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Drug Atlas · C1 Antiseptics & disinfectants / 消毒・防腐薬 · 必修

ポリヘキサニド

polihexanide

分類
Antiseptics & disinfectants / 消毒・防腐薬
商品名(EU)
Akantior
科目
Pharmacology
トピック
C1: Disinfectants and antiseptics
承認適応
角膜炎
標的微生物
Acanthamoeba castellanii
副作用
眼痛眼充血羞明視力低下

🧠 全体像:(、)は、長らく各国で院内調製・として使われ続けてきた「事実上の標準治療」という異色の経歴を持つである。そのものが者100万人あたり1〜4人という超であるため1、企業が正規の医薬品として開発する動機に乏しく、低濃度(0.02%程度)と(など)の併用点眼という処方が、有効性を裏づけるのないまま数十年にわたり世界の事実上の標準治療になっていた。この状況を変えたのが、高濃度(0.08%)単剤製剤Akantiorで、2024年8月22日に全域で有効な販売承認を得た2。EMAは承認の理由を説明する文書で、その承認時点での治療に承認された医薬品は無かったことを評価に織り込んだと述べている3。

薬効群の中での位置づけ

系統 代表薬 アカントアメーバへの位置づけ 承認状況
() (日本のガイドラインはグルコン酸塩点眼と並べてとする)4。実際に最も多く用いられるのはの単剤またはとの併用5 高濃度(0.08%)単剤製剤Akantiorがで2024年8月22日に承認2。低濃度(0.02%程度)は多くの国で院内調製・が続く
代替・併用薬 としての承認のみで、角膜炎への使用は適応外
、 との併用薬 国により入手可否が異なる

⭐ 「正規承認薬が無いまま第一選択であり続けた」という経歴そのものが、この薬を理解する鍵になる。 超ゆえにが長らく組まれず、臨床現場の経験の積み重ねだけで標準治療の地位を占めてきた。日本でも2023年のガイドラインが、点眼を調整の保険適用外の薬としてに挙げ、「保険適用のある薬物療法が存在しない」ことを理由に調整剤点眼を強く推奨している4。この状況で行われた欧州6施設・135例のODAK試験(第III相)6がAkantior承認の根拠となった主試験である3。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyhexamethylene biguanide'>PHMB</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cationic'>陽イオン性</span>の<br>ヘキサメチレンビグアニド<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymer'>重合体</span>)を点眼"] --> B["Acanthamoebaの<br>栄養型・嚢子の両方に作用"]
    B --> C["陰性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='charged'>荷電</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phospholipid bilayer'>リン脂質二重膜</span>に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cation'>陽イオン</span>として結合"]
    C --> D["膜が傷害され<br>細胞内容物が漏出・虫体死滅"]
    B --> E["嚢子の開口部(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ostiole'>オスチオール</span>)から<br>浸透し同様に作用"]
    A --> F["細胞内へ侵入した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyhexamethylene biguanide'>PHMB</span>が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>リン酸骨格と結合"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>が凝集し<br>複製が阻害される"]
    G -.->|"ヒト細胞の核へは浸透できないため<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='selective toxicity'>選択毒性</span>が保たれる"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammal'>哺乳類</span>細胞への影響は限定的"]

💡 「膜傷害」と「結合」の二重機序が、栄養型と嚢子の両方をカバーする。 嚢子は多くの・抗菌薬に抵抗性が高いが、は嚢子の開口部()から浸透できるため、栄養型だけでなく嚢子にも効果が及ぶ1。結合という機序がヒト細胞の核には及ばない点が、での安全性の根拠になっている。

適応

領域 使いどころ
眼科 角膜炎のうち*Acanthamoeba*角膜炎。高濃度単剤製剤(Akantior、0.08%)はで成人および12歳以上の小児に承認1

低濃度(0.02%程度)と(など)の併用が、多くの国で院内調製・として長く行われてきた。実際に最も多く用いられているのはの単剤またはとの併用である5。日本のガイドラインも、グルコン酸塩点眼または点眼をとしつつ、いずれも調整が必要で保険適用外であると明記している4。ODAK試験は、高濃度単剤(Akantior+)とこの併用療法を直接比較した欧州6施設・135例ので、12か月以内の臨床的治癒率は単剤群84.8%(95%CI 73.9–92.5)・併用群88.5%(95%CI 77.8–95.3)だった1。

