産科学

産科学 · 33

妊娠中の感染症・ウイルス感染

Infectious diseases in pregnancy. Viral infections

前提:病態
トガウイルス(アルファ・ルビウイルス)ヘルペスウイルス:サイトメガロウイルスヘルペスウイルス:水痘・帯状疱疹ウイルスヘルペスウイルス:単純ヘルペスウイルス1・2型レトロウイルスとエイズ
疾患
新生児水痘先天性TORCH感染症先天性水痘症候群風疹(先天性風疹症候群含む)

🧠 全体像:妊娠中のウイルス感染では、母体感染の時期、・分娩時・母乳による伝播経路、ワクチンと抗ウイルス薬の可否を分けて考える。風疹・水痘は妊娠前の免疫確認と産後ワクチン、・は全妊婦スクリーニングと母児への予防介入が柱で、は一律血清スクリーニングを行わない。

主要感染症の比較

病原体 主な伝播 胎児・新生児の要点 予防・分娩の要点
風疹 妊娠前・産後MMR。妊娠中は禁忌
、分娩、母乳 難聴、、発育不全 衛生。妊娠中の一律血清検査なし
、周産期 先天性水痘、重症 妊娠前・産後ワクチン、曝露後VariZIG
主に分娩時 皮膚眼口病変、脳炎、播種感染 36週から、なら帝王切開
B型肝炎 主に分娩時 化 出生12時間以内にワクチン+HBIG
妊娠・分娩・授乳 乳児感染 全妊婦検査、母体ART、ウイルス量別分娩・乳児予防
蚊、性行為、 ・曝露に基づく予防と検査
flowchart TD
  A["妊娠前・妊娠初期の感染予防"] --> B{"病原体別の予防手段"}
  B -->|"風疹・水痘"| C["妊娠前に免疫確認・必要なら接種"]
  C --> D["妊娠中は接種せず、非免疫なら産後接種"]
  B -->|"HBV"| E["母体HBs抗原を検査"]
  E --> F["陽性なら母体<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiviral therapy'>抗ウイルス療法</span>を評価"]
  F --> G["児へ出生12時間以内にワクチン+HBIG"]
  B -->|"ワクチンなし"| H["曝露予防・適応に基づく検査・母子感染対策"]

風疹

胎児への影響

妊娠初期の母体風疹はし、流産・胎児死亡またはを来し得る。感染が早いほど危険が高い。

  • 感音難聴
  • 、
  • 、
  • 、、発達障害
  • 、肝脾腫、血小板減少性紫斑

検査・予防

  • 初回妊婦健診で風疹IgGにより免疫を確認する。
  • 発疹・曝露時はIgM単独で即断せず、、、とワクチン歴をと解釈する。
  • MMRは生ワクチンで妊娠中は禁忌である。非免疫者には産後、授乳中でも接種できる。⭐ 米州地域は2015年にの排除を達成した世界初の地域だが、これはワクチン接種率の維持が前提であり、排除後も輸入例によるに注意する1。
  • MMR後は28日間の妊娠回避を勧める。な妊娠中接種は理論的リスクを説明するが、それ自体は妊娠中断の適応ではない。
  • 母体感染に対する特異的治療はなく、感染時期と検査を確認して専門的を行う。

サイトメガロウイルス

母体感染と胎児所見

母体は無症状または単核球症様症状を呈する。初感染だけでなく再活性化・でも胎児感染は起こり得るが、初感染の方が重症胎児障害の危険が高い。は世界的に先天感染症の原因として最多であり、(感染性)感音難聴の最多原因でもある2。

