偽陰性がありうることを確認した。閲覧 2026-08-26