⚠️ この試験は「」ではない。 原著は設計をあらかじめを定めた試験と明記しており、単剤のは示されなかったうえでの要件が満たされたという二段構えの結果である。原著の自体も「単剤は併用療法と同等か、悪くても8ポイント劣る程度でありうる」という条件付きの言い方にとどまる6。💡 単剤のほうが優れているという読み方はできない。 単剤化の利点は有効性のではなく、の入手可否に依存しない標準化された1剤で治療できる点にある。実際、治癒までのは単剤140日・併用114日で、単剤のほうが有意に長かった(p=0.0442)1。💡 上の84.8%・88.5%は未調整値である。 原著が事前に規定した主解析はベースラインの危険因子の偏りを調整したで、調整後の治癒率は単剤86.7%・併用86.6%(調整後の差0.1ポイント、片側95%信頼限界の下限 -8.3ポイント)であり、の要件はこの調整後の値で満たされている6。

国ごとの承認状況(2026年9月16日時点で確認できた範囲)

地域 状況 確認した資料
EU 承認済み(2024年8月22日、成人および12歳以上)2 EMAのEPARページ
米国 の承認医薬品データベース(openFDA の drug/label・drugsfda)に polihexanide/AKANTIOR の収載を確認できない openFDA API(いずれも該当なし)
英国 この監査では確定できなかった。 の製品検索は polihexanide で3件を返すが、製品名の一覧は免責事項への同意の内側にあり、この監査では同意していない。emc は Akantior・polihexanide のいずれでも0件だが、emc は企業が文書を掲載した製品しか載らないため不承認の証拠にはならない 製品検索、emc
日本 正規承認薬の有無はこの監査では確認できていない。 ただし2023年のガイドラインは、点眼・点眼とも調整が必要で保険適用外とし、「保険適用のある薬物療法が存在しない」と明記している4 診療ガイドライン(第3版)

⚠️ 「未承認」は、どの国の・どの資料で確認したかとセットでしか書けない。 上表の米国欄は「の公開データベースに収載が無い」という事実の記述であって、開発状況や承認見込みの記述ではない。

用法・用量

Akantior(0.08%)の承認用法は、19日間の集中投与期(1時間ごと1日16回×5日間→2時間ごと1日8回×さらに7日間→3時間ごと1日6回×さらに7日間、いずれも日中のみ)に続き、治癒(角膜治癒・角膜炎症の消失・感染所見の消失)まで、または最長12か月まで4時間ごと1日4回の継続投与期に移行する1。に眼炎症の増悪があり培養陰性であれば集中投与期を再開でき、培養陽性を伴う増悪では投与を中止する1。低濃度・ジアミジン併用の院内調製処方は施設ごとにレジメンが異なるため、施設のプロトコルに従う。

禁忌・注意

  • 禁忌:成分への過敏症、進行したAcanthamoeba角膜炎で緊急の眼科手術を要する場合(の対象から除外される)1
  • SmPCの「特別な及び使用上の注意」(4.4)は、軽度〜中等度の(眼痛)と眼の赤みが生じうるので、強いがあれば受診するよう指導する、という内容にとどまる1(のには米国のに当たる欄がそもそも無い。他国の文書は確認していない)
  • 免疫不全・中の患者でのデータは無い1
  • 妊娠中はデータが乏しいため、予防的に使用を避けることが望ましいとされる1
  • リン酸緩衝成分を含む。SmPCが述べているのはを含有する点眼薬一般について、角膜が高度に傷害された一部の患者でがごくまれに報告されている、という注意である(本剤自体での頻度が示されているわけではない)1

副作用

SmPCのTable 1は、(043/SI)で観察された副作用を頻度区分ごとに並べている1。

頻度区分( SmPCの定義) 内容
非常に高頻度(1/10以上) 眼痛(13.0%)、(11.6%)——この2つだけ1
高頻度(1/100以上1/10未満) 、視力障害、潰瘍性角膜炎、、、、、、眼の炎症、、、乳頭、眼掻痒、、眼の腫脹、、、、結膜炎、、、など1
(頻度区分の外・ごくまれと記載) 含有点眼薬一般に関連する(高度に角膜が傷害された患者で報告)。Table 1の外に別記されている1