  • 、、
  • 、石灰化、
  • 肝脾腫、腹水・
  • 出生後の点状出血、黄疸、血小板減少
  • 感音難聴と。出生時無症状でも後に難聴が出現し得る

診断と管理

  • 妊婦のルーチン血清スクリーニングは推奨されない。IgMは偽陽性が多く、胎児感染や重症度を予測できない。
  • 母体初感染が疑われる場合はIgG seroconversion、IgM、IgG avidityを専門的に解釈する。
  • は一般に21週以降、かつ母体感染から6〜8週以上待つと感度が上がる。陽性は胎児感染を示すが、重症度までは決めない。
  • と必要に応じで脳・発育を追跡する。
  • 母体への高用量を一律に用いず、研究・専門施設の方針に従う。または妊娠初期にした母体への1日8gの経口投与は、の母子率を低下させるとする個別患者データがあるが、副作用(など)の監視を要する研究段階の介入である3。
  • 新生児は生後2〜3週以内の尿または唾液で先天感染を確認する。症候性児ではが聴覚・発達予後を改善し得るが、副作用監視を含め新生児専門医が判断する。

予防

幼児の唾液・尿に触れた後の手洗い、食器・歯ブラシの共有回避、口へのキスを避けるなどの衛生を勧める。ワクチンはない。

水痘帯状疱疹ウイルス

妊娠中の危険

  • 妊娠初期〜中期の初感染:、、眼異常、神経障害を伴うはまれだが重篤。最高リスク時期は妊娠13〜20週で、当該時期の母体罹患後の発症率は約2%にとどまる4。
  • 妊婦:水痘肺炎の重症化リスクがある。
  • 分娩前5日〜分娩後2日に母体発疹:が間に合わず、新生児重症水痘の危険が高い。
  • 帯状疱疹は局所再活性化であり、初感染水痘ほど胎児リスクは高くない。

予防と治療

  • 妊娠前に免疫を確認し、非免疫者へ2回のを接種する。妊娠中は禁忌で、産後・授乳中に接種する。
  • 非免疫妊婦が有意な曝露を受けたら、VariZIGを可能な限り早く、遅くとも10日以内に投与する。
  • 発症妊婦ではアシクロビルまたはを早期に検討し、水痘肺炎など重症例には静注アシクロビルを用いる。
  • 周産期発症では新生児へVariZIGを投与し、症状に応じアシクロビルを用いる。

単純ヘルペスウイルス

の多くは産道通過時に起こる。妊娠末期の母体初感染は抗体移行が間に合わず、最も伝播リスクが高い。

新生児病型

病型 主な所見
皮膚・眼・ 小水疱、、口腔病変
中枢神経型 脳炎、けいれん、意識障害
肝炎、肺炎、、ショック。皮疹がないこともある

診断・分娩管理

  • 母体病変は病変で診断し、Tzanck塗抹を標準確定検査としない。
  • 初感染・再発ともアシクロビルで治療できる。
  • 再発性では36週からアシクロビルまたはを行い、分娩時再発を減らす。
  • 陣痛・破水時に活動性性器病変またはがあれば帝王切開を行う。
  • 既往があるだけで病変・がなければ、帝王切開の適応ではない。
  • 疑いでは血液・髄液・病変を採取し、結果を待たず静注アシクロビルを開始する。

B型肝炎ウイルス

スクリーニングと母体管理

  • 各妊娠の初回にHBs抗原を検査する。陽性なら 、HBe抗原、肝機能を評価し専門医へつなぐ。
  • が200,000 IU/mLを超える場合、一般に28〜32週からを開始し、母子感染を減らす。中国の無作為化試験では、HBe抗原陽性かつ 20万IU/mL超の母体へ妊娠30〜32週からを投与した群は、通常ケア群(免疫グロブリン・ワクチンのみ)より母子感染率が低かった5。
  • 分娩様式は通常の産科適応で決め、だけを理由に帝王切開を行わない。

新生児予防

HBs抗原陽性母体から出生した児には、出生12時間以内に単味B型肝炎ワクチンと免疫グロブリンを別部位へ投与する6。その後ワクチンシリーズを完了し、生後9〜12か月頃にHBs抗原とHBs抗体で効果を確認する。

