微生物学

微生物学 · 3/13

ヘルペスウイルス:水痘・帯状疱疹ウイルス

Herpesviruses: VZV

応用トピック
単純ヘルペスと帯状疱疹ヘルペスウイルスによる神経疾患妊娠中の感染症・ウイルス感染ヘルペスウイルス感染症小児の発熱と発疹
疾患
ライ症候群眼部帯状疱疹急性網膜壊死新生児水痘進行性外層網膜壊死水痘・帯状疱疹先天性水痘症候群

🧠 は「1つのウイルスが生涯で2回、全く違う顔の病気を起こす」典型として読む。 初感染は気道から入り2回のウイルス血症を経て全身に散布する水痘として発症するが、その後はに何十年も潜み、免疫が落ちた瞬間に1つのだけを侵す帯状疱疹として再来する。潜伏+再活性化という設計図自体はHSV-1/2と共通だが、は潜伏部位がである点、そして再活性化が「1に限局する」点が診断上の決め手になる。

構造・分類

は(線状2本鎖、由来のエンベロープ、、生涯潜伏感染)を持つ(HHV-3とも呼ばれる)。

  • 潜伏部位:

  • 保有源:ヒトの粘膜・神経組織

病原性・伝播

  • 伝播経路:飛沫感染、(子宮内または周産期)——先天性ウイルス感染症のTORCH症候群の一つ
flowchart TD
  A["気道からの吸入(飛沫感染)"] --> B["局所リンパ節で増殖"]
  B --> C["第1回ウイルス血症<br>→脾臓・肝臓へ散布"]
  C --> D["第2回ウイルス血症(約2週間後)<br>→皮膚へ散布"]
  D --> E["水痘(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asynchronous'>非同期性</span>の発疹)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal root ganglion (DRG)'>後根神経節</span>(DRG)に潜伏"]
  F -->|"ストレス・免疫抑制"| G["帯状疱疹<br>(1<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dermatomes'>皮膚分節</span>の疼痛性水疱)"]

臨床像

水痘——初感染

  • の発疹:全身に小さくかゆみを伴う水疱が、異なる発育段階が混在した状態で出現する

  • 発熱・頭痛・咽頭炎・倦怠感・鼻炎を伴う

  • 成人(特に免疫不全者)では肺炎・脳炎を合併しうる

⭐ 水痘とは発疹の同期性で鑑別する。 は全病変が同じ発育段階で四肢優位、水痘は病変の発育段階がバラで体幹優位というパターンが古典的な鑑別点。

特徴 水痘
病変の深さ 表在性 深く硬い
臍窩形成 なし を伴う
発育段階 病変ごとに異なる段階が混在 全病変が同じ段階
好発部位 体幹 四肢

帯状疱疹——再活性化

に潜伏したウイルスが、50〜60歳代または免疫不全時に再活性化して起こる。

  • 有痛性の水疱

  • 「バラの花びらの」様の外観

  • 1に生じる発疹で、を越えない(免疫不全患者で播種性になった場合を除く)

  • 水疱が消退した後に残る痛みをと呼ぶ——発疹出現から90日以上持続する痛みという定義が広く使われる。数か月〜数年続くことがあり、睡眠・日常生活を損なう最も恐れられる合併症である1

⚠️ (V1)領域の帯状疱疹は失明のリスクがある。 眼領域を含む場合は眼科的評価を急ぐ。

先天性水痘症候群

⚠️ 妊娠中の初感染は胎児に不可逆的な障害を残しうる。 、皮膚の、失明を三徴とする——先天性ウイルス感染症の代表例の一つ。

診断

  • :を確認

  • 血清学:抗原検出

⚠️ 典型例は臨床診断でよいが、確定が要るときの標準は()である。 病変を破って底部から採取した細胞で を検出するは感度95%・特異度100%であるのに対し、による抗原検出は感度82%・特異度76%にとどまる1。はを見るだけなのでとを区別できず、感度も低いため補助的な位置づけにとどまる。免疫不全者の発疹を伴わない内臓帯状疱疹やでは血液・髄液のが用いられる。

治療

  • 健常者:経口アシクロビル

  • 免疫不全者:静注アシクロビル

  • (、阻害):帯状疱疹に対して使用される

  • も使用可能で、に優れる

⭐ 帯状疱疹の抗ウイルス薬は「発疹出現から72時間以内」に始める。 有効性を示した無作為化試験がこの時間枠で治療を開始しており、推奨もこの範囲内かつできるだけ早期の開始とされる。ただし新規病変がまだ出続けている場合や合併症がある場合は、3日を過ぎていても開始する。・は投与回数が少なくアシクロビルより血中濃度が高く保てるため優先されることが多い。⚠️ 抗ウイルス薬は治癒を早め急性期の痛みを軽くするが、のリスクを下げることは明確には示されていない1。

⚠️ 水痘後の小児にアスピリンは禁忌。 のリスクがあるため、にはなどを用いる。

予防

  • 水痘()の予防:を小児に2回接種する(米国の標準スケジュールは生後12〜15か月と4〜6歳。非免疫者が曝露した場合は3〜5日以内の接種で発症予防が期待できる)2

    • 感染者は200/μL以上であれば生ワクチン接種の適応となり、200/μL未満は禁忌である。と異なり、この基準に「6か月以上の持続」という期間要件は明記されていない点に注意する3
  • 帯状疱疹(再活性化)の予防:現在は(recombinant zoster vaccine:RZV、非生ワクチン)が第一選択で、50歳以上の免疫正常者および19歳以上の免疫不全者に2回接種する4