⚠️ (1.4%)・(1.4%)・視力障害(1.4%)は「まれ」ではない。 SmPCはこの3つを最も重篤なものとして要約文に挙げているが、頻度表ではいずれも「高頻度」区分にある(1/100以上1/10未満なので1.4%は定義どおりこの区分に入る)。⭐ 「重篤」と「低頻度」は別の軸である——重篤さを理由にまれだと読み替えると、説明すべき危険を過小評価する方向に倒れる。なお、この3つはいずれも疾患自体のにも含まれる所見であり、薬剤のせいだけとは言えない点もSmPCが明記している1。

まとめ

  • ()はので、Acanthamoebaの栄養型・嚢子の両方に対し、膜傷害と結合という二重機序で作用する。結合機序はヒト細胞の核に及ばないためが保たれる。
  • 長年、低濃度+(など)の併用点眼が正規承認の裏づけがないまま事実上の標準治療であり続けた(日本でも2023年のガイドラインが調整・保険適用外と明記)。2024年8月22日にAkantior(0.08%単剤)がで承認され、EMAはその承認時点で本症の治療に承認された医薬品は無かったと述べている。
  • ODAK試験はではなく、を定めた試験である。単剤のは示されず、の要件が満たされた(12か月治癒率は未調整で 84.8% vs 88.5%、の調整後解析で 86.7% vs 86.6%)。治癒までのはむしろ単剤のほうが長い(140日 vs 114日、p=0.0442)。
  • 用法は19日間の集中投与(1時間ごと16回/日×5日→2時間ごと8回/日×7日→3時間ごと6回/日×7日、いずれも日中のみ)に続き、治癒まで4時間ごと4回/日を最長12か月継続する。
  • 禁忌は成分への過敏症と、進行例で緊急の眼科手術を要する場合の2つ( SmPC 4.3)。・・視力障害は最も重篤だが頻度区分は「高頻度」で、「まれ」ではない。
  • 承認状況は国ごとに別に確かめる。2026年9月16日時点で、の承認は確認でき、米国はの公開データベースに収載を確認できなかった。英国はの製品検索が3件を返すが一覧を取得しておらず、日本は正規承認薬の有無を確認できていない(2023年のガイドラインは「保険適用のある薬物療法が存在しない」としている)。