適切な新生児予防後は授乳できる。乳頭出血などは個別に相談する。

ヒト免疫不全ウイルス

検査と妊娠中管理

  • 初回妊婦健診でオプトアウト方式の抗原抗体検査を行い、高リスクまたは高ではに再検する。
  • 反応性スクリーニングはと で確定し、旧来のだけに依存しない。
  • 陽性妊婦はCD4数にかかわらず(antiretroviral therapy:ART)を継続・開始し、ウイルス量を抑制する。

分娩と新生児

  • 分娩近くのウイルス量が十分抑制されていれば、経腟分娩が可能である。
  • 未治療またはウイルス量が1,000 copies/mLを超える場合、38週頃の計画帝王切開と分娩時静注を検討する。
  • 乳児には出生後できるだけ早く、リスクに応じた抗レトロウイルス予防または推定治療を開始する。
  • 授乳方針は国・資源・安全な代替栄養の有無・母体ウイルス抑制により異なる。抑制下でも伝播リスクはゼロではなく、最新の地域ガイドラインとに従う。

ジカウイルス感染症

ヤブカ属蚊と性行為で伝播し、妊娠中の感染はを起こし得る。

  • 重度、、脳
  • 、、
  • 、流産・

(Guillain-Barré syndrome)は主に感染者本人のであり、胎児奇形ではない。

妊婦はへの渡航情報を最新の情報で確認し、蚊よけ、長袖、蚊帳、性行為時のなどで予防する。検査は症状、渡航・性曝露、に基づいて行い、な「帰国後8週間」だけで判断せず、その時点の勧告に従う。

まとめ

  • 風疹・は妊娠中禁忌で、非免疫者には妊娠前または産後に接種する。
  • は全妊婦の血清スクリーニングを行わず、例をと詳細画像で評価する。
  • は36週からを行い、分娩時に・がある場合に帝王切開する。
  • HBs抗原陽性母体からの児には出生12時間以内のワクチン+HBIGが必須で、は母体ARTとウイルス量に応じた分娩・乳児予防で伝播を防ぐ。
  • ジカ感染の検査・妊娠回避期間は流行状況で変わるため、最新の勧告を用いる。

出典

  1. 1.Progress towards a comprehensive approach to maternal and neonatal immunization in the Americas(Revista Panamericana de Salud Pública・2017)WHO米州地域は2015年に先天性風疹症候群の排除を達成した世界初の地域であること閲覧 2026-08-26
  2. 2.Maternal and congenital human cytomegalovirus infection: laboratory testing for detection and diagnosis(Journal of Clinical Microbiology・2024)CMVは世界的に最多の先天感染症の原因であり、非遺伝性感音難聴の最多原因でもあること閲覧 2026-08-26
  3. 3.The effect of valacyclovir on secondary prevention of congenital cytomegalovirus infection, following primary maternal infection acquired periconceptionally or in the first trimester of pregnancy. An individual patient data meta-analysis(American Journal of Obstetrics and Gynecology・2024)妊娠周辺期または妊娠初期に一次感染した母体への1日8gの経口バラシクロビル投与が、CMVの母子垂直伝播率を低下させること(補正オッズ比0.34、95%信頼区間0.18-0.61)閲覧 2026-08-26
  4. 4.Congenital Varicella Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)先天性水痘症候群の最高リスク時期は妊娠13〜20週で、当該時期の母体罹患後の発症率は約2%であること閲覧 2026-08-26
  5. 5.Tenofovir to Prevent Hepatitis B Transmission in Mothers with High Viral Load(The New England Journal of Medicine・2016)HBV DNAが20万IU/mLを超えるHBe抗原陽性母体に妊娠30〜32週からテノホビルを投与すると、通常ケアに比べ母子感染率が低下すること(免疫グロブリン・ワクチンは両群とも実施)閲覧 2026-08-26
  6. 6.Prevention of Hepatitis B Virus Infection in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices(CDC(MMWR Recommendations and Reports)・2018)HBs抗原陽性母体から出生した児への出生時HBVワクチン・HBIG併用を確認した閲覧 2026-08-26