    • RZVはVZVの糖蛋白EとAS01Bからなるで、生ウイルスを含まないため免疫不全者にも接種できる——これが生ワクチンを置き換えた最大の理由である

    • 有効率は50歳以上で97.2%(ZOE-50、15,411例)5、70歳以上でも89.8%(ZOE-70、13,900例)と高齢でほとんど落ちず、70歳以上のではに対しても88.8%の有効率を示した6。生ワクチンが高齢になるほど有効率を落としたのと対照的である

    ⚠️ 旧来のは2020年に米国で販売中止となった。 「高齢者への帯状疱疹も生ワクチン」という理解は現行の推奨と一致しない。

  • 受動免疫:VariZIG(の現行製剤)——非免疫の高リスク者(免疫不全者・妊婦・新生児など)の曝露後予防に、可能な限り早期、遅くとも曝露後10日以内に投与する7

まとめ

  • VZV(HHV-3)は共通の構造を持ち、に潜伏する。

  • 病態は「気道感染→第1回ウイルス血症(肝脾)→第2回ウイルス血症(皮膚)→水痘→DRGでの潜伏→再活性化で帯状疱疹」という一連の流れで理解する。

  • 水痘はの全身発疹(との鑑別が古典的頻出)、帯状疱疹は1に限局する有痛性水疱で、や(V1罹患時の)失明リスクを伴う。

  • 妊娠中の初感染は(・・失明)を、小児のアスピリン使用はを招きうる。

  • 治療はアシクロビル(経口/静注)、、。発疹出現72時間以内の開始が原則で、抗ウイルス薬は急性期の痛みは軽くするが(発疹から90日以上続く痛み)のリスクを下げるとは明確に示されていない。

  • 予防は小児の2回(生後12〜15か月・4〜6歳)と、50歳以上の免疫正常者・19歳以上の免疫不全者に対する組換え(非生)が中心で、旧来のは現在使われない。RZVの有効率は50歳以上で97.2%、70歳以上でも89.8%と高齢で落ちない。曝露後の受動免疫にはVariZIGを曝露後10日以内に用いる。

  • 診断は典型例なら臨床診断でよいが、確定が要る場合の標準は病変底部からの(感度95%・特異度100%)で、はと区別できない補助検査にとどまる。

出典

  1. 1.Clinical practice: Herpes zoster(New England Journal of Medicine・2013)帯状疱疹の大半は臨床診断できるが非典型疹では病変底部からのVZV PCRまたは直接蛍光抗体法を要し、PCRの感度95%・特異度100%に対し蛍光抗体法は感度82%・特異度76%であること、帯状疱疹後神経痛は発疹出現から90日以上持続する痛みと定義されること、抗ウイルス薬は無作為化試験が発疹出現72時間以内に開始されておりこの時間内かつできるだけ早期の開始が推奨されるが、新規病変が出続けている場合や合併症がある場合は3日を過ぎても開始すべきとする専門家が多いこと、抗ウイルス薬は治癒を早め急性期疼痛を軽減するが帯状疱疹後神経痛のリスクを下げることは明確には示されていないことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Varicella Vaccine Recommendations(Centers for Disease Control and Prevention・2024)水痘生ワクチンの標準スケジュールが生後12〜15か月と4〜6歳の2回接種であること、非免疫者への曝露後3〜5日以内のワクチン接種で発症予防が期待できることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Varicella-Zoster Virus Disease (Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in Adults and Adolescents with HIV)(NIH/HHS Clinicalinfo(HIV日和見感染症予防治療ガイドライン)・2026)水痘生ワクチンはCD4陽性細胞数200/μL以上のHIV感染者に適応となり200/μL未満は禁忌であること、MMRワクチンと異なりこの基準に6か月間の持続要件は明記されていないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Use of Recombinant Zoster Vaccine in Immunocompromised Adults Aged ≥19 Years: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2022(CDC ACIP・2022)組換え帯状疱疹ワクチンが19歳以上の免疫不全者にも適応拡大され、通常2〜6か月間隔で2回接種することを確認した。閲覧 2026-08-02
  5. 5.Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults(The New England Journal of Medicine・2015)50歳以上15,411例を対象としたZOE-50試験で、糖蛋白EとAS01Bアジュバントからなる組換え帯状疱疹ワクチンを2か月あけて2回筋注した群の帯状疱疹発症は6例(0.3/1000人年)、プラセボ群は210例(9.1/1000人年)で、ワクチン有効率は97.2%(95%信頼区間93.7〜99.0、P<0.001)、50代・60代・70歳以上のいずれの年齢層でも96.6〜97.9%と保たれたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older(The New England Journal of Medicine・2016)70歳以上13,900例のZOE-70試験で組換え帯状疱疹ワクチンの帯状疱疹に対する有効率は89.8%(95%信頼区間84.2〜93.7)、70〜79歳で90.0%・80歳以上で89.1%と高齢でも低下せず、ZOE-50とZOE-70の70歳以上16,596例をプールした解析では帯状疱疹に対して91.3%、帯状疱疹後神経痛に対して88.8%(95%信頼区間68.7〜97.1)の有効率だったことを確認した。閲覧 2026-08-26
  7. 7.Updated Recommendations for Use of VariZIG — United States, 2013(CDC・2013)曝露後予防に用いる水痘帯状疱疹免疫グロブリンの現行製剤名がVariZIGであり、曝露後可能な限り早期、遅くとも10日以内の投与が推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-02