出典

  1. 1.AKANTIOR 0.8 mg/mL eye drops, solution — Summary of Product Characteristics(European Medicines Agency・2024)Acanthamoeba角膜炎がコンタクトレンズ装用者100万人あたり1〜4人という超希少疾患であること、適応が12歳以上のAcanthamoeba角膜炎であること、禁忌が成分への過敏症と進行例で緊急の眼科手術を要する場合であること、機序がポリヘキサニド(ヘキサメチレンビグアニド単位からなる陽イオン性高分子)による栄養型・嚢子両方への二重機序(リン脂質二重膜への結合による膜傷害と、DNAリン酸骨格への結合によるDNA複製阻害。後者はヒト細胞核へは浸透できないため選択的)であること、全身吸収がほぼ検出限界以下であること、頻度の高い有害事象が眼痛(13.0%)・眼充血(11.6%)で、最も重篤なものとして角膜穿孔(1.4%)・角膜移植(1.4%)・視力障害(1.4%、いずれも疾患の自然経過にも含まれる)が挙げられていること、ただし副作用一覧(Table 1)ではこれら3つはいずれも「よくある(common、1/100以上1/10未満)」区分に置かれ「まれ」ではないこと、very commonは眼痛と眼充血の2つだけであること、妊娠中は予防的措置として使用を避けることが望ましいとされていること、5.1のTable 3が第III相試験の12か月以内の臨床的治癒率を0.08%ポリヘキサニド+プラセボ84.8%(95%CI 73.9–92.5、56/66例)・0.02%ポリヘキサニド+1 mg/mLプロパミジン88.5%(95%CI 77.8–95.3、54/61例)と示し、治癒までの期間中央値が前者140日(95%CI 117–150)・後者114日(91–127)でp=0.0442(log rank)であることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Akantior (polihexanide) — European public assessment report, authorisation details(European Medicines Agency・2024)AkantiorがEU全域で有効な販売承認を2024年8月22日に受けたこと(CHMPの肯定的見解は2024年5月30日、販売承認取得者はイタリアのSIFI SPA)、EMA製品番号がEMEA/H/C/005858であること、2007年11月14日に希少疾病用医薬品(EU/3/07/498)に指定されていたこと、承認された適応が成人および12歳以上の小児のAcanthamoeba角膜炎であること、ページの最終更新が2024年11月29日であることを確認した。閲覧 2026-09-14
  3. 3.Akantior (polihexanide) — EPAR medicine overview(European Medicines Agency・2024)EMAが承認の理由として「Akantiorの承認時点でアカントアメーバ角膜炎の治療に承認された医薬品は無かった(no medicines were authorised for the treatment of Acanthamoeba keratitis at the time of approval of Akantior)」ことを考慮したと述べること、主試験の設計に不確実性はあるものの有効と判断したとすること、最も重篤な副作用(角膜穿孔、角膜移植を要する角膜傷害、視力障害)を「10人に1人までに起こりうる」区分の側で記していること、文書番号がEMA/290058/2024であることを確認した。閲覧 2026-09-16
  4. 4.感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)(日本眼感染症学会 感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会(日眼会誌127巻10号859頁)・2023)アカントアメーバ角膜炎の局所投与(点眼)について「ビグアナイド系消毒薬であるクロルヘキシジングルコン酸塩点眼またはpolyhexamethylene biguanide(PHMB)点眼が第一選択薬であるが、いずれも自家調整が必要である」と述べること、PHMBは点眼液の作製に適した高品位の原液を入手することが困難で自家調整点眼液の作製が現実的に難しいとすること、CQ-7が自家調整点眼液〔クロルヘキシジングルコン酸塩、polyhexamethylene biguanide(PHMB)、ボリコナゾール〕を「保険適用外であるが、必要不可欠といえる存在であり治療薬として一般的に広く用いられている」とし、「保険適用のある薬物療法が存在しない」ことを理由に自家調整剤点眼を「使用することを強く推奨する」(エビデンスの強さB)としていることを確認した。⚠️ 本ガイドラインは本文でカタカナ表記を用いず、英語名と略号PHMBで記している。閲覧 2026-09-16
  5. 5.Acanthamoeba Keratitis(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)2026年9月16日に再取得した本文が、アカントアメーバ角膜炎に用いられる薬剤について「最も多く用いられるのはビグアナイド系の単剤、またはジアミジン系との併用である(the most frequently used drugs are biguanides as monotherapy or in combination with a diamidine)」と述べること、ビグアナイド系としてPHMBとクロルヘキシジンを、ジアミジン系としてプロパミジンイセチオン酸塩・ヘキサミジンジイセチオン酸塩・ジブロモプロパミジンを挙げることを確認した。⚠️ 全文検索でfirst-line・first line・drug of choice・mainstayはいずれも0件であり、この資料は「第一選択」という格付けを与えていない(使用頻度の記述にとどまる)。閲覧 2026-09-16
  6. 6.The Orphan Drug for Acanthamoeba Keratitis (ODAK) Trial: PHMB 0.08% (Polihexanide) and Placebo versus PHMB 0.02% and Propamidine 0.1%(Ophthalmology(米国眼科学会)・2024)抄録で確認した(全文は出版社サイト・ScienceDirect・Southamptonリポジトリのいずれも403で取得できなかった)。欧州6施設で135例を組み入れた前向き無作為化二重遮蔽実薬対照の第III相試験で、設計は「あらかじめ非劣性マージンを定めた優越性試験(a superiority trial having a predefined noninferiority margin)」であること、主な組入れ基準が12歳以上かつ生体共焦点顕微鏡所見であること、主要評価項目が12か月以内に外科的介入も抗アメーバ薬の変更も要さない治癒率であること、事前規定の多変量調整後の治癒率が0.02%ポリヘキサニド+プロパミジン86.6%(未調整88.5%)・0.08%ポリヘキサニド86.7%(未調整84.9%)で、0.08%単剤の非劣性要件は満たされた(調整後の差0.1ポイント、片側95%信頼限界の下限 -8.3ポイント)こと、結論が「単剤は併用療法と同等か、悪くても8ポイント劣る程度でありうる」という条件付きの言い方であること、全体の治療失敗率が127例中17例(13.4%)・治療的角膜移植を要したのが127例中8例(6.3%)であること、重篤な薬剤関連有害事象は生じなかったことを確認した。誌上版はOphthalmology 2024年3月号131巻3号277-287頁である。閲覧 2026-09-14